間違いなくこの組み合わせ書いたの自分が初だと思います(禁句:四次元殺法コンビコピペ
Knockin' on Warfare Gate1
相も変わらずクソ熱い国だ、と照り付ける太陽を忌々し気に見上げながらネクタイを緩めた。
熱帯気候の東南アジア。それも夏真っ盛りの最中に黒のスーツとネクタイをきっちり着込み、おまけに皮手袋まで嵌めてればあっという間に茹蛸の出来上がりだ。
転職時に世話になったその男はかつてサラリーマンをしていたらしい。
巡り巡ってこのタイの辺鄙な田舎町、どころかゴッサムやヨハネスブルクも真っ青の悪徳の都で新たな稼業に就いた同郷の先輩は、今や平和ボケに定評のある祖国で生まれ育ったとは思えない程に、この街のあらゆるゴロツキ相手に切った張ったの交渉を平然とこなすタフな人物である。
自然と左目を覆う医療用眼帯へ手が伸びた。
左目とかつての職場の同僚を失った、いや自らの意志で切り捨てた果てに、前職場の連中は墓穴ですらないどこぞの地面の下か海の底へ送り込まれた。
先に見捨てられた意趣返しを果たした後は死を覚悟していた自分は生き延びた。皮肉にも仲間に見捨てられた自分を助けたのは殺し合った筈の相手だった。
生き延びたからには、生かされたからには今度はとことん足掻いてやるつもりだが、それはそれとして借りもきっちり返さなければとぼんやりと思う。
生温い風でスーツの上着がはためく。裾の下からジェリコ941自動拳銃が覗いた。
そこいらのチンピラみたいに露骨に銃をちらつかせるのも性分ではない。小柄な体を覆う上着は武器を隠す為でもある。
この街に住んでいるのは銃を持たない堅気よりも銃をぶら下げたゴロツキの方が多いくらいだ。その中にはこの街に根を張るあらゆるマフィアから札束をかき集めている地元警察も含まれる。
スリから殺し屋、売春婦、ポン引き、薬中、死体専門の掃除屋、元兵隊のマフィア、汚職警官に至るまで見渡す限りロクデナシばかりの悪徳で栄える港町。
そして自分も立派なロクデナシの1人だと自覚はしている。
新たな転職先での身分は何時でも見捨てられる鉄砲玉。
容赦なく照らす太陽を隻眼で見上げたまま、今から冷えたビールでも1杯引っかけてやりたい欲求が頭をもたげ始める。
そんな悪徳の都の人々は、この街に不釣り合いな存在にとても敏感で。
道行く通行人―堅気ゴロツキ問わず―の空気の変化を察知して、反射的にその出所を探ろうと視線を空から地上へと戻す。
すぐに見つけた。十字路の曲がり角に所在なさげに立ち尽くす人影。冴えない顔立ちの、よれたスーツを着た東洋系の男。
「参ったねぇ。何処にどう行けばいいのかさっぱりだ」
「あン?」
けれど
何故なら男の口から漏れたのが、彼女がかつて捨てた故国――――日本語だったからだ。
思わず彼女が発してしまった声は男にも伝わったらしい。地図らしき紙を広げて唸っていた男が、彼女の方へと顔を向けた。
目と目が合う。反射的に見つめ、いや睨み返す。
改めて見れば見る程冴えなさが滲む凡庸な容姿だった。スーツの安っぽさが尚更印象を補強している。
もし故郷で見かけたなら都会の雑踏に紛れ込んだらあっさり見失った挙句存在すらも忘却してしまいそうな、日本の冴えないサラリーマンのお手本のような平凡さ。
――――だからこそ、この悪徳の都では非常に目立つ。
この街の(所属組織の地位という意味で)上澄みに含まれるマフィアの構成員には―自分も含め―スーツを纏う者も少なからず含まれるが、彼らに共通する剣呑な威圧感も目の前の男からは無縁だ。
彼女の飢えた野良犬の様な眼光に射貫かれると、サラリーマン風の男は……にへら、と頬を緩めた。
無造作に彼女へと近付いてくる。彼女の服の下の膨らみにもまるで気付いていないように見えた。
嫌そうな舌打ちが漏れた。小柄な上に相手が油断しやすい、悪く言えば舐められやすい外見をしている自覚はあるし
この時、もし彼女に読心能力があったならば、
(やさぐれ系男装ツインテ眼帯美少女とか何という属性過多)
などという戯けた感想を抱いた目の前の冴えないサラリーマンへの対応を、ガンつけからジェリコ941を使った剣呑なやり方へ即座に切り替えていただろう。
「すみません、お尋ねしたい事があるんですけど」
結局サラリーマン風の男は怯みも躊躇いもせず至近距離まで詰めてからようやく立ち止まると、如何にも困っていますといった様子で彼女に声をかけた。
逆に更なる対応へ移る前に易々と懐まで踏み込まれてしまった彼女はもう1度舌打ちしてから、渋々といった態度を全く隠す事無く相手をしてやる事にした。
「ンだよ一体。売春ツアーで来たんなら商売女が集まってる区域はこっから東に3ブロック先だからそっちへ行きな」
街の外から来た外国人、それもやさぐれた雰囲気を纏わない堅気の男となれば、大抵は地元の風俗店ではまず味わえない過激な体験を求めてはるばる足を伸ばしてきた女狂いの買春ツアーの客である。
「いやいや、そうじゃなくてね。仕事でこの街に来たんだけど道に迷ってしまいまして……」
「アンタの目は飾り? 道案内の看板でも探しな」
「……どれも現地の言葉ばっかりで読めないんですよ。あ、あはははは」
バツが悪そうに男が笑うと、女は心底めんどくさそうに溜息を吐いた。
屯するチンピラ達の視線を感じる。女は新参者だが、この街に居着く際にひと騒動起こして少しばかり悪党連中の間で噂になった身だ。今はチンピラどもは見に徹しているが、グダグダ相手をしていたら更に面倒が増えるかもしれない。
冴えないサラリーマンを追い払ってさっさと立ち去るか。その場合立ち去った数秒後にはチンピラどもは丸々と肥え太った鶏にしか見えないこのサラリーマンを嬉々として取り囲むに違いない。
「その地図を見せな」
女は男が止める間もなく、彼が見ていた地図をむしり取った。
それを覗き込み、次の瞬間訝し気に眉根を寄せた。彼女が男から取り上げたのは、正確には地図ではなかった。
「ンだよこれ。地図じゃなくて街の航空写真じゃないか」
住所や通りの名前が分からないのも当然だ。所在なさげに頬を掻いていた男は、ふと彼女をまじまじと見つめると「もしかして……」と口を開いた。
「もしかして君、日本人?」
「だったら何だよ。同じ日本人同士助けてくれって寝言ほざくんなら話は終いだよ」
女は地図改め航空写真を半ば突き飛ばすように男の胸に押し付けた。
(あン?)
違和感を覚える。紙と革越しに伝わった男の胸の感触が異様に硬い。
僅かに気を取られて動きを止めた次の瞬間、突き出した彼女の手は意外な程素早く動いた男の手によって捕まっていた。
「そんな事言わないでお願いします! 報酬はちゃんと出すから、是非ガイド役を頼めないかな!?」
「気色悪いんだよさっさとアタシの手を放しやがれオッサン! ガイド雇いたきゃ余所当たりやがれ!」
「そう言わないでさ、そもそも余所当たろうにも住所も文字も分からないから探しようがないんだって。だからどうかこの通り頼んます!」
喚く女ペコペコ頭を下げる男。コメディじみた口論を始めた2人を眺める周囲の見物客はどこか呆れ顔だ。
――――そこから少し離れた曲がり角。男が立っていた十字路を通過していく住民が曲がり角に顔を向けた瞬間、ことごとくティラノサウルスにでも出くわしたような顔を浮かべて足早に去っていくのに、ヒートアップした女はまだ気付かない。
ああもう面倒だ。ノーロープバンジーよりも速く直滑降する機嫌のまま、とうとう女は懐に空いた片手を突っ込んだ。
「いい加減に――――しやがれ!」
引き抜いた拳銃を男の額へと押し付けた。
その瞬間だった。
ゾクリと背中が、そして全身が泡立った。
「…………」
男は動かない。銃口が額に密着していて、引き金にも指が添えられている自動拳銃越しに、変わらず女から視線を外そうとしなかった。
恐怖で固まっている? ――――違う。
おもちゃと勘違いして命の危機と認識していない? ――――それも違う。
片腕は男に握られたままでもう片腕で男に銃を突き付けている体勢上、女も自然と男の顔を覗き込む格好になった。
男の顔には恐怖も怯えも戸惑いも敵意も浮かんでいなかった。両の瞳も精神的同様にぶれる事無く、女の一挙一動を観察していた。
ここに来て女は一見日本の三流サラリーマンにしか見えない目の前の男が只者ではないと悟った。
虚無と表現する程無機質ではない、だが冷徹に目の前の脅威を観察し見定めようとするカメラレンズじみた眼差しは、今の彼女の飼い主であるあの
「お前……何モンなんだよ」
睨みながらその実動けずにいると、男が立っていた曲がり角から不意に巨大な影が姿を現す。驚きのあまり、唯一光を宿す女の右目が大きく見開かれた。
其処に出現したのはヴィンテージのマッスルカーから大型トラック、
中古のセダンや4WDに鉄板を溶接しただけのマッドマックスより安っぽい手製装甲車擬きとはレベルが違う。この街の悪徳警官が所有する人員輸送用の装甲バスからもずっと洗練された設計なのが一目見ただけで伝わってくる。
ブッシュマスター装甲車と呼称されるその車両は、
装甲車の屋根に設けられた上部ハッチからライフルを構えた男の上半身が覗いていた。急展開に周囲の野次馬やチンピラは一斉に姿を消した。
サラリーマンを振り払おうにも、気が付くと女が構えた拳銃のスライドへサラリーマンのもう片方の手が重ねられていた。撃鉄部分に指を挟んだ状態でしっかりとスライドをフレームごと掴まれてしまっては幾ら引き金に力を籠めても鉛玉は飛び出さない。
今やサラリーマンから
それから手を放す。女は瞬時に銃を掴まれない距離まで飛び退ってから、獲物に跳びかかる寸前の獣よろしく身構えた、だが女が見た事が無いような近未来じみたパーツが幾つも取り付けられたライフルがピタリと照準されるのを察知してそれ以上動けなかった。
「言ったでしょ。俺はこの街には仕事で来たんだってば。でも街の住所や標識の案内やどの店が何処にあるかも分からないから、街を案内してくれるガイドを探してるの」
改めて女へ向き直りながら男はそう告げると、眼光を兵士のものからそれまでの情けない安サラリーマンのものへと変えた。
雰囲気のあまりの落差に極限まで警戒していた女――――ルマジュールですら脱力して危うく腰砕けになりそうな位だった。
「だからさぁ……ちゃんと報酬もお支払いしますので、この通りガイド役を引き受けて貰えないでしょーか! お願いします!」
そう言って安スーツの男――――伊丹耀司はもう1度深々とルマジュールに平身低頭したのである。
最初の遭遇相手にルマジュール選んだ理由:章ラストの舎弟口調で一気に好きになったから
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