はじめまして、メリーさん   作:aodama

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CHAPTERⅡ
第三話


「はじめまして、私メリーさん!」

 

無邪気に挨拶を行う姿は、微笑ましい日常のワンシーンとして取り上げるに相応しいだろう。言われた方だって嬉しいのであろう、直ぐに返事を返してくれる。

 

「メ゛ェ゛ェ゛ェ゛エ゛!」

「見てテンヤ! すっごく可愛いわよ!」

「お前、動物相手にもそれするのか?」

「当たり前よ! アイサツは大事って古事記にも書いてあるわ!」

「その古事記間違ってるよ」

 

さて、勘のいい人なら分かるだろう。この前のお礼という事で俺らは今動物園に来ている。結局あの騒動の後にメリーにせがまれ、俺は気分転換も兼ねて訪問することにしたのだ。

 

「テンヤ! 今度はあっち! パンダだって! どんな動物なのかしら?」

「分かった分かった…。動物は逃げないから少しは落ち着け…。」

 

自身の腕を引っ張って、待ちきれない様子を隠そうともしないその姿はまさに年相応と言ったところだろうか?

 

「しろくろ! ふっしぎー! かっわいいー!」

「(全く…。お転婆娘すぎるだろ…。)」

 

暫くお目当てのパンダに夢中のメリー。満足したのか、すっかりご満悦な雰囲気を感じさせる。

 

「(っと。そろそろ昼か。)」

 

そろそろ休憩にしたいと思っていたので昼食も兼ねて、フードコートへと足を進めていく。

 

「やっぱパンダも可愛いけど、アタシ的にはさっきの羊が可愛いかったわねぇ〜。」

「(メリーさんのひつじ·····。)」

「なんか今凄いくだらないこと考えてない?」

「…別に。」

 

自販機で買ったジュースを口にしつつ、顔を背ける。別に貶したわけじゃないのだが、とうやらメリーはお気に召さないらしい。

 

「ところで、アンタ学校はどうしたの?」

「今日は振替休日で学校は無しだ。」

「ふーん。そんなもんなの?」

「そんなもんだ。…っと、着いたぞ。」

 

特に目につくような食品は無いため、無難にサンドイッチを頼み、席へと持っていく。「いただきます。」と、丁寧に合掌を済ませ黙々と食べ始める。そんな俺の様子を何が面白いのか顔色ひとつ変えずにじーっと俺の顔を覗き込んでくるメリー。

 

「(…食い辛ぇ…。)」

 

特に何か言うわけでもなく、こうも見つめられると気になってしょうがない。微妙な空気を変えるべく話題を振ってみる。

 

「…んぐっ。ところでメリーは腹減ったりとかしないのか?」

「アンタ怪異がお腹空くと思ってるの?」

「いや、ただ単に気になったから聞いただけだ。」

「ここ最近はダイエットの為に食べるの控えようと思ってて……。」

「空くのかよ。」

 

頼んでおいたサンドイッチは元々数が少ない為、あっという間に胃袋の中へと収められる。最後に残り少ないジュースを飲み干し、話の催促をする様にメリーに顔を向ける。

 

「私はあんたに取り憑いてるって話だけど。」

「あぁそうだな。プライバシーの問題で訴えれるか?」

「話の腰を折るんじゃないわよ。で、私は普段あんたに取り憑いていて、私が食事しているシーンは見た事ある?」

「…無いな。」

「ではここで問題。私はいつ食事をしているでしょうか?」

 

ババーン!といった効果音が付きそうなほど両腕を広げるメリー。身体で時計を表しているのか少しずつ腕が動いている。

 

「あー。俺が寝てる時ぐらい、か…?」

「ピンポーン! 正解です。ではではぁ〜続いて第2問。私の主食は何でしょう?」

 

ちっちっちっ! と口で秒針音の真似をするメリーに少し考え込む。この手の怪異が好むものと言ったら1つしかないだろう。

 

「負の感情、とかか?」

「ブッブー! 残念しょー!人の恐怖心が正解でした!」

 

時計を表していた腕を今度はクロスしてバツを全面的に押してくる。その様子に少し愚痴混じりに小言を零す。

 

「負の感情も恐怖心も似たようなもんだろ…。」

「ううん。全然違うよ。」

「 んでだよ? だってどっちもマイナスの感情だろうが。」

「本当に?」

「あん?どういう意味だよ?」

 

地に足つけてたメリーがふわりと浮き、器用に空中に腰かける。その顔は真剣そのものでじっとこちらを見つめてくる。

 

「生理的に人が嫌悪する感情と、人が生きるために憶える感情は果たして本当に同じなの?」

「……。」

「恐怖というのはその人が心から生きたいと思う気持ちの裏返し。私はそんな感情を負の感情だとは思わないわ。」

 

「(…なんて真っ直ぐな目ぇしてやがる。)」

 

不意に自分が抱いた浅はかな感性が恥ずかしくなり、顔をメリーから背けてしまう。

 

「まぁ、つまりなんだ…。要するに腹は満たしてるんだな…。」

「そうね! 具体的には真夜中に物を動かしてビクリとさせてる!」

「偶に夜に物音がなるのはお前らが理由か。」

 

アレ心臓に悪いから辞めてくれ。

 

「ま、こんなところね。だから私に気にせずちゃっちゃとご飯食べなさい。午後も色んな動物見に回るんだから!」

「飯ならもう食い終わったぞ。」

「えぇっ? たったそれだけ?」

 

頼んだ食事がサンドイッチのみなのであっさりと俺の昼食は終了する。だがそんな俺の食生活の何が気に入らないのか今度こそ不満の声をメリーは挙げる。

 

「別にいいだろ。少食なんだから。」

「もっと食べなさいよ。アンタ全然食べないから恐怖の味が薄いのよ。」

「恐怖に味があるとか聞いてないんだけど。というかいつ食べた。」

「初めて会った時。健全な肉体と精神を持つ人から得られる恐怖が一番美味しいの!」

「知りとうないわそんな事。」

「アンタ精神はしっかりしてるけど肉体がひょろいから味が変に薄いのよね……もっと筋トレ頑張りなさい。」

「知るか。というかなんで俺がお前のテイストに添うように肉体改造しなきゃならんのだ。」

「それはアンタが私の取憑先(とりつきさき)だからよ。」

「取引先みたいに言うな。」

「けど最近アンタ全然驚かないし! 驚いても味に深みが無いし! しょうがないから外で済ましてるのよ!」

「外食は高くつくぞ。」

 

と、食事環境への改善を力説しているメリーの後ろから一人の女性が近づいてくる。此方が気付くと嬉しそうに笑顔を浮かべつつ寄って来るその女性は俺も良く知る人物だった。

 

「あれ? 天哉くんじゃん! やっほー!!」

 

そこにいたのは我らが部長。東山旱(ひがしやまひでり)であった。

 

「部長じゃないですか。珍しいですね、部長がこんな所に来るの。」

「そっちこそ珍しいじゃない! こんな所で演劇の練習?」

 

「暑いねー。」と、言いながら先程メリーが座っていた場所へと座り込む。その様子に渋々とはいえ席を譲るメリーが伺える。

 

「演劇?」

「だって一人で滅茶苦茶喋ってたじゃない。それも会話口調。」

 

と、手に持っていた二つの飲み物のうち片方をテーブルに置き、もう片方を口に運びながら部長が呟く。そこまで言われ初めて気づく。メリーは普通の人からは見えていないという事。つまり……

 

「(今まで超デカい声で独り言喋っているように見えたのか俺は……。)」

 

注意散漫。自分自身では気を付けていたつもりなのだが、どうやら口喧嘩に夢中になりすぎたようだ……。

 

「そ、それより部長は何で動物園へ? 何か見たい動物でも居たんですか?」

 

三度の飯より怪異が好きを地で行く人だ。動物園のようなアミューズメント施設に自ら足を運ぶようなイメージではなかったのだが……。

 

「白々しいなぁ天哉君。我がオカルト部副部長である君も()()()を聞きつけてやってきたんだろう?」

()()()?」

「またまたぁ~。分かってるくせに! ()()()()()()()()()!」

「安心しました。いつもの部長ですね。」

 

オカルト大好きっ子。期待を裏切らない、流石部長だ。

 

「この動物園に出ると噂されててね。これはオカルト部部長として調査しない訳にはいかないと思ってね! 丁度学校も休みだっだしこれは天啓に違いないんだよッッ!!」

「で、我慢できず一人で来たって訳ですか?」

「んーん。二人だよ。」

 

そう言ってフードコートの一角を指をさす部長。その方角に目を向けると二つのトレーを以てこちらに向かってくる一人の男子。その姿が確認できたと同時に苦悶の声を漏らす。

銀髪のショートに刈り上げたツーブロック。

目付きは鋭いが、その歩調は妙に落ち着いている。

 

「……やはり居たか。」

 

低く、抑揚の少ない声。

 

「北村か。」

「……うげ。」

 

思わず漏れた声に、男は僅かに眉を上げる。

 

「その反応は心外だな。何か不都合でも?」

 

花幸高校三年、元オカルト部副部長――北村 雨竜。

 

「いや、不都合というか……その、平和が終わった感じが。」

「それは残念だ。君の平穏は、概ね自業自得だと思うがな。」

 

さらりと返す言葉には些か毒があり、口を開けば正論小言と正直だらしない自覚のある自分としてはかなり苦手だった。

そんな心象を知る由もない部長が嬉しそうに言う。

 

「雨竜くん、天哉くんも人面犬の噂を追って来たみたい!」

「噂、か。」

 

雨竜はトレーをテーブルに置き、静かに息を吐く。

 

「“出るらしい”という曖昧な情報に群がる。いかにも今時だな。」

「それを言ったら部長が傷つきますよ。」

 

というか、自分は初耳なんだが

 

「事実を述べただけだ。傷つくかどうかは彼女の問題だろう。」

「聞こえてるからね!?」

 

部長の抗議を軽く受け流しながら、雨竜は俺を見る。

 

「北村。君はどう思う?」

「どうって?」

「人面犬。存在すると思うか?」

 

視線が真っ直ぐ刺さる。

 

からかわれているのではない。

試されている。

 

「……可能性はある、とは思ってますよ。ここ最近、変なことも起きてますし。」

 

一瞬だけ、雨竜の目が細くなる。

 

「ほう。」

 

こちらを訝しむような、試しているような視線を受け、若干の居心地の悪さを覚える。しかしすぐに息をつき

 

「なら無意味ではないな。」

 

それだけ言って、コーヒーに口をつける。そんな様子の自分たちを交互に見ながらうんうんと頷いた部長が勢いよく立ち上がる。

 

「じゃあ決まりね! オカルト部、総出で調査開始よ!」

「異論はない。」

 

即答。

 

だが声に熱はない。

 

「ただし――」

 

雨竜はゆっくりと視線を動物園の奥へ向ける。

 

「“噂を追う側”でいることだ。“噂に追われる側”にはなるな。」

「よーし!じゃ早速出発しよー!」

 

 

立ちがる部長達に合わせ自分も立ち上がろうとした瞬間、今度は上から逆さにメリーが降ってくる。突然目の前に現れるむくれた顔に一瞬可愛いと思いつつ反射的に体を逸らす。

 

「ちょっと!私との約束が先でしょう!? 午後も一緒に回るって言ったじゃない!」

「悪いが部長は1度こうなったらテコでも動かん。悪いが諦めてくれ。」

 

先程まで不機嫌そうだったメリーが遂に抗議の異を唱える。耳元での大声によって顰めっ面になるが先輩たちにバレる訳にも行かないので、メリーにだけ聞こえる音量で囁く。

 

「ヤダヤダヤダーッ! 動物さんたち見るのーッ! いっぱいいっぱい見たいのーッ!」

「…うるせぇ。」

「いーやー! 見ーにーまーわーるーのー!!!」

 

態々ご丁寧に地面へと降りてジタバタと暴れ回るその姿は正に駄々っ子そのもの。そんな姿に呆れつつ部長たちに着いていくのであった。

 

 

 

 

 

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