GATE:MW 外伝集   作:ゼミル

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Knockin' on Warfare Gate46

 

 

 

 

 

「チクショウ!」

 

 

 ルマジュールに続いていた富田も立ち塞がる戦闘員へHK416を発砲。

 

 頭部と胴体に命中するが、やはり衝撃で動きを鈍らせはしても防具を貫通するには至らない。数発発射したところで唐突に抑制された射撃音が途切れる。弾切れだ。

 

 再装填は敵との距離が近く隙が大き過ぎる。サイドアームの拳銃に切り替えても敵の防御は抜けない。富田の思考が高速回転し、立て直した戦闘員が軽機関銃を構え直そうとする動きが、周囲の音が妙に妙に間延びしていく。

 

 行動の主導権を握ったのは思考を司る脳ではなく、何百も何千も同じ動作を繰り返した果てに肉体へと刻まれた記憶の反射だった。

 

 自衛隊員なら誰でも叩き込まれる銃剣格闘術の型。弾切れになったライフルでもこういう使い方がある。

 

 

「うおおおおおぉっ! せいやぁ!!」

 

 

 鬨の声を上げながら銃剣の代わりに銃口へサイレンサーをねじ込んだ分延長されたライフルの銃身を突き出し軽機関銃の銃身を打つ。

 

 敵の射線を無理矢理自分から外したところで思い切り踏み込み、握る位置を変えて反転させたHK416のストックで敵のこめかみに横打撃。質量差で銃弾以上の衝撃がヘルメット越しに敵戦闘員を襲う。

 

 振り上げたストックをすぐさま引き戻して肩当ての部分をまっすぐ顔面へ叩きつける直突き。おまけで銃に装着したマガジン部分を突き出す要領で顔面にもう1発。

 

 仰け反りながら敵戦闘員が更にたたらを踏む。立て続けの打撃を受けたバイザーが僅かに持ち上がり、隠されていた顎周りが露出する。時には銃弾よりも単純にぶん殴る方が効果的な事もままある。

 

 富田はふらついた戦闘員の背後に更にもう1人、同様の重装備に身を固めた戦闘員が存在しているに気付いた。狭い通路のせいで着膨れした味方に射線を防がれて撃てずにいたのだ。

 

 

「レンジャーあああああ!!!」

 

 

 更に気合の雄叫びを―私語を禁じられたかつての選抜訓練課程で散々叫んだ掛け声が自然と飛び出していた―上げた富田はふらつく敵戦闘員を追いかけて強烈なタックルをぶちかました。

 

 ラグビーやレスリングのように相手のダウンを奪うものではなく、むしろ相撲の電車道よろしく抱え込んだ戦闘員の体を上へと押し上げながら通路の奥へと押し込んでいく。レンジャーだけでなく空挺徽章も持つ富田は、純粋な筋力やフィジカル面に限れば伊丹よりも高いし徒手格闘もみっちり鍛えてきた。

 

 味方の体ごと突撃してくる富田に驚愕した後続の戦闘員は思わず味方の存在もお構いなしにRPDをぶっ放した。

 

 全て富田が盾にした戦闘員の背中に吸い込まれ、ライフル弾の貫通も防ぐボディアーマーに阻まれ、1発たりとも富田には届かなかった。

 

 持ち上げた敵の体越しに富田は着弾のそれとは別のしっかりとした衝撃を感じた。ボディスラムの要領で戦闘員を抱え上げていた両手を離してやれば、慣性に運ばれた戦闘員がもう1人の戦闘員を巻き込みながら通路の床に放り出される。

 

 富田にしこたまHK416でぶん殴られた戦闘員はヘルメット越しでも届いた痛打で意識が朦朧としているらしく、その下ではノックアウトされた味方に押し潰されたもう1人の戦闘員が必死に抜け出そうともがいていた。

 

 ひっくり返った亀よろしくもがく戦闘員の腹へ膝を突いて押さえ込みながら、富田はサイドアームとして持ち込んだシグ・P320自動拳銃を引き抜いた。

 

 

「あばよ」

 

 

 グイと顎の下にP320を押し付けダブルタップで撃った。発射された9ミリパラベラム弾が脳と頭蓋骨を破壊し、ヘルメットの内側で跳ね回って更に被害を拡大させた。バイザーの下が真っ赤に染まった。

 

 もう1人の戦闘員が必死に抵抗を見せるが、死体となった仲間に未だ押し潰されている戦闘員のヘルメットと防弾装備の隙間へ富田は冷徹に弾丸を撃ち込んだ。死体が2つになった。

 

 

「貴女も早くこっちへ!」

 

「コイツでも食らってろファック野郎ども!」

 

 

 富田の後方では自衛隊員が至近距離からRPDの弾丸をしこたま食らって崩れ落ちたルマジュールを回収していた。

 

 水密扉を越えた彼らは今度は殿となったレヴィの援護に回り、頭上のキャットウォークへHK416の発砲を繰り返す。

 

 レヴィも悪態と共にソードカトラスを乱射しながら通路に飛び込むと、すぐさま自衛隊員の手によって水密扉が閉められた。直後銃弾が扉を連打し、厚い鋼鉄製の扉は貫通を許さなかったものの心臓に悪い音に自衛隊員達は思わず肩をすくめた。

 

 

「聞こえてっかルマジュール! まだ息はしてるか!?」

 

 

 呼びかけるレヴィの内心では既に妹分は死人に分類されていた。

 

 至近距離で軽機関銃の掃射をモロに受け止めてしまったのだ。5発か6発か、高威力のライフル弾が彼女が着るスーツに着弾する度破片が飛び散るさままでレヴィは目撃していた。完全に胴体の急所(バイタルパート)への直撃コースだった。

 

 以前頭を撃たれたが幸運にも片目を犠牲に奇跡的に生き延びたルマジュールだったが、今度ばかりは即死かそうでなくとも事切れる寸前か――――自然、病んだ野良犬の目になっていくのを自覚しながら、慎重に通路へ横たわらされたルマジュールの傍へレヴィはしゃがみ込む。

 

 その拍子に狭い通路のせいもあってレヴィの膝がルマジュールの胴体を小突く形になった、その瞬間だった。

 

 

「ぃってえええええええぇぇぇぇ!!!?」

 

「うおっ!?」

 

 

 思い切りルマジュールの上半身が跳ね起きたのである。あまりの勢いに危うく鼻先を掠めていったルマジュールの頭を避けようと仰け反ったレヴィは尻もちを突いてしまった程だ。

 

 撃たれていない右手で左腕ごと自分の体を抱え込んだルマジュールは何度も咳き込んだ。着弾の衝撃で呼吸機能が機能不全を起こしていたらしい。ゲホゲホと呻くたび弾丸を喰らった部位を押さえては悶絶を繰り返す。

 

 銃弾が複数発直撃した筈のルマジュールの体は口の端から零れる僅かな紅いものを除けば、何所も血に汚れていなかった。

 

 それどころか彼女が着ているスーツは表面の布地が抉れてはいても被害はそれだけで、1発たりとも貫通を許していなかったのだ。穴が穿たれたその下にはケブラーのような化学繊維とは違う、()()()()()のような存在がノゾイテいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んだよ、何時もとは違うジャケット着てやがんなと思ったらルマジュールテメェ、お前さんもきっちり防弾仕様のスーツでガードしてやがったのかよ。焦らせやがって」

 

「ゲホッ……雇い主、この連中(自衛隊)仕切ってる伊丹って野郎に念の為に着ておけって押し付けられたんすよ」

 

 

 今ルマジュールが着ているスーツの上着は、伊丹が店や街の顔役との商談を求めてロアナプラ市内を走り回っていた時に着ていたのと同じ存在だ。

 

 伊丹が着ていたスーツは特別製だった。元々は参考人招致での混乱からの逃避行に調達した安スーツである。

 

 なんやかんやで襲撃された温泉宿から多数の荷物と一緒に回収されたスーツは『門』の検疫をクリアし、伊丹の私物扱いで彼の手元へ運ばれた。隊舎のクローゼットに放り込まれて以降は出番も無くほったらかしにされていたのだが、ロアナプラへと繋がり物資調達へ伊丹が送り出される事が決まると、思わぬ形で再び日の目を見る事になったのだ。

 

 ロアナプラへ繋がる『門』が開き、状況を把握した自衛隊が計画案を纏め、作戦へ投入する装備類や取引材料の宝石類を選別するといった準備期間の間、伊丹の安物スーツはアルヌスの街の職人の手へと預けられた。

 

 見事な腕前の職人は異世界の縫製技術の産物を興味津々に調べ回した上でごく短期間の間に仕立て直しを済ませてしまった。

 

 改造点はスーツの生地と裏地の間に特地産の防護素材である翼竜の被膜を挟み込んだ点。

 

 翼竜の被膜は弓矢や槍どころか一定の銃弾に対しても貫通を許さない強靭性を持つ。翼竜の中では防御力が低い、柔らかい腹部ですら重機関銃の徹甲弾でようやくといったところだ。このスーツなら爆弾の破片ですらも(爆圧による被害は別として)防いでみせるだろう。

 

 しかも胴体のバイタルパートには小さな龍の鱗も縫い合わせてある。ルマジュールが初めて伊丹と遭遇したあの日、伊丹のスーツに触れた彼女が抱いた違和感の正体がそれだった。

 

 

「ジョン・ウィックの顔負けの防弾スーツですからね。当たり所が良ければ重機関銃の弾だって貫通()けませんよ」

 

「ジョン・ウィックって誰だよ。ジョン・ランボーかジョン・マクレーンの親戚か?」

 

「貫通しなくたって衝撃は素通りじゃねぇか! ああクッソ鉄球でタコ殴りにされたみたいに痛ってぇ!」

 

 

 ただし地球産の最新防弾装備のような着弾の衝撃から着用者の肉体を守る衝撃吸収機能(トラウマパッド)までは仕込まれていないので、銃弾貫通程ではなくてもダメージは負ってしまう。

 

 血が流れていなくとも銃弾を受けた左腕を押さえ、荒い呼吸の度に顔を歪めるルマジュールが命拾いの代償に左腕部の骨と肋骨を痛めているのが伝わってきた。

 

 

「とにかく敵が回り込んでくる前にここから離れて味方と合流しましょう。佐竹は彼女の搬送の補助を。今度は我々が先頭に立ちます」

 

「しゃーねぇ任せた。アタシのカトラスじゃ今度ばっかりはターミネーターの団体相手じゃ役不足だ」

 

 

 忌々しそうにしながらソードカトラスをホルスターに戻したレヴィは戦闘員が使っていたRPDを拾い上げた。

 

 機関部上部のカバーを持ち上げて死体から奪ったベルトリンクで数珠繋ぎになった新しい弾薬を給弾用のレールへ嵌め、カバーを閉じ直し、コッキングハンドルを引いて初弾装填。予備の弾薬も専用ポーチごと死体から奪い、超ミニのホットパンツを支える頑丈なベルトへ装着した。富田達もHK416のマガジンを交換しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女ガンマンと自衛隊の一行は移動を開始した。今や貨物船の複数個所で激しい銃撃戦が行われているのが遠い木霊のように鋼鉄の隔壁越しに彼ら彼女らの下まで伝わってくる。

 

 

「!!」

 

 

 通路の角から新たな敵の戦闘員が出現した。予め警戒していた富田はすぐさまHK416の引き金を絞ろうとした。

 

 それよりも早く大砲のような銃声が轟き、戦闘員のヘルメットの側面で凄まじい火花が生じた。

 

 驚いた事に、正面からならばHK416のライフル弾にも耐えた旧ソ連軍の防弾ヘルメットがたった1発の銃撃で半壊した。破片をまき散らしながらチタン製のヘルメット本体とバイザー部分が分離した。

 

 続けて2発、3発。初弾で既に半壊していたヘルメットは耐え切れず更に崩壊、やがて余りの衝撃にヘルメット自体が戦闘員の頭から弾けるように飛んでいったかと思うと、最終的に護る物が無くなった戦闘員の頭部は銃撃によって地面に落ちたスイカよろしく半壊した。

 

 

「スター!」

 

 

 富田の視界からは見えない曲がり角の向こう側からイギリス英語で発せられた突然の投げかけに一瞬富田は戸惑ったが、事前に打ち合わせた味方誤射防止の符丁である事を思い出すとすぐに合言葉を叫んだ。

 

 

「テキサス! プライス大尉ですか!?」

 

「トミタか、お前達は無事か!」

 

 

 すぐさまプライスが角から姿を現した。イギリス人はメインアームのMP5ではなく銃口から硝煙が未だ立ち上るデザートイーグルを手にしていた。

 

 拳銃弾ながら近距離ならばHK416の5.56ミリ弾以上の威力を有する.50AE弾により、構造的な弱点となるヘルメットとバイザーの接続部をピンポイントで撃ち抜く事でプライスは容易く戦闘員の防御を無効化してみせたのである。大口径特有の凄まじい反動を抑え込んでの正確な連射を実現する老兵の技量あってこその結果と言えた。

 

 プライスの後にユーリと仲間の自衛隊員も合流した。

 

 ユーリの方もベネリ・M4ショットガンへと持ち替えていた。富田達とは違いイギリス人とロシア人が最初使っていたメインアームは拳銃弾を使うサブマシンガンだったのが原因だろう。レヴィやルマジュールと一緒でライフル弾も耐える護りに身を固めた相手では荷が重過ぎる。

 

 

「ヘイミスター英国紳士(ジェントルマン)、この旧ソ連製の地獄からやってきた着ぐるみ集団はあとどれぐらい残ってんのか見当はつくか?」

 

「指揮官の対爆スーツ装備(ジャガーノート)を含めて約1個小隊だ。連中は海上プラントからクレーンを使って運ばれて直接この船に乗り込んできたんだ」

 

「冗談じゃねぇ。姐御と遊撃隊(ヴィソトニキ)が少しでも数を減らしてくれてる事を祈るしかねぇな」

 

「船外へ出るルートは乗船してきた新手に塞がれている。目標の確保に向かった仲間が居る船倉で我々も合流するぞ」

 

 

 船倉へ近付くにつれ激しい銃撃戦の音はより明確に、より音量を増していった。

 

 遂に船倉区画へ到達する。船倉内壁のキャットウォークから船倉内の状況を一望する事が出来た。

 

 貨物船の大部分を占める船倉は内部で船首側と船体中心部の2つに区切られているが、それでも船倉1つに付き学校の体育館並みの広さがあった。

 

 不規則にコンテナが配置され、バラライカが率いる遊撃隊はコンテナを遮蔽物に船首側から押し寄せる装甲兵を押し止めるべく苛烈な反撃に終始している。防御陣形を組む彼らのその中心で空挺軍服姿のバラライカが指示を飛ばし、その傍らには鉛貼りの特別製コンテナと核物質の保管容器が存在した。

 

 兵の頭数と連携は遊撃隊が勝ってはいるものの、ソロモン側の戦闘員に火力面と防御力で圧倒的に上回られているせいで、レヴィにとっては信じられない事にホテル・モスクワ側がむしろ不利な状況に押されているようにも見えた。

 

 反響を繰り返す銃撃音の中でまともに声をかけても怪しい。レヴィは無線を使ってバラライカに呼び掛けた。

 

 

「姐御無事か!」

 

「お前も来たかレヴィ、こちらは――」

 

 

 突然無線に別の声が割り込んだ。

 

 それは先程まで船体に電波が遮られノイズが酷く、殆ど聞き取れずにいたロックからの警告だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レヴィ! ()()()()()()()()()()()()()()――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 




注:チタン製防弾ヘルメットの対弾テストの参考動画
ttps://www.youtube.com/watch?v=Kgi8kuOfqec

実際拳銃でもマグナム弾クラスで横から狙えば破壊できるようです。
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