GATE:MW 外伝集   作:ゼミル

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遅くなりましたが話が進んでなくて申し訳ない。

皆様の反応・感想が作者の糧となります。


Knockin' on Warfare Gate33

 

 

 

 

 ――――90分前。

 

 

 

 

 

 

 

 もし今回の案件に無関係な街の住民が居合わせたらマイケル・ジョンソン(陸上金メダリスト)ばりの速さで逃げ出すだろうな、とロックが思ってしまうような光景が今、ラグーン商会の乾ドック2階の倉庫兼事務所に広がっている。

 

 右に目を向ければ、全員が―あのバラライカも含めて―旧ソ連空挺軍の戦闘服で一部の隙無く固めた完全武装のバラライカと遊撃隊(ヴィソトニキ)ことホテル・モスクワの姿。

 

 ただでさえ普段のスーツでもおっかないバラライカだが、かつて所属していたという軍隊時代の戦闘服に青いベレー帽、その上に唯一普段のレディーススーツ姿から引き継いだアーミーコートを羽織って仁王立ちするその佇まいは、見ているだけで肌にドライアイスが押し当てられたような錯覚を覚えさせる恐ろしい程に冷徹な戦意を漂わせている。

 

 視線を左にずらすと、事務所備え付けの安物のソファーに腰を下ろしている張と彼の後ろに控える三合会構成員の姿。

 

 ホテル・モスクワが放つ気配に当てられてか少なからず顔が強張っている黒服に囲まれながら、ただ1人だけ優雅に足を組んで佇む張の泰然自若とした振舞いは、流石軍隊上がりのロシアンマフィアに武と政両面で真っ向から対抗出来る三合会頭目の面目躍如といったところか。

 

 三合会構成員の後ろでは、張達が連れてきたというロアナプラの船乗り達が肩身狭そうに必死に息と気配を消しているのがロックの視界に入った。いきなり呼び出しを食らったと思ったら、張のみならず戦争を始める準備万端のホテル・モスクワと同じ空間に身を置かなければならなくなった彼らに、ロックとしては素直に同情する事ぐらいしか出来そうにない。

 

 更に視線をずらすと次に目に入ったのはロアナプラでは滅多に見かけない日本人の集団だ。悪徳の街に突然現れた日本人ばかりの武装集団。2人だけ、イギリス人とロシア人だという白人も混じっている。

 

 彼らは乾ドック内外で今も機材搬入といった作業をしている私服姿の仲間達とは違い、濃緑が主体の迷彩模様をした手足の先まで皮膚が露出しないようにする為の奇妙な全身着を纏い、頭を覆うフードだけ下ろした格好で待機していた。

 

 東南アジアの熱帯地方でこんな格好をしていたらあっという間に汗だくになりそうなものだが、慣れているのか単に忍耐強いだけなのか、額にやや汗を浮かばせながらも愚痴や悪態の1つも吐かず耐えている。

 

 

(そういえば東京の地下鉄で起きた毒ガスを使ったテロ事件で警察だか自衛隊だかがあんなの着て作業してたの、昔テレビで見た事あるなぁ)

 

 

 ()()()、兵器類に関して最低限の知識を身に着けたロックではあったが、伊丹の仲間達が着ている迷彩柄の全身スーツがNBC(核・生物・化学)戦で用いられる個人用防護装備だと見抜くにはまだ少しばかり専門知識が足りていなかった。

 

 ロックから見て集団の最も外側の位置、自衛隊組に混じる形でキャクストンとレイの米軍組もまた個人用防護装備を纏っていた。

 

 これは伊丹達が提案して貸与した予備の装備だ。何せ物が(核廃棄物)だ、万が一に備え出来る限りの対策はしておきたい。

 

 ホテル・モスクワ組にも同じ提案をしたが、彼女達の方はNBC装備の貸与を拒否した。

 

 ぶっつけ本番で不慣れな装備に我々の戦争を煩わされたくはない、何より亡霊である我々は今更被曝程度で寿命を縮める事も全く恐れてはいない、というのがバラライカの言い分だった。

 

 

我々(米軍)の物より性能が良さそうだな」

 

「オムツまでついて作戦完了までトイレを我慢しなくていいのは有難いですね」

 

 

 等と感想を言い合うキャクストンとレイを含め、個人用防護装備を纏った男達もテフロンとポリ塩化ビニルと高密度ポリエチレン繊維不織布を織り合わせたスーツの上から戦闘用ベストを装着し、各々が扱う武器のチェックを繰り返している。

 

 米軍の2人が扱う銃はキャクストンがキャリングハンドルを取り外しドットサイトを装着したM4カービン。

 

 前回ロアナプラに訪れた時はスコープ付きのM21ライフルを使っていたレイも、今回予定された戦場が海上施設での近~中距離戦と想定されている事から重く嵩張る大口径ライフルではなく、キャクストンと同じ取り回しやすいM4を使うようだ。

 

 ロアナプラに犇めく有象無象玉石混合の悪党どもの中には銃のカスタマイズに余念がない者も少なくない―ラグーンの2丁拳銃ことレヴィの愛銃も、世界に2丁しかないカスタムモデルだ―が、スコープではない光学サイトなんて洒落たアイテムを搭載した銃はロアナプラではまず見かけない。

 

 理由は単純、ロアナプラに大量に出回る無名のメーカー(サタデーナイト)の安物銃(スペシャル)よりもむしろこの手の光学サイトの方がずっとずっと高級品だからだ。余程の物好きでもない限りちゃんと撃てて当たる銃と弾代さえ手に入ったならば、メーカーのカタログを取り寄せる前に酒か女か賭け事かはたまたクスリに消費してしまうのがロアナプラの住民という、何とも享楽的な存在なのである。

 

 

「見ろよロック。日本人どもが持ってる銃、どれもこれもまるでスターウォーズかエイリアン2に出てきてもおかしくない様な銃ばっかりだぜ

 

 

 そんな中で、キャクストンとレイの装備というのは然程銃に興味がないロックも物珍しそうに眺めてしまう程度には貴重な品だったが、彼らと並ぶ日本人の団体が持つ銃はその上を行っている事に、ロックはレヴィに肘打ちされた事で気付いた。

 

 米軍の2人の銃はあくまで極一部だけの小手先な改造に留まっている一方、日本人兵士の集団が持つ銃は本隊の上下だけでなく、側面にも付属品を取り付ける為の(レール)が銃全体に調和する形で取り付けてあるのだ。単なる改造ではない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな銃が1丁だとか1種類だけとか、そういう範疇ではない。アサルトライフルからサブマシンガン、ショットガンと種類も豊富な彼らの装備だが、あらゆる種類の銃器が同様の思想の下に設計されていると一目で理解出来てしまう代物ばかりだった。

 

 SFに片足を突っ込んでいそうな品々を日本人達は自らの分身の様に手慣れた様子で扱っていた。

 

 

「米軍の特殊部隊に与えられるような装備よりも更に上を行く、日本人ばかりの兵士の集団かぁ……一体彼らは何者なんだろう」

 

 

 ハッキリ言おう。とんでもなく怪しい。

 

 怪しくはあるが、張がこの喫緊の事態を解決してくれる助っ人として頼るだけの集まりではある。ロックはそんな感想を抱いた――――少なくとも、見かけに限ればの話だが。

 

 見かけだけではなく中身も伴っていて欲しい、と密かに祈る。何せロアナプラが言葉通りの意味で滅びるかは彼らに掛かっているのだから。

 

 バラライカ達も彼ら謎の日本人兵士の団体には大いに興味を惹かれている様子であり、熱い観察の視線を彼らへ注いでいる。

 

 だがその中に、彼らの指揮官である筈の伊丹の姿は見当たらない。

 

 1階に通じる扉が開き、室内に集まった面々の意識が一斉にそちらへと向いた。

 

 

「お集まりの皆さん、お待たせしてしまい申し訳ありません」

 

 

 入ってきたのはロックが岡島六郎だった頃の職場に居ても違和感が無さそうな風貌の眼鏡をかけた中年男性。

 

 続いてサンカン・パレス・ホテルで顔合わせした日本人兵隊集団の長である伊丹も姿を現したが、その装いは安スーツから一変していた。

 

 ロックも、レヴィも、同じく部屋に集められていたダッチもベニーも目を瞬かせた。

 

 

「レーザーブラスターと来たらお次はストームトルーパーのお出ましかよ」

 

「俺にははどちらかといえばアイアンマンに見えるぜ」

 

「僕はSF系よりも、むしろダンジョン&ドラゴンズの戦士のイラストにあんな風なデザインがあったのを思い出したよ」

 

「……アメコミの主役や悪役であんな感じの衣装を着てるキャラを見た気がする」

 

 

 四者四様の感想が思い浮かぶような、平たく言うとバイク用のレーシングスーツにプロテクターを追加して更に要所要所を覆う形で細かい装甲片を鱗の様に貼り合わせたような赤と黒の奇妙なスーツを着込み、その上に弾薬を詰め込んだ戦闘ベストを着用した姿だった。スリングで武器を背負い、小脇には髑髏をデザインしたヘルメットを抱えている。

 

 薬中とサイコパスと口より先に銃弾をお見舞いしてくるゴロツキで賑わい、そんな男ども相手にメイドやチャイナドレスの女武侠、チェーンソーを振り回すゴスロリが纏めて輪切りとミンチと前衛芸術を量産する光景を何度も目撃し、時にはニンジャ以外の表現が見つからない奇怪な人物に拉致されてしまった経験すらあるロックではあるが。

 

 かのようなSFだかファンタジーだかよく分からないデザインの、コスプレという表現で済ませるには異様な迫力を纏った鎧甲冑紛いに身を固めて鉄火場に挑もうという人物を目の当たりにしたのは、今回が初めてだった。

 

 ロック以外のロアナプラの住民も似たり寄ったりの感想を抱いたらしく、伊丹を見る彼らの多くが珍妙な存在に出くわしたそれの視線だ。

 

 だがよく見てみれば、()()()を思わせる赤黒の装甲はロアナプラに来てから見慣れた独特のくすみを帯びている――――何千発もの硝煙に晒され続けた銃身のそれ。

 

 実際に鉄火場で使われた実戦証明(バトルプルーフ)済みの装備なのは見る者が見れば分かる。

 

 

「中々洒落た勝負服じゃないか、ミスター・イタミ」

 

「いやぁあははは、お褒め頂きどうも」

 

 

 張の揶揄いに近い賛辞に、愛想笑いを浮かべて後頭部を掻く以外に気の利いた反応が出てこなかった伊丹である。

 

 鎧姿の伊丹が迷彩柄の化学戦装備の集団に合流すると、にわかに日本人達の間でざわめきが生じた。

 

 

「そいつまで持ち出してお前さんに使わせるとは、上もマジでマジの本気って事か」

 

「今回の一件に絡んでる物がモノだしねぇ。使える物は何でも使って構わない分きっちり働けって上の考えが聞こえてきそうだよ」

 

 

 そんな日本語の呟きをロックの耳は拾った。

 

 中年男性と伊丹に続き、ノートパソコンとプロジェクターと大型スクリーンを抱えた日本人が部屋に入ってくると、彼らは手際良く集められた者達に良く見える配置で以って設置を行った。

 

 

「それではこの場に集まって頂いた方の一部は大まかながら既に把握されているとは思いますが、改めて今回の作戦の説明を立案者であるこの私、江田島がこの場を借りて説明させて頂きます」

 

 

 

 

 江田島と名乗った中年男性は展開されたスクリーンを背に、ロアナプラを代表する犯罪組織の2大勢力の頭目が発する視線に全くたじろぐ様子もなく、集まった彼らへと説明を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の作戦は2つの段階に分けられます」

 

 

 スクリーンにロアナプラ近海の海上プラントと、やや離れた位置に浮かぶ哨戒艇の偵察衛星写真が映し出される。

 

 

「まず第1段階。ソロモン某の手の者により占拠された海上プラント、この敵拠点へ接近する船舶ならびに航空機をレーダーで監視している哨戒艇の無力化を行います」

 

 

 スクリーンの画像がPSSM-5型哨戒艇の画像と青写真に切り替わる。

 

 

「具体的には我々が用意した()()()()と乗り込み要員を乗せたラグーン商会さんの魚雷艇が哨戒艇へアプローチを実行。

 この際、大きく回り込んだコースを取り哨戒艇の後方を抜けてロアナプラへ帰還する体に偽装し、有効範囲内に哨戒艇を収めましたら持ち込んだ秘密兵器を発進。外部への通信手段とレーダー員が存在する艦橋及び見張り員の一時的な無力化を行います。

 そこからは時間との勝負になりますね。艦橋に詰めていた当直員が混乱し外部への救援要請もレーダーによる監視も行えなくなっている間に素早く魚雷艇は哨戒艇へと接舷し、乗り込み要員を哨戒艇へと乗船させ休息中の残りの乗組員を拘束する必要があります」

 

 

 秘密兵器、と述べた瞬間の江田島の声はどことなく愉し気な震えを帯びていた。

 

 江田島の視線が張率いる三合会(と、彼らが連れてきた船乗り)へと向く。

 

 

「拘束した哨戒艇の乗組員はレーダーの範囲外で待機して頂く三合会さんの好意により手配して頂きましたボートへと移送。

 入れ替わりにこれまた三合会さんに手配して頂きました元軍艦乗りの皆さんには、本来の乗組員に代わりまして()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なぁちょっといいか?」

 

「構いませんよ、ミスター・ダッチ。何でしょう?」

 

「その哨戒艇を無力化する秘密兵器とやらについてなんだが、具体的にはどういった代物なんだ?

 聞いてる限りじゃ未来からやって来たシュワルツェネッガーそっくりの殺人ロボットでも連れてくるような口ぶりなんだが、運ぶのは俺達の魚雷艇だ。運ぶ荷に関して最低限の情報は提供しておきたい所なんだがな」

 

 

 ター〇ネーターな話題の下りで自衛隊組が一斉に伊丹を見やり、伊丹が「こっち見んな」な表情になったのは余談である。

 

 近くに居てその反応に気付いたキャクストンとレイは首を傾げた。異世界で伊丹が成したキング(たった)スレイヤー作戦(2人の軍隊ごっこ)を知らなければ当然の反応と言えた。

 

 

「無論お答えしましょう。と言いましてもミスター・ダッチの発言は実の所当たらずとも遠からず、といったところでしょうか」

 

 

 次にスクリーンに映し出されたのは、一般的なヘリコプターよりは格段に小さいが、それでも全長だけで大の大人を超えるサイズの特大のラジコンヘリに歩兵用の銃火器をポン付けしたとしか表現出来ない機体だった。

 

 ハンターキラー? とやはり殺人ロボットが暴れる映画に出てくる未来兵器の名前を疑問符付きで呟いたのはベニーだったか。

 

 

「観測用無人ヘリコプターに銃火器を搭載した武装ドローン。これが2機に操縦用の機材一式と運用要員及び制圧用の乗り込み要員が、()()()()()()()()()()()ラグーン商会の皆さんに運んで頂く荷物となります」

 

 

 続いて作戦の第2段階についての説明も行われ、作戦に参加する者達の具体的な役割分担と幾つかの質問を経て作戦会議は終わりを迎える。

 

 語るべき事を語り終えた江田島は背筋を伸ばし、作戦参加者達を改めて睥睨した。

 

 その態度と纏う雰囲気から、江田島が今回の作戦指揮官として派遣されるに相応しいだけの教練と経験を積み重ねてきた現役かそれに近い立場の軍役経験者であると、やはり過去もしくは現在において同類であったバラライカやキャクストンは認識したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは皆さん――状況を開始しましょう」

 

 

 




状況開始はゲートZEROにも出てきたので今作でも言わせてみました。

消耗品のクルーでのプライス達の格好って黒だから分かり辛いですけど、出てきた積み荷的に対NBC装備に見えるんですよね(特にリマスター版
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