実馬のグラスワンダー号にも長生きしてほしいなぁ、という思いを込めて書きました。拙い文ですが、楽しんでいただければ幸いです。
「あら、たんぽぽ」
ある晴れた日の昼下がり。河川敷を歩いていた私は思わず足を止めた。
「もうそんな時期なんですね……」
かけがえのない親友であり、ライバルだった彼女達はもういない。最後まで残っていた、勝気で誰よりも優しいあの子は3年前のこの時期、一足先に旅立っていった。
たんぽぽは好きだ。
厳しい冬を何度も乗り越える様は実に力強いし、その身一つで遠くへ旅立ち花を咲かせる姿が、元々アメリカで育った自分と重なるところもあるのだろうか。
それにここ数年、見るとなぜか食欲が湧くのだ。年々食は細くなっているのに、この時期だけは昔と変わらない量を食べられる。
そのせいでお腹周りが少し怖いのはご愛嬌だろうか。まるでいつも元気だったあの子が自分に乗り移っているようだと思わず苦笑してしまう。
不退転の覚悟、最強のウマ娘になると誓って学園の門をくぐったあの日。色鮮やかなあの日々は、今でも昨日の事のように思い出せる。人生の春。いや、マ生の春か。ひたすらに競い合い、走ったあの日々を忘れた事はただの一日もない。
結婚し何人かの子宝に恵まれ、孫ができた。その孫もトレセンに入学し、つい先日GIに勝利する快挙を成し遂げた。
祖母としてこれ程誇らしいこともないのに、私はつい考えてしまうのだ。今のあの子とかつての自分、どちらが速いのだろうか、と。
「ふふ、心はまだ若いということでしょうか」
しゃがみ、靴を整える。今日はズボンでよかった、こういう時があるせいで丈の長いスカートが履けないのは自分の悪い癖だろうか。そんなことを考えながら、軽くストレッチ。
「ごめんなさい、許してくださいね」
そう呟いてたんぽぽを摘み、上着のポケットに入れる。
足を引き、力を溜め……私は勢いよく駆け出した。
風を切り、地面を踏みしめる感覚。全盛期には及ばずとも、何処までも行けそうな全能感が私を支配する。
今の私は、さぞ生き生きと笑っていることだろう。隣に誰もいないのが口惜しくてならない。彼女達ならば、年甲斐もなく喜んで併走してくれただろうに。
ルームメイトでありライバルであり、かけがえのない親友だったあの子を失った時、衰え競えなくなった自分に価値はないのではないかと考えた。いつも飄々としていたあの子が突然いなくなった時、自身の生きる意味を疑った。何度死を望んだだろう。たとえそれが皆を悲しませるとわかっていても、そう考えずにはいられなかった。
だが、それを踏みとどまらせたのもまた、他ならぬ私自身だった。
私の2つ名は不死鳥。傷付き衰えても決して倒れることはない炎の鳥。青空を駆けるのは1人ではない。飛ぶことができるのは、1人ではない。私は私に恥じぬため、自ら膝をついてはならなかった。
不退転。決して屈せず、心を曲げぬこと。
力の限り駆け抜け、先頭を目指したあの日々が戻ってくることはない。
だが、こうして走り続けることはできる。
ならば、私はこれからも駆けよう。彼女達や私に託された誰かの想いを繋ぎ、新たな世代へ夢を魅せ続けられるように。
了