あの質がちゃんとリリースされる本編で維持されているのを切に祈るばかりです…(蘇るMWⅢのトラウマ
感想・評価よろしくお願いします。
それは戦場神話の一幕を切り取ったかのような瞬間だった。
転覆の危機が生み出した混沌から一転、静けさが広がった船倉の中心に降臨した、激戦の真っ只中を生き延びた事を示す弾痕と火薬と油脂の煤で全身を汚した異形の鎧の戦士と、それを呆然と見上げる敵味方問わぬ兵士達。
そんな何とも言えぬ空気をブチ壊すのは兵士からは程遠い犯罪者だった。
揺ぎ無い殺意の下に音と気配を殺したしなやかな動きで敵戦闘員の背後に回り込んだレヴィは、ソードカトラスを敵戦闘員の防弾ベストとヘルメットの隙間から除く首筋へと押し付ける。
「へい
ハッとなった敵戦闘員が振り返るよりも早くレヴィの人差し指が動いた。バイザーの内側を鮮血と肉片が汚した。
それを合図に船倉内の戦闘が再開された。密かに忍び寄る為に使っていたRPDを手放していたレヴィは、たった今殺した戦闘員の物を拾い上げると素早く他の戦闘員の火線から逃れてみせた。
着地で痛めた膝の激痛から復活した伊丹もまた「うおっとっと」と呟きながら、着地時のしゃがみ込んだ格好からそのまま核物質用コンテナの上を転がり、足から船倉の床に改めて着地し直す。今度は足は痛めなかった。
体を起こした伊丹は驚いた。ちょうどすぐ目の前にバラライカの顔があったからだ。
精神が旧ソ連軍第318後方撹乱旅団時代の情熱を取り戻したバラライカはサンカン・パレス・ホテルのスイートルームで話し合った時と比べ、顔つきも気配もずっとずっと鋭くおっかなかった――――伊丹の脳裏に比較対象がブチ切れた時のプライスが出てくるぐらいには。
バラライカの顔に浮かんでいるのは笑顔だった。追い詰められた獲物の首筋に牙を突き立てる直前の狼じみた笑みである。伊丹の美的感覚でも火傷込みでも美人であるのは間違いないだけに余計に迫力があった。
ヘルメットがフルフェイスである事に伊丹は心から感謝した。
「派手な登場だな同志
「あんなのはもう2度とゴメンですよ! ていうかチェルノボーグって何ですかいきなり」
「気にするな、それよりも今は――」
「イタミ! 呑気にくっちゃべってないでお前もあの
英国訛りの怒号が飛んできた。プライスがデザートイーグルをぶっ放して応戦しているが、先程とは違い拳銃と軽機関銃の真っ向勝負ではあまりにも火力が違い過ぎる。防御面に限れば自衛隊側で敵の重武装兵と真っ向から相手出来るのは途中参加の伊丹だけなのだ。
味方は自衛隊と遊撃隊とラグーン商会、敵はラグーンを執拗に狙うソロモンと配下の戦闘員。今や貨物船に残存する全戦力が船倉へ集結しているのが現状だった。
「やーれやれ、何でこう毎度毎度参加した作戦がしっちゃかめっちゃかな大乱闘になっちゃうのかねぇ」
うんざりしながら伊丹はスリングのお陰でM27IARとは違い手放さずに済んでいたケルテック・KSGショットガンを握ると、射撃する為に構えるのではなく薬室へ弾薬を送り込む為のフォアエンドを前後へ動かすのを繰り返した。
ショットガンでは極めて珍しい2連平行チューブ式マガジンのブルパップ構造のKSGは引き金があるグリップの後方に装填口が位置している。装填口は排莢口を兼ね、フォアグリップを取り付けたフォアエンドが前後する度未使用の12ゲージ散弾が弾き出され、片方のチューブ式マガジンが空になると本体の上下をひっくり返した。
「念の為に持ってきたけどまさか本当に出番が来るなんてなぁ」
ブツブツと呟きながら、空になった側のチューブに左太股に装備した大型ポーチへ納めていた12ゲージ弾を新たに押し込んでいく。12ゲージ弾薬の外観の大部分を占めるプラスチックケースは緑だった。
フォアグリップを掴んで前後させると緑色の薬莢が薬室へと送り込まれた。
遮蔽物から頭だけを突き出すと視線を素早く走らせ、敵の配置を把握。乗り込み部隊の共通回線を使って伊丹は仲間達に呼び掛ける。
「アベンジャーより全隊員へ通達! これより敵の防御を削って注意を引くから援護してくれ!」
「遊撃隊! これよりチェルノボーグが敵へ切り込む! まだ武器を取れるものは彼の支援を行うぞ!」
深呼吸を大きく1つ、酸素を取り込むと同時に覚悟を決めた伊丹は遮蔽物から身を曝け出した。
伊丹に気付いた敵戦闘員がRPDの銃口を伊丹へ振り向けるよりも早く引き金を絞る。KSGの銃口から弾頭が飛び出す。
仮にこの瞬間が数十万分の1秒レベルでの記録を可能とするハイスピードカメラで記録されていたならば、伊丹のKSGが撃った弾丸が丸く銃口の直径よりもずっと小さい散弾でもなければ、銃口とほぼ同サイズの
ロケット砲弾やミサイルの弾頭のミニチュア版という表現は実際的を射ている。
実際にそれらと同じ効果を発揮するよう開発された弾薬だからだ。
フラグ12、と名付けられたショットガン用の超小型グレネード弾は
命中した瞬間、敵戦闘員の胸元で生じたのは文字通りの爆発だ。
拳銃や小口径のライフル弾が命中した時よりも、ずっと大きく激しく敵戦闘員が仰け反った。防弾ベストの表面に生じた弾痕は最早小さなクレーターのそれだ。
ポンプアクションで装填した伊丹は更にもう1発見舞う。今度は防弾ヘルメットのバイザーに直撃した。
旧ソ連軍の防弾ベスト同様、被弾の角度ではやはりライフル弾をも逸らす装甲仕様のバイザーも、少量とはいえ高性能爆薬が生み出したメタルジェットには耐えられなかった。ヘルメットの前面が戦闘員の頭部ごと爆発で吹き飛び、本体からもぎ取られたバイザーにはメタルジェットが貫いた穴が確かに刻まれていた。
立て続けに他の戦闘員へと撃ち込んでいく。こちらも続けざまに胴体へ撃ち込まれたフラグ12の直撃によってアーマープレートを突き抜けた爆風と破片に肉体を破壊され、解体用の鉄球が直撃したかのような激しさで彼らは撃ち斃されていく。
これまでほとんど遮蔽物に隠れて被弾を躱す事をしてこなかったソロモンの部下達も、それを目の当たりにすると明らかにパニックになった様子で、散り散りに貨物やら隔壁の出っ張りだのへと慌てて逃げ込んだ。
この局面で彼らの装備を無効化する爆発する銃弾がいきなり投入された事は、それだけのインパクトがあったのだ。
伊丹は恐れをなした敵戦闘員達が顔を引っ込めたタイミングでポジションチェンジ。別の貨物の陰へ滑り込むと、装填分のフラグ12を撃ち切ったKSGへ新しいフラグ12を送り込んでいく。
そこはちょうどレヴィが陣取るコンテナの隣だった。今にも口笛を吹き始めそうな表情で伊丹のKSGへ視線を注いでいる。
「ヘイターミネーター擬きの大将、どこでそんなイカした弾手に入れたんだ? アタシにも何発か売ってくれよ!」
「悪いですけど無理です。貴重品なんですよこれ!」
事実、伊丹が持ち込んだ12ゲージ用弾薬の中でもフラグ12はずっと少ない。
何故ならフラグ12という弾薬自体が一般流通どころかどの軍や法執行機関でも採用されなかった、試作品レベルの存在だからである。
……にもかかわらず、そんな代物をどうして伊丹が用意出来たのかといえば。
例によって炎龍討伐に持ち込んだリンクス対物ライフルやジャベリン対戦車ミサイルと同じルート――――即ち
大学生兼業のいち傭兵がどこからこんな珍品を調達してくるのかは、伊丹としても大いに疑問ではあったが……
野本は自前で
人間、時には仕方ないという許容の心を持つ事も大切なのだ。諦めたともいう。
ともかく重要なのは、実戦投入の機会が与えられたフラグ12がこうして大きな効果を発揮している点に尽きる。
特に大きいのが戦闘員側の装甲を一方的に無効化もしくは削り落とせる点だ。
反撃を試みた敵戦闘員がRPDを乱射しながら身を晒す。伊丹は纏う炎龍の鱗の防御力に過信する事無く、戦闘員の射線から外れつつ再装填を終えたKSGを発砲。
伊丹の射撃はプライスがデザートイーグルで行ったような強度が劣るヘルメットとバイザーの接合部を狙ったピンポイント狙撃ではなかったが、対装甲能力も兼ね備えた超小型榴弾の威力は同等以上の効果を与えるには十分だった。
一撃で防弾バイザーが吹き飛び爆風でヘルメットからもぎ取られた。爆圧と破片で顔の半分以上をズタズタにされた敵戦闘員は顔面を押さえて大きくよろめく。そこへプライスが間髪入れず発砲したデザートイーグルの50AE弾が顔の残り半分を粉砕した。
ソロモン側の頭数が削れれば火線が減る。火線が減れば減る程、自衛隊と遊撃隊は余裕を持って戦闘機動を実行出来るようになる。
戦闘員の一部を伊丹が排除した事で生じたソロモン側の火線の死角へ素早く回り込む日本人とロシア人。
中でも部下よりも先陣を切って素早く最適な射撃位置を確保したのがバラライカだ。
自衛隊員達の銃よりもずっと武骨で使い込まれた旧式のAK74を構え、瞬間的に息を止めて銃と体を一体化。アイアンサイトで照準、発砲。
バラライカが放った5.45ミリ・ロシアン弾は防弾ベストとヘルメットの僅かな隙間を横合いから貫き、頸動脈を切り裂き首の骨を砕いた。戦闘員は崩れ落ちる前に即死していた。
「お見事です大尉殿! 射撃の腕は健在ですね!」
「おだてるな軍曹。この程度の距離など幼年学校の生徒でも当てられる近さだ」
「お前達、今の言葉が聞こえたな。外した者が居たら幼年学校のカリキュラムから再訓練だ!」
『
遊撃隊は笑い混じりの咆哮を上げながら苛烈な反抗を開始した。
自衛隊側もまた伊丹が生み出した敵側の混乱と火線の空白を生かすべく動く。一部の隊員が射撃を繰り返してソロモンの部下の注意を引き、特に射撃の腕に優れた隊員が回り込んでバラライカのように防御の僅かな隙間を狙い撃つという戦法だ。
21世紀流の屋内戦もきっちり仕込まれている彼らはスタングレネードといった小物も遠慮なく活用した。目を潰し轟音で三半規管を掻き回し、混乱する戦闘員の急所を射貫く。
体勢が悪くて狙えない時は手足を撃って動きを鈍らせ、武器を破壊し抵抗手段を奪う。中には富田のように突撃して防具の隙間へ銃口をねじ込み、密着しての射撃で戦闘員を仕留める猛者まで出現する有様。
ロシア人だが立場は唯一遊撃隊ではないユーリも似たようなやり方を取った。遮蔽物から遮蔽物の間を駆け抜けて敵へ接近、サブマシンガンから切り替えたベネリ・M4ショットガンの散弾がほぼ拡散しない超至近距離からぶっ放した。
まず頭を撃つ。破壊には至らなくとも着弾の衝撃だけで脳震盪を起こしてふらついたところへ今度は胴体へ連射。
銃弾の貫通は阻止しても衝撃までは殺せない。ヘビー級以上の打撃力の連打に戦闘員の肉体が耐えきれなかった。背後のコンテナに激突した戦闘員は複数の内臓破裂を起こして血反吐を吐いたが、その時にはユーリは既に退却を済ませていた。
戦況は完全に一方へと傾いている。
残る戦闘員は最早―麻薬の興奮効果も薄れてきたのか―防護装備頼りの攻勢から一転、アドバンテージが失われた事に恐怖心を抱き、貨物の陰からRPDの銃口だけを突き出して狙いをつけずに乱射を繰り返す者まで出始めた。
頭上で生じた着地音にハッとなった戦闘員が見上げると、KSGの銃口が突きつけられていた。一気に押し込んだ伊丹がブーストを使って飛び乗ったのだ。
フラグ12がバイザーのスリット部を直撃した。防弾ガラスを突き抜けた爆風が戦闘員の顔面を直撃して文字通り爆散させた。
それが最後の戦闘員だった。
残る敵はただ1人、首魁であるソロモンのみである。
次回で戦闘終結予定。