GATE:MW 外伝集   作:ゼミル

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本作中の伊丹の戦い方、ちょっとやり過ぎかなーと思ってたら原作銀座編でも割と大概な発想繰り出してきたので気にしない事にしました。
ゲート0後編は現在好評連載中!(ダイマ


GATE 自衛隊かの地にて、平行世界と遭遇せり7

 

 

 

 

 

「もう1人の自分が()()()()存在である事がそんなに嫌だったのぉ?」

 

 

 虚ろな目で横たわる伊丹の頬をロゥリィがツンツンと指で突く。

 

 姿形が同一なので『こちら側』か『向こう側』か一見しただけでは判別がつかない。今頬を突いてくるロゥリィは気配と話しぶりから『向こう側』の彼女であると、何となく伊丹は察した。

 

 

「そういう問題じゃなくてさぁ。こう、どう言えば良いんだろ、自分がこれまでしてきた事を何倍どころか何十倍にも過剰に脚色されて、おまけに本人よりもずっとイケメンの俳優が演じてる映像を延々見せつけられたような感じ……」

 

「ああ、お父さんが炎龍を討ち取った話が広まった時みたいな……」

 

 

 納得した様子で頷くのは『こちら側』のテュカ。

 

 Tシャツの裾を引っ張り、パタパタとKO状態の伊丹に仰いでやっている。その度に余計な脂肪のないほっそりとした腹部と突きたくなるようなおへそがチラチラと覗くのもお構いなしだ。

 

 光を失った(レイプ)目で臥した伊丹の口からそれはそれは深い嘆息が吐き出された。吐息がテュカのへそを擽って「ひゃん」と小さな悲鳴が上がった。

 

 

「本当にさ、どうしてああなったって感じなわけ。『向こう側』で起きた第3次大戦とか、銀座占拠とか、その話だけでもお腹一杯なのに、よりにもよってその中心に何時も『向こう側』の俺が居て英雄の真似事をしちゃってたらしくてさぁ」

 

「真似事、ではなく文字通り英雄と呼ぶに相応しい偉業。それは間違いない。私が保証する。何故ならこの私、レレイ・ラ・レーナ自身もまた彼の行動によって助けられた1人なのだから」

 

 

 彼から漏れた愚痴は『向こう側』のレレイによって一刀両断される。

 

 表情は氷のように冷たくとも、しかし彼女から発せられた声と言葉、そして『こちら側』の伊丹を捉える瞳にはハッキリとした熱が込められていて、それは『向こう側』で体験した出来事が彼女の中に深く刻みつけられているという証だった。

 

 

「それでも、だよ」

 

 

 言葉を交わしている間に少しは消耗した気力が回復したようだ。伊丹はゆっくりと気だるげに頭を横に振りながらも体を起こした。

 

 

「これが例えばクリとか富田とか、何だったら倉田でも自分以外の他の誰かの話だったなら、俺だって『そういう事もある』で受け入れられたかもしれないよ?」

 

自分自身(『伊丹耀司』)だからこそ受け入れ辛い、って事ぉ?」

 

「そういう事――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からこそ受け止め切れない……そうなるのかな」

 

 

 それは一時期日本へ帰還した際、自衛隊を退職した後に英雄としての知名度を生かして政治の場に立候補してみないかと提案された時にも抱いた感想であった。

 

 伊丹耀司はオタクであり、自衛隊員であり、趣味に生きる為に仕事をしている人間であると常日頃から自覚していた。

 

 そりゃあ『銀座事件』―『こちら側』で起きた方―では自分から動いて事態収拾に当たりはした。

 

 だがアレは状況があまりに切迫していて、上からの指示を待っていてはどんどん状況が悪化してしまうと判断したからこその独自の判断で動いた結果の事に過ぎないし、やった事だって『向こう側』の自分みたいに先頭指揮を取りながら戦ったのではなく、避難誘導や敵陣偵察その他諸々の()()程度だ。

 

 テュカを連れて炎龍退治に向かったのも、半分位は自分のトラウマを乗り越える為の自己満足を求めての代償行為に近く。

 

 それ以降も、ピニャの救出やら銀座に空挺降下しての『門』奪還やら魔法陣の爆破やらこなしはしたが、どれも上から命じられた任務だったからに過ぎない。

 

 だって自分は自衛官(公務員)なのである。そういう役回りの()()なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――()()()()()

 

 国からも組織からの庇護も離れ、それどころかお尋ね者として世界中から追われる身となっても尚逃げるのではなく、戦い続ける道を選んだもう1人の自分(『伊丹耀司』)が成した事を受け止め切れずにいる。

 

 挙句、そうしなければならない理由と目的があったとはいえ、その結果が『向こう側』のロゥリィと皇宮のど真ん中に飛び込んでのたった2人の軍隊(ラ〇ボー)ごっこであり、しかも大殺戮と例えても過言ではないその一部始終をTPS(3人称視点)FPS(1人称視点)織り交ぜた見事な編集で見せられた後となれば尚更だ。

 

 あれ程までの屍山血河を築くだけの戦意と覚悟を、映像の中の(『伊丹耀司』)と同じように抱ける日など到底訪れはしないだろうし、訪れて欲しいとも思わない。

 

 これこそが紛う事なき『こちら側』の(『伊丹耀司』)の本心であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何? 何で皆してそんな目で俺を見るの?」

 

 

 周りから向けられた視線に気付いて伊丹は口を尖らせた。

 

『こちら側』のロゥリィ・テュカ・レレイ・ヤオが浴びせてくる視線が妙に生暖かいというか、社会の窓が全開になっているのに気付いてしまった時の様な気まずさというか、そんな何とも微妙な目をしていたからである。

 

 

「『こちら側』のお父さんもいざとなったら何だかんだで勇敢に戦いを挑むと思うなぁ、私」

 

「此の身もテュカ殿に同意する。真実、テュパ山脈にて炎龍へと戦いを挑んだ時のイタミ殿は、まさしく英雄と呼ぶに相応しい勇敢さだったではないか」

 

「そうよそうよぉ。戦士の素質を持たないヒトをぉ、この私ロゥリィ・マーキュリーが眷属に選ぶわけないじゃなぁい」

 

「私も3人に同意」

 

「いやいやいやいやいやいやいや。皆して俺の事買いかぶり過ぎだって」

 

 

 今度はぶんぶんぶんぶん、と風切り音が聞こえそうな勢いで何度も首を左右に振り始めた『こちら側』の伊丹の姿に、とうとう耐え切れないといった風情でレレイを除く『向こう側』の少女達も噴き出すような笑い声を発した。

 

 

「くふふふふふっ、やっぱり世界は違ってもヨウジィはヨウジィなのねぇ」

 

「そうそう。凄くて強いのに、変なところで自分に自信がない所なんか本当にそっくり! おっかしい!」

 

「不必要な自己評価の低さは欠点ではある。けれどそれは同時に決して驕り高ぶる事無く、傲慢さが齎す失敗や周囲との不和を防ぐ長所ともなる」

 

 

 周囲どころか別世界から訪れた少女達からも称賛交じりに言われてしまっては、流石の伊丹も暗い表情を維持する事は難しい。頭を掻きながら照れ臭げに苦笑する他ない。

 

 

「シノ殿がヨウジ殿との子を孕んでいるのが判って旅から離れなければならなくなった時のヨウジ殿もこのような反応をされて不安にされてましたね。あの時はシノ殿のお陰で――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ゛ぁん?」

 

 

 

 ――――その瞬間。

 

 一瞬にしてこの場の空気が凍ったのを、発言者である『向こう側』のヤオは確かに感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時間は『門』の監視に就いていた倉田が奇妙な声を聞きつけた瞬間へと戻り――――

 

 

「……ぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!」

 

「はぁ? ちょ、な、栗林二曹?」

 

 

 倉田の目に飛び込んできたのは猛烈な勢いでこちらの方へとやって来る栗林の姿であった。

 

 体育学校仕込みの完璧な走行フォームとネコ科の肉食獣を彷彿とさせる瞬発力が融合した彼女の全力疾走はそれはそれは凄まじい速度だった。ついでにコンバットシャツに包まれるメロンかはたまたスイカにも匹敵する双子山脈も大暴れしていた。

 

 オリンピックの陸上選手にも引けを取らない見事に制御されたフォームとは真逆に、栗林の表情は混乱を通り越した錯乱のそれだった。

 

 

「いいいいいぃぃぃぃやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 最早顔面崩壊レベルでグチャグチャになった顔から涙と絶叫を迸らせる栗林。

 

 あまりにもあんまりな光景に呆然と立ち尽くしてしまった倉田達だったが、彼女の進行方向に何が存在するかを思い出し、警備の隊員が確保に動くよりも速くその横をすり抜けてしまうのを目撃するに至って我に返ると、倉田達も慌てて止めようと試みる。

 

 

「ちょっと止まって! 止まって下さい二曹その先はダメっス!」

 

 

 叫ぶが栗林が止まる気配はない。

 

 俊脚の隊員が咄嗟に彼女の進路上に回り込む事に成功し、確保しようと身構えた。

 

 ――――が、栗林と隊員の距離が0となった瞬間生じたのは、倉田が予想したような捕まった栗林が地面に転がる音ではなく。

 

 

「おごっぷぁ!!?」

 

 

 重量級の力士が打ち込み用の柱に強烈なぶちかましを食らわせた瞬間を思わせる盛大な衝撃音と共に、止めに入った隊員が奇妙な悲鳴を上げて派手に吹っ飛ばされていく光景であった。

 

 胸部の双子山脈以外は筋肉で占めているともっぱら評判の栗林は、その小柄さとは裏腹に質量の密度はかなりのものだ。

 

 それが短距離走のレコードも取れるクラスの速度で激突したともなれば相当な威力と化す。幼稚園児程度の子供でも速度とぶつかり方によっては大の大人を転がす事だって可能なのだ。小柄な女だからと無意識に油断していた隊員を逆に撥ね飛ばすには十分過ぎた。

 

 

「ああっ次梁塁(ジヤン・ルイ)がやられた!」

 

「落ち着け!(ジーン)、(捕獲の)指揮を引き継げ!」

 

 

 思わぬ展開に他の隊員達も若干混乱気味だ。

 

 そうこうしている間に、新しく出現した『門』を機材で調べていた調査班の隊員達も事態に気付いて栗林を制止にかかるが、速度と当たり判定の小ささが仇となり彼らの手すらもすり抜けてしまった栗林がどうなったかというと。

 

 

「あっ」

 

 

 倉田達の見ている前で、とうとう栗林の体は()()を果たしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 その数秒後、ついさっき通り過ぎた栗林以上に騒がしい声と足音を伴いながら、今度は『こちら側』の伊丹と富田そして同じ顔をした少女達が慌てた様子で現場へと駆け付けた。

 

 

「クリの奴、足速過ぎだろう……!」

 

「もう! ヤオがクリバヤシの前でいきなり変な事言いだすからぁ!」

 

「だ、だって『こちら側』のヨウジ殿とシノ殿は不仲だとは知らなかったのだ!」

 

「此の身か? これは此の身が悪いのか!?」

 

「ああ違う違う『こちら側』の(テュカ)が怒ったのは貴女(『こちら側』)じゃなくて『向こう側のヤオだから……」

 

「あーもー同じ顔して一斉に騒がないで欲しいわぁ。頭がおかしくなりそうよぉ」

 

「これは興味深い光景ではあるがロゥリィに同意する」

 

「私に同じ」

 

「こっちはこっちでマイペースねぇ」

 

「倉田! こっちに栗林が来なかったか!」

 

 

 こちらも全力疾走で走ってきたせいで汗を浮かべ、やや息を切らせた伊丹が焦り声で詰問すれば、問われた倉田は伸ばした人差し指をゆっくりと持ち上げて、現実味のない表情でこう告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……栗林二曹、そのまま()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「はあっ!!!!?」

 

 

 

 

 




栗林、判定失敗につき一時的狂気を発症(継続:1D3ターン)


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