GATE:MW 外伝集   作:ゼミル

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時期的には外伝3巻終了後の想定です。


感想・反応よろしくお願いします。


Knockin' on Warfare Gate5

 

 

 

 

 

<2時間前>

 

 

 

 

 部屋に置いた荷物に()()()()を施すと、伊丹達は徒歩でホテルの外へ繰り出した。

 

 プライスと剣崎は大判の書籍やタブレット端末も簡単に入りそうな、大型のメッセンジャーバッグを斜め掛けに背負っている。

 

 原作内に於いてロアナプラで一等豪華なホテルと称されたサンカン・パレス・ホテルが存在する立地とだけあってか、ホテル周辺の区画は毎日撃ち合いと人死と違法取引が繰り返される悪徳の大鍋とは思えぬ整い具合だ。

 

 如何にも観光客向けの店が並び、軒先を連ねる建物の窓はどれも割れたまま放置されているなんて事も無く、信号は動いているし街灯はちゃんと表通りを照らしていて、標識や看板に至っては銃を持った暇人どもによって穴だらけにもされていない。

 

 まるで何処にでもある、まともな東南アジアの観光地と大差無い光景だった。

 

 

 

 

 

 それでも此処は悪徳の都。

 

 真っ当な街並みや雰囲気を装っていても、薄皮一枚めくれば大岩の下の虫の群れ宜しく、多くの悪党が獲物を求めて蠢いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この街の地図(無人偵察機の航空写真ではなく、ホテルのフロントで手に入れたちゃんとした物だ)を手にした伊丹が、プライスと剣崎と共に通りを歩き始めてから数分と経っていない頃だった。

 

 おもむろに横合いから伊丹達の進行方向を横切る形で早足に歩いてきた男が、伊丹とぶつかりそうになった。

 

 

「おおっと危ない」

 

 

 これを伊丹は急ブレーキをかける事で寸前での衝突を回避。

 

 そのまま何事も無く歩き去ろうとしたら、

 

 

「テメェどこ見て歩いてやがる!」

 

 

 口から発泡を飛ばしながら男が右手を伸ばし、伊丹の胸ぐらへと掴みかかってきた。

 

 プライスと剣崎の目元がほんの僅かに細まり、絡んできたチンピラを追い払おうと前に出ようとする――――が、それを伊丹が後ろ手に回した手で制止させた。

 

 

「どうもすみませんねぇ。初めての土地なもんですから周りの景色に気を取られちゃってまして」

 

 

 安スーツの胸元を掴みかかられながらペコペコと謝罪する伊丹。ほぼ密着状態なせいで、伊丹に絡むチンピラの左半身は伊丹の体が邪魔になってプライスと剣崎からは見えない構図だ。

 

 

「けっ、今度から気を付けるんだな」

 

 

 絡んできた時の勢いから一転、チンピラは伊丹の胸ぐらからあっさり手を放すと、伊丹の横を通り抜けようとして……

 

 

「アバーッ!?」

 

 

 ……伊丹とチンピラの間で突如小規模な落雷めいた閃光と破裂音が瞬き、奇声というか悲鳴を上げたチンピラは直立不動の姿勢になったかと思うと路上にバタンとぶっ倒れてしまった。

 

 それを間近で見た筈の伊丹は特に驚いた様子はなく、代わりに目元には呆れを浮かべつつ口元は引き攣らせるという奇妙な表情で、KO状態のチンピラを見下ろした。

 

 チンピラはというと泡を吹き、陸に打ち上げられて死にかけの魚介類みたいに痙攣を繰り返しており、プライスと剣崎から死角に至っては左手の指先など火と雷を同時に浴びてしまったかのように焦げて爛れた惨状と化してすらいる。

 

 成り行きを見守っていたプライスと剣崎は戸惑い混じりの驚きに目を瞬かせた。

 

 

「あーあーあー、やっぱりスリ目当てだったかー」

 

「オイオイ伊丹よ。今のってもしかして()()か?」

 

「そ。今回の任務前にテュカとレレイとロゥリィが用意してくれた御守りが発動したみたい」

 

 

 伊丹は上着の右ポケットから小さな布袋を2人へ見えるように取り出した。

 

 見た目とデザインは日本の御守りに近い。だが表面に縫い込まれているのは、日本語ではなく特地の複雑な紋様だった。布袋の中には魔法細工にも使われる水晶の破片が封じ込まれている。

 

 当然、よくある神社で売っているような土産物扱いの御守りとは全くの別物である。

 

 平たく言えば亜神(ロゥリィ)の呪詛と魔導師(レレイ)の魔法とエルフ(テュカ)の精霊魔法が念入りに込められたマジ物の魔導具なのだ。

 

 ちなみにデザイン案はアルヌスに残って子育て真っ只中の栗林(現地住民の間では栗林姓が定着してしまっているので日本帰還までは元の姓を継続)だ。安産祈願の御守りを参考にしたそうな。

 

 

「愛されてるねぇお前さん」

 

「いやぁあはは……」

 

 

 愉快そうににやつく剣崎へ後頭部を掻きながら伊丹は苦笑で誤魔化した。

 

 複数用意して貰ったこれを、伊丹はスリやかっぱらいに狙われそうなポケットや財布に仕込んでおいた。当然プライスと剣崎にも配ってある。

 

 トラブルが発生した時に伊丹を守ろうとした仲間に対して誤作動を起こさないよう、服を掴まれた程度では反応しないよう設定はしてある。御守りの効果が発動するのは盗人等が悪意を以って持ち物を盗み取ろうとポケット内へ侵入を試みた場合に限られるが、発動した時の効果は凄まじい。

 

 むしろ、というか明らかにオーバーキルなレベルだった。これで携帯している伊丹自身には何の害も及ぼさないのだから便利なものだ。

 

 これと同種の防犯装置を部屋に纏めて置いてきた荷物にも仕掛けてある。

 

 こちらは御守り型よりも一回り大きいお札に近いデザインで、車1台分ぐらいのサイズまでカバーできる範囲型だ。効果範囲の拡大に比例して発動時に不届き者へ襲いかかる呪詛やら魔法やらも強化されているとの事。

 

 ……御守り型でこれなら、部屋の荷物に手を出した泥棒がいたら哀れ爆発四散してネギトロめいたものとなってしまっちゃうのでは? 伊丹は恐れ戦いた。

 

 

 

 

 

 

「さっさとこの場を離れるぞ。今のはどうやら……()()()()()目立ったからな」

 

 

 プライスの言う通り、今の騒ぎを聞きつけた多くの野次馬が、伊丹達とその足元でピクピクと痙攣する哀れなスリの間に視線を行ったり来たりさせていた。

 

 尤も野次馬の半数は伊丹達が周囲を見回すなり焦った表情で顔を逸らしたり、そそくさと立ち去るそぶりを見せていたが。

 

 伊丹達をカモと思って狙っていたスリの同類だろう。もし先に動いていたらあそこに転がる哀れなマヌケは自分だったと恐れ戦いているのがありありと感じ取れた。

 

 

(ま、しばらくの間此処で活動する事を考えると、今のが噂として広がってくれた方がありがたいっちゃありがたいか)

 

「で、ここに転がってる哀れな泥棒は放っといていいのか?」

 

「良いんじゃない? 悪所街と一緒でここの住民が()()してくれるでしょ」

 

「分かっちゃいたけどよ伊丹、お前さん普段はやる気ないオタク感丸出しなのに、冷めてる時はとこっとん冷めてるよなぁ」

 

「今回のこの人の場合は自業自得だからねぇ」

 

 

 アルカイックスマイルの下で冷めた思考を巡らせながら、伊丹達もその場から悠々と歩き去った。

 

 そして放置されたスリは伊丹の予想通り、周囲の野次馬(ハイエナ)によって適切に()()されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<1時間前>

 

 

 

 

 逃走ルートに使えそうな細い路地を頭に叩き込みつつ数ブロックも歩くと街の雰囲気は一変した。

 

 如何にもな観光客向けの土産物屋やレストランからガラリと変わり、今やけばけばしいネオンサインを掲げた店ばかりが並ぶ歓楽街の真っ只中へと、伊丹達は足を踏み入れていた。

 

 観光客目当てのホテル周辺を餌場とする盗人連中が路地裏や物陰で目立たないよう息を潜めて獲物を待ち受けるドブネズミなら、歓楽街に屯している連中は飢えた野犬だった。

 

 男も居る。女も居る。どちらも大なり小なり欲望の光で目をぎらつかせていた。

 

 明らかにこの街にやってきたばかりなのが丸分かりの、冴えない顔をした東洋人こと伊丹を獲物と見定めた目だった。そんな目で伊丹達を見ない者も居るには居るが、大抵は地面に座り込んだ酔っ払いかトリップ中の中毒者(ジャンキー)だ。

 

 後者の殆どは肌を露出させた格好で艶やかさをアピールして回っている。売春婦なのは明らかだった。そんな女達の近くで目を光らせている強面はポン引きか。

 

 

「ねえお兄さん達。私と楽しい時間を過ごしてかない?」

 

「生憎だけど悪いねぇ、そういうのは嫁で満足してるし、子供も生まれたばっかりなんだ俺」

 

 

 欲望と剣呑が濃密に入り混じった周囲の気配を感じ取りながら、しかし伊丹達は平然と歩みを進めていく。

 

 伊丹と剣崎は適当に相手をしてはあっさりと受け流し、プライスだけは如何にも気難しい頑固爺の気配を振りまいて近付かせないという違いはあれど、荒んだ空気への動揺はちっとも見られないし纏わりついてくる売春婦のあしらい方も手慣れたもの。

 

 何故かと理由を聞かれたならば、主に伊丹と剣崎はこう答えるだろう。

 

 

「「だって、()()()()()()()()()()()()()()()()(な)」」

 

 

 文明差のせいで滅多に風呂に入らない者特有の体臭、それを誤魔化す為の過剰な香水の匂い、処理されない汚物や臓物の臭いがミックスされた悪所街一帯に漂う強烈な臭気。

 

 堂々と路上で売り買いされる奴隷の存在に、下着どころか服も纏わず姿を晒し、路地や開けっ放しにされた売春宿の部屋から喘ぎ声を響かせる様々な人種(通常・亜人問わず)の売春婦。

 

 ゴミと一緒に死体が転がって何日も放置されているならまだマシで、カウンターの裏に切り落とした()()()()()()を無造作に転がしたま何食わぬ顔で謎の肉を売りつける肉屋なんかも悪所街では珍しくない。

 

 住民も住民で獣系から虫系まで様々な亜人のゴロツキが悪所街には集まっていた。肉食獣そのもののあの雰囲気、あの眼光、そして悪所街のあの雰囲気を知り、そして馴染んでしまえば誰だって肝も据わろうというもの。

 

 あそこと比べれば混沌としたロアナプラの歓楽街も、煌びやかなネオンが目に毒な点を除けば嗅覚的にも聴覚的にもずっと大人しく伊丹達には感じられた。だから気分も落ち着いていられた。

 

 同じスラムの定義も土地(世界)や文明の差異で圧倒的に違いが出るという、分かり易い具体例であった。

 

 

 

 

 

 

 

「お前さんの場合は嫁さんどころか年端もいかない女の子から姐さん女房のエルフや神様まで愛人にしてるんだ、そりゃ娼婦ぐらいじゃあ興味湧かねぇよな」

 

「うっせ! 剣崎だって聞いてるぞ。ミザリィって翼人のお姉さんと最近良い仲なんだって?」

 

「それに関しちゃ機密事項だ――――おい伊丹」

 

 

 女達の誘惑を上手くあしらっていると今度は男達が動く番だ。

 

 伊丹達を前後から挟み込むように、派手なアロハや汚れたシャツを着た如何にもな凶相の集団が行く手を遮ろうとする。

 

 男達の多くはズボンのベルト部分に安物の拳銃を挟んでいたり、既に剥き身のナイフを握っていた。あからさまな追い剥ぎ共だ。

 

 勿論、伊丹達も気付いている。連中が行動を始める前から一際強い剣呑な殺気を追い剥ぎ達から感じ取っていたのだ。

 

 

「俺が前に出る」

 

「後ろは任せろ」

 

 

 剣崎が伊丹の前へ移動しプライスは後方へ。

 

 斜め掛けに背負っていたメッセンジャーバッグの収納部を胸元へ持っていき、中へと手を突っ込みながらフラップを開いた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 前後から迫っていた集団が一斉に動きを止めた。全員の顔に精神的動揺による脂汗が浮かんでいた。

 

 

「…………」

 

 

 追い剥ぎ連中は無言で道を譲った。空いた道を伊丹達は警戒を緩めぬまま、堂々と通過していった。

 

 

 

 

 この一部始終をすわ修羅場かと見物する気満々だった売春婦やポン引き達は、予想外の展開に顔を見合わせて首をかしげたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな伊丹達だったが、中には彼らの方から回避を試みる相手も存在した。

 

 

「おっと2人ともストップ」

 

「今度は何だ。また追い剥ぎが検問張って重機関銃乗っけた武装車両(テクニカル)で待ち構えてたのか?」

 

「似たようなもんさ。地元警察だよ」

 

 

 伊丹が曲がろうとした角の先にロアナプラ市警のパトカーが停まっていた。

 

 それだけならともかく、問題はパトカーの持ち主である警官が、ポン引きかそれとも薬の売人かは知らないが明らかにカタギではない男から紙幣の束を取り上げている点。

 

 一瞬だけ角から覗いたプライスがそれを見て不快気に鼻を鳴らした。

 

 伊丹達からロアナプラの警察は()()()()()()と事前に原作知識を知らされていたつもりだが、改めて見せつけられると酸いも甘いも嚙み分けた老兵であってもやはり思う所はある様子。

 

 

「どうやら()()()()()()のようだな」

 

「ユーリ達を付け回してたパトカーの事もあるし、路地を通ってやり過ごそうか」

 

 

 司令部と無線交信を行った際に別行動したユーリ達がパトカーに尾行され、前哨監視線(OPL)配置の隊員がパトカーを潰した事も伊丹は報告を受けていた。

 

 接触を避けるべく一行は裏路地へ。ペンライトで地図を確認した伊丹はある事に気付く。

 

 

「何だよ、この路地ホテルで貰った地図には載ってないじゃないか」

 

 

 観光客向けの縮尺が大雑把な地図では細い裏路地の存在が省略されてしまっている事など珍しくない。それにホテルで手に入れた方の地図は大雑把ではあっても、通りやランドマークの名前は現地の言語と英語が併記されているから十分役には立っている。

 

 観光客向け地図をしまい、航空写真をベースにした方の地図を取り出して改めて現在地を確認。

 

 こう来て此処を曲がったから今の地点は……そう呟きながら航空写真上を伊丹の指が滑る。

 

 

「この路地はしばらく一本道が続いて海岸線の道路近くに出るみたいだ。そこを抜けたらUターンして今日はホテルに戻ろうか」

 

 

 裏通りともなると街灯の類は無いに等しい。暗い小道を早足に進み、時折野犬じみた鋭い気配が向けられるのを感じると荷物の中身を見せつけてのガンつけで威圧して追い払いながら、結構な距離を歩く事しばし。

 

 伊丹達はヤシの木と読めないせいで内容が分からない広告看板が並ぶ、広い幹線道路へと辿り着いた。歓楽街に漂っていた退廃のごった煮じみた臭いから一転、南国版の草藪が発する何処か甘ったるい緑臭さと、海から流れてくる潮の香りが入り混じった空気が伊丹達の全身を撫でる。

 

 

「ふう、やっと出れた。ここらで何か目印になりそうなものはっと……」

 

 

 伊丹は独りごちながらぐるりと周囲を見回して――――不意に固まった。

 

 現在位置から8時方向、派手なネオンの看板を掲げた、古さを感じさせる面構えの割に壁面の状態は妙に真新しい、3階建ての長方形の建物が伊丹の目に飛び込んできた。

 

 駐車場代わりの店の前の空間には既に何台もの車が無造作に停められている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 看板に描かれた店の名前は――――『YELLOWFLAG』

 

 ――――銃撃戦に巻き込まれる45分前の出来事だ。

 

 

 

 

 




特地式防犯装置の元ネタは1期3巻でロンデルの宿に3人娘が高機動車に仕掛けたヤツです。
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