GATE:MW 外伝集   作:ゼミル

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そろそろ役者が出揃ってきましたので話を転がしていきます。


感想・反応よろしくお願いします。


Knockin' on Warfare Gate11

 

 

 

 

「あー酷い目に遭った」

 

 

 

 行きよりも物理的に煤けたスーツの上着を小脇に抱えながら伊丹はぼやいた。

 

 装甲仕様のバーカウンターに隠れて凌いだとはいえ、自動車爆弾の爆発を食らったり吹き飛んだ破片が降り注いだりといった目に遭えば当然ながら衣類も只では済まされないに決まっている。

 

 肘の上まで捲られたワイシャツの端には埃と硝煙の煤だけなく血痕も僅かながら付着していた。襲撃者の返り血ではなく、当時まだ息があった客の手当てや酒場の2階に軒を借りている娼館の人間の救助を行った名残だった。

 

 重要任務を任された身である以上、聖戦士を気取る虐殺者どもを追い払った後は、本来伊丹達もまたすぐに現場を去るのが()()()()()()()()()()()()()()だっただろう。

 

 だが()()()()()()()()()としての己が()を告げた。

 

 いくらゴロツキや娼婦といった裏通りの住民ばかりであっても、罪を犯した結果の因果応報ならともかく。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()傷つき苦しんでいるのを見捨ててさっさと去ってしまうのは、何だかんだで伊丹の中にもきっちり根付いている自衛隊の本分に背く気がして腰の据わりが悪く……

 

 それ以上にどう言ったものか、自分の帰りを特地で待ってくれている大事な彼女達や、生まれてきたばかりの子供に顔向けできない、そんな気がしたのだ。

 

 

「これも親になるって事なのかねぇ」

 

「何か言ったか?」

 

「なぁに、ただの独り言だよ」

 

 

 そんな訳で伊丹は事態を知ったロアナプラ市警のパトカーのサイレン音が聞こえるまで、プライスと剣崎共々生存者の手当てや娼館の従業員と客の安全確保に当たった次第である。

 

 幸いにも娼館部分は施設としての被害はともかく、人的被害は酒場側と比べ格段に少なかった。怪我人や耳が馬鹿になったと訴える者は少なからずいたが死者は居なかっただけ酒場よりは格段にマシと言える。

 

 救助作業中にマダム・フローラと名乗った娼館の経営者より聞いた話曰く、下の店(イエローフラッグ)が事あるごとに破壊されてはその度娼館もとばっちりを喰うものだから、独自に被害を軽減しやすい構造へと補強と改築を施していたのだとか。

 

 

「部屋に戻ったら酒場での一件を司令部に伝えといた方が良いよなぁ」

 

 

 行きとは対照的に伊丹達へ絡んでくる破落徒めいた輩は出てこなかった。

 

 伊丹が上着を脱いでいるせいで腰に挿した拳銃が衆目に晒されているのもあるだろう。

 

 それ以上に濃密な爆薬と硝煙と戦闘のストレスで溢れ出たアドレナリンの残滓、極めつけに人を殺した直後の者だけが放てる血生臭い気配をプンプンと漂わせているのが何よりの原因だった。一応イエローフラッグから抜け出した後、途中でミネラルウォーターを調達して頭から被ったり血や硝煙で汚れた手を洗ったりもしたのだがその程度では不十分だった。

 

 この街生粋の住民程その手の気配に敏感だ。特に()()()()()()ならともかく、訓練と実戦の積み重ねの果てに形成された伊丹達のそれは、露骨に威圧的ではないくせに重厚で研ぎ澄まされた不気味な威圧感を帯びていた。

 

 伊丹よりも余程凶悪な顔つきの男どもが触らぬ神に祟りなしとばかりに、そそくさと道を空けていく。特地の悪所街で見慣れた反応がロアナプラでも再現されていた。伊丹と剣崎は思わず苦笑した。

 

 サンカン・パレス・ホテルが見えてきた。流石にここまで着たら露骨に銃を見せない方が良いだろうと、伊丹は上着を着直す。

 

 

「ああっお客様! 戻ってこられましたか!」

 

 

 フロントに現れた伊丹達を、受付カウンターに居たホテルの従業員は視界に収めるなり早足に近付いて声をかけてきた。

 

 声はやや上ずっていて、額には冷や汗が浮かんでいるのを伊丹達は見て取った。周囲に視線を巡らせると既に深夜なのにもかかわらず、他の従業員の様子もどこか慌ただしい。

 

 嫌な予感がした。

 

 何処かでエレベーターの到着を示すベルの音が鳴った。

 

 

「えっと、俺達が居ない間に何かあったんですか?」

 

「申し訳ございません。実は――……」

 

 

 

 

 伊丹の背後を()()()()()()()()()()()()()()()と、白衣を着た数名の救急隊員が賑やかに通り過ぎていった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっちゃあ~……こいつはまた」

 

 

 今日の寝床であり、ロアナプラに滞在中の拠点として明日以降も利用する筈だったセミスイートの客室の前で、伊丹はついつい驚嘆が混じった呆れの声を発してしまった。

 

 剣崎も「オイオイ」と言いたげに目を丸くしているし、プライスも伊丹程露骨ではないが表情に籠められた感情は似たようなものだ。

 

 何故なら――――3人が泊まる部屋の扉が無くなっていたからである。

 

 具体的にはホテルの格調に合わせた分厚い木製の扉が蝶番ごと引き千切れる形で、部屋の入り口から1メートルは離れた廊下に落ちていた。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だが扉を失った入り口から室内を覗いてみれば、中の様子は伊丹達が出かける直前と全く同じ状態を保っていて、一切荒れた様子は見られない。インテリアに飾られた生け花の花びら1つですら床に落ちていない位だ。

 

 

「伊丹よぉ、これってやっぱり()()のせいだよな?」

 

「それしかないんじゃないのぉ」

 

 

 投げやりに答えながら、伊丹は入口の対角直線状に積んだ荷物の山へと近付くと、山の最上段に貼られたお札を無造作に剥がした。

 

 

 

 

 

 

 ホテルによれば事の経緯はこうだ。

 

 伊丹達が外出してしばらくした後、この部屋に空き巣が忍び込んだのだという。

 

 街で最上級に格調高いホテルとはいえ、ホテルに出入りする人物全ても相応しい存在とは限らない。

 

 空き巣は観光客狙いの常習犯だった。複数の観光客向け高級ホテルの従業員を買収し、従業員の制服のみならずマスターキーですら複製して犯行を重ねる筋金入り。そんな空き巣がこの晩の標的に選んだのが伊丹達の部屋だったという訳だ。

 

 空き巣の獲物を見定める盗人としての勘は確かだったと言って良い。実際伊丹達の部屋に置かれた幾つかのアタッシュケースには換金して調達したばかりの数十万ドル分の現金や高価な品物(美術品・重火器)が詰まっていたのだから。

 

 そして空き巣は侵入してすぐさま扉を閉めて鍵もかけ直すと、ご丁寧に積み上げられた荷物の山へと手を伸ばし――――

 

 異世界の亜神(ロゥリィ)魔導師(レレイ)エルフ(テュカ)合作の魔法式防犯装置が()()()発動した。

 

 直撃を食らった空き巣は呪詛と魔法と精霊の力で一瞬でボロ雑巾の如き有様と化しながら()()()()()()()()()()()

 

 廊下に設置された監視カメラには荒い画質ながら、空き巣が伊丹達の部屋に入った10秒後には閉めたばかりの扉を薙ぎ倒し、それでも止まらず反対側の廊下の壁にぶつかり跳ね返ってようやく止まる一部始終が記録されていたとか。

 

 当然ホテル側も事態を把握し、騒動となった。慌てて駆け付けた本物の従業員まで不用意に荷物に触れようとせずに済んだ点は不幸中の幸いか。

 

 とはいえ窃盗犯は従業員に扮し、複製したマスターキーを所持して侵入した上―駆け付けた本物の従業員に発見された時点で虫の息だったが―現行犯で捕まったのもあり、立場として厳しいのは完全にホテルの方だ。

 

 実態はどうあれ街一番の高級ホテルとしての立場を汚したくはないし、監視カメラに残された証拠映像は明らかに超常現象の類ときている。あんな現象を起こせるだけでなく、そもそも飛び込みで料金を気前良く纏めて現金で払ってくれるような上客の機嫌を損ねたくはない。

 

 

『当ホテルの警備上の不備によりお客様に不快な思いをさせてしまいましたお詫びとしまして、料金は前金でお支払い頂いた金額のまま、お部屋の方を最上級のスイートルームへとご案内させて頂きます』

 

 

 そういう事になった。

 

 だが部屋を移るという事は持ち込んだ大荷物も移さなければならないという事でもある。最初のチェックイン時もそうだったのだが、多数持ち込んだ他人に触られたくない(銃火器・)重量の嵩む荷物(無線・電子機器)をまた伊丹達自らの手で運び直さねばならないのだ。

 

 こと突然の鉄火場に遭遇して少しばかり草臥れて帰り着いた直後にこれである。あからさまにげんなりとした顔で、大きく息を吐く伊丹であった。

 

 

「あ~めんどくせ~……」

 

「愚痴ってないでさっさと片付けて運び出すぞ」

 

 

 痴る伊丹の尻をプライスが叩きながら、ホテルから借りた運搬用大型カートに荷物を積み上げていく3人。

 

 1丁につき最低でも3キロ以上はある長物(大型銃器)にフル装弾でマガジン1個につき500グラム前後となる弾薬を予備分含め1000発単位。大口径ライフル弾も阻止する代償に重量が10キロ越えの防弾プレートを備えた戦闘ベスト。

 

 本体重量6キロ弱の広帯域多目的無線機携帯用1型といった各種通信機材に数十万ドル分の現金に換金用の美術品等々も加われば、大型のタンスほどもある運搬カートの積載量ギリギリまで聳え立つ荷物のジェンガの出来上がりだ。総重量は伊丹の体重を軽く超えるだろう。

 

 チェックインの時はユーリともう1人(特戦群)の仲間が一緒だったので、まだ負担が分散されたのだが。

 

 

「爺さんも剣崎も、崩れないようちゃんと支えてくれよー」

 

「お前だってどっかにぶつけてホテルに弁償なんて事にならないようにしろよ?」

 

 

 新たにホテルが用意したスイートルームは上の階だ。

 

 男3人、えっちらおっちらとエレベーター前までクソ重たいカートを押していく。

 

 気分は引っ越し屋か配送業者だ。尤も軍隊とは警備に土木(工兵)医療(衛生兵)に輸送に人材派遣(派兵)衣食住の提供(難民保護)まで網羅する、云わば一種の超多角国営企業そのものなのだから間違ってはいない。

 

 アンティーク時計の様に針が階数を示すレトロなエレベーターがチン、と到着を知らせた。

 

 扉が開いていく。

 

 

「あ」

 

「ん?」

 

 

 エレベーターには先客が居た。

 

 遅いチェックインといった風情の、トランクに旅行用バッグを携えたビジネスマン風の白人男性が2人。

 

 片方は細身でもう1人は少しふくよか、どちらも伊丹と剣崎より一回りは年上だろうがプライスよりは若いだろう。髪型は極端に刈り込んだクルーカット。

 

 

「すみません、ちょっと場所空けてもらえませんか?」

 

「構わんよ」

 

 

 操作盤の前に立っていた細身の白人が『(OPEN)』のボタンを押しながら体を端へと寄せた。ふくよかなもう1人の白人も箱の反対側で彼に倣う。

 

 伊丹達と荷物を載せた3人は白人の2人の間へ割り込む形でエレベーター内へ。

 

 鋼鉄の箱の中へ伊丹達が踏み入れた刹那、白人達は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 扉が閉まる。過積載気味の大型カートのせいで、エレベーター内を若干の圧迫感が広がった。

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 目的の階までの数秒間が妙に長く感じた。ベルが鳴り、扉が開く。

 

 

「お先にどうぞ」

 

「どうもすみませんね。ありがとうございます」

 

 

 細身の男性に促されて、まず伊丹達が先に出た。荷物を3人がかりで運ぶ伊丹達に続いて2人の白人もエレベーターを降りた。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 目的の部屋の前で伊丹達の足が止まる。

 

 同時に背後から追ってくるカーペット越しの足音も止まった。

 

 2人の白人が泊まる部屋は、伊丹達が宛がわれた部屋の向かい側の部屋だった。

 

 

「「…………」」

 

 

 何とも言えない微妙な雰囲気を間に漂わせながら、2組の宿泊客はさっさと鍵を開け、スイートルームの中へと消えていく。

 

 鍵を閉めた伊丹はゆっくりと振り返ってプライスと剣崎を見た。2人もまた伊丹と全く同じ事を考えている、そんな顔をしていた。

 

 

「……さっきの2人、見覚えあるよね」

 

 

 確認の問いかけだった。案の定、プライスと剣崎も頷いた。

 

 

 

 

「今のクルーカットの2人。あれは確か――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()。さっきの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――」

 

「分かってるさ()()。あの3人は間違いなく()()()()()()

 

 

 

 

 

 




最後の2人はOVAルートです。
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