GATE:MW 外伝集   作:ゼミル

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お待たせしました。

今話には現在WEB連載中のゲート0銀座編のネタバレが含まれます。


GATE 自衛隊かの地にて、平行世界と遭遇せり12

 

 

 

 

 

 

 

 

 己と同じ迷彩服ではなくコンバットシャツを着たこの平行(MW)世界の己を、WW3を経験(原作世界)していない世界の伊丹は改めてまじまじと見つめた。

 

 背丈も体格も顔も、鏡を覗き込む度に映る姿と大差は感じられない。ただ迷彩服よりもタイトで体の線が浮かびやすいコンバットシャツを着ているせいか、心持ち筋肉のつき具合が自分より絞り込まれているように見えなくもない。

 

 シャツ姿の伊丹はベンチへ腰を下ろすと、迷彩服姿の伊丹が見ている前で下に履いた迷彩ズボンのポケットをおもむろに探り出した。

 

 其処から取り出したのは太めのサインペンが2本か3本入りそうな掌大のケース。蓋を開けると焦げ茶色の葉巻が顔を覗かせた。

 

 

「葉巻だけど吸うかい?」

 

「あー、すまないけど俺吸わないんだ」

 

「そうなのか。んじゃ横で煙草吹かされちゃ迷惑かな」

 

「いいや近くで喫われる分には別に気にしないから構わないぞ?」

 

 

 これが漫画や同人誌のコレクションが置いてある自室なら話はまた別だが、今2人の伊丹が居るのは喫煙も可能な休憩スペースだった。ベンチの近くには吸い殻入れも設置されている。

 

 

「んじゃお言葉に甘えて」

 

 

 そう言って1本を取り出すとオイルライターで火を点け、慣れた様子で葉巻の煙を薫らせ始めた。

 

 周囲どころか日本全体でも中々お目にかからない洋物の葉巻を、自分と同じ顔が銜えているその光景に迷彩服姿の伊丹は何とも言えない驚きと違和感を覚えていた。漫画やアニメに出てくるマフィアの親玉が愛用してそうな嗜好品を別世界の自分が嗜んでいるのを見せつけられるのは非常に奇妙な感覚だった。

 

 

「喫煙者なんだな、こっちの(『伊丹耀司』)は」

 

 

 ついそんな言葉すら漏れてしまう。

 

 指摘されたコンバットシャツ姿の伊丹は葉巻を口から外すと、きまり悪そうな苦笑いを浮かべた。

 

 

「海外に居た頃覚えたんだ。一緒に活動してた仲間が葉巻好きでさぁ、その影響を受けてっていうのもあるし、海外の戦場で活動したり傭兵やよく知らない部隊の兵隊と組んで活動する時なんかにこの手の嗜好品をある程度持っておくと色々とやり易かったってのもあるんだけど、1番の理由は――――」

 

「理由は?」

 

「――――漫画もアニメも同人誌即売会にも行けなかった分、ストレスがね」

 

「成程。そりゃ辛いよなぁ」

 

 

 納得出来過ぎる理由に迷彩服の伊丹も思わず大きく首肯してしまった。

 

 大好きな好物や趣味を奪われた者が別の嗜好品に手を出すのは定番の展開であった。世界が違おうが第3次世界大戦を経験しようが、伊丹耀司という男にとっての漫画やアニメや薄い本はそれだけの存在だったという事だ。

 

 

「戦い抜いた理由の何割かはもう1度生きて同人誌即売会に参加する為だったからなぁ……」

 

 

 と、コンバットシャツ姿の伊丹も述懐するぐらいである。

 

 

「まともなテレビすら見れない地域で活動しなきゃならなかったからさぁ。アフリカの紛争地帯からヨーロッパに密入国する途中で日本式のコンビニに寄って文明の光や日本語の漫画雑誌見つけた時なんか泣いちゃったもん俺。いやホント」

 

「苦労したんだなぁそっちの俺……そうだ、この際だから聞いておきたい事があるんだけど」

 

「ん?」

 

 

 ベンチの上で迷彩服姿の伊丹は姿勢を正すと、コンバットシャツ姿の伊丹をまっすぐに見つめ、日ごろ浮かべない極めて真面目な表情で以って重々しく口を開いた。

 

 

「そっちの世界では、ハ○ター×ハン○ーは完結したのか!?」

 

 

 コンバットシャツ姿の伊丹は痛まし気に首を横に振った。迷彩服姿の伊丹はガックリと肩を落とした。

 

 

「やっぱりかぁ」

 

「あ、でもNAR○TOとこ○亀は完結したぞ」

 

「嘘だろ!? N○RUTOは分かるけどこ○亀が完結ぅ!? 完結するもんなのかあれ……」

 

 

 余程の衝撃だったのか、迷彩服姿の伊丹はベンチから勢い良く立ち上がった。

 

 平行世界ではWW3が起きたとか、その世界の自分はWW3の英雄であるとか、そういった情報を見せられた時すらも上回る驚きようである。さながら戦国時代にタイムスリップし、のちに後世の時代からやってきた男子高校生に笑って〇いともの放送終了を知らされた元ヤクザの如き反応であった。

 

 

「もしかして、作者が亡くなったから完結とかそういうオチじゃないよなそれ……?」

 

 

 恐るおそる別世界の自分から投げられた質問に、苦笑を浮かべてコンバットシャツ姿の伊丹が答えてやる。

 

 

「違う違う。ちゃんとした形での連載終了だから安心しなって。時々新しい話も書いてるし、今は青年誌の方でも別の新作が連載されてるぞ。女ガンマンが主人公の西部劇」

 

「そっかぁ、良かったぁ。それにしても女ガンマンの西部劇かぁ。俺の方の世界でも読めればいいんだけど。

 漫画以外だとどんな感じよ? エ〇ァの新劇場版も完結したのか?」

 

「エヴ。は3作目が公開されたけど完結はまだしてなかったなぁ。あ、でも代わりに○ヴァの監督がゴ○ラの新作を――――」

 

「マジで!?」

 

「ゲームだとF○teがソシャゲに進出して――――」

 

「うぉうマジかぁ」

 

 

 しばしの間、2人の伊丹は未来の日本におけるサブカルチャーに話を弾ませた(無論、具体的な作品のネタバレは控えている)。

 

 正確には迷彩服姿(2010年前半)の伊丹が訊ねてはコンバットシャツ(2010年代後半)の伊丹が答えてやるのを繰り返すという形だったが、両者が心から会話を楽しんでいるのは鏡合わせのように浮かぶ心から楽し気な笑顔を見れば明らかである。

 

 ……無論、数年先の時代を過ごしたコンバットシャツ姿の伊丹が語ったサブカル界隈の発展を、迷彩服姿の伊丹の世界が同様に辿るとは限らない。

 

 それは2人もわざわざ言葉に出さずとも理解している。互いの世界が辿った歴史にはWW3という最大の相違点が横たわっているのだ。

 

 

「そうかぁ、いやぁ楽しみだなぁ」

 

 

 それでも、迷彩服の伊丹の精神は未来の展望に今から心から浮き立っていた。

 

 同人誌即売会の為に銀座での激戦を、そしてWW3を生き延びたこの2人(『伊丹耀司』)が示したように、それが他人から見ればどれだけ些細な願いであったしても、本人にとっては困難をやり遂げる確固たる理由へとなりえるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しは気分はマシになったかい?」

 

 

 不意にコンバットシャツ姿の伊丹がそう訊ねると、迷彩服姿の伊丹は期待に満ちた笑みを苦笑じみたものに切り替えてから後頭部を掻いた。

 

 

「自分自身に気遣われるのも変な感覚だけど、まぁ少しは落ち着いたよ。ありがとう」

 

「そっか。ま、自分が別の世界じゃ毒ガス使って1万も殺しましたって聞かされたら気分も悪くなるよなぁ」

 

「んー……」

 

 

 自嘲するように溜息を吐くコンバットシャツ姿の伊丹。

 

 それに対し迷彩服姿の伊丹はベンチに背を預け、両手を後頭部に組みながら天井を見上げて呻いたかと思うと、ポツリとこう答えた。

 

 

「それなんだけどさ。実の所ぶちまけちゃうと自分でも意外なんだけど――――敵に毒ガス爆弾突っ込ませた事自体についてはあまりショックは感じてないんだよねぇ」

 

「あれ? そうだったの? それにしては陸将の部屋から出てきた時えらい打ちひしがれてたみたいだけど?」

 

「そりゃあ1度に1万人もの敵を殺したって聞かされた時は驚きはしたけどねぇ」

 

 

 迷彩服姿の伊丹の目が細まり、今此処ではない遠くを見つめる者特有の眼差しに変わる、

 

 

そっち(MW世界)の俺はさ、こっち(原作世界)の俺が銀座での戦いに遭遇した時の話については詳しくは聞いてないでしょ?」

 

 

 あちら側(原作世界)のアルヌスにて行われた情報交換の場ではWW3にまつわる情報が主体であった事もあり、『銀座事件』について割かれた時間は少ないものであった。

 

 また内容に関してもこちら側(MW世界)の伊丹が行った対爆スーツと改造武器(ジャガーノート擬き)による単騎吶喊という前代未聞の戦いぶりの記録が目立ってしまい、あちら側(原作世界)の伊丹がどのように活躍したかという話題は殆ど触れられなかったのである。

 

 

「最初に『門』が開いて帝国軍が銀座を襲った時、こっち(原作世界)の政府はそっちの政府と違って動きが鈍くてねぇ。霞が関や麻布まで連中が持ち込んだ怪異が出没して被害が出たり、隊への出動命令が中々出なかったり、総理が行方不明になって代行になった大臣がこれがまたアレだったりで、まぁとんでもなく混乱してたわけよ」

 

「そりゃあ大変だ」

 

 

 特に、日本の最高権力者である時の総理が攻撃に巻き込まれて行方不明となれば、政府内の混乱はそれ大きかったに違いない。WW3という有事を事前に経験していなかった、悪く言えば平和ボケした世界の日本政府ならば尚更である。

 

 ()()、ではなく()()()()なのが問題だ。内閣大臣クラスともなれば安否確認を放置する訳にはいかず、その分だけリソースや指揮系統を割かねばならなくなるのだから。

 

 実際WW3勃発時には欧州訪問中の副大統領を救出すべくアメリカは大規模な戦力を送り込み、そして彼らは現地を占領し陣地を構築中だったロシア軍に直面せねばならず、結果多大な被害を強いられたのである。

 

 生死が関わる状況に政治が絡むと最も割を食うのは現場にいる人間であるという喫緊の例であった。

 

 

「逃げ遅れた避難民を回収しながら皇居に籠城したのまでは良かったんだけど、政府が隊と警察合同で銀座奪還と市民救出を実行する為の部隊と計画を立てるまでの数日間、俺は一緒に籠城した警官隊と共に帝国軍の攻撃から皇居と逃げ込んだ避難民を守り抜かなきゃならなくなった。

 警察の多くは日頃の()()の認識から中々抜け出せずにいたが、俺にとってあの戦いは()()だった。

 だから()()()()()やれる事は何でもやったよ。()()()ね」

 

 

 淡々とした口調がにわかに冷たい迫力を帯びる。

 

 それはコンバットシャツ姿の伊丹程の濃密さには及ばぬものの、その手を少なくない血で汚した者にしか醸し出せない類の気配であった。

 

 

「敵から奪った短剣で殺したりもしたし、警察の車両を使って何人も轢き殺したりもした。攻め込んできた敵の部隊をわざと引きずり込んで逃げ場を塞いでから、火攻めにかけてまとめて焼き殺したりもした。俺がやった事で何百人と敵が死んだよ。

 そうやって何とか生き延びて隊舎のベッドに飛び込んで、次に目が覚めた時には人々を救った英雄扱いときたもんだ」

 

 

 また迷彩服の伊丹が顔を曖昧な笑いに歪める。

 

 死の気配が滲む笑いだった。コンバットシャツ姿の伊丹も何度も目撃し、自身も度々浮かべた表情だった。

 

 だから彼もまた、同じように死の笑みを浮かべた。

 

 

「『一人を殺せば殺人者だが、百万人を殺せば英雄だ』」

 

 

 世界の映画史に名を残すコメディアンが独裁者の役柄を借りて放った名言を、迷彩服姿の伊丹が諳んじた。

 

 

「その台詞にはこう続いたっけ。『殺人は数によって神聖化させられる』」

 

「百万人どころか、英雄扱いされるには数百人殺すだけで充分だって、あの時思い知らされたよ」

 

「こっちは毒ガス爆弾で帝国軍を吹っ飛ばしたら何時の間にかロゥリィみたいに死神扱いされたし、チャップリンさんは桁を二桁ばかし過大に見積もってたみたいだねぇ」

 

「……侵略してきた敵の意図を刈り取るには、これ以上の損害は割が合わないと思わせる位の血と犠牲を与える事で相手に身を以て教え込まなきゃいけない。あの戦いで俺はそう思った。そしてその通りに、惨たらしい死に様を生み出す戦法を実行した」

 

 

 だから、と迷彩服姿の伊丹はゆっくりと告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしも俺がそちら側の(『伊丹耀司』)と同じ状況に立たされたなら、(伊丹耀司)もきっと同じ事をしたと思うよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが別世界(原作世界)の伊丹耀司の結論。

 

 そもそもだ。詳しい話を聞けば聞く程に、当時の状況は詰みも同然だったと、迷彩服姿の伊丹も判断せざるを得なかった。

 

 破壊工作によって防御態勢はズタズタで、気密防御のドームは内部で発生した直前の自爆で開閉機構が損傷してしまい役目を果たせない。万を超す敵の本隊が迫る中、爆弾は損傷してしまい最早解除不能と化し、爆発が起きれば間違いなく基地そのものが死の大地と化す。

 

 銀座の時に背後に居たのは数多の無力な避難民だった。

 

 この世界(MW世界)の己があの日のアルヌスで事態に直面した時の場には、大事な少女達が居た。この世界の己が選んだ愛する女(栗林志乃)も居たし、その頃には彼女の胎の中には新たな命も芽吹いていたという。

 

 行動しなければ、大切な人達が全て犠牲になる。狂気に堕ちたテュカの心を取り戻したくて部隊を離脱し、炎龍退治に出向いた時よりももっと酷い状況。

 

 だからこそ、(『伊丹耀司』)の事だからこそ分かる。

 

 

 

 

 

 

 己が護るべきものと定めた存在の為なら、相手が幾千幾万の軍勢や空飛ぶ炎龍だろうと同人誌即売会だろうと、無能や卑怯や残虐と罵られる事も厭わず選択し実行に移すだろう――――と。

 

 それは何故か? 伊丹耀司とはそういう性分に他ならないからだ。

 

 

 

 

 

 

「そっか」

 

 

 しばらくの間、2人の伊丹の間を沈黙と紫煙が広がった。

 

 紙煙草よりゆっくりと燃える葉巻が半ばまで短くなった頃、口から外して吸い殻入れで葉巻を軽く叩き火を消したコンバットシャツ姿の伊丹は「俺も小便してくるわ」と立ち上がった。

 

 男子トイレの扉の向こうに背中が消えると、迷彩服姿の伊丹の口からまた吐息が漏れた。強張った肩から力を抜き、迷彩服の襟元を緩める。

 

 

「伊丹隊長! どこにいるんすか、隊長!」

 

「倉田か? おうここに居るぞ」

 

 

 不意に名を呼ぶ声が結構な音量で聞こえた。迷彩服姿の伊丹が声を上げると、妙に焦った様子の倉田が伊丹の姿を見つけるなり猛ダッシュでやってきた。

 

 雰囲気からして何となくだが、一緒に『門』を通って栗林を追いかけてきた同じ世界(原作世界)の倉田だろうと推測。

 

 

「一応確認しておくけどお前が探してるのは俺でいいんだよね? この世界の方の(『伊丹耀司』)じゃなくて」

 

「そうです合ってます! そんな事よりも俺、大変な事に気付いちゃったんス!」

 

「何だよ、栗林の次はお前かぁ? 一体何に気付いたのか言ってみろよ」

 

()()()()()()! ()()()!!」

 

 

 階級差も忘れた様子で、伊丹の両肩をしっかりと掴んで捲くし立ててくる同世界出身の倉田はえらく動転している様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

「この世界の隊長達が居た地球は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………へ?」

 

 

 

 

 勢いのまま倉田がそう叫ぶのと、トイレから出てきたコンバットシャツ姿の伊丹が目を白黒させたのは同時であった――――……

 

 

 




参考:
MW3日本発売:2011年11月17日(字幕版)
ゲート冥門編発行:2012年1月5日


本作伊丹が日本に帰還したらまず月姫R発売とアルクFGO実装にたまげる模様。

MW伊丹「やりやがった!!マジかよあの野郎(き○こ)ッやりやがったッ!!」


本MW時空の伊丹に原作世界の伊丹が未来のサブカル界隈について尋ねる場面が1番書きたかったネタだったりします。
改訂前の展開だと挟む余地が無くなりそうだったので……

銀座編の伊丹の戦法が思った以上に容赦ないのを考えると原作伊丹もこういう選択をするのでは?と判断し、こんな展開になりました。




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