今回CP描写が有ります。
感想・反応よろしくお願いします。
――――熱河電影公司ビルが過去最大の襲撃を受けた日の別の場所にて。
スラムの一画に似つかわしくない高級車の一団がある建物の前で停まると、普段はゴロを巻くチンピラからどこにでもいる露天商まで老若男女問わず近隣住民の姿が消えた。
まずAKを携えた屈強なロシア人が車を降り、安全と判断すると前後を護られたリムジンのドアを叩く。施錠が内側から解除されると、ボリスを引き連れたバラライカが降り立ち、一目でまともな手入れがされていないと判る数階建てのビルを見上げた。
「密告があったのはここか」
「はい大尉。夜明け前に銃で撃たれた中東系の男が運ばれてきたと」
ボリスの報告を聞きながらバラライカは部下を引き連れビルの中へ。
ビルはエレベーターが無く、照明が切れかかって薄暗い階段を臆する事無く一行は上っていく。不規則に点滅する中で、バラライカは薄汚れた段や壁の所々に真新しい血痕がこびりついているのを目敏く捉えた。
「その患者が我々が探している手の者という何らかの確証は?」
「密告によれば怪我人を運び込んだ人間も中東系だったとの事。服を着替えてはいましたが、連中の乗ってきた車が当時現場から1台だけ逃走した車両と目撃証言が一致しております」
「足を変える手間を惜しんだのが失敗だったな。砂塵の地では砂塵の地なりの、市街地では市街地なりのやり方が在ると連中は知らなかったらしいな」
「大尉、そもそもこのような展開自体が連中の想定の範囲外だったのではないかと。運び込んできた者達も怪我人を押し付けるとそのまま大慌てで走り去っていったそうです」
やがてある階の、ある部屋の前でバラライカ達は歩みを止める。真新しい血痕もまたこの扉の前まで続いていた。
AKの安全装置を解除し、何時不測の事態が起きても即座に対応出来る構えを取った男達を代表し、ボリスが扉を叩く。
すぐに扉が開き、白衣を着た中年の男が顔を見せた。彼はロアナプラに多く存在する闇医者の1人だった。
「来たか。
そう言って奥を指差す闇医者の声は助けを求めてやってきた人々を癒し守る医療者としてではなく、商品をどれだけ高く売りつけられるかだけを求める商売人としての口調だった。
「丁度良いタイミングだったな。もうすぐ麻酔が切れて目覚める所だよ」
招き入れられた部屋の奥、真っ当な病院の様な高価な機材が殆ど無く、消毒薬や抗生物質を収める保管棚と検査台以外にはベッドぐらいしかないような空間。
その中でも1番奥に位置するベッドに、右胸をガーゼと包帯で覆われた若い男が横たわり、浅い寝息を立てていた。
亡霊としてではなく生者、旧ソ連軍スペツナズ第318後方撹乱旅団第11支隊の兵士だった頃に腐る程スコープ越しに直視してきたアフガニスタン人であるのは間違いなかった。
「運び込まれた時は出血を止めるのにこんなのを傷口に当てていたよ」
闇医者が差し出した膿盆には、鉄錆色に濡れた格子模様の布。
血を吸った特徴的な柄の布はクーフィーヤだ。イエローフラッグで死んでいた聖戦士共もまたクーフィーヤで顔を隠していた。
ここまでの証拠があるならば褒賞を与えるに足る。バラライカが顎をしゃくると、ボリスが封筒を闇医者へ手渡した。中身である100ドル札の束を一瞥して医者は満足げに頷いた。
バラライカは気付かずに未だ眠る若い怪我人へと近付いていくと、おもむろに手を伸ばした。
マニキュアが塗られた彼女の指先が、躊躇いなく包帯とガーゼごと縫合されたばかりの傷口へと突き込まれた。
激痛に覚醒し、悲鳴を上げて跳ね起きようとした中東系の若者の体はしかし、女とは思えぬ鋼鉄の如き強度で傷口を抉り続けるバラライカの手に押さえ付けられ、動けない。
悲鳴もまた、ベッドを取り囲むロシア人達から突きつけられるAKの銃列と、世にも悍ましい獣の如き笑みを浮かべるバラライカを極至近距離で覗き込んだ事ですぐに干上がった。
「
纏わりつく熱気で目を覚ます。
「暑っ……」
その呟きは自然とずっと昔に捨てた母国の言葉で零れ落ちた。
安っぽいブラインドから差し込む日光の角度と強さから既に陽がかなり高くまで昇った時間帯らしい。
中古のベッドから身を起こした途端に頭の中で特大サイズの鐘が盛大に鳴っているかのような頭痛に襲われて男――――ロックは呻き声を上げて頭を押さえる。
体に触れるシーツの感触から、己が下着の1つも付けていない素っ裸である事に遅まきながら気付いた。
少し揺らしただけでグワングワンと痛む頭を抱えながら、こんな状況下に置かれてしまった原因を少しでも思い出そうと周囲を見回す。
見覚えのある室内。自分の部屋なのだから当然だ。
生まれ持った性分から定期的に整理と掃除を行っている筈の室内は空になったビール缶と酒瓶で荒れ果てている。テーブルやソファーに転がっている数量からして自宅のストックを丸々飲み干してしまったと察し、二日酔いとは別の理由でロックは顔をしかめた。テーブル上の灰皿も結構な数の吸い殻が溜まっている。
視線を下へ。ベッドの下の床に酒で汚れた愛用のワイシャツとネクタイにスラックスが皺くちゃで転がっていた。
それから、
尻の大部分が見える位大胆にカットされたホットパンツと黒のタンクトップ。ついでに色気の無さを布地面積の少なさで補うデザインの女物の下着。枕元のコート掛けには銀色に輝くベレッタのカスタムを収めた2丁拳銃用ホルスターが引っかけられている。
頭に添えていない方の手が柔らかく、温かく、少し湿った感触を探り当てた。振り返る。
右肩がトライバルタトゥーで覆われた全裸の女が同じベッドの反対側を占領していた。
同僚であり相棒でありロックにとっての
「そっか、昨日はイエローフラッグで襲われて飲めなかったから飲み直すぞって、レヴィがウチに押し掛けてきたんだっけ」
イエローフラッグで最初の1杯を飲み干す前に、禁酒法時代の取締官も顔負けに酒を憎んでいるアッラー狂いのターバン頭共に邪魔をされたのだ。
勿論酒はバオの店ごとおじゃんとなり、しかもその邪魔してきた連中をレヴィがお返しに鉛玉をプレゼントするよりも先に他の客があっという間に片付けてしまったものだから、短気な女ガンマンは避けの邪魔をされた上危うく月まで吹っ飛ばされかけた事への恨みつらみのぶつけどころを失ってしまい、そのストレスは行動を共にしていたロックの家へ半ば無理矢理押しかけての飲み直しによって解消する事となり……
結果、ロックの自室は閉め切って籠った熱気だけでなく、汗とアルコールと煙草と男女のあれやこれやの残滓の饐えた臭いが入り混じった異臭が充満しているという惨状だ。
「臭いが染みつかなきゃいいけどなぁ」
ぼやきながら窓を開けて換気を行う。生々しい異臭の代わりに、外の喧騒と生温い空気がロックの肌を嬲った。
最初はどっちがきっかけだったかは忘れたが、何も纏わず同じベッドで目覚める事に殆ど恥ずかしさを覚えなくなった程度には回数を重ねている。
それにしても、とロックは思う。
「こうして見ると寝顔は可愛いんだよなぁ、寝顔は」
普段の三白眼や、エダに絡まれた時や鉄火場で銃をぶっ放している時の凶相と比すると、レヴィの寝顔はあどけなさを感じる位に穏やかである。
こうして間近で拝む機会に恵まれる度、ロアナプラに溢れている商売女がけばけばしい化粧で強調しているそれとはまた違う意味でレヴィは美貌の持ち主であると、ロックは再確認している。
悪徳の都でも名うての女ガンマンとしての荒々しさが薄れた、純粋で無防備な女としての
そっと眠るレヴィの頬に軽い口づけを落としてから、ロックは全身に纏わりついた汗とアルコールを洗い落としにシャワールームへ入っていった。
首にバスタオルを引っかけ替えの下着を履いてロックがシャワールームから出ると、壁の電話が鳴っていた。
ロックが電話に出る。外からの喧騒に呼び出しの電子音ががなり立てても尚、レヴィは未だ目覚めていなかった。
ヤケ酒も入っての鬱憤晴らしだったのもあって、夜明け近くまで続いた交わりは女ガンマンも相応に疲弊する程度には激しかったのだ。
「はい、もしもし?」
『ロックか! 無事か!? レヴィは一緒か!?』
開口一番そう訊ねてきた電話の人物はロックとレヴィの雇用主であるダッチだった。
レヴィに負けず劣らず荒事慣れした、知的でタフで屈強な変人である黒人の声は珍しく切羽詰まった響きを帯びていた。
引っ掛かる物を覚えながらもロックはダッチの質問に答えてやる。レヴィとの関係もとっくに知られているので隠す事ではない。
「レヴィとは昨日からずっと一緒で今もまだ寝てるよ。昨晩は少し派手なトラブルに巻き込まれはしたけど、僕も彼女も特に怪我なんかはしてないよ。何かあったのかい?」
『無事か。ならいい。だがそうか、
無意識に、受話器を握る手に力が増した。
『聞けロック――昨晩お前達と別れた後、
「何だって?」
昨晩は仕事を終えると特に用事がなかったロックとレヴィは飲みに出かけ、ダッチと情報処理担当のハッカーであるベニーは機材メンテナンスの為に仕事道具の魚雷艇に残った筈だった。
『船をドックに入れてからしばらくした頃だ。魚雷管のチェックをしていたら見慣れない車が数台ドックに入ってきたんで俺が様子を窺っていると、車から降りてきたのは頭にターバンを巻いて顔を隠した男どもだった。
で、連中は俺の存在に気付いた途端、アッラーの名前を叫びながら持ってたAKを問答無用でこっちへぶっ放してきたもんだから、俺は船の舫いを解いて操縦室へ飛び込むと即座にその場からトンズラした訳だ』
「ダッチの方は無事だったのか!?」
『船体に幾つか穴が開きはしたが、俺の体に新しい穴は増えちゃいないから安心しろ。魚雷管も空だった事を神様に感謝だ。
ベニーもそん時は船の奥のアイツ専用の空間に籠ってたから弾を食らったりはしてないが、俺がいきなり船を走らせたもんだから棚に頭をぶつけてタンコブが出来たって愚痴ってたぜ。被害はそれくらいっちゃそれくらいだな』
その後魚雷艇を沖合までかっ飛ばし海上まで追っ手が来ない事を確認し終えると、すぐさまロックとレヴィが行った筈のイエローフラッグへ連絡を試みたのだという。
だが繋がらなかった。当然だ。ダッチが電話を掛けた時間帯にはとっくに店の電話も電話線もカテゴリー5の竜巻が直撃したよりも酷い有様になったお陰で断線していたのだから。
ロックの自宅にも掛けたが、その時はその時で腹を立てたレヴィを宥めながらの帰路の途中だったものだからやはり電話は繋がらず。
タイミングの悪さが重なり、今になってようやくこうして話せたというのが事の顛末である。現在魚雷艇はロアナプラの街を一望出来る距離の海上で様子見しているのだという。
『問題は、だ』
かちりと金属音。電話の向こうで火打ち石が擦れる音。深く吸っては吐き出すのが聞こえ、ダッチが紫煙を薫らせている姿が容易にロックの脳裏に描き出される。
ダッチが口に出すより早く、ロックの口が動く。
「
『その通り』
「ダッチ、俺達が居たイエローフラッグを……
違うな、
僅かな沈黙。
『……という事は、だ』
「俺達ラグーンのメンバーを狙っている勢力が存在して、そいつらはおそらくイスラム系の
『だろうな。ここまであからさまな聖戦狂いアピールをされるとなると他に俺達に恨みを持つ連中の偽装って可能性もなくもないが、基本的にこの街の人間は
余程の事情がない限り、まどろっこしい誤魔化しはせず堂々と殺しに来るヤツらばかりだ。それこそバラライカや張の旦那が良い例だぜ』
「俺とレヴィを狙って襲ってきた連中は兵力だけでもかなりの物だった。
『こっちはさっさと船で逃げ出して正解だったぜ。また乾ドックを焼き討ちされるなんざ真っ平御免だからな』
「ともかく相手はそれだけの資産を費やしてまで俺達を殺したがる位に俺達を恨んでいる、そう考えて良いだろう」
『恨みは方々買っちゃいるが、砂漠の預言者絡みの連中で心当たりがあるとしたら――――』
既に遠い記憶。事務所にRPGをブチ込み、カミカゼ仕様のモーターボートでロック達を追い回し、あまつさえロックはその連中に1度は拉致さえされ、それでも彼らが求めてやまなかった
「
『だな。手間と時間をかけて連中が計画したハイキングを台無しにしちまった上に、東南アジア界隈の連中の同盟者のキャンプまで1つ潰しちまったんだ。
そりゃ
「そういえば最近、新顔の中東系が黄金夜会に話を通さずかなりの量のクスリをバラ撒いてるって話も聞いているけど、あれも連中が関わっているんじゃないか」
『かもしれん。大層なお題目を掲げて大使館やマーケットを吹き飛ばしてる連中の資金源が麻薬カルテルの真似事なんて汚れ仕事なのもよくある話だ』
ロックはそこでラグーン商会以外にもヒズボラの復讐対象となる人物の存在に思い至った。
「あの1件には三合会も深く関わってる。張さんに一応知らせておいた方が良いかな?」
『念の為情報は流しておいた方が良いだろう。連中が
その時、遠雷に似た長く尾を引く爆発音が窓から飛び込んできた。窓ガラスがビリビリと震え、路上から通行人の驚きと混乱の悲鳴が上がる。
「何だカチコミか!?」
午睡を貪っていたレヴィもこれには飛び起きた。
NYのスラムも霞む悪徳の都で長く生き延びてきただけに、銃声の類や剣呑な気配に対してはロックよりもずっと鋭い。何も隠す物を身に着けていない女豹の如き肢体がベッド上で跳ね起き、ノータイムでコート掛けに吊るしてあった愛銃へ飛びつく姿は、直前まで熟睡していたとは思えない。
「いや、今の爆発は遠いぞ!」
ロックもまた余程切羽詰まっていない状況であれば、銃声や爆発音の響き具合から危険度を判別する位の技能は習得していた。
パンツ一丁のロックと銃以外には下着すら纏っていないレヴィは同時に窓へと飛びつき、身を乗り出して外を見回すと、ロアナプラでも特に高いビルの1つから紅蓮のキノコ雲が立ち上っているのが見えた。盛大に炎上するビルの屋上から急速に離れていく影もだ。
方角と建物の特徴から、出所である高層建築物がどういう場所であるか思い至った瞬間、ロックの顔が真っ青になった。
「最悪だダッチ。三合会の事務所が
『ああ、ここからでも見えてるよ』
電話口のダッチの声も、今まで以上に張りつめて硬い。
「連中本気も本気、下手すりゃ
――――
原作でも妹分がレヴィの家行ったら普通にロックが出迎えてレヴィは下着姿でベッドの上なの見てますと…ねぇ?