おかしいなぁコンパクトにまとめてその分更新間隔短くする予定だったのに普段と大差なくなってるぞ?(白目
感想・反応よろしくお願いします。
そのヘリの機種はMi-8といった。
旧ソ連製の大型輸送ヘリコプターだが、葉巻型の機体側面から突き出した
実際ロアナプラ上空を悠然と飛ぶMi-8は23ミリ機関砲を内蔵したガンポッドと
機体は元々パキスタン軍に配備されていた機体だ。
ヘリの持ち主がパキスタンなら、パイロットもまたパキスタン製だった。機体ごと引き抜かれたのだ。以前は国と軍の為に飛んでいたが、今は聖戦という新たな大義の為に飛んでいる。
眼下を通り過ぎていく海面が途切れ陸上に移り変わると、今回の目標である施設はすぐに見えてきた。
東南アジアの港町で一等目立つ豪華な高層ビル。しかも屋上プール付き。
こんな贅沢な物件の持ち主は何と東洋人のゴロツキなのだという。パキスタンの貧しい田舎の生まれで食う為に入隊した経歴の持ち主であるパイロットは堕落した不信神者がこのような贅沢を許されている今の世界の不平等を嘆き、だからこそ敬虔な聖戦士である我々が裁きを下すのだと決意を新たにする。
『目標を確認』
無線機能内蔵のヘルメットを被ったパイロットが
高度を落とし飛行速度を緩めながら目標との距離を更に縮めていく。
攻撃対象は建物の最上階。火力の最大効率を狙おうと機体を最上階と水平になる高度へと調節した。発射された砲弾がフロアを横断し弾道上のあらゆる存在を貫く事を目的とした射線だ。
目標へ意識と視線をキャノピーの向こうへ集中させると、サングラスをかけた黒服の男の姿が窓越しに見えた。
確か作戦開始前のブリーフィングで顔写真を見せられたこのビルの持ち主、つまりゴロツキ共の親玉だ。部下らしき別の黒服が泡を喰いながら親玉を引き摺って部屋の奥へと消える。建物の周囲でも似たような格好の有象無象がヘリを指差して右往左往している気配も感じた。
パイロットはせせら笑いを隠そうともしなかった。チンピラの集まり程度、完全武装のヘリ相手に何が出来るというのか。
握り締めた操縦桿の上部に備え付けられたパネルを親指で弾く。現れた押し込み式の火器発射ボタンへ親指を添えた。
『攻撃を開始する』
ボタンを押し込むと同時、機体の両側面で巨大な炎の花が瞬き、駆動するエンジンとは別種の振動が機体全体を震わせた。
パイロットが見ている前でプールを備えたビルの最上階が次々と粉砕されていった。
最高の気分だった。
張にとってヘリに襲われるのはこれが初めてではない。
1回目は93年の11月――――あの時の事は忘れられようがない。兵隊崩れのロシア人共を率いるあの戦争狂と一大抗争を繰り広げる最中、あの日張は4発の9ミリ弾を食らわされ、危うくこの世からおさらばしかけたのだから。
「何度も経験したくはないもんだな全く!」
慌てふためく彪に促されて部屋の奥にある廊下へと飛び込んだ張のボヤキは、砲声と破壊音の合唱にあっさり掻き消された。
まるで張の周囲でカテゴリー6の嵐が荒れ狂っているかのような有様だった。ヘリの機銃が放つ砲弾は窓ガラスと部屋の調度品と室内を区切る壁を粉砕しても微塵も威力を緩める事無く、張と彪の頭上を衝撃波を伴いながら次々と通過しては更にその先にある物体の尽くを砕き壊していく。
その中には部屋の外で待機していた張の護衛も含まれていた。壁を貫通した砲弾、或いは粉砕された拍子に超高速で飛散した壁や調度品の破片をモロに浴びた黒服の男達は、次々と原形を留めぬ血肉の残骸と化して瓦礫の仲間入りを果たす。
以前、仕事の話中にロケット砲を撃ち込まれた時もここまでは酷くなかった。彪共々に粉塵混じりの床を舐めながら、張は溜息を吐いた。
流石に愛銃の22口径で相手をするには辛い相手だ。
「
ヘリの弾幕から生き残った張の部下が廊下の奥で叫ぶ。張が逃げ込むのを待ち侘びているかのように、分厚いコンクリートに囲まれた非常階段の扉が口を開けていた。
エレベーターは反対側でそこまで辿り着くには死の嵐のド真ん中を突っ切らねばならない。選択などあろう筈がなかった。
「階段を使うのも久しぶりだな。走るぞ彪!」
「りょ、了解です!」
同時に立ち上がり走る。随分と風通しが良くなった廊下を駆け抜ける2人を横薙ぎの砲弾が追いかける。
頭から非常階段へ飛び込んだ2人の背後に23ミリ砲弾が着弾。灰色の破片と粉塵を引っ被って随分とスーツにコートを汚しはしたものの、張も彪も奇跡的に無傷だ。
溜息ひとつ漏らし、全身に被った破片を払いつつ張が振り返れば、お気に入りのソファーや酒やプールを揃えていた、つい先程まで彼が過ごしていた筈の最上階は最早存在していなかった。今やまともな壁すら残らぬ瓦礫の山だけが広がっていた。
「やれやれ、いっそ建物ごとリフォームした方が手っ取り早いなこりゃ」
「大兄、ここからどうしますんで?」
「まずは下に降りて戦力を纏めるぞ」
即答だった。たった今まで人間がバラバラになる威力の砲弾を雨あられと浴びせかけられていたとは思えぬ落ち着いた声を発しながら、自ら宣言通り真っ先に非常階段を下り始める張。慌てて彪と他の黒服も追いかける。
「今襲ってきたヘリはデカい大砲を積んではいるがありゃ輸送ヘリだ。AKを抱えた一個小隊位なら楽に運べるだろうよ」
「――挟み撃ち?」
「おそらくはな。手下には可能な限り外を飛ぶヘリに姿を見られないよう徹底しろ。自分の肉でタルタルステーキを拵えたくはないだろ?
街に出ている手下や
言いながらも足を止める事無く、早くも数階分を下った時だった。
張達が居る空間全体が不気味に振動した。頭上からの振動だ。反射的に男達は上を見上げる。
「今のは何――」
突如、真っ赤な閃光が張達の頭上で輝いた。
急激な気圧変化。熱波。男達の全身を衝撃波が叩く。非常階段内を突風が駆け抜けて張のコートが翻る。
気が付くと、張は打ちっぱなしのコンクリートの壁に体を預けてしゃがみ込んでいた。
酷い耳鳴りがして肌は妙にひりつき、酷く乾いた目をサングラスの奥で何度か瞬かせ、何度か被りを振る。先程まで感じられなかった油臭さが非常階段内に充満している。
それでも男達の中で真っ先に我を取り戻して立ち上がったのは張だ。続いて彪も痛い程の耳鳴りに襲われた様子で耳を押さえながら怒鳴り声を発した。
「今度は何だ!?」
頭上を見上げた彪は絶句した。
最上階の扉が在った空間から紅蓮の炎が非常階段内へ向かって噴き出しているのがハッキリと見て取れた。
最上階部分だけでなくその下層にも火は達している。さっさと張が下り始めたのを追いかけていなかったら爆発と炎に巻き込まれていたかもしれない。炎だけでなく、油臭い黒煙もどんどん非常階段内へ流れ込みつつある。
「そういえばさっきのヘリ、機銃以外にも何かぶら下げていたな」
正体は航空爆弾。格納容器の中身はたっぷりのナパーム弾だ。
ヘリからの銃撃で散々風通しが良くなった所にこれである。あれだけの破壊だ、消火設備も当てにしない方が良いだろう。
数百リットルもの燃料を一斉にぶちまけて点火したようなものだ。ビル風を受けた炎は酸素をどんどん取り込んで延焼していくに違いない――――
「……訂正だ彪。連中、
最上階への機銃掃射からの爆発、いや空爆は地上にも大きな混乱を齎した。
当然ながらヘリの接近を聞きつけて外へ飛び出していた三合会の構成員は、各々武器を上空のMi-8へ向けて迎撃を試みる。だが彼らが持つ武器は拳銃やサブマシンガンと、軍用ヘリを撃ち落とすにはいささか火力が足りない。
ならば、と構成員が次に持ち出したのは
発射機を肩に乗せ、筒先を頭上へと掲げたその時、爆風に巻き込まれないよう高度を上げたヘリコプターからナパーム爆弾が投下された。
ロアナプラ中から目撃できる程の規模の巨大な紅蓮のキノコ雲が三合会ロアナプラ支部の屋上で咲いた。
決定的瞬間を目撃したロアナプラの住民は『ダイハード』のクライマックス―1作目―のようだったと後に口を揃えて語った。あの映画の舞台はクリスマスイブの真夜中で、こちらは夏季の真昼間なのだが。
火球は最上階だけでなくその下の階も呑み込んだ。張の予想通り、機関砲弾で少なからずダメージを負った床はナパーム爆弾の起爆で生じた急激な圧力と熱に耐え切れず、床を突き破り下階を侵し、また一部の炎と煙はエレベーターシャフト内にも侵入を果たす。
建物中で火災警報が鳴り響いた。
地上の三合会構成員も爆撃の被害を受ける羽目になっていた。吹き飛び炎に覆われた瓦礫が、撒き散らされた燃え盛る油脂(増粘剤を添加してちょっとやそっとじゃ消火出来ないよう加工)が、頭上から黒服の男達に降り注ぐと、強面の男達も堪らず悲鳴を上げて逃げ惑った。
黒煙が三合会ロアナプラ支部を覆っていく。
黄金夜会の一画の本拠地に対する前代未聞の攻撃を野次馬ことロアナプラの近隣住民は遠巻きに眺めるばかり。
一方で今や燃え盛る巨大ビルへじりじりと迫る集団も存在していた。ジープや乗用車に分乗し、クーフィーヤと戦闘服とAKで統一された聖戦士の集団。存在に気付いた野次馬達は整然と3ブロックばかり後退した。
三合会ロアナプラ支部を包囲し終えた数十名のテロリストの本隊はビル正面の駐車場前へ更に距離を詰めていく。
散乱した瓦礫や炎から立ち上る黒煙のせいで正面入り口への見通しはかなり悪い。無線機を持った聖戦士がヘリの乗組員に上空から偵察出来ないか要請するが、炎と黒煙のみならず今や巨大なマッチと化したビルの周囲を渦巻く不安定な気流のせいで接近出来ないので難しいとパイロットに返され上空偵察は断念。
炎の弾ける音に混じり、猛烈に空吹かしされるエンジンの咆哮が煙の中で生じた。
黒塗りの高級車が煙を突き破って聖戦士達の目の前に飛び出してきた。1台だけではない、2台3台と続く。
この状況で護衛車両付きで脱出しようとする対象は最高位の者以外に考えられない。
『
号令を受けて一斉に火を噴く聖戦士達のAK。アサルトライフルだけでなく車両に据え付けられたRPKやRPDといった軽機関銃も銃火に加わる。
次々と窓ガラスや車体に穴を穿たれたセダンの1台が街路樹に突っ込んで動かなくなるが、他よりもグレードが高いと一目で判別出来る高級車は火花を散らしながらも貫通を許さない。窓ガラスを含め防弾処理がされた特別車両なのは明らかだ。
高級車と生き残った複数のセダンは決してスピードを緩める事無く駐車場と、展開していた聖戦士の集団の中心を突っ切った。
行く手を阻もうと聖戦士側の乗用車が進路に立ち塞がる。乗用車の後部側に高級車がぶつかると、乗用車の方があっさりと弾き飛ばされ引っ繰り返った。装甲分だけ重量が増した防弾車両の突撃を止めるにはもっと大型の車両でなければ難しい。
『追いかけろ! 逃がすな!』
聖戦士達も乗ってきた車両に分乗して黒塗りの車列を追跡開始する。ヘリコプターも追跡に加わり、爆音が燃え盛る建物から遠ざかっていく。
――――それから数十秒後。
「敵は囮に喰いつきました。今こちらに車を回しています」
携帯電話を手にした彪が張へと伝えた。
単純な手だ。地上に集まっていた構成員の人手を割いてわざと目立つ車とルートで囮の車列を出発させ、ビルを包囲していた敵の目を引き剥がしてからこっそり裏口から逃げ出す。軍隊上がりの
「油断するなよ彪。今回の敵のやり口は俺ですら少々驚かされた位だ」
「勿論です。避難先の事務所には
金さえ出せばフリーのゴロツキでもロケット砲程度簡単に調達できるのが
トレードマークのコートの懐を探った張は、ここまでのドタバタでクシャクシャになった煙草を取り出して銜えた。慣れた動作で素早く彪がライターを取り出して張の口元へ。煙草から立ち上った紫煙の臭いはすぐに鼻を突く油が燃える悪臭に紛れて消えた。
裏口前に彪が呼んだ車が停まった。囮に出ていったものと同型の防弾仕様車。囮の車列よりは少ないが護衛が乗った車両も付く。
高級車の後部座席のドアが開き、張と彪が滑り込むと高級車はすぐに走り出した。
車に乗り込むなり、一緒に脱出した他の構成員が張り詰めさせていた気配があからさまに緩んだ。だが張と彪は未だ気配を研ぎ澄ませ続ける。
「気持ちは分かるが気を抜くのはまだ早いぞ。こういう時1番難しいのは撤退なんだ」
「も、申し訳ありません大兄」
「最後まで周囲に目を光らせ続けろ。相手はアフガンでバラライカみたいな戦争屋どもを散々苦しめた挙句、撤退にまで追い込んだ生粋の聖戦狂い共だ。
まったくヒズボラの時といい、あの手の連中はどうにも……」
不意に車の音が別の爆音に塗り潰された。
車列の前方にMi-8がいきなり舞い降り、機体側面を向ける。開け放たれた側面ドアに腰を下ろし、落下防止のベルトを留めた機銃手が構えるPKM機関銃が、行く手を遮られて急停止した張の乗る高級車へと振り向けられた。
「やはりそう甘くないか!」
「戻れ戻れバックだバック!」
張が呻き、彪が叫ぶ。車の向きはそのままに、バックへギアを叩き込まれた車列が後方へ急加速を始める。
高級車の後ろに付いていたセダンに乗った三合会の構成員が窓を開け、上半身を乗り出してヘリに向かって反撃しようとした時、後ろから接近してくる別のエンジン音に気付いて振り返ると、通りの中心を1台だけ疾走するオフロードバイクの姿を捉えた。かなりの速度だ。
張もまた、後続車両の窓ガラス越しに突撃してくるバイクの姿を捉えていた。
ドライバーの顔はクーフィーヤで隠されていたが唯一覗く目は異様に血走っていた。複数の収納ポケットがどれも内側からパンパンに膨らんだ上、コードが張り巡らされたベストを着用している。
――――おいおい冗談だろう?
「彪! 今すぐ伏せろ!」
言いながら張もまた両手を塞ぎ、後部座席に身を投げ出す。
後続車両の構成員が恐怖に目を見開きながら拳銃を乱射。何発かがバイクとドライバーに着弾するが止まらない。セダンとバイクが激突する。
――――バイクドライバーの自爆ベストが起動した瞬間、張は世界が引っ繰り返るのを感じた。
浮遊感。反転。衝撃。轟音。
張が乗った車ごと今や世界が上下逆さまと化していた。座席が床で天井が床。彪も張と同じように床となった車体の天井で引っ繰り返って呻き声を上げている。
「な、何が起きたんだ……?」
「聖戦狂いお得意の攻撃だよ彪。自爆攻撃さ」
奇跡的に煙草とサングラスは無事だがそれ以外はひどい有様だ。高級車は完全に引っ繰り返り、あらゆる内装品が車内に散乱している。
それでも自爆攻撃の直撃を受けたセダンに乗っていた構成員よりはずっとマシだった。高級車のすぐ後ろに付いていたセダンは原形を留めぬ有様と化して炎上していた。乗っていた構成員諸共。
この車が防弾仕様でなければ張や彪が受けた被害ももっと酷かったのは間違いない。飛散した車かバイクの部品だろう、鉄片が防弾ガラスに幾つも突き刺さってはいたが貫通までは許していないのがその証拠だ。
「事務所の次は車までお釈迦か。全く厄日だな、堪らんよ、っと!」
歪んだドアを蹴り開け這い出る張。先頭のセダンの様子に目を向ければ、AKよりも大威力の7.62ミリR弾の集中砲火を受けたエンジン部が既に火を噴いており、既に使い物にならないのは明らかだった。
自爆バイクが走ってきた方の通りを聖戦士を満載した車列が出現し、道路が封鎖される。伏せていた予備戦力か、囮を追いかけていた部隊がヘリからの連絡を受けて戻ってきたのかまでの判別は付かない。ヘリが飛んでいる側の通りにも聖戦士の車列が現れていた。
前門のヘリ、後門の聖戦士。
そんな中でも張維新は不敵な笑みを消さない。
「なるほどなるほど、
愉しげに笑いながら、愛用の双銃――――天帝双龍を引き抜く。
ここまでの鉄火場に引きずり出されたのも、ここまで本気に殺しにかかって相手も久方ぶりだ。彪やおっ死んでしまった部下達には悪いが、張はこの状況をたまらなく愉快に感じている。
生死のオッズは後者に大分偏ってしまっているようだが、
「それじゃあいい加減、
「駄目です待って下さい大兄!?」
彪の制止の声を振り払い、自ら高級車の陰から飛び出した張は露払いにまずはMi-8が飛んでいる側の通りへ天帝双龍を振り向け、聖戦士達もまたAKの引き金に指を添え。
――――張が見ている前でヘリコプターが爆発した。
空中で燃え盛るヘリ。吊り糸を唐突に断ち切られた展示物の様に垂直落下した大型ヘリの残骸が、下に屯していた聖戦士とバリケード代わりの車両を押し潰す。
「……おおっと?」
これには張も虚を突かれたのかそんな声が漏れる。
次いで金属がひしゃげ、引き裂かれ、弾き飛ばされる激しい音が響き渡る。張の視線も音の出所へ向く。