今の職場を閉めるゴタゴタやら再就職やら家族間のアレコレでリアルが少々こんがらがっておりますが8月中には決戦は終わらせたい…
感想・反応が原動力になります。
哨戒艇のブリッジで臨時艦長を務める江田島は、滅多に浮かべない険しい目つきで無人機からの航空映像を受信しているタブレット端末を睨みつけていた。
映し出されている海上プラントの映像は酷いものだ。破損したバラストタンクの亀裂からプラント基部内への浸水により完全に重心バランスを喪失した結果、今や施設全体が完全に横倒しになってしまった。
主戦場と化した上部デッキはその半分が水面下へ呑まれている。あの有様では海上プラント側へ移動されていた核物質の容器もとうに脱落した残骸共々海底に消えてしまっているのは間違いない。
まだ海面上に残っている残り上半分も地獄のような有様だ。戦闘の余波で度々爆発が起きていた上、哨戒艇の援護砲撃で撃墜した敵のヘリがよりにもよって激突炎上してしまったせいで火の海と化している。
その直前に送り込んだ
だがよりにもよってアルファチームの中心であった伊丹が沈む最中の海上施設へ取り残されてしまっているのである。
おまけに崩落した施設の一部が間近で停船していた貨物船を巻き込み、もう1つの
連鎖沈没を阻止する為には貨物船に引っ掛かってしまった海上プラントのクレーンを破壊する必要がある――――すなわち
だが実行しなければもっと多くの仲間が死ぬ。
そういう話だった。
最悪の気分だが江田島も異世界への派遣任務へ選抜され、更なる異世界での秘密作戦へ自ら参加を認められる位には海千山千の経験者である。極限状況でも優先順位を正しく見極めるだけの冷徹な判断力は失っていない。
「射撃管制! 主砲照準はクレーン基部、折れて強度が低下した崩落部を狙うように!」
「主砲射撃員より報告! 76ミリ砲弾の残弾、残り
江田島は鉄面皮を貫き通した。腐りきった元の哨戒艇の乗組員達が懐を温める代わりに主砲の弾薬庫を軽くしていたと聞かされた時から覚悟していた事態ではあった。
「操舵手! 主砲での目標の破壊に失敗した場合は私の合図で後部
空からの映像を睨みつける。ヘリ墜落の影響で立ち上る黒煙と炎がまだ沈んでいない上部デッキを隠しているせいで肉眼では取り残されている伊丹の詳細が判別出来ない。無人機に搭載されたカメラと情報処理ソフトの性能が頼りだ。
だがどうする?
巨大な構造物に巻き込まれて引っくり返ろうとしている貨物船は後どれだけ持つ?
通信したはいいが伊丹に燃え上がりながら沈みゆくあの施設から脱出出来る手段は残っているのか?
今すぐ砲撃を行わなければ貨物船はもう間に合わないのではないか?
――――そんな焦燥と衝動を抑え込む。
「艦長……」
「
不安げな、副長を務める自衛隊員の呼びかけを江田島は鋭く切り捨てた。
傾きを増しつつある貨物船と上部デッキの映像を交互に睨み続ける。ギリギリの破局点を見極める為に。
その時、人型のシルエットが黒煙を突き破って飛び出し、分析ソフトが自動的に注目を求めるピンを映像に重ねた。
考えられるのはたった1人だけだった。
真横へ伸びる鋼鉄の櫓へよじ登ると伊丹は数メートル程後ろに下がった。
骸骨ペイントのヘルメットの中で深呼吸を何度か繰り返し、血流に乗せて全身の筋肉へ酸素を行き渡らせる。特に足の筋肉を意識する。
脳をフル回転させ記憶を掘り起こす。この戦場で視界に捉えたあらゆる存在と事象を超高速で思い出し、再認識し、分析する。
そして覚悟を決める。
これからやろうとしているのは自衛隊で積んできた訓練ではまずやらされてこなかった類の行為だ。それは兵士に必要な技能ではなく道楽や曲芸の類だ。
やれるかやれないかで言えばやりたくない。命がけのぶっつけ本番で一発勝負なのだから伊丹でなくとも誰だって普通はそう思う筈だ。
が、
「行くしかないよなぁ……ああどうかよろしくお願いします神様仏様ロゥリィ様……」
伊丹を急かす様に沈みかけの海上プラントが大きく震え、大質量の呻きを発した。
伊丹は櫓上を駆けた。自衛隊と特地の職人の共同作業によって隅々まで特別誂えな装甲服の靴底は潮気で錆が浮いた鉄骨にもしっかりと食いついてくれた。
先に待ち受けているのは櫓の根元にめり込んだ大型ヘリの残骸と激しく燃え盛る炎の壁。さながら自ら崖へと突き進むレミングスのように外からは見えただろう。
炎の中へあと数歩というタイミングだった。
伊丹は鉄骨を踏みしめた瞬間、一際篭められる限りの力を注ぎこんだ上で唐突に蹴り足のベクトルを変えた。
直進から斜めへ。細い鉄骨の道の外側へ。
同時に叫ぶ。
「ブーストぉ!」
キーワードによって伊丹の肉体が空中で更に加速する。
そのまま伊丹は炎と黒煙の中に飛び込んだ。
撃ち出された伊丹の体が、オレンジ色の高温の壁と鋭利にへし曲がった鋼鉄の残骸のハードルを飛び越えたかと思った次の瞬間には、そそり立つ上部デッキの床が出現していた。
「ちょやっ!」
床に激突する寸前、伊丹は足を振り上げた。突き出した靴底が壁と化した床に触れた瞬間にすぐさま体を捻り、慣性を姿勢制御と重心移動で更に別方向へと向けながら壁を蹴る。素早く反対側の足を出す。それを繰り返す。
垂直同然の壁を重力のくびきに必死に抗いながら駆ける。
「ぅぉぉぉぉぉぉおおおおおおっおっおっとっとっとっとっとぉ!!?」
悲鳴を上げながら伊丹は必死に靴底を壁面へ食い込ませ、重力に負けて滑り落ちる前に足をこれ以上ないほど早く動かした。足元で燃え盛る残骸の熱が装甲服越しにもしっかりと伝わってきた。
重力に抗いながらも緩やかな弧を描くように上部デッキを横断していくが限界はすぐに訪れる。直前の加速で得た壁面へ吸い付く力がみるみる失われ、重力で壁面から体が引き剥がされそうになる。
靴底の抵抗が限界を迎える直前、伊丹はもう1度ありったけの脚力で以って壁を蹴りながら再びブーストを発動させた。
櫓と同じく、横転して尚床から引き剥がされずに形状を保っている構造物への着地に成功した。
それでも限界が近かったのか、伊丹が着地した衝撃を受け止めた瞬間、足元から不吉な音が生じた。これも限界は近いだろう。
伊丹は顔を上げた。
別の壁が広がっていた。海上プラントに横づけしていた貨物船。施設の異変に連動するように、船体の長さでは海上プラントよりも倍近い全長を持つ鋼鉄の巨体も、今や危なっかしく傾きを増しつつある。
実際に海上プラントと貨物船の間に広がる空間は装甲服のブースト機能でも大きく足りない距離だ。今の装備で2つの不安定な大質量に掻き回された海面に落ちようものならなす術はない。
間髪入れず再び駆ける。伊丹の視界では、構造物から更に先に広がっているのは貨物船とを隔てる虚空だけだ。
だが。
構造物の端を蹴る。本能的恐怖を押し殺して再び伊丹は跳んだ。
「ドンピ、シャぁ!」
伊丹の体が落下する数メートル先には、貨物船を襲う危機の原因であるへし折れたクレーン、その基部である巨大な円柱が存在した。
激突まで1秒のタイミングでブーストをかけて落下速度を軽減しながら着地。足を滑らせないようにしながら基部から
海上プラントと貨物船に掛け渡されたこの即席の橋こそが伊丹の最後の脱出ルートだった。
ねじ曲がったブーム部分を越え、もたれかかるクレーン分の構造分だけ貨物船の船体よりも上の高さに到達し、とうとう貨物船のハッチへ突き刺さるジブ部分が見えてきた。
傾いている影響でクレーンが突き破った穴が覗き込めるが、その中の船倉内は光量の加減で奥まで見通す事は出来ない。代わりに銃声の応酬はしっかりと聞こえてきた。
その時無線から江田島の声が聞こえた。
『主砲、撃ちぃ方始め!』
哨戒艇に残った最後の76ミリ砲弾が放たれた。
たった1発の砲弾は伊丹の数十メートル背後のクレーン基部に着弾。特に大きくへしゃげ中空の内部が見える程の亀裂が生じ、最も強度を落としていた部分へと正確に直撃し、みっちりと充填した炸薬が起爆し鋼鉄の円柱へ刻まれた傷を容赦なくこじ開けた。
クレーンは耐えられなかった。
砲弾が炸裂したと同時にクレーンの基部が海上プラントから引き千切れた。
そこで発生したのは単純な物理の法則だ。
綱引き中にロープが切れると引っ張り合っていた双方が後ろへ倒れてしまうように。もしくは延ばされたゴム紐の片方が離されると反対側へ勢い良く縮むように。
貨物船という外付けのアンカーを失った海上プラントは、反動でまだ海面上に残っていた部分が一気に数メートルも沈んだ。
同じだけの反動が貨物船も襲った。海上プラント側へ傾いていた船体が急激に反対側へと傾いた。浸水した海上プラントと違い気密と重心構造が正常だった貨物船は最終的にバランスを取り戻し転覆は免れたものの、船内の人や物は大いにその影響を受ける羽目になった。
伊丹もまた例外ではなかった。
砲撃によるとどめを受けて破断したクレーンはハッチと船倉の一部に引っ掛かったまま、船体の傾きに合わせて揺さぶられた。
その時まだ伊丹はクレーンの上に居た。流石の伊丹も砲撃の余波は覚悟していても、クレーンごと船を襲った反動の揺れまでに備えるだけの余裕は残っていなかったのだ。
どうなったのかといえば、
「ぬわぁぁぁぁぁ~!!?」
投石器というよりはシーソーの原理で伊丹の体が宙に舞ったのだ。
ただし、今回は魔法を使って伊丹自身の意志で行ったものではなかったのだが。
悲鳴というか間抜けな奇声を発した伊丹は背中からクレーンのフレームに落ち、そこでバウンドして回転しながら更に落下し。
――――揺れの影響でより大きくこじ開けられた船倉ハッチの亀裂部へと消えた。
貨物船内の戦いで最大の鉄火場と化した船倉内は、これ以上無い程にしっちゃかめっちゃかになっていた。
このまま転覆するんじゃないかと、まともに考えるだけの思考が残っていた(そこにソロモンとその部下は含まれなかった)者達が銃撃戦よりもどうやって貨物船から脱出するかの算段へ思考を割きつつあったタイミングで、今度はさっきとは反対側へ向かって急激に船体が傾いたのである。
一切合切が反対側の壁へ向かって引っ張られる。
固定されていない物も人も全てが巻き込まれた。
確保した核物質を確保していた関係上、船倉の中心部にて貨物を遮蔽物に利用しながら火力任せに圧し潰そうとしてくるソロモン達に応戦していたバラライカと遊撃隊、自衛隊への影響が特に大きかった。
「貨物に巻き込まれるな!」
「ぐあっ!」
「コシンスキー上等兵が負傷しました!」
「ブラノビッチもです!」
「挟まれるのだけは絶対に避けろ!」
揺れで足を掬われた所へ滑ってきた貨物が激突し、負傷者が続出する。重量物のコンテナにサンドイッチにされる隊員が出なかっただけ幸運と言えよう。
核物質を保管するコンテナだけは被爆防止用の鉛などが追加されて大幅に重量が増している分、ギリギリではあったが元の位置から動く事は無かった。
「ファック!」
「
レヴィとプライスも悪態を喚きながら次々と滑ってくる貨物の回避に何とか成功する。
ソロモン側も被害が出ている。船倉下層で銃撃を繰り返していた戦闘員にも等しく、制御不能の貨物が襲い掛かった。
遊撃隊と自衛隊よりも物理的な防御力で優れ、且つ事前に麻薬も使い痛覚もある程度麻痺していた彼らはどこかしら強打されてもすぐに戦闘へ復帰したが、その分機動力で劣った運が悪い者は直撃しても尚勢いが止まらなかった貨物に巻き込まれ、そのまま他の貨物や船倉に挟まれる末路を辿った。防弾装備も大質量の暴力に無力だった事は隙間から飛び散った鮮血が証明していた。
沈む施設から解き放たれた反動の揺れがやがて収まり、数分ぶりに貨物船は安定を取り戻した。
頭上の亀裂から何か、いや誰かが降ってきたのはその時だ。
全身を赤と黒の装甲で身を包んだ存在はハッチから船倉下部までの空間を1回転しながら、足を下に落下。その先には唯一その場から動かなかった核物質の保管コンテナが位置していた。
寸前、明らかに不自然に減速したが、それでも結構な勢いでコンテナ上へと彼は着地した。
右手と右膝を突き、左膝を立てた姿勢で着地した彼を、ハッチの亀裂から差し込む昇り始めたばかりの朝日が照らした。
スーパーヒーロー物のコミックで見たようなポーズだなと、レヴィとバラライカは思った。
スーパーヒーロー着地、という単語が自衛隊員達の脳裏を過ぎった。
突然の闖入者に船倉に居た者全員の視線が彼へと注がれた。闖入者はしばらくの間、微動だにしなかった。
(イイッ↑タイ↓膝がァァァ↑あばばばばばばばばばばばば)
一方伊丹は声も出せず悶絶していた。
痛過ぎて動けないだけだった。
壁走りアクションはタイタンフォール2が頂点だと思います。