仕事の上司案件で大体察してください。
どうしてこうなった――――その考えで思考が埋め尽くされた倉田の全身に冷や汗が滲んでいた。
「誰にも見られていないみたいです。近付いてくる気配もありません」
外の様子を窺っていた
司令室が存在する駐屯地本部、その近くの倉庫として使われている空き部屋の一室である。その中心にて
「お願いっすから拷問とかマジ勘弁してくださいよ? 自分が拷問される姿とか見たくないっすからね!?」
その後ろには坊主頭のロシア人が警戒と困惑の表情で立っており、プライスを挟んで反対側にはコンバットシャツを着た別世界の
加えてこの場では唯一正座中の倉田の同胞である迷彩服姿の伊丹も居た。平行世界の倉田が当てにならない場合、最後の頼みの綱は彼である
「ならこのもう1人のお前の口が素直な事を祈るんだな――――では知ってる事を洗いざらい話してもらおうか、
ジョン・プライス……元SASであり、別世界の伊丹と共に第3次世界大戦を終わらせた英雄の1人。
そして
その十数分前。
失恋と彼氏の不倫とその相手が自分の親友だと同時に知ってしまった少女の如く、嗚咽を未だ漏らし続ける
「若いの、何かあったのかな?」
地方毎のそれではなく、日本語がネイティブではない外国人独特の訛りを帯びたその呼びかけに2人の倉田が振り返る。
片方は背筋を正してピシリと伸びた右手を頭の右側に添えた。もう片方もそれに倣おうとして、驚きに目を見開き持ち上げようとした右腕が中途半端な位置で止まった。
人数は3人、特地の現地住民が何らかの事情で迷彩服を借りているとかそういう雰囲気でもない。どれもベテランの兵隊としての雰囲気が色濃い。
声をかけた方もまた、一卵性双生児でもここまで似まい位にそっくりな2人の倉田を前にして目を瞬かせていた。
「……クラタに双子がいるとは聞いていないが」
年かさの、おそらく第3偵察隊最年長だった桑原陸曹長よりも年上であり、同時に兵士としての気配が最も濃密な、白髪交じりのもみあげと一体化した立派な髭を蓄えた男が訝し気な声を漏らした。
「こ、この石塚○昇ボイスは!?」
冷静沈着さと威圧感が同居する独特のバリトンボイスを耳にしたあちら側の倉田は戦慄した。
彼にとっては画面の中でしか――――否、画面の中にしか存在しない筈の人物、それがそっくりそのまま現実に出てきたとしか思えないような存在が目の前に、しかも複数並んでいたからである。
続いて
「どうもプライス大尉。大尉達もレレイちゃんが開いた『門』を見に来たんすか?」
「そんなところだ」
(プライス大尉だってぇ!?)
坊主頭の、プライスとは微妙に人種的特徴が異なる男も声を上げた。
「プライス、俺の目が変になったのか? クラタ以外にもトミタやクリバヤシ達も2人居るように見えるんだが」
「俺もそうだ。ユーリ、俺達が見ているのはどうやら幻覚ではなさそうだぞ」
(ユーリ、ってこっちも本物ぉ!?)
驚き過ぎて声すら出せなかったのはあちら側の倉田にとっては幸運だったのか。
白人3人組の中では最年長だろう初老の男性も顎をさすりながら話に加わる。
「なあジョン。俺達は『門』が開通したと聞いて視察に来たつもりだったんだが、あそこに浮いている鏡のようなものはもしかすると異世界を繋ぐ『門』ではなく、クローンや人間のコピーを生み出す為の魔法陣なのかもしれないぞ」
「いやいや合ってますって
「パラレルワールドというやつか! フムゥン、成程、魔法が存在する異世界がこうして存在するのであればもう1人の自分が存在する平行世界もおかしくはないか……」
マクミランの名前、加えて彼の口から一際渋い菅生○之ボイスが飛び出すに至り、あちら側の倉田は口をパクパクさせながら声も出せず、唖然呆然愕然と3人組を凝視するばかりだ。
コスプレと断じようにも、3人の立ち振る舞いは明らかに訓練と経験を積み重ねた根っからの兵隊のそれである。それぐらい見抜けるだけの目を、WW3を経験していなくとも特地で相応の実戦を重ねたあちら側の倉田は持ち合わせていた。
それでももう1人の自分に尋ねずにはいられなかった。
「ちょっとちょっとこの世界の俺! こ、この人達はどちらさまで……?」
妙に動転した様子を見せる平行世界の己に首を傾げつつ、この世界の倉田は素直に答えてやった。
『門』の監視警備に就いていた彼は、こちらの世界で起きたWW3の情報公開が
「この人はプライス大尉。元SASの所属でイギリスからの観戦武官で、その隣の坊主頭の人がロシアからの観戦武官で元スペツナズのユーリさん、でもって反対側の人がプライス大尉の昔の上官だったって人で――――」
「ほ、本物かよおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!!?」
ゲームの世界じゃんこっちの地球!? と混乱のまま大絶叫を残し、今度は倉田が遁走を試みたのである。
「で、でですね。思わず叫んで走り出しちゃった後に隊長に伝えなきゃって思い至ってですね」
言いながら、あちら側の倉田はプライス達からの視線から少しでも逃れようとするかのように身を縮こまらせた。
トイレ前で自分と同じ世界の伊丹を発見した時、倉田の視界には伊丹以外の姿が見当たらなかったので、扉1枚隔ててトイレから出てこようとしていた
……互いにとって幸運だったのは、喫煙スペースに3人以外の人間が居合わせなかった事だろう。
それでも突然トイレから現れたもう1人の伊丹、彼の存在に気付いて倉田が固まった所へ、絶叫の内容を怪訝に思い後を追いかけてきたプライス達が合流し――――手近な空き部屋に倉田を引き摺り込み、今に至る。
「下らん前置きは良い。さっさと知っている事を全て話せ」
「アッハイ」
静かに、だが冷たい目で見下ろしてくるプライスの声はそれはそれはおっかない気配を帯びていた。
(怖えーリアル英国紳士まじおっかねぇよ!)
震えながら
説明しよう! 『コールオブデューティー モダンウォーフェア3(略称CoD:MW3)』はFPSゲームであるCoDシリーズの8作目であり……(以下Wiki参照)
「…………」
あちら側の倉田が語り終えた後にまずプライス達が見せた反応は……形容しがたい空気を帯びた沈黙だった。
当然だろう、と横で話を聞いていたあちら側の伊丹は口をひん曲げた。
自分達が別の世界ではゲームの世界の登場人物だったと告げられ、怒りや悲嘆よりもまず困惑の感情が浮かぶのは当たり前の反応だろう。
異世界の存在以上に現実味が薄い情報だ。何せ異世界の方は既に現実の存在として実在しているのだから尚更に。伝説的な男達もこれには流石に受け止め、受け入れかねている心境がありありと察せられた。
もう1人の自分、
「若造。お前の言う事が仮に真実だとしたならば、お前はどうやってそれを知った?」
「そっそれは俺もそのゲームをプレイしたからですっ!」
曰く、
特にプライス達が登場するMW3部作は全て購入したそうだ。
「つーか伊丹隊長、この世界で起きた事聞かされたんすよね。その時に気付かなかったんすか!?」
「いやぁ、俺洋ゲーにはあまり詳しくないから……」
話を振られた迷彩服姿の伊丹はバツが悪そうな顔で頬を掻く。伊丹のオタク趣味は萌えからロボ、昔の名作から最近の話題作まで幅広くはあるが、彼は海外作品にまでアンテナは伸ばさないタイプであった。
情報公開の場に集められたのは
「俺達の戦いがゲームにされてたんならさ、
コンバットシャツ姿の伊丹の呟きに、WW3を戦った男達の間の空気が瞬間的に張りつめた。
情報公開によって多くの概要が世界中に知れ渡ったものの、タスクフォース141と呼称されたかつての部隊が関わった数々の戦闘の中には機密扱いなど生温い、関係者が全て墓の下の住民となっても尚知られてはいけない類の情報が複数存在している。それこそ暴露されれば今度は最悪WW4が勃発してもおかしくない、そんなレベルの爆弾だ。
「プライス」
張りつめた表情のユーリがプライスに何事かを耳打ちした。ブッシュハットの老兵はまだ正座を説かないあちら側の倉田の襟首を掴み、顔を近付ける。
「俺達の戦いや、俺達がどういう立場だったかを本当に知っているなら答えられる筈だ」
そして倉田にしか聞こえない位ささやかな、それでも自然と背筋が伸びる迫力を帯びた囁き声でプライスは質問したのだ。
「プラハでマカロフの殺害に失敗した後、俺達が逃げ込んだセーフハウスで何があったか答えるんだ」
「……ユーリさんを爆弾から庇ったソープさんが亡くなって、プライス大尉がユーリさんをぶん殴って、ユーリさんがマカロフの元相棒で、中東での核爆発や空港テロの現場にも居たって白状する所までっス。そこから先は山の中の城へ潜入するまで展開が飛んだからその間にあった事は知らないです本当っス!」
「……………………」
「……………………」
「…………そうか。立って良いぞ」
しばらくの沈黙を経てプライスの手と顔が倉田から離れ、事態を見守っていた戦友達へと振り返った。
ユーリに向けプライスの髭面が縦に動かされると、禿頭のロシア人は「そうか」と天を仰いだ。過去に大罪を背負いそれを悔いながら生きてきた罪人を思わせる表情だった。
「いいだろう。小僧、お前の情報が正しいと認めてやる。だがこれ以上誰かに言い触らすのは止めておけ。間違いなく面倒しか生まんからな」
「りょっ了解しましたっ!」
ようやく立ち上がる事を許された倉田はプライスからの釘刺しに直立不動で応じた。敬礼のおまけつきである。余程詰問してくるプライスがおっかなかったようだ。
続いてプライスは迷彩服姿の伊丹の方を見た。
「そこに突っ立ってるもう1人のイタミ、お前もだ。こいつが余計な事を口走らないようお前が目を光らせておけ」
「分かってますって。今回の『門』が消えてこの世界と別れるまでは気を付けておきますよ」
そこへここまで口を閉ざして場の流れを見守っていた最後のイギリス人、マクミランがプライスへ問いかける。
「それでどうするかね、ジョン。我々が壮大な舞台で演じる役者と知ってしまった訳だが」
「シェイクスピアは正しかったという事だな。だがなマック、世界なんてものは所詮、其処に生きている人間が役割を果たす事で成り立っている存在だ。違うか?」
「いいや違わんよ。我々が手を汚し、世界は体面を保つ。そういう役割の稼業と割り切ってしまえば、案外役者としての生き方も気にはならんものだ」
プライスよりも更に老獪な雰囲気を漂わせる、元SASにして『門』崩壊前の
それに続いて伊丹も笑った。こちらは男臭さからは程遠い、普段よく浮かべる方の気が抜けるような締まらない笑みだったが。
「そうそう。俺だって喰う寝る遊ぶ、その合間にほんのちょっと人生を送りたくて働いてるようなもんだし、趣味に生きれるならよっぽどガラじゃない役でもない限り何でもいいさ」
「趣味に生きるのは勝手だが所帯を持つなら家族の事も考えて役を選ぶんだな」
「あ、あはは……」
「……強いなぁ彼らは」
「そうっスねぇ。俺もちょっと憧れます」
有り様を根本から揺さぶられる情報を告げられても尚揺らがぬ、己の中に確固たる芯を持つ伝説的な兵士達のやり取りを、この世界の富田と倉田は眩しそうに眺めるのだった。
プライス大尉は割とあっさり割り切って受け入れそうだと思います。
だってシェイクスピアを生んだ国出身だし(意味不明
先日完結した原作銀座編の聡子が良いヒロインしてたので、MW本編に彼女が出てくるIFルートとか書いてみようか悩んでたりします。
こう割とレレイ達に匹敵する重い感情の持ち主なのが割とツボに…w
でも本編終了後~平行世界編の間の話とか本編出忘れられた人の顛末とかクロスオーバーネタとか以前から考えてて書きたい話もまだまだあるんですよねぇ…
平行世界編はあと2~3話で今の所終了予定。
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