歴史は繰り返す
そんな物語になります。選択肢は限られた中から最善手を選ばないといけない。分かっていても迷い、苦しむ。演算能力を使っても可能性は無限に近い。やがてその能力は使い物にならなくなるのかもしれない………。
「指揮、じゃなくてロゼさん。この書類に判子をお願いします」
「ROか。イベント警備の出すチーム決まったんだ?」
「はい。第三警戒班の方々にお任せしようと思いまして」
鉄血、正規軍、パラデウスとの戦いが終わり、惰性で警備会社に雇用されている身としてはもう戦いは懲り懲りである、という言葉以外出てこない。当時の腕を買われて五チームを総括する警備部長となってからもう五年近く経っている。つまり日和っているのだ。戦術人形の皆も、G&Kの事務をしていた者達も、私含め。激動の時代を生きたからもう何も無い、まるで物語のエピローグに立っている気分。
「あそこは血の気が多い連中しかいないだろ、大丈夫かな……」
「そういう人がいるチームの方が威圧感あっていいと思いますよ」
「一理あるな。ん、承認……と。アナウンスは任せるよ」
「了解です。では失礼しますね」
私を動かすギアはもう欠落し、止まっている。それでも日は沈み、また登る。車は動くし社会は回る。私一人のギアが止まっているだけでは社会は止まったりはしない。そうなったのだ。そんな世界を勝ち取ったのだ。机の上に放置していた珈琲をすすりながら眼下に広がる町を見下ろす。
「これが勝ち取った世界か……」
胸の中で渦巻く満たされないこの気持ちはなんなのだろうか。平和な世界、これを私は望んでいたんじゃないのか。そのハズだ。違わない、ハズだ。
扉がノックされた。どうぞ、とだけ言い冷めた珈琲を喉に流し込んだ。ただただ苦い。
「指揮官は真面目だね〜。もう少し遊んでもいいじゃん!書類終わってるなら遊ぼうよ!」
「やめろ、SOP。あと会社ではロゼと呼んでくれ」
制服を着崩したラフな格好でSOPがやってきた。アタッシュケースを提げて。私の目を見て一言だけ、聞こえるか聞こえないかの声で言った。
「指揮官って呼ばざるを得ない状況になりそうなんだよ」
一瞬にして目の前が開けたような感覚に陥った。終わったはずの戦いが何者かによってもう一度強引に動かされている、という事なのか。それとも本人たちが立ち上がったのか。
「情報はどこからなんだ」
「ミディーからの情報だから確かだよ。あ、MDRって言った方が良いのかな?」
「どっちでもいい。戦術人形は誰がどこに散らばっているのかは教えてくれなかったのか?」
「貰ってきてるよ。西方にGsh、北方にはVSKと9A-91、ただ二人は原隊に戻ってるから飛んでこれる確率は少ないね」
ソファの前に置かれているテレビに地図と戦術人形たちの配置図が映し出された。三色で色分けされているようで、これで状況が確認出来る、という事らしい。
「元々居場所が分からない部隊は赤、原隊復帰は黄色、即応可能ユニットは青で印をつけてある」
全国に広がっているものの半数近くは青色表示だ。近距離に配備されているユニットと遠距離で半々くらいか。
「そもそもなぜ今になってやり直すような真似をするんだ?敵はもう存在しないはずなんだが」
「ありもしない政党の演説にあてられて人形の就労に反対、そのまま就労している人形の半数近くをしめる戦術人形に喧嘩を売ってるって話らしいよ」
「なるほどね。向こうの目標は?」
「戦術人形を駆逐すること。で、願わくばそのドンである指揮官だったロゼを狙っている、らしい」
迷った。彼女達を一度終わらせた戦いに巻き込むのか、と。理想を語るべきでないのは承知している。彼女たちは戦術人形だからむしろ前線に出すべきなのだ、という事も。
ならば。早めにカタを付けないといけないだろう。青色表示の戦術人形を出来るだけ集めて編成して、叩きのめす。
「ロゼ、凄い笑ってるけどどうしたの?」
「懐かしい感覚を覚えた。なるほど。私が足りないと思っていたのはこれだったのか、そうか、そうか……SOP、ありがとうな」
椅子から立ち上がりクローゼットを開けた。何故か分からないが自然と笑いが込み上げてきたのだ。
「SOP、どうやら私はとんでもない罪人のようだ」
「なーんで?」
GLOCKを取り出し、キッチリ温度管理のなされたタッパーの中にしまっていた9mm弾を眺めつつ言った。
「壊れたんだよ。私は。あの硝煙の香りにあてられて私自身が、戦争を欲していた。だから、最近は違和感を感じていたのさ」
壊れた指揮官と戦術人形たちのIfストーリー、始まります。
というわけです。当面はバトルしないかもですがいつか戦闘させます。
更新頻度がかなりノロマになると思います。許して下さい。なんでもしますから(何でもするとは言っていない)
では、また次回。