GATE:MW 外伝集   作:ゼミル

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伊丹達がルマジュールを知らない理由:原作で彼女が登場した章の開始時期は19年10月号から。


感想・反応よろしくお願いします。


Knockin' on Warfare Gate2

 

 

 

 

 

 クソめんどくさい事になったと苛立たしく胸の内で嘆きながら、装甲車の硬い座席の上でルマジュールは車内を見回した。

 

 

 

 

 

 軍用の輸送車両独特の向かい合わせに座る形で配置された座席。ルマジュールの向かい側には彼女を面倒事に引きずり込んだ張本人の安サラリーマンこと伊丹が鎮座している。

 

 

「ああすみません。自己紹介が遅れました。じぶ――俺は伊丹っていいます」

 

 

 差し出される伊丹の手――――ルマジュールは思いっきり鼻を鳴らしてそっぽを向いた。困った様子で苦笑いする伊丹。

 

 その拍子に彼女から見て右側、運転席がある車体前部側を横目に捉える。屋根のハッチからルマジュールにライフルを向けていた髭面の男が座っていた。

 

 白人の、おそらくイギリス系だろう。擦り切れた砂色のカーゴジーンズにモスグリーンの使い古されたミリタリーシャツ。頭にはブッシュハット。

 

 シャツの上からライフルと拳銃のマガジンで膨らんだポーチがズラリと並ぶチェストリグ。右太股にはナイフと大型拳銃(サイドアーム)を収めたホルスターのおまけつき。すぐ手元に立てたライフルへ手を添えながら静かに佇んでいる。

 

 ルマジュールよりもずっと年上だろう初老の男は、三流ビジネスマンの装いな伊丹とは別方向でこの掃き溜めの街に相応しくない異様な身なり――――兵士の姿をしていた。

 

 四六時中悪党が殺し合うこの悪徳の都……ロアナプラ。此処では拳銃どころかアサルトライフルの様な長物、時には重機関銃やロケット砲すら持ち出してぶっ放す輩も多く、そういう連中は兵隊崩れだったりする事も決して珍しくはない。

 

 だがルマジュールは、ライフルを構えた髭面の男から銃口を据えられた瞬間に感じてしまったのである。

 

 

()()()()()()()()

 

 

 それこそ今の職場の主だったメンバーである筋金入りのアフガン帰還兵どもに匹敵するか……或いは彼らを凌ぐ歴戦の戦争野郎(ウォーマシーン)

 

 渋々と大人しく装甲車に乗り込んだのはこの髭面の兵隊のせいでもあった。

 

 あの距離、あのタイミングでこの老兵の銃弾から逃れられるイメージが全く湧かなかったのだ。銃を向けられてからの僅かな間にルマジュールの本能へそう刻みつけるだけの迫力を、あの瞬間の老兵は確かに宿していたのである。

 

 

 

 

 

 

 髭面のイギリス人の向こう側、運転席と助手席にも兵隊然とした東洋系の男がいる。こっちの2人は伊丹と同じ日本人だ。先程日本語でのやり取りをルマジュールは耳にしていた。

 

 顔を反対側に向ける。後部側にはやはり頑丈そうなアウトドア系の衣類の上に兵隊の装備を着込んだ坊主頭の白人の姿。

 

 こちらはロシア系だろう。運転席組の面子も含め、彼らもまた老兵に負けず劣らず只者ならぬ精兵の雰囲気を漂わせている。

 

 観察対象を人から()()に移してみると、やはりこちらも異様で異質だった。

 

 全体的なシルエットから東西の傑作アサルトライフルとして有名なAK47やM16系列なのは見れば分かる。

 

 が、施された改修や銃器に取り付けられた様々な形状の付属品(アクセサリー)、余りに先鋭的に過ぎるそれらはルマジュールの知識にある各国のコピー品や派生型と全く一致しない。10年か20年先の未来に誕生する子孫という表現がしっくりくる。

 

 車体後部側、座席と後部ハッチの間に設けられた長期の作戦活動用物資を収納するスペース、そこに並べられたライフルよりも更に物騒な品々も同様の改修が加えられているのが見て取れた。

 

 だからこそ、ロアナプラどころか正規軍ですら持っているかも怪しい代物揃いの武器で武装した凄腕の兵隊に囲まれて、1人身なりも雰囲気もうらぶれたサラリーマンにしか見えないグレーのスーツ姿な伊丹の存在は殊更に異物感が半端ではない。

 

 それでもルマジュールは伊丹に対しこれ以上油断も侮りもするつもりはなかった。

 

 会社勤めなら社内での評価はさしずめ給料泥棒のお気楽社員然とした態度の伊丹が、しかしその顔の下にこの装甲車に乗った男達と同じ兵士としての本性を隠している事は、先程真っ向から伊丹の瞳を覗き込んだ際に見抜いている。

 

 

「ええっと、君の事はどう呼べば良いのかな?」

 

「……ルマジュール。そう呼びな」

 

ルマジュール(中指)、か。分かったルマジュール。しばらくの間頼りにさせてもらうよ」

 

「言っとくけどこいつはあくまでビジネスだ。アンタはアタシに金を払い、アタシはお上りさんのアンタ達に道案内をしてやるが、アタシの仕事は()()()()だ」

 

 

 苛立ち交じりの口調でルマジュールは己のスタンスを告げてやる。

 

 

「何の仕事をしにわざわざこんな掃き溜めにやってきたのかは知らないし知ったこっちゃもない。

 けどね、アンタが鉛玉で体重を増やさないようにするのはアンタが引き連れてるそこのご自慢の護衛の役割だし、取引や交渉にアタシが出張るのも一切なしだ」

 

「オッケー、了解了解」

 

「それからもう1つ」

 

 

 言葉を区切り、ドス黒く澱んだ血の気配を帯びた隻眼で以って伊丹の顔を見据える。

 

 

「もしこの街の肥溜めを勝手に引っ掻き回してアタシまで糞を引っ被りそうになったり、報酬の払いを金じゃなく鉛玉で払おうなんて考えてるんなら、その時はアタシがアンタの体重を鉛玉で増やしてやるから。

 ――分かったね?」

 

 

 1人や2人手にかけた程度では醸し出せない、濃い血の臭いが滲む本気の殺気を叩きつけての脅し文句を、しかし目の前の冴えないサラリーマンにしか見えない男はあっさりと受け流して。

 

 

「それは勿論。裏切るのも裏切られるのもしんどいしめんどくさいですし、何より俺も平和に問題なく仕事が片付けば良いなぁって、常日頃から考えてますから」

 

 

 それどころかしみじみと……或いは溜息すら聞こえてきそうな、とっっっっても実感の籠ったうんざりした声色で、伊丹はハッキリと言い返した。

 

 それが聞こえたらしい。運転席と助手席の日本人の兵士は顔を見合わせると忍び笑いを漏らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

「それで、アンタ達はまず何処を目指してんのか教えてくれなきゃアタシも道案内のしようがないんだけど?」

 

「おっとそうそう。それじゃあまずは――この街で美術品の買い取りとかやってるお店ってあるかな? 顔が広いと尚良いんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、これは珍しいお客様だ。今日もモディボに()()()ですか?」

 

 

 店の主はそう言って客を出迎えた。

 

 名はイザック。褐色肌に長髪、オーダーメイド仕立てのスーツを隙無く着こなす、上流階級の出と言われても違和感を感じない伊達男だ。

 

 店内も身なり整う主に相応しく、下劣な悪党が跳梁跋扈する悪徳の都ではなく欧州のブランド街に構えていても通用するであろう、大小様々なアンティークが整然と並ぶシックな店構えである。

 

 これにはルマジュールに連れられて入店した伊丹も思わず感嘆の声を発してしまった。日本語で。その手には小型のアタッシュケース。

 

 店内へ足を踏み入れたのは伊丹とルマジュールだけで、店の入り口前には髭面のイギリス人が立って通りに不審な動きが無いか目を光らせている。

 

 通りに居た地元住民からしてみれば店の前に装甲車を停めて兵隊に護らせている伊丹達こそがとびっきりの不審者なのはご愛敬。

 

 

「おお凄ぇ。こういうお店入るの俺初めてだよ」

 

 

 お上りさんじみた反応の伊丹を、不機嫌な表情のルマジュールが立てた親指で示した。

 

 

「安心しな、とっくの昔に黒い肌のデカブツ狩りは店仕舞いだ。今のアタシの立場位どっかで聞きつけてんだろうが。だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 隻眼が、イザックの傍に控えるアフリカ系の大男をジロリと見据えた。

 

 

「承知しておりますとも。モディボ、彼女の言う通りに」

 

「はいマスター」

 

 

 モディボと呼ばれた男は主の声に従い、カウンターの裏に立て掛けていたショットガンへ密かに伸ばしていた右手を引っ込めた。だがルマジュールに対する警戒までは解こうとしない。

 

 ここまでのやり取りだけでルマジュールとこの骨董店の経営陣の間に()()()()()()()()()()があったと見抜くには十分だったが、伊丹は敢えて気付かなかったフリをした。当事者でもない人物が古傷をほじくり返そうとするのは下の下である。

 

 

「では当店を御入用なのはそちらのお客様ですか。お客様、本日はどういった用向きで?」

 

「実は買い取って欲しい品物があるんだ」

 

 

 そう言って伊丹は店のカウンターにアタッシュケースを乗せた。ロック解除。開いて中身がイザックへ見えるようケースを180度ターン。

 

 途端に店主の目が大きく開かれ、天井の照明から反射した輝きが僅かに彼の顔を照らした。

 

 

「おおっ」

 

「この手の美術品にはあまり詳しくないんだけど、何でも古代ローマ時代に純金で作られた物らしいよ」

 

 

 スポンジの内張りで保護された中身は黄金に輝くブレスレットであった。

 

 幅は5センチを超える。金の煌めきだけでなく、波形の紋様が刻まれた中心部には透き通った緑の宝石――エメラルドが埋め込まれていた。混ざり気を感じさせない金と緑が混ざり合った輝きはとても蠱惑的だ。

 

 その惹きつけんばかりの魅力は、厳めしい顔つきで控えていたルマジュールとモディボも思わず前のめりになって覗き込んできた程であった。

 

 

「いやはやこれはこれは……」

 

 

 驚嘆も露わに伊達男はまず素早く白手袋を取り出して装着、慎重な手つきで中身を取り出す。

 

 鉄の比重は約7.8。金の比重は19以上。同サイズの塊で比較した場合、純金の重量は鉄の2倍以上となる。

 

 取り上げたイザックの手首にブレスレットの外観以上の重みがかかる。無論たったこれだけで純金製であると証明された訳ではない。それでも含有率によって重量が変動するのを踏まえ重さだけで判断するならば、伊丹の申告通り純金に匹敵する重みだ。

 

 

「仰られた通り古代ローマ時代に近いデザインではありますが、ふむ。一般的な同年代の品に刻まれている紋様に差異も見受けられます」

 

(そりゃ異世界で作られた物だもんねぇ)

 

 

 口には出していないので当然伊丹の心の声がイザックに届く筈もなく。

 

 何度かブレスレットをひっくり返し全体を入念に観察し終えると、イザックは次にルーペを取り出して宝石の鑑定にかかった。

 

 エメラルドは基本的に色が濃く、かつ透明度が高い石ほど価値が高い。その点で言えばブレスレットに埋め込まれた宝石は非常に高品質で、かつ石のサイズも大きい。ブレスレットから外した石単体だけでもかなりの価値が着くに違いない。

 

 それがこれだけの量の黄金と組み合わさっているともなれば、美術品としての価値は更に跳ね上がり――――

 

 

「このロアナプラでここまでの品物をお目にかかるのは初めての経験ですよ」

 

 

 ルーペを外し、ブレスレットを取り出した時以上に慎重な手つきでケースの中に戻したイザックは、アスリートのスーパープレイを目の当たりにした解説者の如く首を横に振り、満足げに嘆息した。

 

 

「つきましては――」

 

 

 提案を切り出そうとした古物商を遮るように、弛んだ笑みを張り付けながら伊丹はおもむろにこう切り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「この品を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 イザックの方が一瞬、揺れた。

 

 

「即金、ですか。宜しければ私どもが仲介人となりまして、()()()()()()()()()()()()()()()()()買取先を御紹介させて頂こうと、そう提案させて頂くおつもりだったのですが。

 無論、仲介料は頂くつもりではありましたがね」

 

「お気遣いは有難いけど、こちらとしちゃなるべく早急に現金を揃えておきたい事情があってねぇ。ほら、()()()()()()()()()()()ってよく言うでしょ?」

 

「……」

 

「……」

 

 

 カウンター上の空間で視線と視線がぶつかり合った。

 

 目撃した多くの女性が見惚れるだろう柔和な笑顔と、多くの人が一目見ただけで脱力しそうな腑抜けた笑顔、同じ笑みでも対極的な印象を抱かせる表情を浮かべたイザックと伊丹はしばしそのまま見つめ合い。

 

 

「分かりました。お客様のご要望通りに。モディボ、奥の金庫からこれだけ持ってきてくれたまえ」

 

「承知しましたマスター」

 

 

 幾つかの桁が並んだ数字を走り書きしたメモを巨躯の黒人へイザックは手渡した。

 

 モディボが店の奥へ消えて数分後、戻ってきた彼が押す、これまた店の雰囲気に相応しいアンティーク調のカートには幾つもの札束が積まれていた。

 

 50ドル札分だけで十数万、100ドル札分の札束も加えれば軽く数倍の額となるだろう。

 

 100ドル札と50ドル札だけで構成された札束の山に、ルマジュールですら一瞬呆気に取られた位だ。然るべき手順を踏めば額は更に跳ね上がるというのだから、金は在るところには山のように唸っているのだなと彼女は思い知らされた。

 

 

「これだけの値段を付けさせて頂きましたが、ご満足頂けましたか?」

 

「いやぁ悪いねぇ無理な注文しちゃって。ゴメン爺さん、お金入れるケース持って来てくれるー?」

 

 

 黄金とエメラルドの腕輪はイザックの手へ。札束はプライスが持ってきた別のアタッシュケースに放り込まれて伊丹の手へ。

 

 札束を2つ3つ適当に拾い出し、金に不審な点が無いかチェックする伊丹だが、その様子は殆ど形だけといった風情。すぐに無造作に札束をケースに詰め込み始めた。

 

 その最中、安堵半分困窮半々の愚痴といった風を装って、更に伊丹はこんな事を言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも参ったよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()現金の手持ちは少なくてさ。

 こうやって一々買い取って貰ってお金に換えてたら今度は時間がかかるばっかりだし、折角この街に来たんだから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだけど、いっその事()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだけどねぇ。

 ――店長さん、()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 




この手のジュエリーはちゃんとしたオークションにかけると云億円単位まで跳ね上がるとか。

初手資金稼ぎには自衛隊側にも割と切実な理由があったりなかったりします(分かるかな?
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