――――最終的に平行世界を繋いだ『門』はその日の内に閉じられる事となった。
2つの世界の差異はWW3の有無や年代のズレに留まらない。銀座に『門』が出現していた期間は
接続期間のズレは
よって『門』が平行世界と繋がった事で、
「何度か起きてた地震は『門』が原因だったんですね」
「そーいえばハーディに会いに行った時、そんな感じの事言われた覚えがあるけど、あれがそうだったのか……」
「『門』が破壊された直後の揺れもそれだったんでしょうか。あれで俺、危うくプライス大尉共々死にかけましたよ」
「俺なんかその時死んでたんだよなぁ」
「いや死んでたって何があったのさ
「え? こっちに逃げてきた敵の親玉の自爆から皆を庇おうとした拍子に飛んできた破片で心臓串刺しにされた」
「うわぁおっかねぇ」
こちら側の伊丹と栗林は、ベルナーゴを訪れた時に冥府の神と交わした会話を思い出して額に手を当てた。
あの後は栗林の妊娠発覚やら刺客への対処やらレレイの導師号案件やら、果ては帝都での政変からのアルヌス襲撃と銀座占拠のダブル騒乱が重なり、すっかり伊丹達の頭からすっ飛んでしまっていたのだ。思った以上に深刻な問題であったと今になって知った彼らの顔には冷や汗が浮かんでいた。
尤も
どちらにせよ、こちら側の自衛隊上層部にとって『門』が齎す反動についての情報は青天の霹靂だった。
故にレレイが穿門法を用いて繋いだ『門』もまた再び悪影響が顕在化する前に閉じるべき、そう狭間達が決断したのも当然の帰結であった。
レレイも、狭間達の判断に異論はなかった。それどころかこのような意見を出しすらした。
「
私達は彼らの二の舞にならぬようそれを踏まえた上で、反動を齎さない為の安全装置や自由に開閉を可能とする術式を組み込んだ、新たな『門』の建設を前提に穿門法の研究を行っていくべき」
トラブルの発生原因が分かっているなら最初から対応した設計をすればいい。
刃物を剥き出しにしたままでは不必要に誰かを切ってしまうから、人は鞘やそれに準ずる道具を生み出した。銃が勝手に発射されないよう、引き金や撃鉄を動かなくする様々な機構の安全装置が設計された。
自動車が誕生した直後は運転手の死亡事故が多発した。技術の進歩の末、乗員を保護するシートベルトやエアバッグが発明され、それらは今や自動車の必須装備として広まっている。
『門』を開く穿門法も同じだ。科学も、魔法も、技術であるならば研究し、発展させ、より高性能により扱いやすくより安全に発展させればいいだけの話――――後にレレイは伊丹達にそう語ったのだった。
一旦方針が決まれば後は早かった。
今回に限れば、平行世界同士が繋がっているメリット自体が極めて小さかったのも大きな理由である。
それは特地が海外との関係悪化が見込まれても尚余りある膨大な価値が眠る、新たなフロンティアに他ならなかったからだ。
日本には足りぬ金からレアメタル迄の鉱物資源、石油資源、農業に適した肥沃で広大な土地、銀座を襲った帝国から日本が手に入れる
それらは地球の世界経済を一変させかねない規模と推測された。日本政府によって実際に特地の調査が始まる前から地球世界の経済市場は敏感に反応し、暴騰と暴落を繰り返した。市場とは
ともかく『門』を巡って日本と世界各国が丁々発止表裏入り乱れての謀略戦を繰り広げたのは、それだけ奪い取るに相応しいだけの価値が見込まれたからという理由に尽きた。
今回開いた『門』は違う。
其処に至る経緯は大きく違えど、アルヌスに居座るどちらの自衛隊も日本に繋がる『門』を失い、異世界に孤立している立場なのは共通しているのだから。実の所、情報以外に融通し合える代物も余裕も無い程度には、どちらも追い詰められていた。
だから閉じる。幾つものデメリットを上回るメリットが存在しないのだから。
そんな訳で栗林を追って
「色々と大変ではあったけど、別の世界の自分と話せるなんて珍しい経験をさせて貰ったよ。こっちのレレイや皆も元気でな」
「当然。研究を重ねて必ず私達のヨウジも故郷のチキュウへと帰れるようにしてみせる」
淡々とだが僅かに熱を籠めた口調でもって
「我々の世界の実証データがそちらの研究の助けになる事を祈っている」
「有難く参考にさせてもらう……そっちの
こちら側のレレイが更に励ましの言葉を返す。先程の発言と比べると心なしか優し気で、僅かに甘い雰囲気も漂う口調であった。
「…………頑張る」
それを受けたあちら側のレレイもレレイで、白い頬にちょっとだけ赤みが差してみせたかと思うと、近くに立っていた迷彩服姿の伊丹の服、その裾の端をおもむろにぎこちなく摘まんだ。
「どっかしたの?」
「何でもない。ただこうしてみたくなっただけ」
「お、おう、そっか」
突然人見知りな子供の様に甘えてきた魔導の少女を、迷彩服姿の伊丹は戸惑いながらもそのまま受け入れるのだった。
その様子にこちら側のレレイはほんの小さく満足げな微笑みを浮かべるのだった。
少し離れた位置ではあちら側のテュカとロゥリィとヤオが身を乗り出し、熱弁を振るう妊婦服姿の栗林へ耳を傾けていた。
「いい? ただ欲情のままにいきなり襲いかかっちゃダメなの。最初っからヤる気満々だと耀司さんはすぐ逃げ出しちゃうから、まずは寄り添ってあげてそこから少しずつ逃げ出せない状態に持ち込むのが大事なのよ」
「な、成程」
あちら側のテュカが真摯な表情で頷く。
「例えば耀司さんが非番に自分の部屋で薄い本や小説を読んでるところへ行くとするでしょ。
そういう時はまず隣に座って耀司さんが見てるのを一緒に読むようにするの。そこから一緒の時間を過ごして警戒が緩んでいくのに合わせて腕を耀司さんの腰に回したり、膝の上に寝転んで甘え倒す体勢に持ち込みながら同時に耀司さんが逃げ出せない状態にしちゃうのよ」
「成程、腰に抱き着かれてしまってはそう簡単には振り解けなくなるな」
「それにお父さんって純粋にくっつく分には確かに受け入れてくれるわね」
あちら側のヤオも大いに納得している様子だ。テュカも思い当たる節があるようで同意を示す。
「あともう1つ大事なのは逃げ場を残したり、邪魔が入って逃げるチャンスを与えないようきちんとまずは場のお膳立てを整える事。
ほら耀司さんってそういう周りの警戒が緩んだり気を取られた瞬間の隙を突くのが得意でしょ? だからそうならないよう皆で協力するのが重要になるのよ。今日は誰が耀司さんに甘える日か予め決めておいて、他の人は邪魔が入らないよう手伝ってあげたりね。
逆に言うと、それぐらいしなきゃ耀司さんの完全攻略は難しいの! いざその気になったら凄いのに、その気にさせるまでが大変なのよ!
私達が最初に結ばれた時も逃げ出せないよう皆で包囲して、それでようやくだったんだから!」
「うふふふふふふふ。流石先達、参考になるわぁ。そうねぇ邪魔が入らないよう場を整えておく事も重要よねぇ」
最後にあちら側のロゥリィが妖艶に笑った。獲物を定めた肉食獣にも似た笑みであった。
「な、何だこの寒気は?」
何やら恐ろしい気配を感じて、迷彩服姿の伊丹はブルリと背筋を震わせた。
「……早く帰りたい」
そして独り伊丹攻略講座から体ごと顔を背けながら呻く迷彩服姿の栗林である。黒歴史を人前で開帳されているかのような、虚無の表情だった。
苦手なオタクの上官と結ばれた挙句新たな命まで授かった平行世界の自分が、嬉々として身近な少女達に伊丹攻略法を伝授している様子を間近で見せられている彼女の心境は窺い知れない。
あちら側の富田と倉田は、栗林のあまりのいたたまれなさに無言で目を逸らすのだった。
やがて別れの挨拶も終え、遂に離別の時を迎える。
「敬礼!」
こちら側の伊丹も平行世界の自分達へ敬礼を返した。彼らだけでなく平行世界の伊丹達との別れを見送りに来た狭間ら幹部組も集まってきており、折り目正しく一斉に返礼する様は中々に壮観な光景だった。
見送りに集まった自衛隊員達に背を向け、あちら側の伊丹一行は自分達の世界へ戻る為に『門』へと向かう。
「ロゥリィがいきなりこっちの俺達に食って掛かった時は驚いたけど、落ち着いて話を受け入れてくれて助かったぜ」
短い道のりを歩みながら伊丹が小声でぼやくと、耳ざとく聞きつけたロゥリィが唇を尖らせて反論した。
「あのねぇ、あれだけの悍ましい怨嗟の気配を感じ取ってしまったらぁ、エムロイの使徒としては問い質さない訳にはいかないに決まってるじゃなぁい。
散った戦士の魂そのものはぁ一応エムロイの御許へ召されてはいたけどぉ。むしろ魂が現世に縛られている訳でもないのにぃそれでも尚あれほどの残滓が土地に刻まれてるなんてぇ、邪教が禁忌の儀式に手を染めてもあそこまで酷くはならないわぁ」
「それ程かよ。でもあんなに酷い兵器が使われればそれも仕方ないかぁ」
脳裏を過ぎるはこの世界の狭間達に見せられた化学兵器――ノヴァ6の資料。
アルヌスで炸裂した分の記録は抹消されていたので、伊丹とロゥリィが見せられたのは無誘導ロケット弾の化学弾頭という形で砲撃を受け、ノヴァ6に汚染されてしまった防衛省市ヶ谷地区の調査記録だ。
伊丹もロゥリィも人間の死体には慣れたつもりだったが、ノヴァ6の直撃に晒された死体は2人ですら吐き気を催す程に惨く恐ろしい死に様だった。あんな惨状を生み出す兵器を作り出した人物の果てしない悪意が垣間見えすらした。
「まぁ話を聞いてみたらぁ
「そりゃ当然だな。俺だって特地で核や化学兵器が使用されるなんてのは想像したくもないよ」
「……ヨウジィの世界とまた『門』が繋がったらその辺りにも目を光らせないといけないわねぇ」
「その時は俺も手伝うよ」
「頼りにしてるわぁ」
次々と宙に浮かぶ半透明の鏡の中へ1人また1人と入り込んでは姿を消し、遂にロゥリィと伊丹の背中も『門』に呑み込まれた。
それを見届けてこちら側のレレイが指を慣らせば、『門』はあっさりと宙に溶けて跡形も無くなった。直後、僅かな揺れがアルヌスを襲う。
――――こうして平行世界との接触はその日の内に終幕を迎えたのだった。
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