本編展開の影響により短編版より一部内容を変更してます。
ある神は言った。
世界とは、宇宙開闢の瞬間を源泉とする川のようなものであると。
時空の地へ至る混沌に向けて流れていく過程で山や谷の影響を受け、蛇行し、細くなり、狭くなり――時には別の
ある神は言った。最も近くなった時、ほんの少しだけ力を加えてやれば川と川、2つの世界が接する事になると。
2つの世界が接した時に開いた合流部を神も人も『門』と呼称した。
ところで。
それぞれの世界を川に例えた場合、それらを視覚化しようとしたら、大抵の人は簡単で分かり易い平面的な河川図を思い浮かべるだろう。
だが実際の川というものは平面状の変化だけでなく、高きから低きに向かって流れるように高低差というものがある。二次元では一見並行して流れるように見えても、三次元で見ると大きな高低差があって合流しようがない、そんな川も決して珍しくないのだ。
他には地下水脈。もしくは人工的な下水道か。
平面状では1本の川に見えて、その真下の奥深くに別の川が流れている場合もある訳で。左右に曲がりくねるだけでなく折れ線グラフよろしく高さが上下動する、そんな流れの川だってありえる訳で。
そう、
……というか。
起きちゃったのである。
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伊丹耀司 特地派遣部隊
地球とを繋ぐ『門』が閉じて尚、4672名もの自衛隊員が未だ残存するアルヌス駐屯地は今、閉門騒動以降最大の緊迫した空気に包まれていた。
「あれって、
「ええ、
緊急呼集を受けて押っ取り刀で駆け付けた伊丹と富田は視線を合わせぬまま、そんなやりとりをした。
駐屯地の中心部に位置する巨大なドーム――かつて銀座と特地を繋ぎ、中国とアメリカその他各国の工作員による破壊工作を受けて異世界間を繋ぐ役目を停止した『門』の残骸がある、その空間。
水溜まりの水面のような、ガラス窓のようなものが垂直に空中で浮かんでいた。
帝国が銀座へ通じる異世界への入り口を強引に固定すべく、水晶や建材を用いてアルヌスの丘に拵えた魔法装置を用いるその手前の状態……
異世界と繋がった直後、云わば素の状態の『門』に間違いなかった。伊丹は日本でレレイが『門』を開く魔法の実験に立ち会っていたし、富田も閉門騒動の際に暴走した『門』が複数の異世界に同時接続された瞬間に出くわしていたから見覚えがあった。
「またあの時みたいな蟲の化け物がウジャウジャは勘弁して欲しいなぁ」
伊丹を挟んで富田とは逆の位置に立つ栗林が嫌そうに愚痴った。伊丹も心から同意見である。
チラリと同じく異常事態の対処に召集された専門家、すなわち現状で唯一異世界の『門』を繋げる魔法こと穿門法の使い手である魔導師の少女を伊丹は見やった。富田もそれに倣った。
レレイは、プラチナブロンドの頭を横に振った。
「違う。あの『門』の出現に私は一切関わっていないし、心当たりも無い」
「だよなぁ。じゃあさレレイ、勝手に『門』が出現したと仮定した場合、その原因はどんなのが考えられそう?」
「またハーディが引っ掻き回そうとしてやらかしたんじゃないのぉ」
異世界の入り口から以前の蟲獣や触手みたいな危険生物が出現しても即討伐できるよう、剥き身のハルバードを手に身構えながらロゥリィが口を挟む。
「ロゥリィが述べた内容の可能性も前例がある以上当然考慮すべき。もしくは何らかの干渉も受けず本当に偶然、別の世界と接触してしまい自然に『門』が開いてしまった場合も考えられる。あの程度の規模であれば自然に生じたものでもおかしくないと思われる」
機甲部隊も通行可能な規模だったアルヌスの『門』とは比べ物にならない、人が1人潜り抜けられる程度のサイズだ。
「或いは、こういう理由も考えられる」
「それってなぁに?」
小首を傾げてのテュカの問いに、レレイは少しの間考え込む素振りを見せてから重々しく口を開いた。
少女の顔は、珍しく緊張で張りつめていて。
周りの伊丹達もレレイが告げた別の推測を聞かされるや、揃って顔を固くさせざるを得ないだけの深刻さがその内容には存在していた。
「私やハーディのような
マジか、と呻くので伊丹には精一杯だった。
直後、水面に似た『門』の表面に波紋が生じたからだ。それは水底の魚が水面に飛び出そうという前兆を思わせた。
閉門騒動で猛威を振るった大小様々な蟲獣に大いに苦しめられた記憶も生々しいだけに、『門』を包囲する自衛隊員達の緊張感も半端ではない。
何時でも射撃出来るよう小銃の安全装置は解除済みだし、銃以外にも火炎放射器や対戦車兵器を構えた隊員のみならず、燃料不足で稼働制限が課せられた74式戦車までも砲口を『門』へ向けてスタンバっている辺り、部隊を集結させた司令部まで揃いも揃って本気の対応である。それだけ蟲獣の軍勢が凄まじく恐ろしい存在だったという証左とも言えた。
とうとう
現れた存在は2足歩行の人型をしていた。
自衛隊員達と同じヒト種なのか、特地の亜人に近い存在なのかまでは判別出来ない。何故なら顔を含め全身を装甲で固めていたからである。
それはまるでSF映画かゲーム、もしくは特撮に出てきても違和感がないだろう、レーシングスーツの上に装甲を貼り合わせていったような
デザイン的には顔部分が古代や中世より現代的なスタイリッシュ感を漂わせている。
隊員達の間に警戒心と同時、僅かな困惑も広がっていく。
出現した相手が武装しているのも一目で判別出来た――――鎧以外の装備が全て
両手には限界までカスタマイズされたグレネードランチャー装着のM4カービン。背中にはM14EBR、おまけにホルスターの拳銃は詳細は不明だがおそらくグロックだ。
どれも自衛隊の採用品ではないが地球世界で誕生した銃火器である。鎧の上からこれまた戦場で戦う兵士の定番装備である弾薬携行用のチェストリグを身に着け、それぞれの予備マガジンも持てるだけポーチに詰め込んで携行しているのが一目瞭然。
「……んんん?」
その時、何かに気付いた様子で伊丹が唸った。
「なあ、あのプロ〇クトギアっぽいのの表面覆ってるのってどっかで見たのに似てないか?」
伊丹の疑問に答えたのは、目を細めて人型物体を観察していたレレイだった。
細めていた目が不意に開かれる。そこには驚きが宿っていた。
「……あれは、
「へぇっ?」
レレイから飛び出した意外な言葉に栗林から素っ頓狂な声を漏れた瞬間、人型が動いた。
全身装甲で身を固めた完全武装の存在が身動ぎした事で緊迫していた自衛隊員達も一斉に反応する。各々の銃を人型へと再照準し、人型の一挙一動に目を光らせる彼らの多くは緊張による発汗で迷彩服の内側をジトリと湿らせている。
対して人型は…………M4カービンから両手を離したかと思うと、頭の高さにまで掲げてみせた。
異世界含め万国共通、敵意が無い事を示すジェスチャーである。
両手に何も持っていない事を示してから人型は手を頭部へと移動させ、髑髏マークがペイントされた兜を外した。中身が露わにされる。
瞬間、集結した隊員達の間に広がったのは…………果てしない困惑だった。一部は目を見開き、口をポカーンと開けて銃口を下げてしまい、そのまま硬直すらしてしまった。
そして何より、集結した隊員達を驚愕させたのは。
「あー、えー、いやぁどうもどうも……もしかしてここ、アルヌスの丘だったりします?」
どっかのオタクでグータラで、そのくせ妙に特地の少女達からモテてる二等陸尉とそっくりな(でも彼らが知ってるそれよりも心なしかちょっとだけ精悍さをにじませた)顔が、兜の中から出現したからである。
ついでに声もそっくりだった。
どう考えても伊丹耀司その人だった。
「え? え? もしかしてあれって、俺ぇ!?」
「はぁ? いや、えっ、いやいやいやいや何それ嘘でしょ隊長が2人ぃ!?」
「あらあらあらぁ?」
「お父さんがもう1人……?」
「これは…………理論的にはあり得るとはいえ、流石に予想外」
栗林に何時もの3人娘も目を見開いて大なり小なり驚きを露わにする。当然もう1人の自分が突然現れた伊丹も困惑して、指先を『門』から出てきた同じ顔と自分の間を行ったり来たりさせるばかりだ。
そこへ更なる爆弾が『門』が投入、というか出現。
「ちょっとぉ呼んでるんだから無事ならさっさと返事しなさいよぉ……あららぁ、もしかしてこれってぇ、もしかしちゃうぅ?」
「こ、今度はロゥリィがもう1人!?」
「テュカにレレイ、ヤオまで出てきた!!?」
そう、別世界のロゥリィにテュカにレレイまで『門』から出現したのだ。悉く見慣れた人物が次々と増えただけに、取り囲んでいた隊員達も警戒を忘れてざわめいてしまっている。
「もしかして、あの『門』の向こう側って
「同じ顔の同じ名前が住んでる、平行世界だったみたいだぁねぇ」
2人の伊丹は鏡に映したような、全く同じ苦笑いを浮かべたのであった……
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