GATE:MW 外伝集   作:ゼミル

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待たせた上に短くて申し訳ありません(土下座


Knockin' on Warfare Gate37

 

 

 

 乗員と積荷の載せ替えが終わると三合会の貨物船は去っていった。

 

 哨戒艇の鹵獲はあくまで下拵えの前哨戦に過ぎず、特攻部隊によるロアナプラ壊滅を賭けた作戦はこれからが本番だ。貨物船と再び合流するのは最重要アイテムの文字通り放射能のゴミから拵えられたダーティボムの回収に成功した後になる。

 

 ラグーン商会の魚雷艇もこの後の本番に参加する為に、哨戒艇の船体側面へとほぼ密着する形で停泊状態を維持していた。

 

 こうしておけば復讐心とクスリでイカれに怒れた父親ことソロモン何某率いる聖戦士どもが海上レーダーなりを運用していても、魚雷艇は倍以上の全長を有する哨戒艇に遮られるので向こうから見えるのは哨戒艇ただ1隻のみ。今のラグーン商会はいわば魚雷艇の姿をした透明人間という訳だ。

 

 そんな魚雷艇の乗組員であるロックは自分達の船に戻らず現在も哨戒艇上に居た。

 

 本番となる作戦は夜明け頃にロアナプラへ使用予定のダーティボムを積んだソロモン配下の密輸用貨物船が聖戦士が無断で居座った海上プラントに合流したタイミングで同時に叩く計画だ。

 

 その際、無頼漢と運び屋とソ連軍の亡霊と米軍の現役軍人と日本人ばかりの謎の武装集団という、呉越同舟と例えるのも烏滸がましい混合部隊は役割毎に4つの集団に分かれる編成を取る。

 

 まず海上プラントを担当する歩兵部隊。コールサインはアルファ。伊丹指揮下の自衛隊員中心で編成されている中にキャクストンとレイの米軍組が混じる形だ。ゾディアックに分譲して目標施設へとアプローチを行う。

 

 次に貨物船を担当する歩兵部隊。こちらのコールサインはブラボー。バラライカ率いる遊撃隊主体に武装集団からイギリス人とロシア人他、自衛隊員も数名が加わる。

 

 ブラボーを貨物船まで運ぶのがラグーン商会の役回りだ。これまでの運び屋稼業で刻んできた最速記録を塗り替えんばかりに一等かっ飛ばしてバラライカ達を送り届けた後は、貨物船とプラントの周りを駆け巡って遊撃して回る予定。コールサインもそのまんまラグーンだ。

 

 最後に哨戒艇。魚雷艇からより大型なこの船へ移転した移動指揮所はシャドウボーダーのコールサインそのままに、情報収集のみならずより大規模な火力支援を担当する手筈となっている。

 

 不良軍人から取り上げたこの船は、同時に作戦の成否を左右する重要な役割も演じる予定だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 本番開始まであと1時間程といった時分か。漆黒の水平線は未だ明るみそうにない。

 

 哨戒艇に乗る者達は今も忙しなく作戦準備に動き回る者達と、後部甲板に集まって待機している者達に二別されていた。

 

 前者は哨戒艇の操船を担当する船乗りや情報管制等を担当する後方支援要員である。

 

 哨戒艇の乗っ取りにも使い、この後の本番でも欠かせないゴムボートを改めて点検している者が居れば、哨戒艇備え付けの兵装で潮風を浴びて所々表面に錆が目立つM2重機関銃の動作確認に余念が無い者も居る。

 

 その多くが例の武装集団に属する日本人であり、ロアナプラに屯する規律のきの字と無縁な十把一絡げの荒くれ者とは真反対の、キビキビと規律だった作業工程と背筋の伸びた彼らの物腰はやはり統制の整った軍人の()()だと、横目で観察していたロックは改めて確信していた。

 

 

「しかしこれだけの装備を時間もなかっただろうによくもまぁ」

 

 

 哨戒艇に移動した支援要員の日本人達も、万が一この後の作戦中に核廃棄物の容器が破損した場合の汚染に備え、今は哨戒艇乗り込み部隊が着込んでいたのと同じ迷彩柄の化学防護服を纏っている。

 

 意外というか、気前が良いというか。この異様な日本人武装集団はご丁寧にも三合会に集めさせた現地徴用の船乗り達の分まで防護服を用意していた。

 

 よくもまぁ化学防護服などというこの国の軍隊でも数を揃えるのに手間がかかりそうな代物をこの短時間で、それも自分達の分だけでなく他人の分までこれだけの数をどこから持ってきたのやらと、疑問も驚嘆も尽きない。

 

 彼らの分はのっぺりとした鼠色をしていて、日本人達が主に着ている迷彩柄の方と比べると野暮ったさを感じさせたが、汚染に対する防御力に差は殆ど無いという。

 

 この作戦が三合会とホテル・モスクワが総力を挙げての共同戦線を張らなければならない程の厄ネタであるととっくの昔に理解していた賢明な彼ら船乗り達は、日本人達の申し出を2つ返事で受け入れた。

 

 初めて着た化学防護服の風通りの悪さ(毒ガスや汚染物質の粒子1粒も通さない為の装備なのだから当然だ)に船乗り達は早くも辟易した様子で、船乗り達は悪態を吐きながらしきりに額や首筋に浮かんだ汗を拭う姿が目立つ。

 

 ロックは以前ケーブルテレビで見た、猛毒のウィルスだか化学兵器が流出したとかいうプロットのハリウッド映画を思い出した。軍艦のあちこちで迷彩柄と鼠色の防護服姿の男達が動き回る光景は、汚染された田舎町を軍が隔離する場面を彷彿とさせた。

 

 

 

 

 

 

 実は防護服提供の申し出はラグーン商会も受けている。

 

 が、彼らは彼らなりの理由から申し出を辞退していた。

 

 

『もし仮に俺達がここでくたばる運命だとしたら、まず猛毒のクソじゃなくキャビンに飛び込んできた銃弾だか砲弾だかのせいでそうなるのが先だろうよ。ならそんな御大層なスーツの世話にならなくても大差はないさ。気持ちだけ受け取っとくぜ』

 

『僕もダッチと同意見だね。死刑場への道(グリーンマイル)を往かなきゃならないなら普段通りのお気に入りの格好で往く主義なんだ。

 そもそも要はそのスーツの世話になるような事態になる前に終わらせてしまえば良いだけの話なんだからね。そうだろう?』

 

『あぁん? 誰が着るかよンな極厚コンドームのお化けみたいなもん。動きが鈍っちまう。

 それとも何か? アタシがどこぞのですだよみたいにドレス着て厚化粧しなきゃ鉄火場に飛び込めないようなヤツに見えるってのか、おお?』

 

『待て待て、彼らは善意で申し出てくれてるんだから噛み付くなってばレヴィ。

 ……え、僕? 申し出は有難いですけれど、放射能よりも着慣れていないモノを着ているせいで咄嗟に逃げたり隠れるのが遅れてしまう方が僕には死活問題ですので……ええ、はい、すみません』

 

 

 そうそう。装備といえば日本人達がロアナプラの悪党どもの為に用意してくれた装備は、ラジコンの物騒な化け物みたいな代物や対放射線汚染の他にも色々な物があった。

 

 喧嘩腰な態度を見せたレヴィも、今頃は日本人達が貸してくれる事になったおもちゃの具合を鼻歌でも奏でながら確かめている最中だろう。

 

 前部甲板の方で自衛隊員が槍投げのようなフォームを取っているのをロックの視界が拾った。

 

 軽く助走をつけて、翼の端から端まで子供の背丈ほどもある特大のブーメラン状の物体が隊員の手から投じられる。

 

 海上へと投じられた存在――――未来では2011年に運用が開始されるJUXS-S1と呼称される全翼機型の偵察ドローンはバイブレーターの振動を思わせる動作音を発しながらふわりと高度を上げ、夜の虚空へとあっという間に姿を消した。

 

 宇宙服モドキから剣呑過ぎるラジコンまで、まるで物騒な兵隊向けにカリカチュアされたオモチャ専門店(トイザらス)みたいだなと、ロックは彼らに感嘆させられてばかりだ。

 

 

「本当に何者なんだろうな、彼らは」

 

 

 思わずそんな言葉が口から漏れてしまう程に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本番に備えての用意に動き回る者達とは対照的に、あまり動きを見せず後部甲板に集結している男達は貨物船と海上プラントに乗り込む戦闘要員だ。

 

 身に着けていく装備と武器に不具合が無いか、装備品に抜けが無いか確認を終えた彼らは仲間内で雑談に興じて緊張を和らげたり、その場に腰を下ろして静かにその時を待っている。

 

 ロックの視線が後部甲板の最奥に立つ2人の人影へと吸い寄せられた。

 

 片や愛用のミリタリーコートの下を高級ブランドのレディーススーツから遊撃隊の部下達と同じ旧ソ連空挺部隊の戦闘服へと装いを変え、金の星の帽章が縫い付けられた青のベレー帽に生気の薄いブロンドの髪を押し込んだバラライカ。

 

 片や日本人達と同じく森林迷彩の化学防護装備の上から各種弾薬と個人装備を多数収納した戦闘ベストを装着し、腰にガスマスクをぶら下げた確かプライスという名前のイギリス人。

 

 

「――――――――」

 

「――――――――」

 

 

 暗い海上かつ若干距離があるせいもあってロックの位置からでは2人が何を話しているのか、そもそも会話をしているのかそれとも無言で佇んでいるだけなのかすらの判別すらつかなかった。

 

 しかし性別の差はあれど、見るからに過酷な戦場を戦い抜いた古強者の気配を振りまく2人が並び立っているのである。

 

 それだけで生命の存在を許さぬ絶対零度の真空空間じみた領域が形成されているようで、イギリス人の仲間の日本人兵士達やバラライカの部下の遊撃隊は遠巻きに成り行きを見守る事しか出来ずにいるらしい。あの副官ボリスですら、だ。

 

 興味を惹かれはしたが。流石にそんなおっかない空間へ物見有山しに近付く度胸はロックは持っていなかった。詮索屋の自覚はあったが蛮勇を犯すつもりはない。

 

 視線を後部甲板から外してぐるりと哨戒艇の船上を改めて見回した。

 

 今度は薄闇の中でオレンジ色の小さな光が灯ったのをロックの瞳孔が捉えた。

 

 後部甲板から1段上の高さに位置するブリッジの裏手、レーダーマストの根元で1人一服していたのは伊丹だった。マスト周りでの作業は終わっているのか彼の周囲には人が居ない。

 

 ロックにとっては艦尾方面で佇むソ連軍の亡霊と髭面の老兵よりかは、ずっと気圧されや気後れを感じさせない人物だ。

 

 

「物は試しに当たって砕けてみる、か?」

 

 

 己に言い聞かせるように嘯いて、ロックは伊丹が佇んでいる場所へと上がる為のハシゴへと歩み寄る。

 

 

 

 

 

 ラグーン号の甲板に居たレヴィは伊丹の下へ向かい話しかけるロックの姿を発見し、あのバカの悪い癖が出たと云わんばかりに肺の中身を大きく吐き出し、額を押さえて夜空を仰いだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――そしてロアナプラは夜明けを迎え。

 

 

「江田島二佐。目標A(海上プラント)に接近中の貨物船をUAVが発見しました。船体の特徴と表記された船名から情報にあった目標Bに間違いありません」

 

「分かりました。全要員へ通達をお願いします――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 悪徳の都の存続を賭けた戦いが今、始まる。

 

 

 

 

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