GATE:MW 外伝集   作:ゼミル

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遅くなりました。

皆様の反応・感想が作者の糧となります。


Knockin' on Warfare Gate34

 

 

 

 

 

 ――――そして現在のタイ沖。

 

 

 

 

 

 

「……こりゃ驚きだ」

 

 

 魚雷艇の船内で最初にそう感嘆の呻き声を漏らしたのはベニーだった。

 

 

「ああ。僕も全く同じ感想だよベニー」

 

 

 その隣に控えていたロックもまた首を横に振り、同僚の言葉に心からの同意を示す。

 

 

「いやはや参ったね。僕が歯の矯正具を付けてたティーンの頃に起きた湾岸戦争がゲーム戦争(ニンテンドウウォー)だなんて呼ばれてた記憶が有るけど、CNNはこれこそを()()()ゲーム戦争と呼ぶべきだと僕は思うね」

 

 

 

 魚雷艇の艦首甲板の下に位置する、ぎゅうぎゅうに詰め込めば歩兵の1個小隊程度ならば収納出来るかもしれない位の広さの簡易ベッド付きの乗員用スペースは、自衛隊が持ち込んだ様々な機材によって今や急ごしらえの小さな移動作戦指令室に変貌していた。

 

 折り畳み式の机の上は頑丈な防護ケース入りのラップトップと通信機材で埋め尽くされ、机だけでなく壁際の簡易ベッド上の一部も同様の機材によって占領されている。

 

 特に目立つのは机の中心に設置された、ベビーベッド並みの大型画面でありながら厚み自体はポルノ雑誌を2冊重ねた程度であり、でありながらシラミの目玉ですらくっきり判別出来てしまえそうなぐらい鮮明な画質を映し出す大型液晶モニターだ。

 

 それらから延びる通信ケーブルは乗員用スペース内の機材同士を繋ぐに止まらず、開放状態の水密扉を抜けて部屋の外のみならず上部ハッチも超えて甲板上へと続いている。

 

 机上のラップトップ1台ごとに、ラフな私服姿で一応身分を誤魔化した情報科所属の自衛隊員達が着いている。

 

 ピンと背筋を伸ばしたまま画面を注視する情報科隊員達のすぐ背後に控えるのは今回の作戦の総指揮を執る江田島。彼もまた視野を広く取って情報端末の画面内に映る情報に目を光らせていた。

 

 江田島の両斜め後ろにはバラライカとキャクストンとレイも控え、3人もまたモニターを得物を睨む猟犬の目つきで注視している。

 

 モニターの画面は複数のウィンドウで区切られ、それぞれが別々の視点による映像を中継していた。

 

 

「こういうの前に映画で見た事あるよ。ほら、ショーン・コネリーとニコラス・ケイジが共演してた――」

 

「『ザ・ロック』だね。エド・ハリスがアルカトラズ島を占拠するやつ。丁度イギリス人の古強者もあそこに混じってるしピッタリだ」

 

 

 日本人の兵士はウェアラブルカメラだのアクションカムだのと呼んでいたか。

 

 ただし哨戒艇を目指してゴムボートで接近中の兵隊が身に着けたカメラから送信されてくる暗視モードの映像は映画のそれよりもずっとずっと彩度が高く、ボートと波がぶつかる度に撥ねる水滴も見分けられそうだ。

 

 机を挟んだ向かい側にも自衛隊員が2名居る。彼らもまた画面を注視しているのだが、彼らが見ている画面というのはラップトップ型の情報端末ではない。

 

 運び込んだ積み荷と乗客で一気に狭さを増した乗員用スペースに、技術者としてはどれもこれも興味を惹かれる代物ばかりを見せられて我慢出来ず興味に誘われるがまま専用の仕事部屋から抜け出したベニーと、これはマズいと思いつつもベニーと同じく興味に負けたロックがベッド側に居る2人の隊員を視界に捉えた時、ロックとベニーは思わず噴き出しそうになってしまった。

 

 それはまるで、アメコミの登場人物である目からビームを発射する突然変異の超人が能力を抑え込む為に装着する分厚いゴーグルのようだった。

 

 おまけにその手にはどう見てもゲーム用にしか見えないコントローラー。奇妙だが人類工学に基づいた曲線を多用したコントローラーには無理矢理後付けしたとしか見えないスイッチが追加されている。

 

 ゴーグルとコントローラーには甲板上から延ばされてきた通信ケーブルが接続されている。

 

 些か奇妙な姿を前にロックとベニーが怪訝な表情をしていられたのも、ラップトップの画面に映される内容を理解するまでの事だった。

 

 

「レイダー各隊。こちらシャドウボーダー(魚雷艇)。甲板上及び艦橋内に変化なし。そのまま接近を継続せよ」

 

 

 ゴーグルを装着した隊員がヘッドセットで簡潔に報告。

 

 ラップトップの画面には、そしてゴーグルの内部では、攻略対象である哨戒艇へと高速で接近する3隻のゴムボートの姿が空中からの視点で以って映し出されていた。

 

 FPV(一人称視点)ゴーグルを装着した隊員は、現在哨戒艇の周囲をゆっくりと旋回する武装ドローンのパイロットである。

 

 ゴーグルとコントローラーに繋がるケーブルの終点は、数キロもの操作可能距離を実現する為に魚雷艇の甲板へ急遽据え付けられたドローン操縦用の通信アンテナだ。ドローンのカメラから送られてくる映像を受信すると同時、パイロットが操作するコントローラーからの命令をドローンに伝える役割を持つ。

 

 魚雷艇の甲板から出撃したドローンはまず夜闇に隠れつつ、対空レーダーを海面から僅か1メートル前後という超低空で掻い潜り哨戒艇へ接近。

 

 夜間撮影も対応する高性能カメラの目で哨戒艇の見張り員や艦橋の様子を把握すると、すぐさま攻撃を開始する。

 

 

 

 

 ドローン攻撃と同時に此処まで機材と一緒に運ばれてきた日本人・ロシア人混成の乗っ取り部隊があらかじめ準備しておいたゴムボートを海上に下ろし、哨戒艇へアプローチを行う……これが江田島が考案した作戦の第1段階だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『レイダー1、接舷完了』

 

『レイダー2、接舷』

 

『レイダー3、これより乗船を開始する』

 

 

 ガスマスクを装着した兵士達を乗せた3台のゴムボートが哨戒艇の船体にピタリと張り付くように停止すると、事前の打ち合わせ予め組み立てておいた乗り込み用ハシゴを持ち上げた。

 

 ハシゴの上部には頑丈なフックが固定されていて、哨戒艇の甲板の縁や落下防止の手すりに引っ掛けるのに使う。全長が10メートル程度のゴムボートで何十倍何百倍もの排水量を持つ艦艇へ乗り込む為の必須装備だ。

 

 時間との勝負だ。数メートルばかり頭上にある哨戒艇の甲板へ乗り込み要員である兵士達が次々とよじ登っていく。

 

 2キロ離れた魚雷艇で一連の動きを見守るキャクストンとレイがほんの微かに感心の吐息を漏らした。

 

 梯子を使って別の船に乗り込むのは一見簡単そうに見えるが、重装備で不規則な波に揺らされながらとなると難易度はかなりのものであり、ある程度慣れていなければ命の危険もある。おまけに彼らは自分達のドローンが撃ち込んだ催涙弾で自爆しないよう視界が制限されるガスマスクを装着しているともなれば尚更である。

 

 これだけの動きで彼ら謎の日本人兵士(異世界の自衛隊員)集団の練度の高さを2人のアメリカ人は理解せざるをえなかった。彼らと比べ反応は薄いものの、それはバラライカも同様だ。

 

 

『こちらアベンジャー(伊丹)。レイダー1は艦橋へ向かう。セイバーとランサーとアサシンは第1デッキ上の乗組員の拘束をしてくれ』

 

 

 レイダー1を率いる分隊長は伊丹だ。

 

 レイダー2をプライスが、レイダー3をユーリが指揮している。豊富にも程がある実戦経験を踏まえ満場一致の配役。

 

 1つのボートに6~7名が分乗している。半数が特殊作戦群や西部方面普通科連隊(WAiR)といった海上作戦に長けた部隊の出身者、残り半数はバラライカの部下で編成されているが、レイダー1にだけ張が連れてきた地元出身者も混じっていた。

 

 大型ディスプレイの画面に分割表示されているウェアラブルカメラは各分隊の指揮官からのものだ。

 

 伊丹率いるレイダー1は艦首側から哨戒艇へと乗船。彼らは艦橋の制圧を担当する。

 

 催涙ガスで艦橋から追い出され、武装ドローンの銃撃も浴びた乗組員達の有様はあざに出血に顔中から垂れ流した体液で酷いものだった。にもかかわらず、死んでいる者は皆無だった。

 

 銃撃した武装ドローン――――短翼に積んだH&K・HK417ライフルに装填されていた弾薬が皇宮襲撃作戦にも使ったプラスチック製の訓練弾だったお陰だ。流血や骨にヒビが入っているらしい者も居るが、頭部に直撃弾を食らったらしい者は見当たらないので命に別状はあるまい。

 

 セイバー(剣崎)達は呻く乗組員達を足で俯せにひっくり返すと、手早く彼らの両手首を強化プラスチック製のジップタイで拘束していった。

 

 迷彩柄の化学防護服と旧ソ連軍の戦闘服の集団の中で異彩を放つ、異世界製装甲服姿の伊丹が艦橋に突入してまず行ったのはドローンが撃ち込んだ催涙弾の始末だった。

 

 未だ刺激性の煙を放つグレネードランチャー用の弾頭を見つけると、無造作に海面へ抛り捨てた。すると開け放たれた水密扉から吹き込む潮風によって、見る見るうちに艦橋内に広がる催涙ガスの靄が薄れていく。

 

 艦橋の空気が入れ替わるまでの間、下層へ通じるハッチを覗いて他の乗組員が異変を察知していないか、耳を澄ませて様子を窺う。

 

 侵入がバレた時特有の、巣を突かれた蜂達が一気に殺気立つ時に似た気配は伝わってこなかった。

 

 一方ロシア人と地元住民は薄暗い艦橋内の至る所に設置された計器類に目を走らせ―バラライカの部下達は場所柄故か、操船とはいかなくとも最低限船の計器を読むだけの知識も持っていた―異常な反応を見せている計器が無い事を確認すると、伊丹の肩を叩いてから親指を立てた。

 

 

『レイダー1は艦橋を確保した。レイダー2とレイダー3、そちらは配置に就いたか?』

 

 

 

 

 

 

 

 レイダー2(プライス)レイダー3(ユーリ)は艦尾左右からのアプローチで乗船を果たしていた。

 

 右舷と左舷に展開した隊員達の内、半数はスリングで吊っていた銃器を構え、残り半数は銃器ではなく戦闘用ベストのポーチに収めた手投げ弾を取り出し、安全ピンの輪に指を引っかけた状態で合図を待つ。工具や銃剣を使って通風孔の蓋をこじ開ける隊員も居る。

 

 ただし彼ら乗っ取り部隊の装備もまた武装ドローン同様、非致死性の弾薬で統一していた。

 

 メインウェポンはゴム弾や布製のお手玉弾を装填したショットガンだし、これから投げ込もうとしているのは閃光音響手榴弾(スタングレネード)や手投げ用の催涙弾である。中には暴徒鎮圧用に特地派遣部隊へ導入された強化ポリカーボネート製の小型盾を左腕に装着した隊員も混ざっている。

 

 

『レイダー2、準備完了(スタンバイ)

 

『レイダー3、こちらも配置に就いた』

 

 

 分隊の指揮を執る戦友からの連絡を受けた伊丹は一旦深呼吸をすると、おもむろにゆっくりと顔を護るガスマスクを上へと押し上げた。

 

 鼻をひくつかせる。鼻腔や目の表面がチクチクと若干苛まれるものの、不幸な乗組員の様に盛大に悶える程強烈な刺激ではない。

 

 艦橋内の催涙ガスは既にガスマスク無しでも耐えられる範囲にまで薄まっていた事をその身を以て確認した伊丹は、地元住民の姿を探すと彼に手ぶりで合図を送る。

 

 それを受けた地元住民もまず恐る恐るガスマスクを外し、少しばかり咳き込んでから、計器の隣に鎮座していた大型の受話器を手に取って近くのボタンを操作し、それから計器類の中でも異彩を放つ大型の赤いボタンに手を添えた。

 

 伊丹は地元住民に対し大きく頷いてから再びガスマスクを装着し直すと無線機の送信ボタンを押し、乗り込み部隊全員へ合図を発した。

 

 

「目覚ましドッキリの時間だ」

 

 

 次の瞬間、隊員達は取り付いた水密扉を一瞬だけ押し上げて生じた隙間や、船内へ繋がる通風孔へ一斉に様々な種類の鉄の筒を投げ込んだ。その中には艦橋から下層に通じるハッチへピンが抜かれた鉄の筒を放り入れた伊丹も含まれた。

 

 すぐさま水密扉を閉め直した1.5秒後、真っ先に炸裂したのは最も点火秒数が短い閃光音響弾だ。

 

 艦内各所から一斉に投げ込まれ、中国式の爆竹よろしく立て続けに炸裂した閃光音響弾は密閉空間内で起爆だったが為に、特徴的な一瞬の閃光は外へと殆ど漏れなかったものの、下手な銃声よりも強烈な轟音は哨戒艇全体をビリビリと震わせた。隊員達は軍用ブーツの分厚い靴底越しに電気の痺れにも似た振動を感じた程だった。

 

 哨戒艇の乗組員達は文字通り寝床や自分の持ち場から飛び上がった。

 

 鼓膜に痛みを覚える程の轟音が哨戒艇内で反響する中、次に乗組員達を襲ったのは非常時を知らせる耳障りなベルの音。

 

 

『弾薬庫で火災発生! 総員持ち場を離れ退艦せよ! 繰り返す! 弾薬庫で火災発生!』

 

 

 船の警報装置を作動させた元軍艦乗りの地元住民が現地の言葉で受話器へとがなり立てた。

 

 眠りから叩き起こされた乗組員は素直にその放送を信じ込んでしまった。複数個の閃光音響弾の一斉爆発の時点でただ事ではないのは間違いなく、おまけに船内には刺激性を持つ大量の煙が早くも広がりつつあったのが説得力を補強した。

 

 

「船が燃えてやがるぞ!?」

 

 

 航行中の火災は船乗りが最も恐れる事態のトップに立つ。周囲100キロに陸地という名の逃げ場が存在しない海上で起きたとなれば尚更だ。

 

 船ぐるみで悪徳に携わるような者達だ。ダメージコントロールの概念、自分の船を助けようなどという気概など、誰も持ち合わせていなかった。

 

 それでも哨戒艇の構造が体に沁みついた乗組員達は咳き込み、涙と鼻水を流し、半ば窒息寸前になりながらも、どうにかこうにか船外へ出る水密扉まで辿り着くと、這う這うの体で甲板へと這い出た。

 

 そんな満身創痍の乗組員達へ乗り込み部隊の隊員達は手荒く歓迎した。

 

 次々と甲板に引き摺り倒しては乗組員の両手首にジップタイというプレゼントを無理矢理受け取らせて回る。

 

 艦長を含め、事態を彼らが認識する頃には、PSMM-5型哨戒艇の規定乗員数である約50名の乗組員全員が拘束され、乗っ取り部隊の監視下に置かれていた。

 

 死傷者はいない。負傷者もせいぜい脱出時にぶつけたり擦りむいたりした軽傷者ばかりだ。付け加えるなら全員が目と鼻と喉の痛みを訴えているが、不徳な副業に勤しんだ結果の自業自得なので放置である。

 

 

「何なんだよコイツらはよぉ……」

 

「馬鹿野郎、ここいらであんな装備してる連中なんざホテル・モスクワしかいないだろ!」

 

 

 いち早く催涙弾の効果が収まり、ある程度視覚が復活した乗組員の目と声は明確な恐怖で揺れている。

 

 迷彩装備に完全武装の謎の集団もさる事ながら、この界隈で旧ソ連軍の戦闘服といえば真っ先に連想されるのは()()ホテル・モスクワだ。

 

 ロアナプラ周辺で裏の生業をしている者でバラライカと遊撃隊の恐ろしさを理解していない者はモグリ以下の自殺志願者も同然である。当然哨戒艇の乗組員も例外ではなく、その事を悟った乗組員は自分達の何がロシア人の逆鱗に触れたのかと震えあがった。

 

 拘束した乗組員の監視はレイダー3が担当。レイダー2はまだ船内に残っている乗組員達が居ないかの捜索を行いつつ、船内中の水密扉と窓を開け放って換気を行っていく。

 

 小型盾を装備した隊員をフロントマンに立たせ、狭い通路をクリアリングしていく手並みは重装備にもかかわらず淀みない。プライスのアクションカム経由で経過を見守るバラライカとキャクストン、行動を共にする遊撃隊メンバーは自衛隊組の練度の高さを改めて見せつけられた。

 

 レイダー1は最重要区画である艦橋をせねばならないので、哨戒艇内の捜索はレイダー2に任せた。

 

 万が一異変を察知した外部―例えば哨戒艇の雇い主である、15キロ離れた石油プラントを占拠中の聖戦士等―から無線呼びかけを受けた時、すぐに対応出来る様にという理由もある。

 

 

『こちらレイダー2。船内はクリアだ』

 

『了解レイダー2。船舶無線は静かなままだよ。この船の商売相手が異変に気付いた様子はなさそうだね』

 

『なら次は乗員の入れ替えだな』

 

「では作戦を第2段階へ移行します。待機してもらっているミスター・張を呼び出して下さい」

 

 

 魚雷艇では張に集めてもらった元海軍の船乗り達までは乗せきれないので、同じく三合会に用意を依頼した人員輸送用の船に乗った彼らには哨戒艇のレーダーの範囲外で待機させている。

 

 拘束した本来の乗組員は臨時募集の船乗り達と入れ替わりで三合会の船に移し替えられる予定だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして哨戒艇は誰にも気付かれる事無く、無頼漢と自衛隊によって拿捕されたのである。

 

 

 

 

 




ドローン操縦用のゴーグルってデザインも機能も完全にSF映画の小道具そっくりだと思います。
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