ゲート勢力、本格活動開始です。
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<2日目>
丑三つ時を過ぎても尚ネオン煌めく悪徳と狂乱の街ロアナプラも、街の外へ向かって15分も走れば風景は一転、喧騒に満ちた中心部とはうって変わって文明の存在すらも怪しく思えるような緑の土地が広がっている。
山肌には鬱蒼とした東南アジア特有のジャングルが広がり、かと思えば唐突に見渡す限りの平原に出くわす、そんな土地だ。店らしい店は見当たらないどころか民家もまばらで、21世紀を迎えようという現代文明らしい存在といえば主要な道路沿いに延々と連なる電信柱程度。
――――『門』が出現したのはそんな人里離れた山間部に位置する森と平原の境界近くだった。最も近い民家から数キロは離れていた事もあって、ロアナプラの住民は誰1人『門』の出現には気付かなかった。
出現位置からやや離れた森の中に、舗装されてはいないが大型トラックがギリギリ通過できる幅の、そこから街へと繋がる道路へ出られる山道が存在していた事も、『門』から出てきた者達……
すなわち、今回出現した『門』の制作者である自衛隊特地残留部隊にとっては大いに幸いであった。
出現した『門』のサイズは縦横6メートルと、最初に銀座と特地を繋いだ帝国製『門』の半分以下のサイズ。
通過する為の空間は4メートル弱四方と、装甲車両クラスが1台ギリギリ通過出来る程度の幅だ。
何故当初の『門』よりも二回りも小型なのかと言えば、
『最初から1発勝負で前みたいな規模の『門』を作る前に、まずは今の設計で問題なく使えるか実験用に小さい『門』を作って実験してみた方が良いと思うんですけどねぇ。いきなり本番ってのも失敗して暴走するフラグっぽいですし』
こんな尤もな意見を某二尉が呟き、それを耳にした狭間達トップも同意してしまったからであった。
以前、魔法装置としての『門』を建造する前に行われた穿門法の発動実験では、WW3が勃発しなかった世界線のアルヌスという平行世界に繋がってしまった。
平行世界の
元の世界へ帰還する為の道筋にあまりに手探りな部分が多い以上、資源を割いてでも実証実験を重ねて安全性と確実性を求めるべきという判断が下されたのも当然の帰結と言えよう。
実験用に従来よりも小型化して設計したお陰で、森の中に出現してしまった『門』を豊かな植生の木々が周囲や航空機の目からギリギリ隠してくれる塩梅に収まってくれたのも、自衛隊側にとっては望外の幸運だった。
『………………………………………ぐすん』
『わーっ!? 違うんだレレイ、決してレレイを信頼していないとかそういうつもりじゃないんだ!』
『『なーかしたなーかしたー、シーノーにー言ってやろー』』
『テュカもロゥリィも煽らないでくれぇ!』
……なお上の発言がバッチリ『門』再開通計画プロジェクトリーダーである魔導師の少女の下にも伝わった結果、涙目で拗ねてしまった少女の機嫌が回復するまで発言者である某二尉は三日三晩、搦め手から四十八手まで駆使して少女の機嫌取りに奔走しなければならなかったとかなんとか。
それでも、平行世界の次は創作物の世界に『門』が繋がってしまった事を考えると、某二尉の危惧は間違っていなかった。
日本の植生とは違う森の中へと『門』が開き、大気組成の安全性を確認した上で運用可能距離や活動時間の長さの割に運搬と運用の容易さに優れた
直後、ズームアップした地名を示す看板に描かれた内容からこの世界が元の地球ではなく、創作物の世界だと気付いた時、司令部に集まっていた自衛官達は当然ながら揃って困惑した。
狭間ら幕僚幹部は、当時真っ先に創作物の世界と認識した某二尉を執拗に問い質した。
その作品では時代設定が元の世界より10年以上前である事、舞台となるその港町は犯罪者が街を支配し、あらゆる悪徳が蔓延る現代のソドムとゴモラでありそこで起きた犯罪はまず街の支配者達によって隠蔽される事、作品の主人公もまたその街で裏稼業を営む犯罪者達である事……
街の住民達に我々と『門』の存在が発覚する前に早急にこの世界から撤退すべきではないか――――このような意見が幕僚幹部の間で広まろうとした時、おもむろに眼鏡をかけた神経質そうな幕僚の1人である二尉がこう提案したのである。
『むしろ折角別世界の地球、それも
いっその事、
この度、ロアナプラにおける作戦活動の本拠地である前線基地は、森の一部を最低限の範囲で切り開き平原部と接続した上で設けられた。
と言ってもアルヌスの様に土壌から掘り返し、コンクリートで固めたトーチカと一体化した防壁を構築する等といった大々的な土木作業は行っていない。
避難民用の難民キャンプ向けに
最低限地面を均してから宿営用・業務用
升目状に等間隔に設営され、屋根部分に対赤外線処理が施された偽装ネットを被せられたテントの群れの中、同じく偽装処置がされた『門』に最も近い業務用天幕内に作戦司令所は設置されていた。
司令所の設備も市ヶ谷の防衛省地下やアルヌス駐屯地のそれと比べれば、即時設営・撤収のし易さを重視した質素なものだ。
折り畳み式の机とパイプ椅子が向かい合わせに配置され、机上には特地派遣部隊向け通信ネットワークと繋がったタフブックがズラリと並ぶ。
天幕の最奥には大型スクリーン、両際の壁部分にはホワイトボード。その白い板面の大部分は作戦地域の航空写真、現地調達した地図の拡大写真、先んじて作戦活動中の潜入部隊から齎された情報の書き込みで埋まっている。照明と各種電子機器の電源は天幕外の発電機頼りだ。
「
今回の作戦発案者として現地司令所での任を任せられた神経質な印象の二尉が、作戦の進捗状況が記入されたホワイトボードの前でギラリと眼鏡のレンズを反射させながら呟いた。
外からは何台もの車両の駆動音が響きつつあった。
平原部は特地から持ち込んだ車両用のスペースに使っている。
既に輸送車両を中心に数十台もの自衛隊車両が展開した上で、天幕と同じく現地の植生に溶け込むように偽装が施されていたが、出番が巡ってきた一部の車両はその偽装を解き、命じられた任務を果たすべく前線基地を出発するのであった。
其処は変哲もない片田舎のガソリンスタンドだった。
燃料補給と車関係のサービスに特化した日本のガソリンスタンドと違い、海外の
店名を示す看板は外れかけ、ポンプや店舗の壁の塗装も剥がれて錆びた地肌を晒しているような、経営者のやる気が一目で伝わってくる、そんな店。最大の売り物である筈の燃料価格ですら掲げていない有様だ。
その日も店主である老人は雑貨店のカウンターに両足を乗せてポルノ雑誌を読みふけっていた。
店主の1日の大半はポルノ雑誌かカウンター上に設置したテレビを見て過ごして終わる――――この日もそうなる筈だった。
店の前に車が止まり、扉に取り付けた壊れかけのベルが中途半端な音で来客を知らせても、店主は足を下ろして姿勢を正すどころか雑誌から視線を外して一瞥すらしなかった。
複数の足音がカウンターの前で止まる。
「すまない店主。この店の燃料価格を教えて欲しいのだが」
丁寧な口調の客に対し、店主は拙い発音ながら英語で答えてやった。
こんな辺鄙な店を利用する客は大抵ニューヨークも真っ青な人種のサラダボウルであるロアナプラを目指して世界中からやってきた流れ者である。そんな連中を相手にしている内に自然と学んだものだったので、発音も滅茶苦茶だがどうにか通じた。
提示した価格は相場の5割増しだ。バンコクから出ている長距離バスならともかく、自前の足ではるばるタイの端っこまで走ってきたのならば燃料に余裕はあるまい。
客の燃料事情を先読みして阿漕な商売をしている辺り、街中に居を構えていなくともこの店主もまた立派な悪徳の都に相応しい住民と言える。
「こっから街まで他に燃料を売ってる店は一軒もねぇよ。ここで買うか、街まで歩いていくか。好きな方を選びな」
足元を見て横柄な態度を取る店主に、話しかけた客は機嫌を損ねた様子もなく同行する仲間へと耳打ちした。
英語とも、タイ語とも、中国語とも、ロシア語とも、イタリア語とも、ドイツ語やスペイン語やアラビア語とも違った。店主には耳馴染みのない
耳打ちされた別の客が懐に手を入れて取り出したのは電卓だ。手早く数字を打ち込んで何事かを計算。最初に店主と対応した男に短く囁き返す。
小さく頷いた男は手にしていたアタッシュケースをカウンターの上に乗せた。そこでようやく、店主は雑誌から目を離して初めて客の姿を観察した。
客は、どちらもスーツ姿の東洋人だった。
チンピラと呼ぶには荒んでいない。マフィアの構成員にしては暴力の気配が薄い。麻薬中毒者やサイコパス特有の破滅的な雰囲気は皆無。その癖カタギにしては背筋が伸び過ぎている、何処かちぐはぐな印象。
客がケースの中身を取り出して店主の前に置いた。
店主は目を見開いた。
札束だった。
1ドルでも10ドルでも100バーツでもない。
ノミ屋の賭けで大勝ちした日でもお目に掛かった事がないような大金を前にして目を白黒させ、札束と視線を行ったり来たりさせながら見上げてくる店主に東洋人の客――――
自衛隊特地派遣部隊の情報収集・工作担当第二科所属の隊員はさらりとこう告げたのである。
「この金で
その言葉が合図だったかのように日本語のプレート類を外して最低限所属を隠蔽した3トン半燃料タンク車が複数台、店の前へと進入してきたのだった……
後半のシーンはこのクロスネタで特に書きたかった場面の1つです。
イイですよね金の暴力でぶん殴るのって…w
追記:2000年前後の燃料や金の価格は2020年以降よりも半分以上安かった模様。