GATE:MW 外伝集   作:ゼミル

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これまで以上に遅くなりました。
ちょっと家族に色々ありましてハイ…

グダグダ書きたい事書いてたら長くなったので分割してあります。
次話は明日投稿予定。


皆様の反応・感想が作者の糧となります。


Knockin' on Warfare Gate35

 

 

 

 

 

 哨戒艇からの人員乗せ換えは暗夜の下で行われた。

 

 強過ぎる光源を使ったせいで海上石油プラント側に異変を察知されるリスクを避けたかったからだ。

 

 三合会が用意した船員を乗せた、同じく三合会が用意した船は哨戒艇の半分程の全長である小型貨物船だった。クレーン付きで甲板中央のハッチから船倉の積み荷を直接吊り上げて運び出せる。甲板上を武装した何人もの三合会の黒服が立っていた。

 

 貨物船と横並びにここまで乗り込み部隊と武装ドローンを運んできたラグーン商会の魚雷艇も近付いてくる。

 

 艦橋部のデッキに出た伊丹がIR(赤外線)ライトを点滅させれば、魚雷艇と貨物船は哨戒艇を挟み込む形で左右に分かれた。どちらの船にも暗視装置を装備した自衛隊員が乗り込んでいた。

 

 灯された作業用照明は必要最低限に留められていたがこの手の闇夜での操船に慣れているのだろう。魚雷艇のダッチに貨物船の船長と乗組員は滑らか且つ慎重に哨戒艇の隣へ船を寄せると、すぐさま魚雷艇と哨戒艇、哨戒艇と貨物船の間の空間を何本ものもやい綱が飛び交い、船同士を繋ぐ。

 

 続いてラッタルも掛けられるや、まず魚雷艇の移動司令室から抜けてきた江田島が哨戒艇へと乗り移った。

 

 その反対側では哨戒艇から貨物船へと水兵服と士官服姿の本来の哨戒艇の乗組員が、後ろからはソ連空挺軍姿の兵隊に小突かれ、前からは三合会の構成員に急かされながらすごすごと下船していく。

 

 外のハシゴを上って艦橋までやって来た江田島を伊丹は目礼で迎えた。最初にラグーン商会の乾ドックへ姿を現した時とは違い、階級章といった立場を示す徽章の類を一切合切除いた半袖開襟の海上自衛隊3種夏服へ装いを変えているのは海自の船乗りとしての矜持からか。

 

 

「ようこそ江田島さん。今からコイツが江田島さんが指揮する船になります」

 

「ご苦労様です。こちらの要望で貴方達に骨を折って頂いてしまいましたね。今度はこちらが働きで返す番です」

 

「江田島さん位の立場になると、この手の船を指揮するのは久しぶりなんじゃないですか?」

 

「そうですねぇ。肩の線が増えるにつれて海の上(海上艦)ではなく海の中(潜水艦)で過ごす方が長くなってしまいましたから、初心を思い出して力戦奮闘させて頂きますよ」

 

 

 おもむろに江田島は艦橋を見回した。中に飛び込んできた催涙弾に乗組員が燻り出された際の混乱で、艦橋の床には海図やら書類やらポルノ雑誌やらが散乱していた。

 

 中には空になったビールの缶と瓶まで何本も転がっているのを捉えた江田島は、彼にしては珍しくほんの僅かに憤懣やるかたないと言いたげに溜息を吐いて肩を落とすと、

 

 

「その前にまずこの場を片付けましょう。前の持ち主達は船乗りの鉄則である整理整頓というものを忘れてしまっていたようですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 江田島と伊丹が操船に必要な書類を整理し、嗜好品の類は尽くゴミ箱に放り込んでいく間、接舷し合った3艘の各所でも活発な動きが生じていた。

 

 貨物船のハッチが開き、露わになった船倉へクレーンから垂れ下がったワイヤーが下ろされていくと、先端のフックと積み荷である小型コンテナへと掛けられ、ゆっくりとコンテナを引っ張り上げていく。

 

 小型コンテナは先程まで拘束された乗組員が集められていた、哨戒艇後部の40ミリ単装機関砲塔とデッキの間の甲板部へと慎重に降ろされた。すると先んじて乗り込んでいた自衛隊員がコンテナからフックを外し、クレーンを操るオペレーターへ切り離し完了の合図を送ると、コンテナの扉を開けた。

 

 コンテナの中身は幾つもの大型の防護ケース。それらを運び出した自衛隊員はケースの中身も外へ取り出し、手慣れた様子で甲板上で組み立て始めた。ケースに入っていた機材の一部は更に上部のデッキにも運ばれていく。

 

 数十分後、船舶無線用のアンテナと水上レーダーを備えた哨戒艇のマストには、外装に直付けする形で新たなアンテナが出現していた。

 

 積み荷だけでなく人員も哨戒艇へ移っていく。現地住民、ロシア人、日本人。人種も立場も多種に渡る。

 

 その中にはルマジュールも含まれていた。哨戒艇へ乗り移る人々の中で黒スーツを纏っているのは彼女だけだった。

 

 旧式の哨戒艇に似つかわしくない使い込まれた、だが明らかに場違い過ぎる程の最新技術が詰め込まれていると見て取れる機材の搬入光景を小柄な拳銃使いが足を止めて眺めていると、おもむろにその首へ腕が巻き付いた。

 

 腕の主がレヴィと分かると、狩りの前の狼を思わせる鋭い目つきだったルマジュールの気配は目に見えて和らいだ。

 

 ロアナプラでは新顔の部類に入るルマジュールにとってレヴィは様々な意味での恩人である。説得され、命を救われ、この街についてのあれやこれやも仕込んでくれた女ガンマンの先達をルマジュールは(ねえ)さんと呼び慕っている。

 

 

「よう。なぁに黄昏てやがんだ」

 

「あっ、姐さん。それにロックの兄さんも」

 

「やあルマジュール。陸じゃ急いで出港の準備を整えなきゃいけなくて挨拶してなかったからね」

 

「こっちこそ姐さんとロックさんの所に挨拶に行けなくて申し訳ないっす」

 

 

 暗いせいか、ルマジュールのトレードマークである黒スーツが普段とは少し違うようにロックは感じた。

 

 

「気にすんな。それよか聞いたぜぇルマジュール、このオモチャの兵隊(トイ・ソルジャー)どもとツルんで仕事してたんだって? 一体全体どうやってこんなGIジョーも真っ青の連中を引っかけたんだ?」

 

 

 レヴィとロックの視線がルマジュールと同じく、テキパキと作業をこなす自衛隊員へと向いた。

 

 姉貴分の問いにルマジュールは何とも言えない表情を浮かべながら革手袋に包まれた指先で頬を掻く。

 

 

「引っかけた引っかけられたってレベルじゃないっすよ。街を歩いてたらとぼけたツラした街の外から来たお上りさん丸出しの安リーマンに絡まれて、そのまま気が付きゃ装甲車に乗せられて街の案内役やらされる羽目になってたんす」

 

「仕事貰えたんなら良かったじゃねぇか。いきなり車に引きずり込まれて下の穴に粗末な()()突っ込まれた挙句、()()()()()()()()()()路地裏に捨てられておしまいよりゃ100倍上等だぜ」

 

「確かに払いは良いっすけど、それ以上に厄介事の塊なんすよぉ。姐さん達だってとっくに気付いてっしょ?」

 

「それは……まぁうん、分かるよ。彼らの戦力も装備も統率も()()()()おかしい事はね」

 

 

 哨戒艇に運び込まれる機材やそれらを各所に設置し組み立てていく隊員、また先程まで哨戒艇鹵獲作戦に参加していた兵士達を視界に収めながら、ロックもルマジュールの意見に同意する。

 

 戦闘用の化学防護装備だという迷彩柄の化学服を着た男達は、甲板の片隅で水浴びの真っ最中だった。水と圧縮空気のタンクを背負った別の兵士が、手にしたノズルから噴き出す水を順番に迷彩スーツへ浴びせて回っている。

 

 何をしているかといえば哨戒艇の乗組員制圧に使った催涙ガスの残滓を洗い流しているのだという。

 

 化学防護装備を着ていない者が防護装備の表面に残った薬剤で被害を受けてしまうのを防ぐ為だ。ガス等の化学兵器が使われた戦場に於ける必須の作業である。対ガス訓練に慣れた自衛隊員達により、同様の作業は催涙弾が投げ込まれた区画を中心に哨戒艇のあちこちでも行われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ベニーも唸る程の尋常ではないスペックを誇る通信機器。

 

 ハリウッドのSF映画が現実になったかのような空飛ぶ武装ロボット。

 

 如何に油断し切っていたとはいえ、現役の軍艦を短時間で鹵獲してしまう極めて練度の高い兵士の集団。

 

 それらのどれもこれもが、メイド共々ロアナプラの裏社会を混乱の渦に叩き込んだ米軍特殊部隊を率いていた指揮官すら驚嘆させる代物揃いときている。

 

 ()()米軍の人間ですら、だ――――世界一の軍事大国の現役軍人が、ずば抜けた技術と練度によって成り立った集団であるという点以外に何も分からないと断定した、正体不明の組織。

 

 よくもまぁバラライカ(ホテル・モスクワ)(三合会)は、こんな何処からやって来てどうやってロアナプラに突如現れたのか分からない、怪しいにも程がある連中と手を組めたものだ。

 

 おまけに両者とも妙に謎の秘密部隊を率いている指揮官らしい、ロックの目から見ても冴えないサラリーマン風の男を妙に気に入ってる様子を見せている。

 

 しかも彼らはロシア人とイギリス人が1人ずつ混じっているのを除けば、全員が日本人なのだ。同郷である筈のロックとルマジュールだからこそ、その衝撃は他のロアナプラの住民よりも一際大きい。

 

 レヴィも同じ疑問を抱いていたようだ。

 

 

「ロックよぉ、あの連中お前ん所の国から来た兵隊だろ。二ホンの軍隊って皆コイツらみたいなサンダーバードの主人公もビックリのオモチャ使って余所の軍隊にもお構いなしにケンカ吹っ掛けるような特攻野郎Aチームの集まりだったりすんのか?」

 

「そんなわけないだろ! どちらかと言えば近いのはあの作品に出てくる救助隊の方だよ」

 

 

 自衛隊という組織に関してロックの脳裏に思い浮かぶのは、日本を離れる前に西の大都市で起きた巨大地震や首都で発生したカルト集団の地下鉄テロでの救助活動の様子をブラウン管越しに眺めた記憶だ。懸命に崩落した建物から要救助者を探し出し、その場で懸命な救命行為を行う迷彩服姿の自衛隊員は何度もテレビに流されたものである。

 

 逆に言えば、当時一般に流れる具体的な自衛隊の活動内容といえばその程度にとどまっていた。国防の楯としての自衛隊の役割と働きがクローズアップされ日本国民に周知されるようになるには、(原作当時の年代)から更に四半世紀近い時間が必要だった。

 

 少なくとも伊丹達が持ち込んだ装備の数々はロックとルマジュールが母国に居た頃見た自衛隊の活動映像には登場した事が無い装備ばかりだ――――大半が未来で開発された機材ばかりなのだからそれも当然である。

 

 

「他だと……戦国自衛隊?」

 

「アタシの中じゃゴジラのやられ役っすね」

 

「何だって?」

 

「いや今のは忘れてくれ。そもそもの話、僕もそこまで自衛隊について詳しいワケじゃないけど、日本の自衛隊は正確には軍隊じゃなかった筈だ」

 

「ハァ? 冗談だろ。迷彩服着て銃持って戦車乗り回してんだぞ。どっからどう見ても立派な軍隊(アーミー)じゃねぇか」

 

「そりゃそうだけど、日本という国は憲法9条という法律で他の国と戦う為の軍隊を持ってはいけないしその権利も持たない、だったかな? とにかくそういう法律が日本には在るんだ」

 

 

 ロックが教えた内容に対してレヴィが見せた反応は、開いた口が塞がらないと言わんばかりに目をでんぐり返すというものだった。

 

 

「んだよその法律バっっっっかじゃねぇか? NY市警のマッポから散々やっちゃいけないリスト聞かされちゃきたが、弾まないピクルスを売っちゃいけない決まり以上にアホみたいな法律なんざ初めて聞いたぜ」

 

「そういうお国柄なんすよ姐さん。日本ってのは()()()()()なんです」

 

「そうだ。その筈……なんだけど」

 

 

 じれったそうにロックは頭を掻きむしった。

 

 ロックからしてみればあまりにも彼ら(伊丹達)についての情報が足りない……という表現は語弊がある。

 

 むしろ逆だ。具体的な立場や所属は決して明言しようとしないが、それ以外の部分はむしろあけっぴろげと言ってもいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 武力、手札、スタンスを遠慮なく誇示しているものだから、情報過多のあまりロックは伊丹達の正体を図りかねていたのだった……

 

 




※弾まないピクルスの販売を禁止する法律は実在します。
レヴィの地元NYのご近所さんであるコネチカット州の法律です。



昭和~平成初期と平成後半以降で創作物での自衛隊の扱いが全く違う辺りに当時(特に昭和)自衛隊がどれだけ偏見の目で見られていたかよーく伝わってきます(多分大体はマスコミ・テレビ業界の左回り連中のせい
いや右側の方も大概だったですけどね(汗
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