活動報告の方で年末特別編のネタ募集を行いますんで皆様気楽に御参加どうぞ~。
皆様の反応・感想が作者の糧となります。
突然コンテナ上に出現した赤黒の存在は、シルエットとしてはスマートだがそれでも全体的に厳つい全身鎧姿からは意外な程身軽な動作でその場から飛び降り、聖戦士達の一斉射撃を逃れてみせた。
「敵は単独だ! 制圧射撃で頭を押さえながら包囲して数の差で押し潰せ!」
タケナカの指示を受けて聖戦士が攻勢に動いた。特にアッラーへの信仰心と西側諸国への憎悪に篤い、殉教的精神に満ち溢れた何人かのアラビア人がAKを乱射しながら突っ込んでいく。
赤黒の鎧の男――――伊丹の動きはタケナカ達の予想よりもずっと速かった。
周囲を掠めていく大量の銃弾に思わず「うへっ!?」などと小さく悲鳴を漏らしながらも―歩兵用の弾丸程度、炎龍の鱗は掠り傷も満足に付けられずに弾いてみせると分かってはいても、それはそれとしておっかないものはおっかないのだ―
飛び降りて火線から逃れた伊丹は出力を抑えたブーストを発動させて滑るように側面へ移動。放置された採掘機材やパイプが積まれた一画へ身を隠し、聖戦士が敷こうとした包囲網の更に外側へ既に逃れていたのである。
僅かに体を斜めに傾けて露出させ、M27IARの銃身側面を遮蔽物へ押し付けながら伊丹は発砲した。部分的に銃本体が固定された事で精度と安定性が増した射撃が聖戦士からは予想外の方向から襲来し、真っ先に突っ込んできた殉教者志願の男どもを望み通りに次々と撃ち倒す。
聖戦士達から引いた位置且つ高所に陣取ったタケナカは、先陣が成す術もなくいきなり射殺されたのを見て取るや、伊丹が既に別の場所から射撃を行っていると素早く見抜く事が出来た。
「ヤツは既に移動しているぞ! おい機関銃持ってこい! あそこの位置に向かって射撃を加え続けて援護してやれ!」
RPDやRPKといった機関銃も加わり、降り注いだ大量の弾丸が採掘機材とパイプを穿ち、削り、大量の火花と破片が伊丹の周囲で舞う。
「まったく何度体験しても堪んないよなぁ、こういうの!」
ボヤキながらも銃を撃つ手は止まらない。ウンザリとした口調とは裏腹に伊丹の体は全自動の機械の如く的確な射撃を繰り返す。
尤もそれは聖戦士達が遮蔽物越しに拳大の物体を山なりに投じ始めるまでの間だったが。
その中の1個がたまたまフルフェイスヘルメットに覆われた伊丹の頭部に当たり、鈍い音と小突かれるのに似た衝撃を齎した。
「あ痛て――やっべ」
足元に転がる卵型をした鉄製の球体。AK系統と同じく旧ソ連で開発されたRPD-5・破片手榴弾に在るべき筈の安全レバーは、無い。
精度重視の短連射ではなく、ともかく怯ませる事を優先した長い連射を繰り出しながら、ブーストの存在も忘れて自前の脚で伊丹が採掘機材から飛び出した1.5秒後、手榴弾が爆発した。
飛散した破片の大部分は採掘機材とパイプが受け止めてくれた――――が、一拍の間を置いて今度は採掘機材自体が紅蓮の炎と共に爆発した。その採掘資材は燃料を使用して稼働する代物であり、完全に燃料が抜かれずに放置されていたせいで可燃性ガスが溜まっていたのが原因だった。
「ぬおわぁー!?」
予想外の規模の爆発に背中を叩かれた伊丹は声を発して体勢を崩す。聖戦士達にとっては絶好の機会。
やはり殉教精神逞しい聖戦士の1人が伊丹に向かって突撃し、至近距離からAKをマガジン1本分長々と撃ち放った。
距離が近かった事もありマガジンの半分近い7.62ミリ・ロシアンショート弾が伊丹に着弾した。
確りと直撃した証である火花と弾ける破片が伊丹の上半身を中心に何度も生じ、その度に細かく彼の体は細かく揺さぶられ……
だが倒れない。血の1適すら流れない。
それどころか低レベルのボディアーマーなら容易く貫通するライフル弾が1発たりとも鎧を貫通せしめていない事を間近で見せつけられた聖戦士は、ファティーグから覗く両目を愕然と見開きながら慌てて新しいマガジンを装填しようと試みる。
ガチャガチャと騒々しく撃ち切ったマガジンを外したところで伊丹の伸ばした手がサッとAKを奪い取った。
聖戦士が顔を上げた。適度に煤けて迫力が増した骸骨ペイントの仮面が目の前にあった。聖戦士はしめやかに絶望して哀れっぽくアッラーへの祈りを唱えた。
「これ驚かされたお返しね」
熱が残る銃身を握って伊丹は片手でフルスイングした。上から下へ、野球のバットというよりも解体工事中の作業員がハンマーを振るうのに近い軌道だった。
聖戦士の頭部とAKの木製ストックが纏めて砕けた。敵と判断した存在に伊丹はとことん手加減無用であった。
伊丹の方も貫通はしなくとも命中した場所を中心に痺れるような鈍痛を覚えてはいたが、痛みはすぐに引いていった。それが戦闘の興奮で分泌されたアドレナリンの効果かロゥリィの眷属としての再生能力によるものか区別はつかなかったが今は気にしない事にした。
「そろそろ時間だと思うんだけど」
使い物にならなくなったAKを投げ捨てて伊丹はM27IARの射撃を再開。感覚で弾切れが近いと察知し、随分と軽くなった100連ドラムマガジンを捨てると大部分が挿入口よりも太い60連マガジンに交換しておく。
その様子をMI-8が停められたヘリコプターデッキまで移動を終えていたタケナカは一部始終目撃していた。
「運び屋のあんちゃんはどっからかスーパーマンでも連れて来たってぇのかァ?」
こうなったら
どこからともなく発生した煙が採掘機材と軍需物資が乱雑に並ぶ上層デッキを急速に覆い隠そうとしていく。聖戦士達の視界も奪われ、銃声が減る代わりに静かな困惑と混乱が広がっていく。指揮官に随伴していた護衛達も忙しなく銃口を振り向けた。
「
不意にタケナカは頭上でポン、と乾いた破裂音が生じたのを聞いた。咄嗟に見上げる。
明らみ始めた空に大型のラジコンヘリにしか見えない機影が浮かんでいた。ラジコンヘリから小さな煙の尾を曳いて落下した40ミリグレネードランチャー用の発煙弾がまた1発、上層デッキの一画に落ちて白い闇を生み出した。
タケナカの灰色の脳細胞に電撃が走った。白煙の中に呑まれてしまった部下達へ向けて大声で警告する。
「
唐突にタケナカの目の前に居た護衛の頭部が半壊した。
タケナカの周囲にも次々と銃弾が飛来し、足場や手すりや資材ケースに着弾して火花と破片を散らす。咄嗟にヘリパッドへ上がる金属製のタラップの陰に身を投げ出さなかったら、タケナカもまた護衛と同じ末路を辿っていたのは間違いない。
「チッ。体格の割に意外と良い反応するじゃないか」
頑丈な遮蔽物へ逃れた事で白色の人影が見えなくなると、熱探知型スコープを覗き込んだ剣崎は小さく舌を打った。
伊丹と分かれてきっかり2分後、剣崎達もまた銃声が交わされ始めた海上プラントへの上陸を開始した。
単独行動させられた伊丹の様に律義に階段を上ってきたのではない。貨物船制圧班と同じく、ラインランチャーと昇降装置を使って海上プラントの外壁部を上がって来たのだ。
狙い通り海上プラントに居座る聖戦士達は異世界産の魔法式強化外骨格を装備した伊丹に意識を割かれ、本来彼らへ警告を発する警備艇も今や大半が哨戒艇からの砲撃支援で失われた事もあり、大胆なアプローチで直接上層デッキまで辿り着いた剣崎達の接近は察知されなかった。
そこにタイミングを合わせて投下されたのが改造武装ドローンによる煙幕の展開だ。聖戦士の頭上から満遍なく投下された発煙弾は設計通り内蔵の化学薬品により大量の煙を発生させ、渦中にいる者達の視認可能距離を大幅に奪っていた。
勿論それは剣崎達の計画通りである。
この世界の時代よりも四半世紀近い技術格差と選りすぐりの特殊部隊員の練度が、頭数の差を極限まで0へと近付けてくれる。
今の状況で特に重要なのは前者だ。
剣崎達が使うライフルには全て対象の熱を可視化するタイプのスコープが装着されている。暗視装置の一種に含まれるが使用用途は夜間だけでなく、煙が充満している空間といった肉眼では不可視のベールであろうとその向こう側を見通す事も実現してくれるのだ。
『凄いですねこの赤外線スコープ。我が軍で採用されたばかりの代物よりずっと小型軽量なのに解像度が段違いだ! 映画の人間狩りに来た宇宙人が使っていたのだってここまでじゃなかったですよ』
作戦開始前に用意された装備を試してみたレイのこの評価が全てだった。
ヘルメットや直接頭部への装着が必要なヘッドマウント方式とは違い、銃本体に搭載するスコープ方式にはガスマスクで顔を覆っていても使用に支障が出ないという利点がある。
剣崎達は白煙の中の聖戦士達が放つ体温を識別して敵を視る事が出来るが、赤外線スコープを持たない聖戦士達側から煙の外側に居る剣崎達を察知する事は出来ない。
故に繰り広げられたのは対等な戦闘ではなく一方的な排除。
HK416等の剣崎達が使っている銃の方にはサイレンサーも取り付けてある。これは銃声だけでなく目立つ発砲炎も軽減する効果もあった。
ただでさえ煙で視界を奪われている聖戦士からしてみれば最悪の組み合わせである。
そうして聖戦士達は煙の中で訳も分からず、何が起きたかも理解出来ないまま次々と頭部か胸部の
難を逃れたタケナカは革命闘士として培った分析能力をフル回転させた。
銃声らしい銃声は聞こえなかった。さっきの
ついさっき護衛の命を奪いタケナカにも襲い掛かった銃弾。着弾による血飛沫の跳び方からも全身鎧の敵ではなく、全くの別方向から撃たれたものなのは間違いない。
加えて煙の中でも的確に最小限の射撃で聖戦士達に致命傷を齎す新手の攻勢は、明らかに煙幕越しにタケナカ達を認識する何らかの手段を用いているとしか考えられなかった。
明らかに無頼の犯罪者とはかけ離れた装備に戦術に練度。あまりにも先鋭的過ぎる武器の数々。
「連中どう考えても
タケナカは天を仰いだ。すぐ頭の近くでタラップを掠めた銃弾が火花を散らしたので身を縮め直さなければならなかった。
次第に数を減らす同志達の反撃の銃声に逸る胸中を思考から切り離し、僅かな時間タケナカは分析に没頭する。
この状況でタケナカ側にとって最大の敵は発煙弾が生み出す煙による極度の視界の制限だ。
解決策はすぐに思い浮かんだ。鉄火場と化しても尚変わらず海上プラントに流れ続ける潮風が齎してくれた。
頭上に位置するヘリパッド上に伏せてどうにか難を逃れている部下達へ叫ぶ。元々貨物船から核物質をプラントへ移したらすぐにヘリでロアナプラ上空まで運ぶつもりだったので、乗員含めヘリの離陸準備は既に完了していた。
「今すぐヘリのローターをぶん回させて離陸させろ! 最大出力でだ!」
すぐにMI-8のターボシャフトエンジンが甲高い駆動音を轟かせ始めた。
出力の増大に併せて一際高い音域へと向かう吸気音の中にやがて虫の羽音に似た空を叩く音が混じり始める。動力の伝達を受けて20メートル超の回転翼が少しずつ加速しながら回転を始めた音だった。
高速回転するメインローターは同時に潮風よりもずっと強烈な旋風を発生させた。竜巻の瞬間風速にも匹敵する強風だ。
砂利に車の窓程度なら砕いてしまう程の加速度を与えてしまう規模のダウンウォッシュは発煙弾の煙を容易く吹き飛ばした。
伊丹や剣崎達を隠していた白いベールが一瞬で奪われ、それによってタケナカ達は敵の新手の姿を初めて視認した。
ガスマスクに手足の指から頭の先まですっぽり覆う森林迷彩の防護服。明らかに何らかの汚染物質の存在を前提とした装備だ。
「マズいぞ!」
「敵はあそこにいるぞ!」
当初から大きく数を減らしながらも、殺すべき敵を目視した聖戦士達は奮い立った。一斉に反撃の銃火を浴びせる。
剣崎達の反応も素早い。MI-8のエンジン音を認識した段階で既に今後の展開を予測し、各々敵側の銃弾の貫通を許さない金属製の機材やコンクリートの構造物に駆け込んで遮蔽を確保していたので、被弾した者は1人もいなかった。
「今のは……日本語だと?」
敵が仲間に発した警告を微かに耳に拾ったタケナカは一瞬虚を突かれた様子を見せたが、すぐに目の前の鉄火場へと意識を向け直す。
人手を失い過ぎた。今や2方向から迫る敵を抑え込むのに足りるかどうかの兵力しか残っていない。重量物である貨物をヘリまで運び込むだけの人ではこれ以上割けそうになかった。
それでもまだ手はある。
「あっちのターミネーター紛いの鎧男はRPGや重機関銃を使ってでも構わないからとにかく足止めに専念しろ!
俺は貨物に向かう! ヘリは俺の真上でホバリングしながら航空支援だ!」
タケナカがタラップの陰から飛び出すのと、ターボシャフトエンジンの唸りが最高潮を迎え、とうとうヘリパッドからMI-8のランディングギアが離れたのは同時だった。
伊丹は熱探知スコープの上部に追加したマイクロドットサイトで以ってM27IARの照準をタケナカに合わせ――――引き金を絞り切る直前、浮き上がったMi-8が獲物を見据えた猛禽類の如く自分を見据えているのに気付いた。
予備機としてタケナカ達がパキスタン軍から調達したMi-8もまた、ロアナプラで三合会のビルを蹂躙した機体と同じく
主武装は23ミリ機関砲を内蔵したガンポッド。
「それは……反則でしょ」
並大抵の装甲車両を容易く撃破する23ミリ砲弾が伊丹へ襲い掛かった。上層デッキの床が置かれた物資や機材ごと粉砕されて次々と小さなクレーターは刻まれていった。
20ミリ以上の砲弾ともなれば発射される弾頭内には高性能爆薬が充填されるので、直撃は免れても至近で着弾すれば内蔵の爆薬がその破壊的エネルギーを解放し、その際に生じる衝撃波や飛散した破片でも生身の人間の命を奪うか重傷を負わせるには威力は充分だ。
「ぶ、ブーストぉ!」
横っ飛びに跳躍発動。炎龍の鱗は航空機関砲すらも貫通は許さないが、それでも人間が喰らえば粉砕どころか消滅レベルの砲弾の直撃を食らうのは真っ平御免だった。
一瞬で何メートルも横方向に移動した伊丹は機関砲の射線からの回避
伊丹の横を通過した砲弾が着弾した先。彼の側からは見えなかったが、砲弾が命中した木箱の表面にはこのような警告文が刻まれていた。
――――爆発物!火気厳禁!
本来の機関砲弾よりも何倍もの爆発が生じた。手榴弾と採掘機材に残った可燃性ガスが齎したそれよりも遥かに強烈な威力だった。
今度はブーストではなく爆風により、彼の意志が介在しない状態で伊丹の体が床と水平に飛んだ。瞬間的に伊丹は後頭部に両手を回して出来る限り体を丸め込んだ。訓練ではなく実戦で体に自然と染みついた反射的動作だった。
次の瞬間、伊丹は背中から落下防止の柵に激突した。
海側に向かって柵が大きく傾きひしゃげる程の衝撃。下に落ちず上方向へ跳ね上がっていたらそのまま数十メートル下の海面へ消えていただろう。あまりの衝撃に伊丹の意識が瞬間的に暗転した。
「
剣崎達もタケナカを撃とうと試みるも、こちらは生き残りの聖戦士達の反撃やMi-8の側面ドアに陣取った
賭けに勝ったタケナカは貨物船から移したばかりのコンテナに飛びついた。
扉のロックを解き力を込めて扉を引く。普通のコンテナの扉よりもずっと重い手応え。扉からコンテナの内壁全体に至るまで張られた分厚い鉛板がその理由だった。
コンテナの中身はドラム缶だった。大人1人がすっぽり収まるサイズで円柱型の本体が長方形型の鋼鉄のフレームで補強されている。それが4本、一纏めに固定されている。
姿を現した4本のドラム缶全てに
全身を強打して一時的に気絶していた伊丹は、胸元から生じた耳障りな雑音で意識を取り戻した。
世界が回る感覚と激しい耳鳴りのせいで、雑音の出所が何なのか、それが何を意味しているのかを理解するまで数瞬の時間がかかった。
同じ音は剣崎やキャクストン達も聞いていた。プラント制圧と貨物船制圧を担当する隊員の全員が今回身に着けているある装備が音の出所だった。
――――それは
伊丹とタケナカが無線機を手にして友軍へと呼びかけたのは、奇しくも同じタイミングだった。
「こちらアベンジャー、ガイガーカウンターに反応有り!
繰り返す、
「ヘリコプター、聞こえるか。
起爆装置はこちらで直接核物質の容器に取り付けるから、作業が完了次第
今この瞬間こそ俺達が仲間の無念を晴らす正念場だぞ! 総員気を引き締めろ!」