風邪の後遺症で持病の喘息が悪化気味なのとMWⅢの具体的なストーリーが未だに明らかにされない期待と不安で胸がアレでコレな状態なので初投稿です。
皆様の反応・感想が作者の糧となります。
「ボス。パキスタンからの船が到着しました。
部屋の外で護衛に立っていた部下がソロモンに呼びかけた。海上プラントに配置された戦力の多くを占めているのはソロモンが集めた者達だ。
ソロモン独自の考えとして、身を護る為の備えに糸目をつけるべきではないという方針を取っている。チンピラ時代に買ったばかりだった
復讐に全霊を傾ける以前から、抗争相手に限らずフィリピン軍にも対抗出来るだけの装備を片っ端から搔き集めていた。中には軍や警察でもほとんどお目に掛からない
臨時の墓標を離れて外へと出る。水平線を照らし始めたばかりの朝焼けが瞳孔に突き刺さってソロモンは目を細めた。
掘削技術者の代わりにソロモンが用意した手下と幾何かの聖戦主義者が居座った海上プラントは、貨物船の到着によって早朝にもかかわらず喧騒が訪れていた。
補給船から海上プラントへ積み荷を移す為の大型クレーンが唸りを上げ、吊り下げられたコンテナや機材を脇や背中に銃を提げた男達が誘導を行う。放棄された海上構造物に滞在する為の生活物資以外に、火気厳禁の注意書きが掛かれた武器弾薬の箱や航空燃料用のドラム缶があちこちに積まれている。
海面から数十メートルの高さに位置する通路を歩いていると、潮気と鉄の入り混じった臭いがソロモンの鼻を擽った。
頭を落下防止の柵の外へと向ければ、鋼鉄の大型構造物を支えられる程巨大な浮力タンクのほんの目と鼻の先に錨を下ろした貨物船が目に入る。
全長100メートル強の中型貨物船。露天でコンテナ積みも可能な観音開き式の甲板を備えたタイプで、今は海上プラントへ積み荷を移す為にその機構が展開され、内部船倉の様子が高所に居るソロモンから見下ろす事が出来た。
貨物船と海上プラントの周りでは何台もの小型のモーターボートがまるで獲物を包囲するサメの集団の様に海面を走り回っている。どれも武装した数人の戦士を乗せたモーターボートの群れは実際にはその逆で、積み荷の移し替えで身動きが取れない貨物船を守っているに過ぎない。
貨物船上の各部にもAKだの
そちらは主にクーフィーヤを頭に巻き付けた戦闘服という姿で統一されており、イスラム過激派の聖戦士の所属である事を示している。
かのような厳戒態勢と小規模な陸上競技なら行えそうなだけのスペースを持つ船倉に反して、中に置かれていた積み荷はたった数個のコンテナだけだった。
だが
「ヤツは何処に居る?」
「食堂でボスを待っています……ボス、
負の感情を押し殺している事がありありと滲む声でソロモンが問うと、部下も警戒を隠さぬ声色で告げた。
貨物船の方では船倉内へと垂らされた会場プラント側クレーンのワイヤーが、作業員の手によって念入りにコンテナへと掛けられている最中だった。
固定完了の合図を受けたクレーン操作のオペレーターが移動を開始する。ゆっくりとコンテナが船倉の床から離れると、
「来たな」
ソロモンを待ち構えていた日本人が発した声もまた穏やかならざる響きを帯びていた。
大きく後退したM字型の生え際といい、前が留められていない戦闘服から突き出た腹といい、一見似合わない仮装をした冴えない中年太りの男だが、細められた白目から漂う眼光はソロモンとはまた別種の血みどろな鉄火場を生き抜いてきた者達にしか放てない冷酷さを帯びている。
虚偽を一切認めぬ口調で以って護衛を引き連れた日本人は問い質した。
「お前さん、
ソロモンの返答は舌打ちだった。言葉を交わす事も忌々しいと雄弁に語る剣呑な目を日本人へと向けるばかり。
「お前さんは俺達がレバノンやアフガニスタンから呼び寄せてロアナプラに潜伏させていた戦力どころか、よりにもよってパキスタン軍の同志から入手した貴重な
その結果が何だ、兵隊の殆どが返り討ちに遭いヘリまで撃墜された挙句、
失策だ。幼稚園に通う子供でも理解出来る無用の大失敗だ。
「大方自分の息子を殺した仇を
家族の――――日本人の口からその単語が出た瞬間、ソロモンのこめかみが痙攣した。
図星か。頭痛を堪える様に細い眉根を歪め、眉間を揉んだ日本人の口から重い溜息が漏れる。
(ヘタに下手人の具体的な情報を教えちまったのは失敗だったか)
同時にこうも思う。俺という奴は
「今回運んできた積み荷が此処に届いて計画通り散布に成功すれば、お前さんの息子を殺したあの街の人間は数日の間に放射能の毒に犯されて悶え苦しみながらくたばってただろう。
だが辛抱し切れなかった結果がこのザマだ。今頃俺達の計画書を見つけたヤクザどもは火事に追い立てられたネズミ宜しく街から逃げ出す傍ら、以前宜しくアメ帝に白紙の小切手を切らせる算段を弾いてる――」
途中で日本人は考え込む素振りを見せると、以前の苦い経験から別の推測を付け足した。
「それとも
「だったら望むところだ。今度こそ息子が味わった苦痛の1000倍を与え、どれだけ罪深い事をしたのか
闇より昏く、マグマよりも煮え滾る憎悪でソロモンの瞳が輝きを発する。
危険な光だった。この土地で失ったかつての同志も同じ輝きを……復讐の炎を宿し、最後は制御出来ずに危うく多くの同胞を半ば道連れに導く形で自らを焼き尽くした。
だから日本人――――志を共にする者達からはタケナカと呼ばれる聖戦士を率いる指揮官は、首を横に振る。
「
「計画は続行だ。あの街の野良犬どもを雇ったアメリカ人どもも同罪だ! ヤツらにも報いを受けさせる、絶対に、
「……こっちが用意したアフガン産の麻薬を自前の売買ルートを持つお前さんが、ロアナプラ以外の方々でも捌いてくれたお陰でヘリや放射性物質を手に入れられるだけの金を調達出来たのは事実だし、同じルートを使って街の連中の目を掻い潜って兵隊やシェルターを立てる為の資材を直前まで気付かれずにあの街へ運び込めたのもお前さんの働きがあってこそだ。
だがな、それとこれとは話が別だ。
ソロモンさんよ、アンタが勝手に動いたせいで無駄死にしたのはオタクがフィリピンから呼んだ自前の部下じゃないんだ。大義の為の戦いに俺達が集め、もし計画発動前にこちらの存在に感づいたあの街の犯罪者どもが武力闘争を仕掛けてきた場合の備えとして置いていた
それをアンタの暴走で――――」
「何が大義だ! 大義なんてクソッ喰らえだ!!」
次の瞬間、激情を弾けさせながらソロモンがタケナカに跳びかかった。タケナカが連れていた護衛が反応出来ない位の身のこなしと剣幕であった。
さながら猛牛宜しくソロモンの巨体がタケナカへと襲い掛かり、放置されたテーブルを撥ね飛ばしながらソロモンが掴みかかった勢いに押され、タケナカの背中が食堂の壁へと激突する。
腕も太ければ指も太い麻薬王の両手が使い古された戦闘服の胸ぐらを鷲掴みにしながら絞り上げると、タケナカが履く戦闘靴が地面から10センチばかり浮き上がった。背中と襲った衝撃と喉元を襲う圧迫感にタケナカの口から呻きが漏れる。
遅ればせながらタケナカの護衛が慌てて提げていたAKの銃口をソロモンへ突きつけようと身構え、タケナカ側の動きを阻止しようとソロモン側の人間も武器を持ちあげた。
破局への連鎖反応を寸でのところで止めたのは、締め上げられ続けながらも声を張り上げたタケナカだった。
「止せ! 銃を下ろせ!」
「し、しかし司令官」
「命令だ、いいから銃を下ろせ! 俺は大丈夫だ!」
息苦しさに眉根を歪めながらもタケナカが繰り返すと、渋々といった様子ながらも聖戦士達はAKを下ろす。それを見てソロモンの部下も持ち上がりかけだった銃口ををゆっくりを下へ向け直した。
「お前達余所者がほざいた大義とやらのせいで只の学生だった俺の息子はおかしくなった挙句、どことも知れないジャングルの中でアメリカが雇ったチンピラの手で焼け死んだんだ!」
浅黒い肌をドス黒く染め、歯を浮き出しに吼えるソロモンの顔は、狂った獣以外の形容詞が見つからない表情をしていた。
「本当なら貴様達もこの手で生きたまま手足を引き千切って上と下の穴に詰め込んでやりたい所だがな、それを我慢して手を貸してやってるんだ。
いいか、2度と俺の前で大義だの聖戦だの2度とクソっ下らない単語を出してみろ。生きたまま手足をもいだ上で火にかけて、あの日死んだ息子が受けた焼け死ぬ苦しみを貴様にもたっぷりと味あわさせてやる! 分かったか!!」
タケナカは、己が同じ失敗を繰り返した事を悟った。
自らの手で同志と思っていた仲間を撃たざるをえなくなった時もタケナカは大義を口にし、そして説得は失敗したのだ。
全く俺ってヤツは――――そう自覚してしまうと、自然とソロモンに抵抗する気力が手足から抜け落ちていった。
「……分かったよ。すまなかったな、謝るよ。オタクは息子さんの復讐の為だけに俺達に手を貸す。そういう関係だったな」
文字通り人生に疲れ切った中年男性にしか見えない雰囲気になったタケナカが詫びると、幾分冷静さを取り戻したソロモンの手がタケナカの胸元から離れた。戦闘靴の底が床と感動の再会を果たした。
タケナカとソロモンの間だけでなく、両者が伴った護衛達の間にも広がっていた一触即発の空気が僅かながら緩んだその時、食堂の扉が激しく叩かれた。
入ってきたのはタケナカ側、クーフィーヤを頭に巻いた聖戦士。
「司令官。至急来て頂けますか!」
採掘塔を除くと海上プラントで最も高い階層までタケナカとソロモンを案内してくるなり、戦闘員は双眼鏡をタケナカへと手渡した。
「あちらです。あの方角、我々が番犬に雇った拝金主義者の船がこちらへと近付いてきています。船からは煙が上がっています」
「何だってぇ?」
訝しげにタケナカが指差された方角へ双眼鏡を向けてみれば、確かに乗員区画のハッチ等から上部構造物の大部分を覆い隠さんばかりの白煙に覆われた船……金で雇った汚職軍人が乗る近隣海軍の哨戒艇が海上プラントの方へと、ゆっくりとした速度で接近しつつある。
海上プラント側から見て哨戒艇の接近コースは、艦体の側面をゆっくりと見せつける様に緩い弧を描く機動だ。
「無線の呼びかけには応じてるのか?」
「はっ。
実際戦闘員が手にした無線機は日本人のタケナカには母国語よりも耳馴染んだアラビア語や英語、ソロモンの母国語であるフィリピン語でもない
「やれやれ、何時だって異文化交流の最大の壁は言語の違いって訳だな」
首を横に振りながら、タケナカは再び双眼鏡を覗き込んだ。
潮風が吹き、一瞬哨戒艇を覆う煙が薄れた拍子に朧気ながら上部構造物の詳細が見て取れた。
人影が見えた。消火活動かそれとも逃げ出す準備をしている乗組員かと思ったが、南国の船乗りにしては
タケナカの脳裏で本能的な警鐘が激しく鳴った。哨戒艇の船体を改めて観察し直す。
双眼鏡の焦点を哨戒艇の前半分へと合わせ直した時だった。
タケナカが目撃したのは哨戒艇の前部甲板に搭載された76ミリ速射砲の砲塔が稼働し、砲口が海上プラントへと向けられ、突きつけられた筒先が煙と閃光を放ったまさにその瞬間だった。
「全員伏せろ!!!」
――――衝撃波が、海上プラントを揺さぶった。
次回、決戦開始。