BO3・4やリメイク版MW3の二の舞は勘弁な!
皆様からの感想・評価が原動力となりますのでよろしくお願いします。
物事は時に近くに立つ人間だからこそ見落としてしまう場合がある。
海上プラントを襲った事態を把握出来たのは戦場の中心で戦っていた伊丹やレヴィ達ではなく、魚雷艇のロックや哨戒艇のブリッジで指揮を執る江田島といった、一定距離から俯瞰出来る立場に置かれた者達だった。
爆発が起きた瞬間、今や全滅した敵方の警備艇が散乱する海上で揺られながら、タブレット端末と交互に併用していた双眼鏡で事態を見守っていたロックは海上プラントへとすぐさま顔を向けた。
海上プラントのほぼ真下の海面が大きく膨らみ、巨大な水しぶきが生まれていた。
様子からして水中爆発だ。ラグーンの魚雷艇が積んでいる魚雷や機雷程ではないがかなりの量の爆薬だったと見える。
『おいロック! 今の爆発は一体何が起こった!?』
「僕にも分からないよ! いきなりプラントのすぐ下で爆発が起きたみたいだ!」
『海上も海中もレーダーには何も反応が無かった! どこからともなくミサイルや魚雷が飛んできたとか、そういうのじゃなさそうだ!』
ダッチの声にロックは肉眼、専用部屋のベニーは電子機器からそれぞれ把握した情報を伝えた。
僅かだが足元から突き上げられたせいで海上プラント全体が一瞬傾いたのが分かった。間近で停泊している(そしてプラントと同じく戦場と化している)貨物船はそこまでではなかったが、今の振動は伝わっているに違いない。
激しく打ち上がった大量の海水の飛沫が海面に降り注ぎ、その大部分が元の存在に溶け込んでも尚ロックは視線を海上プラントから離す事が出来なかった。
サラリーマン時代の資材調達部で培った知識が警告を発しているのだと気付いたのは後になってからだった。
そして気付く。
爆発が起きて掻き回された海面から白波が収まろうとしない。よくよく注目してみると、不自然な気泡が昇ってきては弾けてを繰り返しているのが見て取れた。
「待てよ、マズくないか?」
反射的に呟いた瞬間、信じられない事態が勃発した。
――――
ロックもまた
「マズい、マズいマズいマズいマズいマズいよこれはダッチ!」
『落ち着けロック、何がマズいのか分かったんなら具体的に説明してくれ!』
「
『バラストについちゃよーく知ってるさ、魚雷艇とはいえ俺も船で飯を食ってる身だからな』
「だったら
『そりゃオメェそんな事になったら……
ダッチの声が途中から生気が失われ、呼吸が止まってしまったかのように引き攣った掠れ声に変化した。
「その通りさダッチ、おそらくさっきの爆発で施設を支える浮きが壊れて
ロックの推察は正しかった。
もし伊丹が投棄して海面に没するまでの空中で爆発していたならば、上部デッキと水中の浮きの間を支える支柱周辺に若干の被害を受けつつも深刻な事態は齎されなかった。
水中に沈んでから起爆した事で地上での爆発よりも増幅された衝撃波が水中構造物を直撃したのが問題だった。
膨大な海水の圧力や荒天が齎す激しい波を前提に海上採掘プラットフォームを設計したロックの元職場も高性能爆薬の爆発までは想定していなかったのだ。
鋼鉄製で中が細かく仕切られた構造物も水中爆発の威力に耐えきれず内側へひしゃげ、亀裂から大量の海水が流れ込み始めた。侵入してくる海水の圧力によって更に亀裂は広がり、バラストタンクはあっという間に制御不能の海水に満たされていく――――
「真っ当に運用が行われている施設だったなら、バラストタンクの制御を担当するオペレーターが制御室からこれ以上の浸水を防ぐ為にバルブを閉めるなり、浸水したのとは別の浮きのバラストタンクも解放して全体のバランスを取るなりといった対応が取れただろうさ」
『でも
『麻薬組織の構成員や砂漠からやってきた狂信者どもに海上施設の運用に習熟した専門家が混じってるとは到底思えないからねぇ』
ダッチとベニーの嘆息。こうなってしまっては末路が容易に見えてしまったのだろう。
1982年には同じ半潜水式プラットフォームだったオーシャンレンジャー号か同様の経緯で(こちらは悪天候とヒューマンエラーが原因)当時の乗組員が全員死亡する大事故を招いていた。
「おまけにあの手の海上施設は定期的なメンテナンスが必要なんだ。放置されていた間に潮風で海面から上も老朽化が進んでる可能性だってある。
下手すれば荷重の変化とさっきの爆発でバラストタンク以外にもどれだけ施設にダメージが及んでるか分かったもんじゃないぞ!? アレがあのまま沈んだらすぐ近くの貨物船だって巻き込まれかねない!」
ロックは無線のチャンネルを切り替えて貨物船へ乗り込んだレヴィへ呼びかけた。多分自衛隊の方も今のロックの説明は拾っているだろう。
返事はノイズだけだった。電波が届かない貨物船内の奥深くへ入り込んでしまっているのか、先程海上プラントからクレーンを使ってコンテナごと乗り込んだ敵の増援に対処しているのか、判別は付かない。
「レヴィ返事をしてくれ! 頼むよおい、早く貨物船から脱出するんだ!」
ロックだけでなく自衛隊員達も海上プラントと貨物船へ乗り込んだ伊丹達へ通信を試み、今すぐ脱出するようしきりに叫ぶ。
唐突にバキン、と破滅的な響きを帯びた硬質の破壊音が海上の空気を震わせた。
傾斜を増していく海上プラントから早くも剥離・断裂した破片がバラバラと海面に零れていっている。
ロックの推測通り急激な負荷の変化で他の支柱との接合部が限界を迎えたのだろう。その中でも特に目立つ構造物の1つである資材搬入用のクレーンが、鋼鉄製のアームを海側へ延ばした状態で根元からへし曲がるようにして崩落しようとしていた。
「……最悪だ」
そしてクレーンが倒れ込んだ先は――――
「レヴィ今からその船から逃げ出すんだ!!」
ロックに出来た事は繰り返し無線で警告をがなり立てる事だけだった。
崩落したクレーンは死神の鎌か鉱夫のピッケルを彷彿とさせる形で、延ばしたアームの先端から貨物船の中心部へと突き刺さったのである。
爆発で海上プラントが揺さぶられた事自体は予定調和だった。
あまりの威力に一瞬施設全体が片側から持ち上げられた拍子、ヘリパッドの端に半ばはみ出す形で乗っていた核物質の容器がギリギリの均衡を壊されて転がり落ちてしまったのは一瞬肝を冷やしたが、容器本体の破損は無くガイガーカウンターも変化無しだったので伊丹は胸を撫で下ろした。
寸での所で核物質の飛散は阻止できたとはいえ頭上ではまだ
それがいけなかったのだろうか。
戦闘のドサクサで地面にバラ撒かれた
足元に意識を割いてみれば空薬莢だの、此処を違法占拠していた連中が飲み捨てた飲み物の空き缶だのといった円形の転がり易い品々が一方向……伊丹が投げ捨てた爆弾が爆発した側へ滑り転がっていっているではないか。
「なぁセイバー、ちょっとマズい事態になってるかもしんない」
江田島から海上プラントのバラストタンクが爆発で破壊され浸水を起こし、急速に施設全体が傾斜しつつあるとの警告が飛んできたのは伊丹がそう漏らした直後であった。
違和感程度だった傾斜はあっという間に身の危険を感じるレベルの角度へと進行していく。
海上プラントの傾きは悲鳴を伴っていた。想定外の負荷を受けた施設全体を構築する鋼鉄の骨組みがたわみ、ねじれ、それらの影響を特に受けやすい接合部が不吉で耳障りな呻き声を奏でる。破滅を歌う舞台のど真ん中に伊丹達は孤立していた。
「
「同意見だレイ! ――ミスター・イタミ!」
キャクストンからの呼びかけ。呼ばれたのは名前だけだったが篭められた真意は明白だった。
「分かってますっての。全員退却! 格納容器の回収は断念、今すぐここから下りてゾディアックで脱出するぞ!」
「
「こうなっちゃ回収のしようがないでしょ! 格納容器が壊れずに沈んでくれる事を祈るだけだよ!」
『シャドウ・ボーダーよりチーム・アルファ、こちらも撤退を許可します。迅速に脱出を行ってください!』
普段泰然としている彼もこの展開は予想外だったのだろう、江田島が幾分上ずった声で追認する前から伊丹達はさっさと脱出に動いた。
目指すは上陸に使ったロープが存在するデッキの端だ。沈み始めた側とは正反対に位置する。
すなわち伊丹達は次第に傾斜を増す上部デッキを駆け登らねばならない。それも摩擦力が限界を迎え滑り落ちてくる様々な物体を回避しながら、である。
「箱根の時といい昨日の酒場といい、伊丹よぉお前さんが絡むと毎度しっちゃかめっちゃかにも程があるだろ!」
剣崎がやけっぱち気味に伊丹へ罵倒を発した。必死な形相の伊丹も反論を行う。
「悪くぬぇー! 俺は無実……」
しかし伊丹はそこで少し黙り込むと、
「いやゴメン今回は俺のせいかもしんない!」
と一転主張を翻した。流石に今回は心当たりが大き過ぎたらしい。
兵士達は必死になって死の坂を駆け登る。不運な事に1つでもぶつかればそれだけで背後に広がる海へ真っ逆さまどころか、その前に命を失ってもおかしくない危険物が彼らの行く手には山ほど存在していた。
彼らが撃ち殺した死体が足元を打ち据えようとするかのように滑り落ちてきた。ある自衛隊員は死体を飛び越え、若い日本人達より20歳ばかり歳を食ったアメリカ人達は咄嗟に横へ身を翻して回避した。
燃料を貯蔵するのに使われていたドラム缶が炎に包まれながら転がってきた。慌てて床に一体化した構造物の陰へ飛び込みしがみつく。途中で別の落下物に激突すると爆炎を撒き散らしたが、先んじて逃げ込んだのが幸いして誰も巻き込まれずに済んだ。
更に傾きが増すと、上部デッキ上の構造物にも想定外の負荷を受けて崩落するものが出てきた。彼らの進行方向に在ったクレーンが不意にぐらりと震えたかと思うと、鋼鉄が破断し引き裂かれる悲鳴を立てながら彼らの視界から消えていった。直後それを上回る激突音が視界外から轟いた。
飛散した鉄片が降りかかり、防護服を切り裂かれた者が出たものの、彼らは怯まず生還の為の登坂に全力を注ぐ。
今や上部デッキの各所が残っていた燃料や弾薬類に引火し炎上していた。こうなっては残していくしかなかった格納容器が高熱や降ってくる残骸に耐え抜く事を祈るしかあるまい。
「ブースト!」
呪符による跳躍機能を発動させて伊丹は剣崎達を追い抜かし、崖を悠々と踏破する野生の鹿よろしく跳躍を繰り返して先んじて傾斜の頂点へと到達した。
ロープが無事か確かめる。まだ運は残っていたようでロープは未だ手すりからぶら下がっていたし、身を乗り出してみれば奇跡的にゾディアックも施設の沈没に巻き込まれる事無く海上に残っていた。
伊丹は海面に向かって垂れ下がっていたロープを素早く引っ張り上げると、手すりには繋いだまま今度は反対側に向かってロープを投じた。
これぞ剣崎達にとっての蜘蛛の糸だ。更に同じようにもう1本ロープを投じる。
「これを使って登れ!」
「ありがとよ今回の分はこれでチャラにしておいてやる!」
仲間達は嬉々としてロープに飛びついた。ロープを使ってよじ登るのは散々繰り返してきた兵隊の定番トレーニングだ。兵士達の登坂速度は一気に向上し、先程までの悪戦苦闘が嘘のように伊丹の下へ辿り着いてみせた。
海面から浮き上がった分海面までロープの長さが足りるかは怪しいところだが、海上プラントが沈んでいく影響で不安定に波打つ数十メートル下の海面へ嵩張る防護服姿で飛び込むよりはずっとマシであろう。
総出で一旦デッキ側へ投じたロープを回収し、改めて海側へ投げ落とすと、上陸時に使った昇降装置は使わずロープを直接掴み、ヘリボーンの時にも行うファストロープ降下で以って兵士達はロープを滑り降りていった。
「早く脱出するんだ!」
そう急かしながら伊丹は仲間達を先に脱出させていく。
滑り降りていく人数を脳内でカウント――――大丈夫、誰1人欠けていない。
「アンタ達も先に行け!」
「すまないお言葉に甘えさせてもらう!」
残るは伊丹にキャクストンとレイの米軍組となった時だった。
立ち上る黒煙を吹き飛ばして、海上プラントの異変に一旦は高度を取っていたMi-8が伊丹達の視線と同じ高さへと急降下してきた。全てを台無しにした伊丹達めがけ、復讐に燃える数少ない生き残りの聖戦士である乗組員が側面ドアから身を乗り出してPKM機関銃を乱射した。
「やっべ、
反射的にキャクストンとレイをフックがかかった手すりの向こう側へ押しやったのと同時、機関銃の弾が伊丹へ降り注ぐ。キャクストンとレイは年嵩にしては危なげない身のこなしで壁面を蹴りながら降下していった。
貫通はしなくとも衝撃は通る。銃弾の一部が足に当たると、時間経過で不安定さを増す足場なのも重なりズルリと滑った。慌てて両腕を使って手すりを掴み転落は免れたものの、炎龍の鱗の装甲服を着ているせいもあって両足で踏ん張りを利かせられる様にするのに手古摺ってしまう。
その間に姿勢を安定させたMⅰ-8のパイロットは
ガンポッドのそれよりも更に重い砲声を伴いながら突如通過した衝撃波が大型ヘリを揺さぶった。
移動して沈みつつある海上プラントへ更なる被害を与えない射界を確保した哨戒艇が、副砲の40ミリ機関砲でヘリに対して対空砲火を行ったのだ。
Mi-8は歩兵のライフル弾に耐える装甲が施されてはいたが、弱点を狙えば戦車ですらも破壊出来る砲弾には敵わない。
哨戒艇の40ミリ砲弾が葉巻型の機体後部へ命中する。装甲を貫通と同時に炸裂した弾頭によって燃料に誘爆するのみならず、ヘリコプターの姿勢制御に不可欠なテイルローターと胴体の接合部が爆散し、完全に切断された。
空中で燃え上がりながら、メインローターの反動を抑制出来なくなり短くなった胴体ごと回転し始めた聖戦士のヘリを見て、伊丹は胸を撫で下ろした。
「やれやれ助かったぁ――」
……そこで思わず安堵してしまったのがいけなかったのか。
このまま墜落するだろうMi-8から一瞬視線を切ってしまった伊丹が、次の瞬間目の当たりにしたのは。
――――円盤の如く回転しながら、聖戦士達の怨念が乗り移ったかのように伊丹の下へ突っ込んでくる機体であった。
「ああまたこのパターンかよ――」
Mi-8の胴体が上部デッキに激突し、再び爆発する。
主人公補正(CoD仕様)
そういえば本編で沈む・崩壊するステージからの脱出を主人公組にまだやらせてなかった気がしたので…w