5ノレ……ラウペト……わァ……ぁ……
スレミオにサンドイッチされるグエルパイセンは最後まで生き残ってクレメンス……
皆様の反応・感想が作者の糧となります。
しっちゃかめっちゃかな事態にはいい加減慣れているつもりの筈だった。
上からも同僚からも睨まれながら流れに流され、やがて送り込まれたのは東南アジアの田舎町の皮を被ったソドムとゴモラとヨハネスブルクを足して割らずに拵えたかのような、退廃と暴力の悪徳の都ロアナプラ。
其処でも厄介事にしょっちゅう巻き込まれたり巻き込んだりしながらも、教会のシスターと街の悪党に銃火器を流す武器商人という表裏の顔を使い分け、
……ああ、だが、しかし、流石に今回の件に関しては。
「FUBARだねぇ、全く」
何せ母国に迫る核テロという魔の手を、偉大な
武器屋の更に裏の顔――――CIAの
倉庫街を見渡せる比較的高層の建造物に陣取ったエダの視線の先には乾ドック付きの倉庫。
数百メートルは離れている。夜闇も重なり、これだけ距離があれば暗視スコープでも発見は困難だ。
既に深夜近い時刻にもかかわらず件の建物――――ラグーン商会の乾ドック前には何台もの車両が停まっており、その中には小型戦車と見間違う重武装の装甲車すらも複数含まれている。建物の周りだけでなく乾ドックへ通じる主だった道も三合会とホテル・モスクワによる検問が敷かれている。
夜間対応の高感度フィルムを突っ込み、小さなロケットランチャーを思わせる特大の高倍率ズームレンズ(そこいらのチンピラが持つ銃よりも何十倍も高価)を取り付けたカメラを覗き込めば、多数の車両灯が照らしているのもあり忙しなく建物の周りを行き交う人種も判別出来るようになった。
多くはロシア人に中国人、後者に似ているようで微妙に人種的差異を持つ日本人とこちらも様々。
意外な事にこの中で最も重武装なのは日本人である。装甲車も連中の乗り物だ。
「M4のカスタムに、M14の改造型に、ありゃあ無人砲塔か? それにオイオイMP7なんて発表されたばっかりのピッカピカな代物だろ。何であんなもんを日本人が持ってやがんだい?」
引き締まった臀部と大きく突き出した胸元を、キャミソールに白のミニデニムスカートで包んだブロンド美女から漏れる独り言は、蓮っ葉ながら深刻な重苦しさを帯びていた。
本国から調査として先んじて送り込まれた実働要員、キャクストン少佐とマクドゥガル大尉が潜入したヒズボラのアジトで、別ルートから情報を手に入れたホテル・モスクワと偶然鉢合わせた――――どんな業界でもままある事態だ。それはまだ良い。
艀に偽装した核シェルターで入手したテロの計画書から事態が予想以上に切迫していると判断したキャクストン少佐が、独断でホテル・モスクワに取引と同盟を持ち掛けた――――時にはアドリブも必要な場合もある。これもまあ置いておく。
テロ首謀者の標的である三合会にも事態を伝え更に共闘を要請――――そもそも以前アメリカ大使館爆破テロから始まる筈だったイスラム過激派の連続テロ計画表を、たまたま入手した三合会がCIAに売っぱらったのが今回の原因なのだから三合会も完全に当事者だ。これもある意味当然の判断だろう。
自分達もアメリカ側も戦力が足りないと判断した三合会は外部の人間で作戦に必要な戦力の穴埋めを決断――――これも仕方ない。理解は出来る。
それがよりにもよって
結果、エダはリップオフ教会で衛星回線を使い本国の上司へ報告を行いながら事の顛末を見守るどころか、重く嵩張る監視用機材を抱えてえっちらおっちら高所へ上がり、現場で夜のサービス残業にも勤しまねばならなくなったのだ。
「動き方と態度は間違いなく正規の兵隊のそれ。日本人なら
日本人中心の部隊の中に2人だけ混ざってる2人の白人は……軍事顧問かねぇ? ロシア人とイギリス人って辺り何だかしっくりこないけど」
可能性としては、日本政府と防衛庁の反米勢力が海外における独自の活動圏構築に送り込んだ非合法部隊が妥当か。
東南アジアで活動する日本人の非合法部隊といえばまず思い浮かぶのはかのSR班だが、それにしては装備があまりに先進的、かつ投入している戦力も活動内容も派手に過ぎるのが、エダの癇に障った。
――――ここまで来ると完全に秘密工作の範疇を超えている。最早これは、完全に
「連中の指揮官はあのスーツを着てるヤツよねぇ」
額の上に押し上げたサングラスの位置を修正しつつ僅かに超望遠レンズを動かす。
ウォール街やワシントンDCに放り込んだらあまりの冴えなさにむしろ浮いてしまいそうな、安物のスーツと間の抜けた顔立ちをした雑誌サイズの電子端末に目を落とす東洋人の男に焦点を合わせ。
「っっっっっ!!!?」
飛び出しそうになった驚きの悲鳴をエダは寸でのところで呑み込んだ。
じっとりと蒸すような潮風を浴びて湿っていた全身に別種の冷たい汗が浮かんだ。
「いやいやありえないだろ」
見られた、いや見えている?
落ち着け。夜の、それも照明に照らされた中に居る相手側から暗所に潜むエダの姿を捉えるのはもっと近い距離でも難しい。それが数百メートルも離れているとなれば尚更――――
自分に言い聞かせ、驚愕で仰け反った拍子に離してしまったカメラをエダは再び覗き込み。
「あっコレ完っ全にバレてるわ」
件のスーツの東洋人がしっかりカメラ目線で気の抜ける笑顔をエダへ向けて、あまつさえ手を振ってすらいるのを認識するに至り、エダも笑うしかなかった。諦観の笑みだった。
「……下手にちょっかいをかけるのは厳禁だねこりゃ」
シスター・ヨランダにも刺激しない方が良いと忠告しておかないと。
そう心に誓いながら、エダはそそくさと撤収の準備に入るのだった。
『カルデアよりアベンジャーへ。監視者は撤退を開始した。上空より周辺警戒を継続する』
「了解カルデア。情報ありがとね」
ラグーン商会の乾ドック上空を旋回する
何という事はない。伊丹がエダの存在に気付いたのは単に周辺警戒中だった無人機が搭載した夜間運用も可能な監視用
どうやら普段から
『見逃して良かったのかよ伊丹』
「班編成ならともかく単独行動だったからね。それにこっちに敵意があるならでっかいカメラじゃなくて狙撃用のライフルを持って来てるでしょ。ありゃ多分商売のネタ狙いの情報屋だと思うよ」
三合会やホテル・モスクワの構成員共々警備に当たりつつ、伊丹と司令部とのやりとりを拾っていた剣崎の意見に伊丹が返事をしたところで、こちらへと近付いてくる車の音が聞こえてきた。同時に再び司令部からの報告。
『友軍車両が間もなく到着。受け入れ準備を整えられたし』
少し経つとエンジン音が近付いてくる。自衛隊員には耳慣れた73式大型トラックの唸り声が複数。
加えてそれよりもやや大人しい
乾ドック前に停車した73式大型トラックから次々と自衛隊員が―ただし最低限所属を誤魔化す為、剣崎や倉田同様自前か昼間に伊丹達が街で調達した私服姿―降りてきて、今回の作戦に必要な機材を乾ドックへと運び込み始める。
停まった大型トラックの1台は荷台が幌無しで、防水カバーで掛けられた大型の荷物を積んでいた。
パジェロも停車すると、そちらに乗っていた人物は少し視線を彷徨わせて伊丹を見つけるや、ゆったりとした足取りで近付いていく。
「どうもどうも。今回はよろしくお願いしますね」
「いえいえ。こちらこそ世話になります」
江田島五郎二等海佐は柔和に見えるが、ちょっとだけ胡散臭さを感じさせる微笑みを浮かべて伊丹と挨拶を交わした。
自衛官としての形式ばった敬礼までは行わない。規模や内容はどうあれ一応秘密作戦という建前なのだから、衆目がある中であからさまな答礼を交わすのはご法度なのだ。
付け加えるなら仮に最前線で上官に対し下手に敬礼や鯱張った対応を行ってしまうと、潜伏している狙撃手に誰が指揮官かを把握され狙撃の最優先目標として暗殺されるリスクが発生してしまうという部分もある。伊丹もそう教え込まれてきたし、
当然ながら江田島も、特地の駐屯地でいつも着ている海上自衛隊の白い制服ではなく、白のズボンに伊丹達が昼間ロアナプラの市場で仕入れてきた派手な古着のアロハシャツだ。
叩き上げで陸将まで上り詰めた狭間や戦闘団の健軍一佐と用賀二佐のように巌の様な威厳や頑健さからは薄い、有名企業の管理職といった方が似合う風貌なのもあり、今の江田島はパッと見南国へ旅行に来たばかりの何処にでもいる観光客のおじさんという表現がしっくりくる。
それでも自衛隊ならではの刃物と見間違わんばかりにパリッと折り目正しく糊とアイロンが効いたズボン、そして微かに彼から漂う潮の気配は、江田島が自衛官であり海の男である事の証明だった。
裏社会の男達に加え新たに自衛隊の団体も出現し、更に賑やかになった乾ドックを見回した江田島はおもむろに深々と鼻から息を吸い込むと、とても満足そうな吐息をこれまた長々と漏らした。
「潮と油の臭いが入り混じったこの空気……いやはや実に素晴らしい。
これだけで私自ら作戦に加わる事を陸将がたに立候補した甲斐があるものというものです」
冗談とも本気ともつかない戯れ言を述べる江田島だが、勿論真面目な理由が存在した。
そもそも自衛隊の特地派遣当初は近場に海が存在するかも不明瞭だったという点から、空爆や航空偵察といった役割を求められた航空自衛隊と違って海上自衛隊の出る幕は無いと当時は考えられていたのだ。実際現在に至るまで特地派遣部隊が経験した作戦活動はほぼ陸上に限定され、水上での活動といえば河川か湖程度に過ぎない。
江田島が特地入りしたのも日本政府が外交使節団を派遣するのに同道しての形であり、講和の進展によって特地の海洋事情を調査できる目途―もしくは余裕―が若干生じた事でようやく認められた初の海自からの人員も江田島及び彼の副官である下士官の2名のみという、陸自や空自と比べてしまうと何とも肩身が狭い立場なのが特地における海自の現実であった。
「ああ、海外から戻ってきた人が故郷に戻って来るとホッとするようなもんですね。俺もその気持ちはよ~~~く分かります。俺も日本にようやく帰り着いた時は我慢出来ずに涙が出ましたもん」
世界中の戦場を放浪させられた身の上である伊丹の頷きはそれはそれは実感に満ち溢れていた。
それからチラリと江田島の背後、幌無し73式の荷台に積まれた存在へ視線を向けた。丁度カバーを外し、固定用ロックを外した積み荷を隊員が数人がかりで慎重に下ろし始めている。
「あれが無線で言ってた今回の作戦の切り札ですか」
「その通りです。
元々は機甲戦力や徒歩での調査も困難な山岳部や火山地帯での調査用にメーカーから多数調達して特地へと持ち込まれた代物となります」
「
「原型は
ですが運用にトラック数台分の機材が必要なあちらと比べますと、運搬用にトラック1台と地上局用に高機動車クラスの車両が1台あれば十分なこちらの方が小回りには優れていますし、ペイロードもベースが広範な農薬散布用という事で余裕がありましたから。
そこを手元に有る資源を活用しての戦力強化を求めた司令部と、暇を持て余していた方々の思惑が一致した結果、この機体に目を付けたという形になりますねぇ。今回
「それにしても江田島さんはこの機体について詳しいんですか?」
「特地入りする以前に少々。以前乗っていた船で教育番組の撮影クルーが火山島の調査にこのモデルを船上から運用しているのを拝見したので、興味を持っていたのですよ」
『検問を通過した車両がそちらへ向かっている。三合会かホテル・モスクワかはこちらからでは不明』
三合会の方だった。乾ドックへ向かう途中で一旦別れた張が降りるなり伊丹の下へやってくる。
「待たせたようだな。そちらがミスター・イタミが言っていた船長さんで宜しいのかな?」
「江田島とお呼び下さいミスター・張。この度は急な要請をお願いしてしまい……」
「気にしないでくれ。そもそも今回の案件にオタクらを引っ張り込んだのはこっちだからな。これぐらいは軽いもんさ」
張と一緒に現れた別の車から十数名の男達が降りてくる。全員現地の住民で、長年大なり小なり潮風と日の光に晒されてきた海の男という点で共通していた。
「ご希望通り、かつてここらの軍に所属して
機関科から兵装を担当してたヤツまで一通り揃ってるし、人間性についちゃ……まぁそこら辺はお察しだが、殆どが今も密輸船に乗ったり海賊もどきをやったりしてる現役の船乗りばかりだから腕は確かだ。
仕事に関しちゃアンタらの指示に
「彼らを運ぶ船の手配もお願いした筈ですがそちらは?」
「そっちも今こちらへ向かってる。もうすぐ着く頃だ」
更に別の車両。こちらから姿を現したのは旧ソ連軍空挺団の戦闘服に身を包んだ、完全武装のロシア人達。
空挺服を纏う一団には、バラライカも含まれていた。
「
愉快そうに嘯く張の声。
――――作戦開始が近付いていた。