……すいません小話集は纏めて出したかったのですがネタは浮かんでいても中々筆が進まず区切らせて頂きます(土下座
これに伴い活動報告で募集中の新作オリジナルの投票と意見募集の終了予定日を10/31の23:59に変更いたします。
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1:バオの憂鬱
先日店の破壊記録を更新したばかりのイエローフラッグであったが、ロアナプラの港が珍しく多数の大型貨物船で埋まるようになった頃には再建と営業再開を果たした。
1番の理由はバラライカが約束通り情報提供の対価として店の再建費用を用意してくれたのみならず、業者の手配まで済ませてくれた点に尽きるであろう。
出所が出所だけに業者側は迅速かつ大真面目に作業に専念した。仮に不真面目な仕事がバレようものなら、それは即ち斡旋したバラライカの顔に泥を塗る事になるのだから。手抜きの代償が鉛玉で体重を増やすのがまだマシと言われてしまうような羽目に陥るなど誰だって御免こうむる。
そんな訳で空爆直後のベイルートかバグダットもかくやの廃墟から一転、真新しくも見慣れた面構えが復活した酒場とその2階に間借りする娼館は早くも普段の客足を取り戻しつつあった。
「まったくよぉ……」
にもかかわらず、店主のバオはこの数日間憂いの表情を度々浮かべざるをえなかった。
当然それには理由がある。
昼の営業時間の最中、自動車爆弾で丸ごと吹き飛ばされたせいで新調し、まだ動きに硬さが残る入口のスウィングドアが音を立てた。
やはりニスを塗って磨き直したばかりのバーカウンター内でグラスを磨いていたバオは顔を上げた。それはすぐにしかめっ面に歪んだ。
「まーた来やがったぜ」
入ってきたのは東洋系で統一された少人数の団体だ。
着ているのは街の住民と同じようなラフな服だが、明らかに外の人間だと感じ取れる雰囲気。店の客層のように荒んだ気配からは縁遠いが、かといってカモにされる大半の観光客とは違ってしっかりと背筋が伸びた立ち振る舞いなのでひ弱なようにも見えない。
そもそもただの観光客は決して腰や太腿に拳銃をぶら下げたりはしない。
……のだが、物珍しげに店内をキョロキョロと少し興奮しながら見回す姿は、やっぱりどこからどう見ても観光名所にやってきた旅行客のそれであった。
『すげぇ本物のイエローフラッグだ。漫画やアニメで出てきたのとまんまだぜ』
『だけど意外と真新しくないか?』
『この間自動車爆弾で吹き飛ばされて伊丹二尉が巻き込まれたって報告されていただろ。そこから立て直したばかりなんだろう』
『見ろよあそこの柱。弾痕があんなに残っているし、血痕までそのままだぞ』
店内をジロジロ眺めたり指差しながら英語ではない言語でアレコレ交わし合っている。最近雇った
うんざりとした溜息がバオの口から長々と吐き出された。
ただでさえこの店に集る客は喧嘩っ早さと引き金の軽さがどっこいどっこいなチンピラばかりなのだ。余所者なら余所者らしく、何が気に障って銃を抜くか分からないような連中を不用意に刺激するような振舞いは慎んでもらいたいという思いは店主として当然である。
もっとバオを憂鬱にさせているのは、このような場面がこの数日立て続けに展開されている事であった。
顔ぶれはどれもバラバラだが大抵は
「おいバオ。アンタの店は何時から
「うっせぇ観光ガイドに登録した覚えなんてこれっぽっちもねぇよ。大体アンコールワットはタイじゃなくてカンボジアだバカタレ」
常連客からの揶揄いの言葉にバオは投げやりに悪態を返した。
声を潜めて更に付け足す。客の為というよりも自分の身や店を守る為の忠告だ。
「言っとくが連中には手を出すんじゃねぇぞ。
「あぁん? 何で俺達がそんな真似――」
「それはだな馬鹿野郎、あの連中が
バオの罵倒を聞いて酒気で赤らんでいた客の顔が一斉に蒼白な真顔に転じた。
「……現れたその日にマッドマックスみたいな装甲車の団体で街ん中走り回りながら黄金夜会の連中のアジトに乗り込んで全ての組織からドでかい取引を受け入れさせて、おまけに焼き討ちされた三合会の本部を取り囲んだターバン連中をそいつらのヘリごと蹴散らしてボスの張を助け出したってぇ言われてる
存在が確認されたその日の間に黄金夜会の3大巨頭の本拠地へ堂々と乗り込み、中でも武闘派としてロアナプラ中へその悪名を轟かせている三合会とホテル・モスクワに揉み手で商談を受け入れさせたと噂される、得体が知れないが武力の凄まじさだけは本物な謎の武装集団……
というのが伊丹達(異世界の)自衛隊勢に対するロアナプラの悪党達の大半が抱く認識であった。
内容が幾らか前後しているが話の真偽自体はほぼ事実である。何だったら
「おう
もしそれがお望みだってんなら俺の店以外の場所でやってくれ。分かったな?」
あの呑気な日本人の小集団は
ああいったどこか浮かれた雰囲気は、ベトナム戦争時代のサイゴンを訪れた米兵どもで腐る程見てきたものだった。
大体は酒やら大麻やらヘロインでトリップした彼らはトラブルを起こしたものだが、日本人達はとてもお行儀が良く、他の盛り場や売春宿で揉め事を起こしたという話は少なくともバオの耳にも届いていない。
その代わり女とクスリにも金を落とさないので女衒や売春宿の関係者からの評価は悪い。酒場を利用しても酒とつまみを嗜む程度でもっぱら市場の屋台飯や土産物が彼らには人気なようだ。
自動車爆弾でやられた直後にわざわざ救助の手助けをしてくれた伊丹達の連れならサービスしてあげるのに……とは上の階の『スローピー・スウィング』に勤める売春婦達の談。
そもそもバオが最も訝しんでいるのはだ
(この日本人どもはどうして毎度毎度見世物でも見に来たような反応をしやがるんだ?)
――――己が別世界では二次元の創作人物として認知され、イエローフラッグが登場作品の世界観でも象徴的な存在として扱われているなど想像だにしていないバオは。
特別休暇を与えられた一部の異世界から訪れた自衛隊員の間で俄かに自分の店が聖地巡礼の―宗教方面ではなく、サブカル方面での意味で―対象となっている事など露知らず、ただただ首を傾げるのであった。
ともかく店の雰囲気にそぐわない場違いな日本人の団体へと、勘違いしたバカなチンピラが出てくる前にバオはぶっきらぼうな声を投げた。
「おいそこのアンタら。入口の前で突っ立ってねぇで酒を注文するか、でなきゃ回れ右してと出ていくかさっさと決めてくんねぇか」
「ああすみませんご迷惑でしたね」
日本人の団体はペコペコと頭を下げるとカウンターへ横並びに座った。
注文を取りに近づいてくるバオを他所に、不似合いな客達は分厚いカウンターを叩いて「これが50口径にも耐える例のカウンターか」等と囁きあう。
もっとも注文を聞く前からバオは彼らが何を頼むか何となく予想が付いていたのだが。
「注文は?」
「とりあえず生、じゃなくてビールで」
「「「同じく」」」
「テメェら日本人はそれしか酒を知らないのか?」
思わずそんな愚痴と共に溜息を漏らしながら、シンハーのボトルを引っ張り出すバオであった――――