GATE:MW 外伝集   作:ゼミル

38 / 72
お待たせしました。
一方その頃その2です。

皆様の反応・感想が作者の糧となります。


Knockin' on Warfare Gate23

 

 

 

 

 

 港町であるロアナプラには水路も多く存在している。

 

 水路に面する建造物の大部分は倉庫や工場、もしくはその成れの果ての廃墟だ。第2次大戦中の日本軍によって建てられた年代物もあれば、建築から10年も経っていないものまで混在している。

 

 港に近く設備も整っている地帯は主に大手組織が取り仕切り、中小組織は船の出入りが激しい主要航路から離れた水路沿いの、最早正式な所有者も分からないような建物に勝手に居座りアジトとして利用しているのが現状だ。

 

 ロアナプラという世界中からありとあらゆる悪徳を引き寄せるソドムの都では、ホテル・モスクワ、三合会、ヴィスコンティ・フーズ等の大手が黄金夜会という話し合いの場を設けて均衡を維持する一方、裏稼業に身を置く有象無象による抗争は後を絶たない。

 

 特に小型のボートで運び込んだ()()()()()の水揚げ場、もしくは拉致した敵対組織のチンピラを沖合で()()()()()()()にはうってつけの場所であるこれら何十もの建物はシノギに飢えた者達にとって垂涎の存在であり、建物を巡る争奪戦は常時過熱状態にあった。

 

 それもあって、この水路地帯は四六時中死体が量産されるロアナプラでも特に必然的に人の入れ替わりが極めて激しい。

 

 倉庫の住民が1週間後には死体となって水路に放り出されて別の住民の物になった、そんな展開もここでは決して珍しくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな点在する建物群の中でも比較的規模が大きい倉庫の1つ。

 

 倉庫に隣接する桟橋を武装した歩哨が監視していた。桟橋には全長20メートルほどの艀が停泊している。

 

 AKを抱え戦闘服を着た歩哨はやがて桟橋の端に辿り着く。しばし水路の奥に目を凝らし、濃い青緑色に輝く水上から不審な船が近付いてきていないか見回すと、歩哨は回れ右をして陸地側へ向かおうとし――――

 

 海中から桟橋の陰に浮上してきたシェーン・J・キャクストン少佐が、サイレンサー装着の拳銃で歩哨の頭部を撃ち抜いた。

 

 瞬時に脳からの指令が停止した歩哨の肉体は棒立ちとなり、次の瞬間桟橋の端から海面へ向かって倒れ込む。

 

 歩哨の死体が海面に触れる刹那、2本の腕が海面から突き出して死体1人分の重量を受け止めた。海面から10センチばかり上で支えられた死体がゆっくりと高度を落とし、やがて波の音に掻き消される程の僅かな音を残して海中へと消えた。

 

 静かに処理を終えた死体と入れ替わりに、レイモンド・マクドゥガル大尉の顔が水面から現れる。

 

 キャクストンとレイは各々分担した方向へ短い時間レーダーの如く感覚を研ぎ澄まさせた。他に歩哨の姿や気配なはし。気付かれた様子も、ない。

 

 アイコンタクトを交わすと、まずキャクストンが桟橋上へ自らの体を引っ張り上げた。水中マスクにシュノーケル、海の色に溶け込みやすいデザインのウェットスーツの上に必要最低限の潜入用装備を着用した姿が露わになる。

 

 キャクストンが銃を構えて警戒しつつ続いてレイも海中から桟橋の上へ。こちらも同様の姿だ。防水性のホルスターから彼もサイレンサー付きの拳銃を抜いた。

 

 2人が手にしているのはH&K社のMK23。ソーコムピストルとも呼ばれる通り、特殊作戦軍(SOCOM)が現米軍主流のベレッタ・M9自動拳銃以上の特殊部隊が持つに相応しい武器を求めたOH(攻撃型拳銃)WS(火器システム)計画が生み出した拳銃だ。

 

 お偉方肝入りの作品と言えば聞こえはいいが、実際に使う現場の兵士からしてみれば45口径の複列弾倉(ダブルカラム)なのを差し引いても、様々な機能を持たせたはいいがこれまた嵩張る専用モジュールの存在もあり、サイドアームの癖にM9や信頼性からキャクストンのように未だ愛用する者も多いコルトのM1911より大柄でずっと重いこの銃は評判が悪い。

 

 それでも精度と耐久性は本物であり、亜音速の.45ACP弾に銃と同じく特殊作戦向けに開発されたサイレンサーを組み合わせたこの銃は今2人が行っている隠密潜入を大いに発揮しているのは、先程の歩哨によって証明されていた。

 

 

「久しぶりのコンビだが潜入が気付かれる前に素早く済ませるぞ、レイ」

 

「コソ泥の真似をするならもっと相応しい時間帯にしたいものですがね。こんな真昼間にこの格好じゃあリオのカーニバルの踊り子みたいに目立ちますよ」

 

「仕方ないだろう。()()()()()()()

 

 

 一見ゆっくり、だが1つ1つの動作の繋ぎ目が極めて少ない滑らかな足取りで2人の兵士が桟橋を進む。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()。焦った動きは無駄を生み、無駄な音を出し、無駄な時間を費やす。体から滴る水滴以外に2人が立てる物音は限りなく小さかった。

 

 唯一露出した頭部の濡れた肌を、海側から吹く季節風が嬲る。

 

 

「思っていたよりも警備が薄い。罠の可能性は?」

 

「分からん。主だった兵が出払っているだけの可能性もある。警戒は怠るんじゃないぞ」

 

 

 桟橋と艀を繋ぐ短いタラップを上がる。

 

 艀は自力で航行する為の動力部を持たない代わりに貨物を搭載する容量に特化した云わば浮かぶ荷車だ。水面上に覗いている部分の高さは低いが、内部空間は水面下のかなり深い部分まで貨物用の空間が占めており外見以上に内部容積は大きい。

 

 艀の上にも歩哨が居た。艀の上部と桟橋は高低差が有り、桟橋が船体に隠れて死角となっていたので、仲間が殺された事にその歩哨は気付いていなかった。胴体に2発、近付いて頭にとどめの1発を撃ち込んで先に行った仲間の下へ合流させてやる。

 

 倉庫周辺の歩哨が桟橋側の異変に気付いた様子はない。今度は海に放棄せず、船上で排除した歩哨の死体を倉庫側から見えない死角へと運び込んだ。

 

 その艀は船上に上がって間近まで近付いて見るとおかしな特徴があった。

 

 穀物や鉱物を積む際に開閉する貨物用の大型ハッチが溶接され、正しい艀としての役割が果たせなくなっている。その上でコンクリートでより強固に固められ、完全な密封状態にされている。

 

 

「シェーン、アレを」

 

 

 レイが顎をしゃくれば、コンクリートに覆われたハッチの片隅に真新しい換気ダクトが生えていた。これも本来備えていた設備には到底思えない。

 

 その艀には貨物用だけでなく、積み下ろし時に作業員が下層部へ安全に出入りする為のものだろう小型ハッチもあった。長年の潮風を浴びて錆や塗装の剥げが目立つこちらは最初から存在していたものだろう。

 

 そっと小型ハッチに手を掛ける。外見の汚さの割には蝶番は小さな軋みを上げるにとどまり、予想よりもあっさりとハッチが持ち上がった。

 

 簡素な鉄パイプ製の梯子がまっすぐ薄暗い船内へと伸びていた。

 

 

「船内を調査するぞ。私が先に行く」

 

「気をつけてくださいよ。此処からじゃ満足な援護なんて出来そうにありませんからね」

 

 

 貨物用ハッチを封印する分厚いコンクリートの蓋の陰にレイを残し、やはり必要最低限の物音で梯子を滑り終えたキャクストンは、MK23のトリガーガード前に装着した専用モジュールを操作して内蔵されたフラッシュライトの電源を入れた。

 

 梯子を下りてすぐ目の前に分厚い鋼鉄の扉が鎮座している。丸窓から奥を覗く。更にその奥に同様の扉。

 

 

()()()()()()

 

 

 空調機能は稼働していないが二重の扉は問題なく開いた。

 

 2重の扉を潜る際、扉と扉の中間に置かれた小さな台に電気工事の検査器具に似た機材が数個積んであるのにキャクストンは気付いた。彼の眉間の皴が険しさを増した。

 

 船内の大部分を占める空間へと足を踏み入れる。

 

 銃口下のライトが放つ光が、照明が灯されていない空間を限定的に照らし出した。広さはバスケットボールのコートより少し狭い程度。

 

 ゆっくりとライトを振り向ける。

 

 空間の多くを占めているのは簡素な2段式ベッドに山積みにされた段ボール箱。中身は大量の保存食と飲料水。別の箱には携帯用トイレ。

 

 頑丈な化学繊維を用いたフード付きの防護服とガスマスクの交換用フィルターがぎっしりと詰まった段ボール箱もまた数箱存在した。

 

 ライトを振り向ける。黒地の布に白文字でアラビア語を描いた旗が壁面に掲げられていた。国防総省時代の資料で見た事が有る――――アブ・サヤフの旗。

 

 ライトを振り向ける。唐突に全裸の巨乳美女の姿が浮かび上がった。よく見てみればただのヌードモデルのピンナップポスターだ。

 

 ポルノ雑誌も何冊かポスターの下に積まれていた。こちらはロアナプラに来てから現地調達したのだろう。卑猥なポーズをした美女の写真の威力は世界共通らしい。

 

 ライトを振り向ける。床に絨毯が敷いてあった。絨毯の上にはコンパスも置かれているが普通のコンパスではない。イスラム教徒が祈りを捧げるメッカの方角を世界中の何処に居ても把握するのに用いるキブラコンパスと呼ばれる代物だ。

 

 ライトを振り向ける。天井へ延びるダクトの根元に大型の空気ろ過システムが据え付けられていた。位置的に船上で見つけたダクトに繋がっているのは間違いない。

 

 ライトを振り向ける。粗末なデスクの上に、コーランと並んでファイルが置かれていた。

 

 タイトルは『イブリース計画』。アラビア語と英語で併記されている。

 

 ページをめくる。こちらは英語だけだったのでキャクストンにも内容を理解出来たのは幸いだった。

 

 キャクストンの額を海水ではない別の水滴が伝い落ちていった。

 

 

()()()()()()

 

 

 その呻き声には、かつて米軍最精鋭の秘密部隊を率いていた歴戦の兵士ですら抑え難い畏れで震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 防水機能付きの小型カメラでファイルの中身を1枚残らず撮影した。訓練キャンプの兵士達の宿舎にも似た内装を施された空間をくまなくライトで照らして回り、これ以上の手掛かりは見つからないと判断すると痕跡を消し、レイと合流しに梯子へ戻る。

 

 

「情報は?」

 

「計画表は記録に収めたが事態は深刻だぞレイ。

 この艀は()()()()()だ。エアロックに換気システム、()()()()()()()()()()()()()()()()。ベッドと食料の量からして1個分隊が2週間はここで不自由なく凌げるだろう」

 

「……CIAが得た情報は正しかったようですね」

 

「だが()()はあの中にはなかった。あるとすれば――」

 

「倉庫を調べましょう」

 

 

 2人の兵士の意識が隣接する倉庫へと向けられたその時、当の倉庫の方角で突然銃声が響き渡った。

 

 キャクストンとレイの体が長年の経験によって反射的に動く。船上で身を屈め遮蔽物を確保。最小限の露出で周囲を警戒。

 

 立て続けに聞こえてくる銃声の大半はAKだ。複数の言語による叫び声も飛び交っている。耳を傾けたキャクストンが拾ったのは英語、アラビア語、タガログ語の怒号と悲鳴。

 

 それから、先に聞こえてきた悲鳴と毛色が違う鋭い()()()()も。

 

 雑多な言語が入り混じる怒号はその数をどんどん減らしていく。

 

 

「一体何が起きてるっていうんだ?」

 

「どうやら地元の勢力があの倉庫の主を襲撃しているようだ。存在を悟られる前に我々は退却するぞ――」

 

 

 そこまで相方へ告げたところで、キャクストンの鋭い視線が倉庫から水路の方へと転じた。彼の素振りと、波間と銃声と断末魔に混じって水路の出口側から近付いてくる音の存在を知覚したレイの表情も険しさを増す。

 

 海からも何者かがこちらへ迫っている。急速に。

 

 

「マズいなレイ。聞こえるか?」

 

「ええ聞こえています。逃げ道を塞がれましたね」

 

 

 ゾディアックとも呼ばれる硬式の大型ゴムボートが数台、武装した兵士達を乗せて海側から水路内へ突入してきた。

 

 今から艀の上から海中に飛び込んで逃げ込もうにも間違いなく目撃されてしまう。酸素ボンベなど長時間海中に潜伏できる装備が有ればまだしも、速度と隠密性優先の軽装備では海中に潜っても隠れられるのは極僅か。間違いなくそう遠くない海面に浮上した所で血に飢えたサメかシャチよろしくボートに追いつかれるのがオチだ。

 

 警戒の視線を向けていたキャクストンとレイの目が不意に見開かれた。

 

 ゾディアックに乗った男達には統一された特徴があった。誰もが屈強なスラブ系で、AK74や空挺仕様のAK74UといったAKシリーズで武装し、ロシア軍の……()()()()()()()()()()に身を包んでいた。

 

 キャクストンとレイの脳裏でこの悪徳と亡者の街で遭遇したあの悪夢の夜が否応無しにフラッシュバックされた。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 身を潜めた2人のアメリカ人が愕然としている間にも事態は動き続ける。

 

 倉庫の扉が開いてクーフィーヤを巻いた聖戦士が飛び出してきた。キャクストンとレイが隠れている桟橋の方へ必死の形相で走る彼らの背後に、やはりソ連軍の戦闘服姿の兵士達が出現したかと思うと、容赦なく聖戦士の無防備な背中へと5.45ミリ弾を撃ち込んだ。

 

 鮮血を散らしながらある聖戦士はそのまま桟橋上に崩れ落ち、慣性と被弾の衝撃で身を捩りながら水路へ転落して派手な水しぶきを上げた。背後からの凶弾から生き延びた幸運な者もいたが、水上で待ち構えている旧ソ連軍の集団に気付くと絶望の表情を浮かべた次の瞬間には背後から撃たれた仲間の数倍もの穴を拵えて息絶えた。

 

 やがて銃声は途絶え、代わりにゾディアックから降り立った兵士の軍靴が次々と桟橋を踏む音がキャクストンとレイの下まで聞こえてくる。

 

 

「クソッ、どうするんだシェーン。このままじゃ首まで糞の沼に漬かったまま墓標が立てられる羽目になるぞ!」

 

 

 レイの言葉はキャクストンに届いてはいた。

 

 彼の視線と意識は相棒ではなく別の方向へと注がれていた。

 

 

 

 

 

 

 聖戦士が逃げ出し、次に旧ソ連の兵隊を吐き出した倉庫の扉から続いて姿を現した人物へ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 本能的な確信だった。

 

 キャクストン最大の罪の象徴、最終的にグレイフォックスを壊滅近くまで追い込んだ女中という名の猟犬に最初に遭遇したあの時、キャクストンとその部下をその場から無傷で撤退する助けとなった()()()()()()()という名の守護(ガーディアン)天使(エンジェル)

 

 見事な技量、見事な指揮を執ってみせたジェーン・ドゥ(名無しの女)を名乗った指揮官についてキャクストンが知るのは無線越しに聞いた声だけであり、直接顔を見た訳ではない。

 

 にもかかわらず、キャクストンはコートの女こそ件のジェーン・ドゥであると一目見ただけで確信した。

 

 聖戦士を排除する旧ソ連軍の兵士達の練度もまた見事なものだ。そんな彼らに囲まれて1人将校用コートを纏って立つ女が指揮官、最低でも上の立場に属する事など自明の理だった。何より纏う気配が違った。

 

 同時にキャクストンの思考を、先程艀の内部で目を通したファイルの中身が通り過ぎていった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「レイ、頼みがある」

 

 

 キャクストンは思いついた行動案をレイへ語った。

 

 キャクストンの予想通り、レイは小声で悪態を吐くと、押し殺しても尚緊迫した声で以って反対を表明した。

 

 

「馬鹿言えシェーン! そんな事をしたって無事で済む保証も、お前の予想が正しい保証も全く無いんだぞ!?」

 

「レイ、最早状況は俺達が内々に処理出来る範疇から逸脱しているんだ。俺達や俺達の祖国だけじゃない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、キャクストンは語った。

 

 

「頼んだぞ、レイ」

 

 

 副官が制止するよりも早くキャクストンは小型カメラを彼に押し付けると、即座に行動に移った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――立ち上がるとバラライカと彼女の部下達に見える場所まで歩いていき、堂々とその姿を見せつけたのだ。

 

 

 

 




そろそろ収束させていきます。

ソーコム海外で撃った時の個人的感想は「わざわざデコッキングレバー新設しなくてもUSPと同じ操作周りで充分だったんじゃね?」でした。
ホルスターから抜く→セーフティ解除の流れで親指の位置混乱するんですよアレ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。