感想・反応よろしくお願いいたします。
(活動報告の反応が予想外で困惑している顔)
貞操逆転概念が優勢だと思ってましたが今は悪役転生の方がメインストリームなのか…?
まだしばらく投票は受け付けておりますので皆さま良ければご参加ください。
<3週間後>
大海原のど真ん中で立ち上る紫煙が2つ。
「平和だなぁ……」
「平和っすねぇ……」
ミニガンや通信アンテナといった追加装備が撤去され、元の姿を取り戻した魚雷艇の甲板。
ロックは隔壁にもたれかかる様に腰を下ろしながら、ルマジュールはその隣でヤンキー座りをしながら、2人並んで口に銜えた煙草を燻らせていた。
青一色の中で輝く太陽を見上げるロックとルマジュールの表情は『ぼへー』なんてオノマトペが似合いそうな、気怠く緩んだ表情である。
「なーにテメーら2人並んで間抜け面してやがる。魂ついでに目ん玉まで落っことして相手の船見落とすんじゃねーぞ」
「分かってるさ。ここ最近あまりに平穏が続いているものだから、少々気が抜けてるのは否定出来ないけどね」
同じく甲板に出てきたレヴィは思わず顔を歪めて苦言を放つ。ロックはバツが悪そうに愛想笑いを浮かべながら、首から提げた双眼鏡を振ってみせた。
ちなみにロックが言う
今も先進国の治安関係者ならば顔を顰めたくなる数の新たな死体が日々人目が付かない路地裏で量産されているのだが、それでも悪徳の都に慣れ親しんだ住民からしてみれば誰もがロックに同意する程度には、今のロアナプラは極めて平和と行っても良かった。流石のレヴィもその点に限れば認めざるを得ない。
「……まぁそれについちゃアタシも同意すっけどな。何てったって街一帯は黄金夜会が
完全にイカれきった野郎でもなけりゃ、警察よりも100倍おっかいない連中が目ぇ光らせてる真っ只中でお痛しようなんざこれっぽっちも考えやしねぇよ」
「警察よりもマフィアが見回りしてる方がよっぽど平和というのも変な話だけどね」
「日本も戦争で負けて闇市があった頃はそんな感じだったらしいっすよ。昔の任侠映画で見た事あるっす」
ブーツが甲板を叩きロックの隣、ルマジュールとは反対側の位置にレヴィは陣取ると、彼女もまた煙草を取り出して唇に挟む。
「ん」
「ああはいはい」
特に具体的な要求も抜きに、火が着いていない煙草を銜えたレヴィがただ単に顎をしゃくると、ロックはロックで何も説明されていないのにごく自然な様子でレヴィへ顔を向けると口元を突き出した。
身を屈めたレヴィがロックへ顔を近づける。レヴィの煙草の先端がロックの煙草に触れた。立ち上る紫煙が3つに増えた。
ルマジュールからは角度の都合でロックとレヴィが唐突に唇を重ねたようにしか見えなかった。まぁその程度の事で今更顔を赤くするようなおぼこでもないのだが。
レヴィは美味そうに煙を吐き出してから続けた。
「それもこれも
「よりにもよって
「いやぁそんな殊勝な理由じゃないっしょロックさん。多分取引の完了前に何も知らないチンピラが連中にちょっかい出したせいで、余計な揉め事起こされたくないからってのが本音だと思いますよ?」
誰が下手な国家予算に匹敵する価値の超高級宝石をポンっと前金代わりに差し出すような相手の機嫌を損ねたがるものか。極端にも程がある
「街だけじゃない。取引の品を運んでくる船の安全を確保する、その為だけに
ロックは把握していないが、タイ海軍内部では隠密裏に大規模な地殻変動が発生していたのは余談である。
伊丹やラグーン商会達の共同作業でハイジャックされた哨戒艇の乗組員―緘口令を叩き込んだ上でCIA経由で所属部隊へ返還された―を筆頭に、汚職軍人の副業が結果的に大規模な核テロへ深く関与する展開となったのだから当然の結果だ。
処分は免れたものの、
「おかげでここいら一帯を餌場にしていた海賊稼業の連中はは根こそぎお陀仏、そんかわりハイエナどもの相手をしないで済むようになったアタシらみたいな運び屋は万々歳だ。余計な燃料や弾代を使わず経費が浮くってダッチが喜んでたぜ」
「平和過ぎてむしろ姐さんや私は腕が鈍っちゃいそうっすけどねぇ」
だものだからロックとルマジュールも一応仕事中にもかかわらずついついボーっとなってしまったという訳だ。
聖戦士がロアナプラの内外で大暴れした一件で生じた被害と混乱から立ち直ってから、伊丹達と取引をした大手組織は自前の手段にとどまらず、フリーの運び屋まで片っ端から総動員して商品の手配に奔走した。
2~3日前からは各組織が所有するフロント企業で運用している―主に隠し船倉に違法な品物を抱えて運ぶ密輸用の―大型貨物船が商品を満載して港に出入りする手筈が整った為、臨時雇いの運び屋の仕事は減ったものの、件の
それでもレヴィが語った通り、運び屋の荷を横取りする事で禄を稼いでいたハイエナ紛いの海賊連中は黄金夜会の手勢に纏めて排除されたので、雇われ運び屋業界にとっては追い剥ぎの心配なく運べば運ぶだけ稼げるボーナスタイムの到来に俄かに盛り上がった。
「ルマジュールもあの時の怪我はもう大丈夫なのか? 仕事の手伝いに来てくれたのはありがたいが、結構な重傷だったと思うんだけど」
「弾自体は全部スーツに防がれて骨もヒビ止まりで済んでましたから。
一応ドク・ハートランドの所でレントゲン撮ってもらって骨はくっついているってお墨付きも頂いたっすし、念の為鎮痛剤も処方してもらってありますから大丈夫ですよ。ってかいい加減部屋で安静にしてるのも飽き飽きしたもんで」
「……ホント何でできてたんだあの服。あの見た目で7.62の直撃食らっても全く貫けないなんざ、クラーク・ケントの全身タイツみたいなクリプトン星で仕立てた特別製だったって言われても驚かねぇぞ」
残念、宇宙人ではなく異世界の職人による異世界仕立てが正解だった。
その時、操縦室で魚雷艇の舵を握るダッチからの呼びかけが耳朶を打った。
『外の3人、お喋りタイムはその辺りにしておけ。
ベニーがレーダーに船影を捉えた。現在の進行方向から見て1時方向。そっちからも確認出来るか?』
イヤホンマイク越しの問いかけにロックは腰を上げると、提げていた双眼鏡を指示された方角へ向けて覗き込んだ。
目当ての存在はすぐに見つかった。レヴィとルマジュールが遊撃隊に自衛隊共々襲撃したのと同規模の貨物船。ただしこちらの方がずっと新しく船体も塗装もピカピカだ。
「ああ、見えた。船体に書いてある船の名前も通知されていたものと一致している。所属している企業のロゴまでバッチリだよ」
今回ラグーン商会が海に出ているのは仕事ではあるが運び屋としてではない。
たった今接近中の貨物船をロアナプラの港へ誘導する水先案内人として白羽の矢が立った為だ。
「だけど驚いたなぁ。まさかレヴィ達があのHCLI社とも繋がりがあったなんて」
HCLI社――――正式名称はH&C Logistics Incorporated。
国際的な海運企業であり主な取扱商品は下は歩兵用の火器弾薬、上は戦闘機の改修キットに地対空ミサイルユニットまで――――平たく言えば超大規模な武器商人である。
傘下企業には最近存在を増しつつある
東南アジアの片田舎を根城にするいち運び屋が、まさかそんな世界経済にも影響を与える規模の大企業と関わりがあるなど、格差が大き過ぎるが故にロックは驚嘆の念を抱かざるをえなかったのだ。
「昔な、連中が運んできた商品をアタシらが取り扱った事があったのさ。そん時の繋がりで今回引っ張り出される事になったってぇ訳だ」
「そうだったんすか、初耳っす」
「それは僕もだよ」
『こっちは年季が入った魚雷艇、向こうはパナマックスクラスのドでかいピッカピカの貨物船を何十隻と所有しているお大尽様だが、規模は違えど
それに大手なだけもあって仕事も従業員の躾も行き届いているしな』
中途半端な仕事を嫌うダッチが褒めているのだから少なくとも信用は出来るのだろう。ロックはそう思う事にする。
少しずつ船速を落としながら貨物船へと近づいていく。すると不意にレヴィが悪戯っぽく笑みを深めた。
「なぁそういや知ってっかロック、お前さん今回やってくるHCLIの責任者についてなんだけどよ」
「え? いいや今回は急な話だったから向こうの責任者について具体的には……」
「だったらお前さん顔合わせの時にぶったまげるぜ」
「あ、私前の仕事場の時に聞いた事があるっす」
「おおっとルマジュールネタバレは厳禁だ、まだロックには言うんじゃねぇぞ」
「?」
2人のやりとりの意味をロックが理解したのは更に船同士が接近し、互いに船上に立つ乗員達の顔が判別出来る距離まで近付いてきた頃合いであった。
「ん、あれって……ええ?」
ロックが戸惑いの声を漏らした理由。
それは――――
「やあやあやあミス・レベッカ! お久しぶりでーす!!」
武器商人の武骨な貨物船の舳先から身を乗り出し、密輸屋の魚雷艇に向かって元気良く声をかけてきたのが、どこかのお嬢様学校の学生服を彷彿とさせる見事な仕立ての服を着た全く場にそぐわぬ白銀の少女であったからだ……
<作戦完了から30分後>
海上プラントが水没した後には当然ながら多数の漂流物が発生した。
施設の残骸、弾薬ケースやドラム缶といった施設に集積されていた物資の一部、哨戒艇や魚雷艇による攻撃で破壊された警備艇の破片、そして様々な死因の死体等々。
それらは波や海流によって意外な程速く広範囲に混沌の現場から離れた場所へと流されていった。作戦の内容と規模に対して目標を達成した呉越同舟の合同部隊は人手の数が明らかに少なかったが故に、漂流物の回収と捜索に掛ける労力も最低限の人員と範囲にとどまらざるをえなかった。
そもそも巨大海上施設が丸ごと破壊され沈んでしまったような有様である。正確な
だから。
「ぶへっぺっぺっぺ!」
海上プラントから施設作業員が撤退してからも残されていた設備の1つであるオレンジ色の救命筏の縁に手が触れると、タケナカは無我夢中で己の体を海中から引っ張り上げた。
四つん這いになる体力すら残されておらず、冷たい筏の床に横たわったまま何度も咳き込んで大量の海水を吐き出す。目も鼻も喉も肺も海水の潮気に痛めつけられて悲鳴を発していた。
苦痛を感じるという事はまだ生きている証だ。
「あ゛ぁ゛ぁぁ…………まいったねこりゃ」
また自分だけ生き残ってしまった。文字通り救命筏の乗り込み口から見える天を仰ぐ。
タケナカがもくろんだ爆発は彼の意図通りにヘリパッド周辺を核物質の格納容器ごと吹き飛ばさず、どういう訳か施設の海面下で発生した。
落下で節々にダメージを受けてはいたが手足の骨を折るなどの大怪我は負わず、撃たれも刺されもしていなかったタケナカは海上プラント沈没時も海面に投げ出されはしたが、奇跡的に沈没自体には巻き込まれず海上に散乱する残骸で切り刻まれるといった事もないまま、半ば気絶状態で漂流していたのだ。
どうにか這いずって海上を見回してみるが、今や海上プラントの角ばった姿は当然ながら影も形もなく、ソロモンが乗り込んだ貨物船らしき船影も極めて小さな点に過ぎない。思っていた以上の彼方まで流されてしまっている。
もうタケナカにはどうする事も出来なかった。
全てを御破算にした敵の手の者と思しき影がタケナカを追ってくるような様子も見受けられないが、それが幸運であるとすらタケナカには感じられなかった。強烈な挫折感と無力感だけが彼に残されたものだった。
前と同じように、怒れる父親を同志に悪徳の街に関わって。
前と同じように失敗し、全てを失い、タケナカだけが生き残った。
「最早笑うしかないな全く……」
自嘲とも云えない微かな笑みに口元を歪めながら戦闘服の胸ポケットを漁る。
煙草は戦闘服と同じく海水でグシャグシャに濡れていた。弱弱しく乗り込み口へ向けて箱ごと煙草を投げ捨てた。
「
目を閉じる。
革命を目指す戦士にも休息が必要だった。特に、大一番の勝負がこれ以上ない最悪の負け戦で終わってしまった場合には。
伊丹達は夢幻の彼方から現れた異形の幻影だった。
バラライカとキャクストンは消え去る事も出来ずにそれでも足掻く戦場の亡霊だった。
彼らに敗北したタケナカもまた、大衆から見放されても尚悲願にしがみつく革命の亡霊だった。
「流石に……今度ばかりはちょいとばかし疲れたな……」
死にぞこなったタケナカを置いて、影無き者達の戦いは世間に語り継がれる事無く終わりを迎えたのだった。
本当予想以上に長引いてしまいましたが、小ネタ集的なお話を1話か2話追加してブララグクロスオーバー編は完結予定です。