GATE:MW 外伝集   作:ゼミル

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Knockin' on Warfare Gate7

 

 

 

 

 

 

 奢った酒で今や立派な酔いどれと化したイタリア人達(シチリアンマフィア)に取り囲まれてなお、伊丹の感覚は店の前での異変を敏感に察知していた。

 

 

 

 

 

 それは伊丹耀司個人が持つ逃走に特化した素質と、追いつ追われつしながら世界を股にかけての激戦を幾重にも繰り返した経験値が掛け合わさった果てに生まれた、自身や周囲へ危害を及ぼす存在へ対する一種の超感覚とも言えた。

 

 駐車場に使われているイエローフラッグ前の空間から聞こえてくる、車が勢い良く走り込んでくる駆動音。強くブレーキを踏んで急制動を掛けた時の耳障りなスキール音とタイヤが地面を削る音。

 

 反射的に、だがさりげなく、伊丹は首を巡らせて入口の方へ視線を向ける。

 

 ライトを消さずエンジンもかけたままの車から飛び出す運転手の姿が窓から見えた。

 

 一般市民からゴロツキまで、この街を訪れてから見かけた様々な住民とも違う身なりをしていた。

 

 街中に不釣り合いなジャングル迷彩服。顔を隠すように巻かれたクーフィーヤ(アフガンストール)。スリングでぶら下げたAK47。そんな輩が尻に帆掛けてその場から逃げ出していく。

 

 その姿を認識した瞬間、伊丹の背筋を電撃が貫き、体中が瞬時に泡立った。目を見開き、口の中は瞬時に水気を失い、血液中にアドレナリンが爆発的に迸るのを伊丹は知覚した。

 

 戦場で何度も鍛えられ研ぎ澄まされた生存本能が伊丹の体の主導権を瞬時に奪い取り、その場での最適解を導き出し、即座に実行に移す。

 

 

 

 

 すなわち――――周囲へ警告を発すると同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

全員今すぐ伏せろ!

 

 

 叫びながら伊丹は椅子を蹴り、目の前のバーカウンター上へ身を投げ出した。

 

 同時に彼の手はすぐ目の前に居た白スーツのイタリア人ことベニーノの胸ぐらを引っ掴んでいて、伊丹の肉体諸共イタリア人もまたカウンター裏へ投げ込まれる格好となった。

 

 やはりと言うべきだろう、伊丹の警告に瞬時に反応したのはプライスと剣崎だ。

 

 2人も表情を一変させると手にしていた酒を放り出してカウンター上を転がり、内側へ落ちるとそのまま床に伏せた状態で耳を塞ぎ、口を開けて身構える。爆発の圧力と衝撃波による体内への影響を最小限に抑える為の対ショック姿勢。

 

 先んじて隠れた3人は、十数メートルはあるだろうカウンターの端で酒を飲んでいた若い男女の客も彼らに続いて(正確には、ホットパンツ姿の女が夏ルックのサラリーマン風の男を無理矢理引きずり込む形で)カウンター裏に隠れた事までは気付かなかった。

 

 彼ら以外に酒場に居た客の大半は伊丹の警告への反応が遅れたか、警告の意味する所すら理解出来なかった。その中にはベニーノの取り巻きも含まれていた。

 

 

 

 

 ――――伊丹の警告からきっかり3秒後、イエローフラッグの店の前で爆発が起きた。

 

 ()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発はまず店の正面入り口と道路に面する側の全ての窓を粉砕した。

 

 超音速の爆風とそれに乗って飛散した建築物の破片がイエローフラッグの店内を一瞬で蹂躙した。男女問わず全ての席に居た客が餌食となり、特に窓や入口近くの席に布陣していた者に至っては人としての原形すら失った。

 

 衝撃波はカウンター裏に逃げ込んだ伊丹達にも襲い掛かった。

 

 カウンターに仕込まれた装甲板越しに、まるで見えない巨人からボール代わりに蹴飛ばされたかのような衝撃が全身を貫く。カウンター上の空間を爆風と即席の榴散弾と化したガラスや木材の破片が通過し、棚に並べられた何百本という酒瓶が一斉に砕け、酒瓶の破片が伏せた伊丹達へ雹の嵐が如く降り注いだ。

 

 急激な気圧変化に晒された鼓膜が痛む。口の中が埃っぽくイガイガとする。装甲板越しに伝播した衝撃波で全身が痺れたように痛んだ。

 

 それでも伊丹とその仲間はモロに巻き込まれた他の客達と違い、五体満足で爆発を凌ぐ事に成功していた。

 

 

「爺さんセイバー(剣崎)無事か!?」

 

「ああ、どうにかな」

 

「こっちも無事だ。だが酒が台無しだ」

 

 

 若干耳が馬鹿になった影響で吠えるように伊丹が安否を訊ねると、返事はすぐに返ってきた。3人とも耳を押さえてふらつきそうになる頭を少しでもシャンとさせようとしきりに頭を振った。

 

 

「何なんだ今の爆発は」

 

「多分自動車爆弾だ。店の前に車を停めて逃げ出してく奴が見えたよ」

 

「み、耳が……頭が……体中痛ぇよぉママン」

 

「あ、良かった生きてた」

 

 

 伊丹が咄嗟にカウンター裏へ投げ込んだベニーノも生きていた。両耳ごと頭を押さえて呻いているが死にはしないだろう。多分。

 

 流石にベニーノの取り巻きがどうなったのまでは分からない。真っ先に危険を察知した伊丹でも、文字通り目の前に居た白スーツのイタリア人を庇うので精一杯だったのだ。

 

 カウンターを挟んだ向こう側に倒れている筈だが、呻き声や身動ぎする音といった生存を示す兆候は伝わってこない。

 

 カウンターの奥の方では、バオも頭をふらつかせつつ体を起こそうとしているのが見えた。

 

 こちらは最初からカウンター内に居たお陰で爆発の被害を免れたようだ――――尤も五体満足なバオの体とは正反対に、彼の大事な店は無惨な廃墟も同然の有様と化してしまったが。

 

 爆発の残響が消える頃になると、打って変わって店内のあちらこちらから上がる苦悶の呻きが聞こえてきた。その大部分がF単語(放送禁止用語)なのに伊丹は土地柄を感じた。

 

 

「ドンパチの舞台にゃよく使われてる店とは聞いてたが、爆弾テロの標的にまでされるなんざ聞いてないぜ伊丹よ」

 

「奇遇だね、俺も今知ったところだよ」

 

「自動車爆弾を置いていった運転手は見なかったのか?」

 

「それがさ聞いてくれよ爺さん――――」

 

 

 疑問を発したプライスへ伊丹が返そうとした言葉は連続した破裂音と悲鳴によって断ち切られた。

 

 入り口・…()入り口があった方向から複数の足音と気配。カチャカチャガシャガシャという、兵隊なら腐る程聞いてきた金属音もセットだ。

 

 伊丹は中腰になると、そっと目元の高さをカウンターの上まで引き上げた。

 

 あまりの爆発の威力に消滅した扉や窓があった空間からズカズカと店内に踏み込んでくる人影が、同じく爆発で砕け散った店の照明の代わりに外から差し込む月光を背に浮かび上がっていた。

 

 その数、最低でも10名以上。店の外にも複数のシルエット。エンジン音も増えていたので爆発直後に車で乗りつけてきたのだろう。

 

 勿論全員が武装していた。AKを筆頭に旧ソ連系の銃火器を装備しているだけでなく、クーフィーヤを顔に巻き付けている点も共通していた。

 

 そして店内へ侵入してきた男達の1人が高らかにこう叫んだのを伊丹達はハッキリと耳にしたのだった。

 

 

 

 

神は偉大なり(アッラーフアクバル)! 堕落した不信神者共に予言者の裁きを!

 

「 う わ ぁ 」

 

 

 

 

 どうやら俺達はベッタベタな宗教テロに巻き込まれたらしい――――

 

 そう理解した伊丹達の口から漏れた呻き声は、それはそれは心底げんなりした響きを帯びていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現実逃避したくなったが現実はノンストップだ。

 

 店内のそこかしこで銃声が轟く度に呻き声が1つ、また1つと消えていく。店内の客もほぼ全員拳銃等で武装していた筈だが、自動車爆弾のショックが甚大過ぎた。事態を把握して抵抗に動くまで回復するよりも早く、客達は処刑同然に殺されていった。

 

 犠牲者が増える度、銃声の出所とカウンターとの距離も着実に縮んでいく。

 

 実行犯ことイスラム過激派の襲撃者どもの目的は間違いなく店内にいる客全員の皆殺し(ジェノサイド)だ。

 

 自動車爆弾だけに飽き足らず、相当規模の戦力を投入して1人1人処刑して回るとは、作戦を立てた首謀者はこのよっぽどイエローフラッグとその利用客が気に入らないらしい。

 

 

「で、どうするよ」

 

「どうするもこうするも、ただジッと殺されるのを待つわけにいかないでしょ」

 

 

 1度目を瞑り、溜息を吐き出してから再び瞼を開いた伊丹の眼光が酷く冷たいものへと変貌した。

 

 冴えないサラリーマン風から敵対者にとっての死神へ。

 

 伊丹の変化が意味する所を理解したプライスと剣崎も表情と気配を鍛え抜かれた特殊部隊員へと切り替えると、ずっと背負っていたリュックへ手を突っ込み、()()を掴みだす。

 

 息を潜めながらカウンター裏に常備しているショットガンを手にしたところだったバオが、プライスと剣崎が取り出した代物を見るなり目を丸くした。

 

 

「おい、()()()()()()()

 

 

 プライスの手にはSIG・MCXラトラーが。

 

 剣崎の手にはH&K・MP7が握られていた。

 

 どちらもドットサイト(光学照準器)に小型のフォアグリップと最低限ながらカスタマイズもされている。リュックの別ポケットに収納していたサイレンサーも取り出して、プライスと剣崎はそれぞれの銃口に捻じ込んだ。

 

 MP7は2000年頃に初期型がドイツ軍に採用されたばかり、MCXに至っては2015年に発表される、この時代(世界)には未だ存在しない文字通りの未来銃だ。

 

 未来の技術と素材と研究が導き出した新時代の武器は、ともすれば陳腐なSFで宇宙人が使う光線銃よろしく、武器が身近な過去の時代の人々ほど奇異なデザインに映るのだろう。

 

 

「お前のも借りるぞ」

 

「あっちょっと待てオイ!?」

 

「イタミ、お前はこれを使え」

 

 

 一瞬呆然としたバオの手からプライスはショットガンを取り上げると、そのまま伊丹に押し付けた。

 

 護衛対象としてのアピールの為に伊丹だけ長物を隠し持つ為のバッグを持ち歩けず、携帯武器は拳銃とナイフだけだった彼にとってこれは有難い。

 

 

「レミントンのM1100か。悪くないね」

 

 

 固定式ストックのフルサイズモデルショットガンで、ポンプアクション特有のチューブ式マガジンが銃口近くまで延びている場合装弾数は8発。年季が入っているがしっかり整備されているのが触っただけで伝わってくる。

 

 交戦距離が短い屋内戦で正しく使えば、散弾をばら撒くショットガンは下手なアサルトライフルよりも有効だ。

 

 

「コイツも持っていけ」

 

 

 続いて形状が違う2種類の鉄の筒も1つずつ受け取る。閃光手榴弾(スタングレネード)発煙弾(スモークグレネード)だ。

 

 PDW(個人防御火器)と同じくバッグに入れて携行していたものである。特にスタングレネードは店内の照明が破壊され外からの月明かりが頼りの薄暗いこの場では覿面な効果が期待出来た。

 

 

「スタンで目を潰してから2人は制圧射撃。その間に俺が回り込んで横から叩くから、そっから先はアドリブを効かせながら一気に前線を押し上げて、敵戦力を排除もしくは撃退の方向でよろしく」

 

 

 カウンターへ迫る殺気の壁は一層距離を狭めている。

 

 ()()()

 

 

「そんじゃあま、()()()()()()()()()()()()

 

 

 伊丹が告げる。MCXラトラーとMP7の安全装置が外され、初弾が装填される音が返答だった。

 

 

「スタンバーイ……」

 

 

 仲間へギリギリ聞こえる音量で合図を口ずさみながら、伊丹はカウンターの端へ。

 

 

「スタンバーイ……」

 

 

 プライスと剣崎は右手に銃を握りつつ、左手に持ったスタングレネードの点火レバーを固定したまま安全ピンを引き抜く。

 

 最早個々の気配と殺意が感じ取れるまでに敵集団は伊丹達へ迫っていた。対照的に伊丹達は限りなく気配を消して、敵の動きを窺う。

 

 カウンターを包囲した殺気が一気に膨れ上がった。

 

 察知し、反応し、先に行動に映ったのは伊丹達が先だった。

 

 

「――――GO!!」

 

 

 伊丹の号令を受け、カウンター裏に隠れたままプライスと剣崎が下手投げにスタングレネードを投じた。

 

 点火レバーが弾ける。撃針が雷管を叩き、通常の手榴弾よりも起爆までが短縮された信管を作動させる。

 

 破壊よりも人体への影響に特化した閃光と轟音がイエローフラッグの店内を瞬間的に塗り潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――攻守が切り替わる。

 

 狩る物が狩られる側へ。異界の神にすら認められた戦場の神狼(ウォーウルフ)が牙を剥く。

 

 

 

 

 




自動車爆弾は中東過激派の御家芸(おいバカ止めろ
日本は日本で時代に合わせた先進的なテロの手法生み出す事に定評があるんですけどねHAHAHA(自虐
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