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――――語り終えたバオはグラスの残りの酒を一息に飲み干すと、もう1度大きく酒臭い息を絞り出した。
「ここまでが俺が見た一部始終になる。
いきなり店がオクラホマの連邦ビルかザイールのアメリカ大使館みたいにぶっ飛んだかと思ったかと思ったら、カウンターでイタリア人に絡まれてた一見客が次の瞬間には
メイド絡みの時も大概だったが、どうして俺の店にはいかれた連中しか集まらねぇのかねぇ……」
愚痴りながら追加の酒をグラスに注ごうと酒瓶を傾けるバオ。瓶からは数敵の雫しか零れなかった。ガックリとバオの肩が落ちた。
当時の証言を聞き終えたバラライカはお構いなしに詳細な情報を求め尋問に移った。
「幾つか質問するわよバオ。まず襲撃者どもを撃退した一見客の特徴について教えて頂戴」
「数は3人。イギリス系と東洋系が2人、どっちも日本人みたいだったな。1人がスーツを着てて、残りの2人は旅行客みたいな格好をしてたが、店に入ってきた時の立ち振る舞いはスーツを着てる奴の護衛って印象だったぜ」
「顔や年齢などの特徴も教えて」
「あの中で1番歳を喰ってたのはイギリス人だったな。入ってくるなりスタウトとフィッシュ&チップスなんぞ頼んできやがったからありゃ間違いなくイギリス人だ。
髭面で、酒を飲み始めてからもずっと不愛想に眉間に皴を寄せてやがったよ。店ん中に入ってもブッシュハットを被ったままだったのは、ありゃハゲでも隠してたのかねぇ?」
「
「スーツの野郎も護衛の方も髪は短かったな。護衛は鷹みたいに目が鋭くて、イギリス人もそうだったんだが
元軍人でゴロツキ相手の酒場を長年続けながら数十回に渡るドンパチを今まで生き延びてきたバオの観察眼は並大抵ではない。
接客をこなしながらも、バオもまた注意対象と判断した客への用心は怠っていなかったという訳だ。
……それでも限界はあるのだが。
「でもって3人目のスーツを着てた日本人についてなんだが……」
そこで不意にバオは閉口した。どう言ったらいいものか、表現に悩んでいる素振りだった。
「最初の印象は、この街に最初に来た頃のラグーン商会のロックみてぇなとっぽい場違いな兄ちゃんみたいな感じだったな。
確か護衛みたいな2人から『イタミ』とか呼ばれてたぜ」
バオが出した名前に、バラライカの眉がほんの僅かに揺れた。
「どっからどう見ても街の外から来たカタギ、それも何時上司から
そんな奴がいきなり店に入ってきたもんだから周囲からは浮いてやがったぜ。実際そいつをカモだと思ったロニーの所の人間が真っ先に絡みにかかってたしな。
おまけに絡まれた方も間抜けな顔してビビり倒すどころか、嬉々としてタダ酒を振る舞い始めるときやがった。そん時はカタギの割にゃ妙に肝っ玉が据わってるのか、それとも底抜けのお人好しとしか思わなかったんだが……」
だけどな、と顔を上げたバオは、ロアナプラでは泣く子も黙るロシアンマフィアの女首魁を怖れを感じさせぬ真摯な表情で以って見据えた。
「自動車爆弾に真っ先に気付いたのはそのスーツの兄ちゃんだったし、誰よりも、
何より印象に残ってるのは、今そこら中に転がってる宗教狂いのアホンダラ連中が店の中に雪崩れ込んできて、息がある客共をご丁寧にとどめを刺して回り始めた時にそいつが浮かべた目だ」
「
バラライカの肩が微かに揺れた。何処か揶揄うようでいて実際は確認に近い、妙に確信が籠もった問いかけを、彼女はバオへと投げかけた。
「もしかしてそれは、
見開かれた目が、バオの返答だった。
「ああそうだ。それこそ最後の審判の死神の空っぽな眼窩ン中に目ん玉が嵌め込まれてたら、まさにあんな目をしてたんじゃねぇかってぐらいに怖気が走る目になりやがった。
その結果が
……なあミス・バラライカ。つかぬ事を訊ねさせてもらうが、
バオもまた、確信を秘めた確認をバラライカへと投じた。
思えば爆発前にカウンター内に放り込まれて命拾いしたイタリアンマフィアの構成員であるベニーノだって、何らかの情報を持った上で3人組へちょっかいをかけていたではないか。
昼間は店の準備をしていたバオの下に情報が届いていなかっただけで、件の3人組は昼の時点で既に住民の話題となる
バラライカは誤魔化さず、正直に教えてやる事にした。
「
だが成程、確かにこれは見事なまでに
聖戦士共の死体の多くは、バオのショットガンを使ったと思われるもの以外は急所への2発を除き傷はほぼ最小限のものばかり。
完全武装した10名以上のテロリスト相手に、ロアナプラでこれだけ綺麗な
また店内の床には死体やそこから零れたモノだけでなく、発射済みの空薬莢などもまた大量に散乱している。その中には安全ピンと点火レバーが外れ本体に炸裂の名残の煤が纏わりついた、使用済みのスタングレネードも存在していた。
(カウンターを包囲しつつあった聖戦士の一団が回避できないタイミングまで十分に引き付けたところで目を潰し、護衛2人が前衛を掃討後バオのショットガンを持ったもう1人が側面へ回り込んで後衛を潰し、互いを援護し合いながら相手が体勢を立て直す前に迅速に前線を押し上げ一気呵成に殲滅――といったところか)
教範のお手本のような手際だ。加えて正確なダブルタップにスタングレネード――――単なる兵隊ではない、それこそ特殊部隊クラスなければお目に掛からない組み合わせと、それぞれの効力を最大限まで引き出す巧みな技能。
「成程――
葉巻を取り出し口下へ運ぶ。すかさず流れるようにライターを差し出したボリスが葉巻へ火を点ける。
その際持ち上げられた右手によって覆い隠される塩梅になったバラライカの口元が、獲物を前にした肉食獣の笑みを作った事に気付いたのは、傍らに立つボリスだけだった。
「それからこいつは手掛かりになるか分かんないんだがよ」
おもむろに給仕服のポケットを漁ったバオが何かを取り出した。
ボリスが前に出てバオがボリスの出した手に何かを落とす。危険ではないと判断したボリスがバラライカの傍へ戻りそれを見せる。
薬莢だった。2種類の空薬莢。
バラライカもそれを摘まみ上げてしげしげと眺めた。そして眉を顰めた。
危険ではないが、
「4.6×30に……300AAC・BLACKOUTだと?」
「そのような弾種は自分も聞いた事がありませんが……」
薬莢の底部に掘られた刻印を読み上げながら訝しむバラライカとボリスに、バオも首肯で以って彼女の困惑に同意を示した。
薬莢の刻印は口径と弾種を判別する為に必ず刻まれるものだが、2種類の銃弾に刻まれた弾種は全く聞き覚えが無かった。
「そいつは護衛の2人が使ってた銃の薬莢だ。
護衛の日本人が使ってたのはウージーよかミニウージーに似ちゃいたが、アレよりもずっとスマートでMP5みたいな伸び縮みするストックまで内蔵してて、おまけに
使ってる弾はその
撃ってるのを近くで見た限りじゃ、精度や反動もウージーやイングラムなんぞとは比べ物にならない位上等そうだったのは覚えてるぜ」
「だろうな」
ウージーやイングラムよりもずっと射撃精度に優れた、特殊部隊御用達のMP5クラスでなければあれ程着弾が狭いダブルタップなぞ不可能だ。
「イギリス人の方はあれだ、オリンピックアームズが出してたM16の
とにかくどっちの銃もストックを縮めてりゃリュックに入れて持ち歩ける位小さいくせして、性能は俺が見てきたどんな銃よりもピカ一ときたもんだ。ターミネーターやエイリアンに出てきた未来銃もあれにゃ形無しよ。
しかもアイツら、ご丁寧にサイレンサーにスタングレネードに
「あら、この有様を見る限りでは彼らの備えは間違っていなかったように思えるけれど?」
改めて周囲を見回した。店内には死体と瓦礫の山、店の前には車爆弾が生み出したクレーターとそれに巻き込まれた客の車の残骸。死体は店の外に転がっている。
「だよなぁ、チクショウ」
またしてもバオの肩が盛大に落ちた。だが「あ」と小さく声を漏らしてすぐに顔を上げた。
「すまねぇ。さっき3人組がターバン野郎どもを皆殺しにしたって言っちまったが訂正させてくれ。1台だけ逃げた車がいたのを忘れてたぜ」
これは聞き逃せない情報だった。
「ほう? 車種と逃げた者の顔は見たのか?」
「遠かったからそこまではな。けど走り去る直前に撃たれて車の中で悲鳴を上げたのが聞こえたから、少なくとも
「分かった。情報提供感謝するぞ、バオ。修理費の見積もりは後日こちらへ送ってくれ。行くぞ軍曹」
「はっ」
この場に立つ理由が無くなったと背を向けて立ち去ろうとするバラライカとボリス。
「おっと、それから言っとく事がもう1つあったんだった」
遠ざかる背中へバオが更に声を張り上げた事で、2人は足を止めた。
「話の3人組、腕はとんでもねぇが、それ以外はキリストさんも真っ青の甘ちゃんだぜ」
「ほう、それはどうしてかしら?」
「イカレポンチどもを連中のお望み通りアッラーの下に送りつけてやってから、あの3人が次に何を始めたと思う?
「闇医者に網を張らせろ。中東系か、或いはイスラム系の特徴を持つ銃で撃たれた怪我人が運ばれてきたらこちらへ報告するよう手筈を整えさせろ」
リムジンの車内へ戻るなり、バラライカはボリスへとそう命じた。
「分かりました。すぐにやらせます」
「それと軍曹、サンカン・パレス・ホテルに付けていた
「先程確認を取った所、3人がホテルを出た為尾行したものの途中で巻かれてしまった、と。報告が遅れてしまい申し訳ありません」
「構わん。向こうもホテルに入った時点で尾行が付いている事を想定して動いていたのだとしても私は驚かんよ」
「やはりバオが言っていた3人組は例の?」
「間違いあるまい。ルマジュールからの報告とも特徴が一致している」
「……やはり以前の
ボリスの指摘をバラライカは被りを振って否定する。
「真っ当な
米国人共も
国家の猟犬として汚れ仕事を手掛けるとは
「……では連中は一体何者なのでしょうね」
「さあな。どちらにせよヤクをバラ撒いていた
仮に件の3人組の目的が当人の主張通り取り引きなのだとしても、彼らの武力は向いた先によっては
監視は継続させろ。今度は見失わぬよう、監視班に伝えておけ」
「了解です」
「…………」
「…………」
「…………だが」
「はい」
「死神の目をしたその男どもはきっと、この街には不釣り合いな
バラライカはそう、呟いたのだった。
…容疑者は「いいえ。ただの異世界漂流中のはぐれ自衛隊とそのゆかいな仲間達です」などと供述しており…
旧MWシリーズのプライスの帽子の下は禿げてます(小声)