プロローグ
都市伝説というものをご存知だろうか?
世間を賑わせる噂や出所不明の憶測など様々な眉唾物等が大半だろう。まぁ……所詮オカルトである。別に変な宗教を勧める訳でもないし怪しい壺を買わせる訳でもない。では何故いきなりこんなことを言い出したのかというとちゃんとした理由がある。それは……
「もしもし、私メリーさん。私は今·····」
俺こと
「貴方の後ろに居るの。」
その言葉を聞くと同時に、勢いよく振り返る。先程まで何もいなかった自分の部屋に存在するソレは小学生程の身長しかなく、しかし日本人離れした金髪が目立つ少女であった。驚くほど端麗な顔をしており、将来はかなりの美人さんになることが伺える。そんな少女は俺の顔を覗き込むとニタァ、と嗤い手を伸ばしてくる。ゆっくりと伸ばした手は俺の服に触れ·····
「せいっ!」
「ぁ痛ッ!?」
る前に手刀を頭に叩き込まれたため届くことは無かった。突如として振り下ろされる暴力に頭を押えぷるぷると震え出す少女だが、勢いよく顔を上げ涙目になりながら猛抗議してくる。
「ちょっとテンヤ!?レディの頭を何だと思ってるのよッ!?」
「知らん。俺の背後に立つ奴が悪い。」
「一体どこの狙撃手よ……。」
「で、一体なんの用だ?
「はぁ〜あ」と、何処かつまんなそうに首を振ったと思った矢先、
「ねぇ天哉君! すっごい面白い話あるんだけど聞いて行かない!? ていうか聞いてけ!」
「拒否権無しとは随分革新的なナンパ方法ですね部長。」
学校の空き教室に男女が2人。男が一方的に詰め寄られるその光景に甘酸っぱい空間を想像した者は少なからず居るだろう。しかし、そこに恋愛のレの字は微塵も感じさせることは無く、あるのは話を聞いてもらいたいとはしゃぐ子供のような女性とその反応に呆れを示すて天哉である。
「で、話してなんですか?
「よくぞ聞いてくれました! 今巷で話題となっている都市伝説“メリーさん”についてよ!」
そう残念美人。まさに立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合のという言葉が似合う女性なのだが口を開けばオカルト話のオンパレード。理想とのミスマッチから年齢=彼氏なしという、それはもう残念な……「天哉君?」
「どうしました?」
「今なんかすっごく失礼な事考えてなかった?」
「おお。流石ですね部長。サトリにでもなれるんじゃないですか」
「誰が妖怪じゃい! ってそうじゃなくて!メリーさんの話よ!」
こほん。と、一息つくと詳細を話し始める。
「昔からあった噂話だけどね。今になってまた話題になってるのよ。」
「はぁ。」
「曰く、幼い見た目と反して大人らしい反応を見せるチグハグさ。曰く、何処にでも現れる。曰く、振り向いたら殺される。曰く、三度目の電話で姿を現す。」
「まぁ、よく聞くメリーさんの特徴っすね。」
「でも、面白いのはここからなの。」
ずいっ、とさらに顔を近づけてくる為、反射的に顔を引っ込める俺だが部長はそんなこと気にせず話を続ける。
「でね、
「……おかしいっすね。メリーさんに会ったら殺される筈じゃ……。それも複数人。」
従来のメリーさんとは違う1つの情報追加に顎に手をやりながら考え込むような姿勢をとる。興味を示した反応に満足したのか目を輝かせながらうんうんと頷いてくる。
「そう。だから面白いのよ!」
突然立ち上がりビシっと指を突き付けながら宣言してくる部長。
「部長命令よ! これの調査に我々オカルト研究部が調査に乗り出すのよ!」
「そうっすか。じゃあ僕スーパーに用があるんで。」
そう言って席を立ちあがり教室を出て行こうとする俺にしがみつく部長。離してほしい。
「ちょっとぉぉぉ! それでも君はオカルト研究部の副部長かッ!?」
「肩書では腹が膨れませんからね。」
「ええい! そんな子に育てた憶えはないぞ!?」
「まぁ育てられた憶えないんで」
「ぬわぁぁぁぁ薄情者ぉぉぉぉ!?」
ぺいっ、と部長を剥がし教室を後にする。後ろから部長の悲鳴が聞こえるがそんなことは気にせずスーパーへと向かう。
「(……ん? 着信?)」
校門を出た辺りで自身のスマホに非通知の連絡が届く。非通知と表示された画面を何の疑いもなく電話に出てしまう。
『もしもし私メリーさん。』
「……はぁ?」
そう言ってブツっっと切れる通話。悪戯かと思いその場では特に気に留めることなくその場を離れる。セールの時間には間に合い、戦利品である特売品を見つめながら上機嫌で会計に向かう。
「(あ、そうだ。切らした調味料も補充しとかなければ。)」
思い出したかのように踵を返し、足りない調味料を思い浮かべながら手元へと揃えていく。
「(醤油に味醂、塩……あ、サラダ油もあと少しで切れるか……?)」
改めて必要なものを揃え、再度会計を済ます。今日必要なことを全て終わらせ家に向かおうとすると、先程掛かってきた非通知が再度鳴り響く。
「……はい。」
『もしもし、私メリーさん。』
再び切れる通知。若干の苛立ちを感じながらも大人げないなと心を落ち着かせ家に帰宅する。そして自宅へ着いた直後
「(……まただ。)」
「オイ! いい加減に……。」
しかし、その台詞は最後まで紡ぐことは出来なかった。
『
今までとは明らかに違う重圧感のある言葉に身を軽く竦めてしまう。そこでふと今日あった部長との会話内容を思い出す。
「(三回ある会話……メリーと名乗る者……。)」
まさか、とは思う。昨日の今日どころか内容を知ったのはつい数時間前だ。そんなアニメや漫画みたいな展開が有り得る筈がない。だが·····
「『
事実は小説より奇なり、とはよく言ったものだ。そんな淡い否定は後ろから感じる存在感によってあっさりと打ち砕かれる。機械越しの声と現実の声が重なって耳へと届き、脳が言葉の意味を理解すると同時にゆっくりと振り返る。
「はじめまして、私メリーさん!」
何も知らない者が見れば笑顔が似合う純朴な少女に映るだろう。俺だってそう思う。純粋な笑顔とは真逆の、底知れぬ重圧感が無ければの話だが……。
「(殺されるッ!?)」
少女が手を此方に伸ばしてくる。その手は救いを求めるようにも見えるし子が親に抱擁を求めるような寂しさを感じさせた。だが、それ以上に本能が叫ぶ。“其れに触れるな”っと……。本能に従い必死に生き残ろうと模索した俺は決して悪くない。
「ッうわぁぁぁぁぁッッッ!!!」
だから先程スーパーで買ってきた塩瓶をぶん投げてしまったのも正当防衛である。
「ッ
ゴンッ、と人体から出てはいけないような音が部屋に響くとメリーと名乗る少女は直撃した頭を抑え、その場でうずくまる。余程痛かったのか軽く震えている。
「おぉ……。塩ってホントに効果あるんだな……。」
極度の緊張からか場違いな感想が口から洩れる。その言葉を聞いてか、此方をキッと睨み付けてくる。
「そんな訳ないでしょッ!? 市販の塩にそんな効果あったらお祓いなんて商売あがったりよっ!?」
「殺人未遂不法侵入少女が何を言うかッ!」
「はぁぁぁ? 殺そうなんて一ミリも思ってませんケドッ!? 自意識過剰過ぎッ!? 寧ろ過剰防衛でアンタが訴えられろッ!」
「嘘つけぇ!? そんな禍々しいオーラ出しときながら殺さないは無理があるだろッ!?」
罵声に怒声。互いが互いに1歩も引かぬ水掛け論に遂に少女の方に我慢の限界が訪れる。距離を詰めようとこちらに近づいてきた瞬間、先程ぶん投げた塩瓶を踏み抜いてしまう。
「あっ·····。」
気づいた時には既に遅し。綺麗な円形で出来た塩瓶は良い潤滑剤となったのか、メリーと名乗る少女は美しい弧を描きながら後ろへ倒れる。
「ッ
先程と同じ悲鳴。流石に哀れみを感じ、声をかけようか迷っていると此方を睨み殺さんと言わんばかりの形相をしながら涙を流している。そして一瞬キツく口を結んだと思えば今日1番の大声で叫ぶ。
「もうアッタマきたッ! アンタに一生取り憑いてやるんだからッ! 泣いたって許さないんだから覚悟しなさいよッ!?」
こうして、若干の罪悪感を胸に秘めながら出会ったメリーという不思議な少女は、何気ない俺の日常に終わりを告げる存在となるのだった。
出来る限り明るく書き上げたいけどどうしても題材が題材なので怖くする描写は出す予定。
ps.主人公の名前を訂正