GATE:MW 外伝集   作:ゼミル

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次の就職先の仕事が始まるまでには終わりたいところ…


感想・反応よろしくお願いします。


BLACK LAGOONクロスオーバー Blank:2

 

 

 

 

 

 

 

2:柳田の安穏

 

 

 

 

 

 

「今日の分の輸送計画の進捗は、と……」

 

 

 ロアナプラ郊外の森林地帯。

 

 試作『(ゲート)』に隣接する形で設けられた特地残存部隊の前線基地にて、柳田は淹れたてのコーヒーを注いだカップを手に天幕内を横断した。

 

 設置されたホワイトボードの中心には工程表が描かれ、その内外は板の隅の余白に至るまで追加の書き込みでびっしりと埋め尽くされている。

 

 今また指揮所に詰める隊員の1人が『第〇便搬入を確認』と現在の時刻を併記して書き込んだところだ。スクリーンに繋いだPCやタブレット端末のアプリといった文明の利器よりも、時にはこういったアナログな代物の方が分かりやすいし見落としにくい。

 

 

「よしよし、今日も進捗は順調だな」

 

 

 満足げに頷きながら柳田は湯気を立てるカップへと顔を寄せた。

 

 豆から挽いて入れたばかりのコーヒーである。インスタントとは一味違う芳香が柳田の鼻腔を擽った。

 

 といっても豆自体はロアナプラのどっかの雑貨屋で調達してきた、表記された原産地が正しいのかすらも怪しいパッケージに入った代物なのだが、ほんの数週間前までインスタントのコーヒーですら当時は貴重な嗜好品と化していた立場である。

 

 眼鏡着用者の宿命としての代償にレンズが曇るが、それすらも気にならない素晴らしい香りに柳田には感じられた。味に関しては……及第点としておこう。

 

 ロアナプラを訪れた当初の伊丹達のように、特地とは別の異世界(ラグーン時空)の現地へ派遣された人員は、特地側での業務の為に残っている者達よりも一足早くその余禄へとありついていた。

 

 と言ってもせいぜいが街へ向かう隊員へついでにタバコに酒、お菓子類といった嗜好品の調達を依頼する程度。

 

 そのぐらいは、とガス抜き目的で柳田に限らず他の幹部も御目溢ししているのが現状だ。

 

 流石に特別休暇を与えられた者以外は堪能するのは前線基地か特地に戻ってから、特に酒類は業務時間外のみを厳守といった通達が出ているが、今柳田が飲んでいるコーヒーについては現場の責任者権限で押し通す腹積もりだ。

 

 そもそも柳田に限定せず天幕に詰めている隊員だって―それも全員だ!―久方ぶりの本物のコーヒーを愉しんでいる共犯なのだから文句は言わせない。

 

 自分専用のスペースへ腰を下ろし、部下の誰かが置いていった書類に目を通しつつ更にコーヒーを一口。

 

 

「ふう……平和だ。やっぱり俺にはこういうのが1番性に合うぜ」

 

 

 そんな独り言を柳田は誰に向けるでもなく吐き出したのだった。

 

 やはり机上こそが俺にとって最良の戦場なのだ、と改めて実感する柳田。丁々発止の折衝も嫌いではないが、書類や地図や部隊編成表を前に手元のリソースをやりくりしての差配を華麗に捌いてこそが幕僚幹部の本懐というものだ。

 

 ……そう、断じてどっかの独断専行上等で事ある毎にトラブルの種を持ち込むのに定評のある、オタクの皮を被った超人兵士もビックリの大馬鹿(伊丹)やその愉快な仲間達(TF141出身者)の尻拭いなど業務に含んではならないのである。

 

(大体何がどうすれば街で活動を始めてたった数日で核テロなんつー案件にぶち当たるんだよアイツは)

 

 浮かびそうになる渋面をコーヒーの心地良い苦みで無理矢理塗りつぶし、己の本分を自ら言い聞かせるように再認識する柳田である。

 

 

 

 

 

 

 

 天幕の外では、1時間の間に数回は『門』とロアナプラを往復する輸送部隊の車両が行き来を繰り返しているのが今の前線基地だ。

 

 幌付きの73式中型(1トン半)トラックから10輪越えの特大型クラスまで、アルヌス駐屯地に残存している輸送車両は総動員していた。待望の補給の目途が立ったとあって、使用無制限の大盤振る舞いである。

 

 門とロアナプラをしょっちゅう車両が行き来するものだから、柳田は聞こえてくるエンジン音の響き方でそれが特地からロアナプラへ向かう便なのか、その反対なのかすっかり聞き分けられるようになっていた。

 

 

「今戻ってきた便はどの物資の担当だ?」

 

「あれは……車両用のディーゼル燃料を運んできた輸送隊ですね。今日の輸送分で確保できた燃料の総量は――」

 

 

 当初は郊外のガソリンスタンドの在庫を丸々買い占めるという手段に出た自衛隊だが、ロアナプラを仕切る三合会やホテル・モスクワと協力関係を結んだ事でより大規模な調達方法を取れるようになった。

 

 悪徳の都と悪名を馳せていても地理的には東南アジアの片田舎だ。近場に油田がある訳でも工業地帯が存在してパイプラインが通っている訳でもない。ガソリンスタンド自体への供給もタンクローリーによる陸路だ。

 

 だがロアナプラには港がある。

 

 

「大組織様様ですね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()特地側へ送る燃料輸送のペースが一気に向上しました」

 

 

 そういう事であった。

 

 パナマックス級には及ばない旧型船だが、それでも中々の規模のオイルタンカーが何十万リットルものディーゼル燃料とガソリンをたっぷり腹に抱えて現在ロアナプラに入港している。普通の貨物船や密輸船はまだしもオイルタンカーが堂々とロアナプラに入港するのは珍しく、住民の間では結構な話題になっているという。

 

 確かタンカーを用意したのはホテル・モスクワだったか。流石はソ連崩壊のドサクサを上手く利用して核物質どころか当時最新鋭の核弾頭まで複数ブラックマーケットで取り扱っていたロシアンマフィアの面目躍如といった所か。

 

 燃料は弾薬類に並ぶ重要物資とあって、こちらもアルヌス駐屯地で運用しているタンクローリーを大小問わず片っ端から駆り出して特地側へ燃料を運び込んでいる。陸自で運用している分だけでなく、本来はF-4戦闘機の燃料補給用だった空自所属のタンクローリーも動員してのピストン輸送。

 

 

「――これだけ補給できれば燃料の問題で運用を停止していた戦車や航空機も、ある程度は制限が解除されるようになるだろう」

 

「第1や第4戦闘団、それから空自の面々が大喜びで万歳三唱しそうですね」

 

「ハッ、あの連中なら本当にやりかねないぜ」

 

 

 鼻を鳴らす柳田。部下とのやりとりである事を思い出す。

 

 

「第4戦闘団といや、今日は健軍一佐も取引の立ち合いに伊丹と街へ出向いているんだったな」

 

「その通りです。子供みたいにえらく興奮しておられましたよ」

 

「ま、今日の荷物は一佐が待ち望んでいた品物でもあるからな……流石に今更になって余計なトラブルは起きないとは思うが……今日休暇で街に出ている連中からもトラブルの報告は出てないよな?」

 

 

 非番をロアナプラ――――より正確には()()()()()()で過ごしたいという隊員の要望は極めて多かった。

 

 世界線は違えど地球は地球、それも異国とはいえ元の世界とほぼ同時代の現代文明を求める気持ちは狭間達にも痛い程理解出来た。

 

 それもあって1日につき50名前後が団体旅行よろしく、纏めて大型バスでロアナプラへ送り込まれては現地で小規模のグループに分かれて楽しむ日帰り旅行のプランが隊員達を慰撫すべく俄かに組まれたのである。

 

 非番という扱いにもかかわらず、特地でも許されていなかった目に見える形で武装(オープンキャリー)で観光に向かわせたのは、治安が悪い地域ではむしろ武力を見せつけた方が逆にトラブル回避に繋がると悪所街といった土地での活動で得た教訓からによるもの。

 

 伊丹達があえて目立つ装甲車を乗り回してロアナプラ市街で活動しているのと同じだ。ここはアルヌスの街のような自衛隊のお膝元からはかけ離れているのだから。

 

 ……予想以上というか、予想外の活躍に貢献する形となったのは流石に予想していなかったのだが、それはともかく。

 

 非番組は伊丹のように任務で街へ送り込まれている隊員とは違い、小銃クラスの長物までは流石に持たせていないが、拳銃程度でも目に見える形で武器を携行しているだけで効果は大きく違う。追い剥ぎ目当てのチンピラ程度を遠ざけるには十分だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――多分、きっと、メイビー、そうだと思いたい。

 

 初日から酒場で自動車爆弾からの銃撃テロに遭遇した伊丹という前例が居るが、アイツはもうそういう星の下に生まれたからしょうがないという事にしておこう、うん。

 

 己にそう言い聞かせる柳田である。

 

 

「引率の教師役をしている隊員からも特に何らかのトラブルが起きたという通信は来ていません」

 

「なら良いんだが……これ以上のトラブルは抜きで終わって欲しいもんだぜ」

 

 

 コーヒーと同じく駐屯地で貴重品になり果て、やはりつい先日供給が再開されたばかりの砂糖を追加投入して頭をブン回す燃料(糖分)をカフェインと共に補給すると、柳田は己の仕事を再開するのであった。

 

 

 




西暦2000年手前当時でガソリン価格は100円前後だったそうです。
以前金塊の価値に触れた時にも言いましたが時代が余りにも今と違い過ぎる…


次回こそ完結予定です。
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