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船の中でドンパチした回数は腐る程経験してきた。
機関銃を振り回すランボーやターミネーター気取りの大男を相手取った事だって何度でもあった。
船を沈めたり危うく沈められそうになったりしたのも―1度は危うく正真正銘の戦闘ヘリに月まで吹き飛ばされかけた―運び屋稼業では珍しくない。
だが貨物船の天井を突き破ってクレーンが目の前に落ちてくるのは流石のレヴィも初めての体験だった。
おまけによりにもよって落ちてきたクレーンはレヴィ達が立っていたキャットウォークを直撃したのである。
足元を掬い上げるような衝撃。船倉内壁と接合していた部分が次々と破断を起こしたキャットウォークそのものが次の瞬間45度ばかり下方へと折れ曲がり、内壁と平行だった鋼鉄製の通路は一瞬でレヴィ達にとっての下り坂と化した。
富田達より先を進んでいたレヴィとプライスが巻き込まれた。
「だあああああああああああぁぁぁっ!?」
「
「プライス大尉!?」
富田やユーリ、負傷したルマジュールを支える自衛隊員達は運良く崩落部分に巻き込まれなかったり、咄嗟に手すりにしがみつく事で転落を免れたものの、ゴロゴロと転がり落ちていってしまったレヴィとプライスに対しては愕然と見送る以外にしてやれた事は無かった。
女ガンマンとイギリス人の老兵はバラライカ達の要る下層の床へとしこたま背中を打ち付けてバウンドしながら、更に2回ばかり天地が逆さになる感覚を味わった辺りでようやく動きを止める事が出来た。まったくもって最悪の体験だった。めまいを起こした頭を押さえて体を起こす。
そしてほんの3メートルと離れていない位置に立つ敵の戦闘員と目が合った。
「「「あ」」」
向こうも向こうで突然の天井を突き破ったクレーンに意識を向けていたので虚を突かれたらしい。
間抜けな声が3つ重なった直後、我に返った3人は一斉に動いた。
レヴィは左、プライスは右へと転がった。戦闘員は腕に抱えたRPD軽機関銃の引き金を衝動的に引いた。
レヴィとプライスを分断するかのように、実際には反射的に引き金をガク引きしたせいでまともに反動制御されないまま薙ぎ払われた銃撃によって鋼鉄製の床に幾つもの火花が生じた。それらの弾丸は1発もレヴィとプライスには当たらなかった。
左に逃れたレヴィは転がった勢いと柔軟な手足のバネを生かし、ブレイクダンスか新体操よろしく両脚を振り上げ片手倒立の体勢に移ると、先程敵から奪った戦闘員が持っているのと同じ軽機関銃を右手1本でぶっ放した。
本来は慣れていなければ大の男でも抑え込めない反動だ。それでもレヴィの天性の才能か、距離の近さと戦闘員の縦薙ぎに対してレヴィの掃射は横薙ぎだったのもあり、ほぼ乱射に近い発砲でありながら数発が戦闘員の胴体に着弾した。防弾装備に阻まれて貫通はしないが予想外の体勢からの反撃だったからか敵の動きが止まる。
右に転がったプライスは仰向けの姿勢に移るや否や、キャットウォークからの落下でも手放さなかったデザートイーグルを両手で握り、スーパインと呼ばれる射撃姿勢で戦闘員を照準の中心に据えると同時に発砲。
――――さっきは不意を突いて横合いから防弾ヘルメットの防御の薄い部分を破壊出来たが防御が固い上面は弾の無駄。防弾チョッキに護られている胴体も同様。
なのでプライスは下半身を狙った。防弾チョッキの下、強固なプレート類に護られていない部分だ。
股ぐらに銃撃を喰らった絶叫しながら崩れ落ちた。一応戦闘服そのものも防御性能を有したタイプのようだが拳銃の中でもトップクラスの大口径弾は貫通しなくとも人体を破壊するには十分な威力だ。
股間部には男の急所以外にも重要な動脈が通っている。戦闘員が自分の股間を手で押さえた時点で中から赤黒い染みが広がり始めていたのでもう相手は死人も同然だ。地獄の苦しみに悶えながら最後の足掻きも出来ず死ぬだろう――――実際にそうなった。
片手倒立からの射撃からレヴィは銃の反動も生かして更に駒のように体を反転。振り上げた両足を下ろし、床に踏みしめた勢いのベクトルを後方へ。軽量級ボクサーを彷彿とさせる軽やかなバックステップでコンテナの陰へ滑り込む。
プライスも目に付いた他の敵へ牽制の銃撃を加えながら別のコンテナへ身を隠す事に成功する。
別の戦闘員の放った銃弾がコンテナへ降り注ぐが、どうやら中身が
だがすぐにレヴィとプライスの姿は戦闘員の前に曝け出される事になった。
2人がコンテナの陰から動いたではなかった――――
彼らだけではない。バラライカ達やソロモン側の戦闘員問わず利用していた船倉内の貨物がゆっくりと、誰かが触れてもいないのに少しずつ一方向へ向かって位置を変えていく。
原因は貨物ではなかった。レヴィ達が原因でもなかった。
今や船倉が、否、貨物船そのものが、現在貨物船の中に居るレヴィやプライス達全員が感じ取れる程に傾斜していた。
荒波の影響を前提に設計された大型船舶は悪天候に見舞われても簡単に転覆しないよう、一定以上船体が傾いても安定を取り戻すよう設計されているが何事にも限度がある。
頭上から鋼鉄の呻き声が聞こえてくる。船倉の天井である特大のハッチを突き破ったクレーンの先端がひしゃげたハッチや船倉の内壁へとしっかりと食い込んでしまっている。甚大な負荷がかかっているのか、そこが音の出所だった。
「
レヴィが喚いた時、エンジンルーム側の水密扉が勢い良く開き、扉と同じ位の勢いでソロモンと彼が引き連れていた戦闘員達も船倉へと姿を現した。
怒れる父親は傾きつつある貨物船の異常には全く目もくれず、壁に手を突いて体を支えるレヴィを見つけるなり雄叫びを発した。
「見つけたああああぁぁぁぁ死ねえええええええええええええ!!!」
「今テメェはお呼びじゃねぇんだよドアホウ!!!」
レヴィとソロモンの銃火が交錯したのを皮切りに、テロリストとそれを止める為に強襲した寄せ集め部隊は、刻一刻と転覆へ近付く貨物船の中で戦闘を再開した。
炎上した大型ヘリが自分へ向かって墜落してきた瞬間、伊丹は逃げようとしても間に合わない事を悟った。
90度近く傾斜し、最早そそり立つ壁面と化した上部デッキの手すりにしがみついている不安定な体勢ではよじ登ろうとしても間に合わない。
直撃コースから逃れるべくブーストを発動するとしてもたった4文字の詠唱を行う猶予すら残っていない。
極限状況に直面して爆発的に脳の処理速度が跳ね上がり、回転するローターを1本1本認識できそうなまでに加速した意識の最中で伊丹は上にも横にも逃げられないと判断した。
だから伊丹は唯一取れる行動を実行に移した。
上でも横でもなく下へ向かう重力の物理法則に従い伊丹の体が滑り落ちる。傾斜の都合で滑り落ちるというよりも最早垂直落下と言った方が正しかった。
「どわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
間抜けな声を上げながら登ってきた壁を逆戻りして落ちていく伊丹。
彼の1.5メートル頭上でヘリが上部デッキへ激突した。伊丹がしがみついていた手すりがMi-8の機首諸共潰れた。衝撃でヘリの燃料が更なる誘爆が起こり、葉巻型の機体全体が炎に包まれる。
それをわざわざ確認するだけの余裕も今の伊丹にはない。
「あだっ、いてっ、ふげっ、んがっ!?」
頭上で起きた爆発の圧力でバランスを崩した伊丹の体は鋼鉄の斜面を転がり落ちていく。装甲服のお陰で傷にはならずとも痛いものは痛いし、グルグル回る視界のせいで三半規管がバカになりそうになる。
縦に横に入れ替わる視界の中、伊丹が落下する先には海上プラント上の中で特に巨大な構造物が存在した。採掘施設の肝心要である掘削用の櫓だ。
その根元には炎上しながら転がり落ちてきた燃料保管用のドラム缶や資材のたまり場と化しており、紅蓮の炎の間から除く鉄骨や構造物の残骸が落ちてくる伊丹を待ち構えている。伊丹の顔から血の気が引いた。
「ぶ、ブーストぉ!」
噴出した魔法仕掛けの圧縮空気が伊丹を壁面から弾き飛ばした。
落下ベクトルを無理矢理前方方向への跳躍へ捻じ曲げた伊丹の体は炎の海を飛び越え、転覆寸前で縦軸から横軸方向へ転じても尚垂直に伸びた原形を留める長大な鉄骨の枠組みへと激突する。
「痛っぁ~……」
苦悶の悲鳴を上げたくとも衝撃で強制的に肺の中身を吐き出させられた伊丹には掠れ切った僅かな吐息しか漏らす事が出来なかった。
炎上する針山にも不規則に渦巻く海面への落下も免れた伊丹は、苦痛に歯を食いしばりながら横倒しの櫓の上で体を起こそうとし……
直前の伊丹と同じように、だがそれ以上のスケールと質量を維持でもって転がり落ちてくる大型ヘリの残骸の姿が飛び込んできた。
葉巻型の機体の半分以上を維持したまま、Mi-8の残骸が櫓の根元へ直撃した。
櫓全体を激しい衝撃が襲った。残骸自体は伊丹を直撃しなかったものの、激突の振動は命綱も無く鉄骨に横たわる格好だった伊丹を櫓から振り落とすには十分だった。
「ひえぇぇっ!!」
情けない悲鳴を上げながらも伊丹の手は落下すまいと反射的に鉄骨へと延びる。
太い櫓にしっかりと巻き付けるには伊丹の腕の長さは不十分だったが、エの字型の鉄骨の凹凸に手をかける事には成功。そこから必死に懸垂の要領で体を持ち上げ、どうにか伊丹は櫓上に復帰した。今度こそ伊丹は魂ごと吐き出す勢いで大きく溜息を吐いた。
「よし決めた。もう2度と金輪際こういう採掘施設みたいな施設には近付かないようにしよう」
テロリストに占拠された高層ビルに1人孤立した刑事のような愚痴を呟く伊丹だが、彼もまた沈没途中の採掘施設で孤立状態である現状である。
他に使えそうな脱出ルートは無いかと鉄骨上で立ち上がった時、ヘルメットに内蔵した無線が反応した。伊丹のコードネームを呼びかける江田島からのその通信が伊丹個人に向けられたものであるのは明らかだった。
『
「あ゛ー……こちらアベンジャーです」
『良かった無事でしたか!』
「何とかですけどね。シャドウボーダー、他のアルファチームは全員脱出したかそちらで確認は取れてますか? 送れ」
『アベンジャーへ、アルファチームは貴官を除き全員が採掘施設からの脱出を確認しています。
ですが――……』
伊丹は天を仰いだ。こういう時の『ですが』というワードは間違いなく悪い知らせの前振りなのがお約束だからだ。
『貨物船の
また崩落した海上プラントの設備の残骸が貨物船を巻き込み、
通信越しにマイクを握る江田島が深く息を吸う音が聞こえた。
指揮官が重大な決断を下す刹那のそれ。
『――状況を鑑み、これよりシャドウボーダーは貨物船の転覆を防ぐべく
アベンジャーは一刻も早くその場より離脱して下さい。
防御固めている相手にはレッグメタは鉄板(EfT感
レヴィが言ってたアトラクションはこれ。
ttps://www.youtube.com/watch?v=__kMc-O-G7c
最近続編がネトフリで出た某刑事物の3作目に出てきたアトラクションもこれが元ネタっぽいですね。
フロリダのは閉鎖されましたがハリウッドの方のパークでリニューアル版が稼働しているそうです。
ttps://www.youtube.com/watch?v=8HPFmQGgyR0