ハグレモノ共の狂騒曲   作:終日のたり

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もうちょっと展開を早めたいなと思うんですが伏線を張るのが下手すぎてダメですね…。


第10訓:調べ物をネット検索で済ませるかどうかって割と重要

 めんどくさい気持ちを隠さない私を引きずって国立図書館にやってきたジンは、受付奥にいたオッサンに何やら話しかけるとそのまま関係者以外立ち入り禁止の扉に通された。なぜか私を連れて。

 

 こんなとこに何しに来たんだと何度聞いても着けばわかるとしか言わないジンはあれこれと小難しいことをオッサンと喋っており、正直三割程度しか中身がわからない。メインの話題はさっきまで請け負ってた仕事で目いっぱい運んだ展示物やら、それにまつわる将軍やら時代やらの話らしい……んだけど、正直将軍の名前も「なんか聞いたことあんな」レベルでしかない私にはちんぷんかんぷんだ。そもそも地球人ですらない私に江戸の歴史がと言われても困る。

 

「要するにだな」

 

 よく動く二人分の口元を歩きながら追うのも疲れたので、ちょっとだけペースを緩めて二人の後ろを歩くようにする。すると余計な目端の利くジンはくるっと体ごと振り返り、そのくせ横のオッサンにもぶつかることなく妙にこなれた様子で説明を始めた。

 

「あの金烏玉兎にハマってた四代将軍の徳川綱綱はまあ色男でな、正妻とは十五で結婚したもののあっちの令嬢こっちの姫君、果ては女中に親族の乳母にまで手ェ出してた好き物野郎だ。そのくせ誰とも子供は出来なかったもんだから、結局六十手前になって従弟の子供を養子に取ってる」

「……ずいぶん詳しいね」

「そーかぁ? ちっと調べたらすぐだぜ」

 

 調べたらすぐでもそれを覚えてんのがおかしいと思うのは私だけ? いや違うな、横のオッサンもいやいやって首横に振ってるし。

 

 ていうかそもそもとして、曲がりなりにも二年この星で暮らしてる私よりも既に知識量でだいぶ先を行ってるジンは真面目にやばいと思う。この半月ちょっとの間にどうやってそんだけ詰め込んだんだろう。(認めるのはくっそむかつくけど)要するに地頭いいんだろうな……いやホントむかつくけどそこは認めよう。うん。

 

「綱綱はこの色狂いの性格と動物愛護の行き過ぎた政策で大概の歴史書じゃ種無しタマなしの暗君扱いだ。治世が長かった割に筆不精だったせいか直筆の手紙もほぼ無ぇから人格面も謎。だからマ、後からのさばった連中にとっちゃ捏造し放題でえもあるわけだな」

「……将軍家はあっちのサイズも代々将軍級だって聞いたけど」

『んげふっっ』

 

 オッサンとジンが同時にむせた。飲み物も飲んでないのに器用な連中だ。

 

「っげほっ、ば、おま……っ、誰から聞いたんだよンな与太話」

「誰って」

 

 将軍本人からですが何か……とは流石に言わんでおこう。たまたま私のシフトが入ってた時に松平のおっちゃんに連れられてキャバクラに来た徳川茂茂、通称将ちゃんの真顔を思い出す。正直あの人が本当の将軍だったことよりもあまりに籤運が悪すぎてそっちにびっくりした記憶がある。最終的には何でか私も王様ゲーム入れられて……うん。

 

 ……楽しかったなァ、アレ。不敬罪からの打ち首フラグに引いてた記憶の方が鮮明だけど、出来る事ならもう一度くらい、あのメンバーでくだらない遊びをしてみたかった。

 

「ま、要するにあれでしょ、サイズがでかくても袋が空っぽなら意味ないっていう」

「いや知らねーよ!? オレは一ミリもンな話してねーからな!?」

「そうだっけ?」

「そうだっけじゃねー!!」

「あー、その、お二人さんもう少しお静かに頼むわ。特にジン」

「いやオレのせいじゃなくね!?」

 

 噛みついてくるジンをどうどうと窘めたオッサンが、「ついたぞ」と何となく厳重な扉の前に立つ。カードキーと指紋認証とパスワードでやっと開いたそこの空気は、和紙と墨の香りが立ち込めていた。

 

「ガード堅ェな」

「まあな。徳川将軍家がなくなってまだ二年、まだこの中のものは責任の所在が明らかになってないせいで公開も破棄もできない状態だ。ま、後者に関しちゃ万が一そんな指示が出ようもんなら徹底抗戦するつもりだけどな」

「門外不出ってこと?」

「少し違う。ここのモンは殆どが基本的に徳川家の品位やら何やらを損なうってんで、時代時代で『なかったこと』にされてたもんだ。初代の徳川家家から最後の徳川喜々にかけての、言ってしまえば『あってはならない将軍家の恥部』ってやつだな」

「……いいんですか? そんな大事なモンこんなのに見せて」

「おい」

 

 いや見ていいか悪いかで言うと私も大概だけどさ、そもそも私連れてこられただけだし、興味あるか無いかって言われたら別にないし。

 

「はー……」

「なに、その聞えよがしな溜息は」

 

 でかでかと「あきれ果てて物も言えません」と書いた表情のジンが胡散臭い海外の通販番組のごとくオーバーリアクションで肩をすくめる。

 

「ほんっとに情緒の乏しいやつだなオメー。権力のヴェールに阻まれてギリギリ焚書を免れた貴重な資料がこんだけ揃ってるってのにそのテンションとか本当に血の通った人間か?」

「あんだとこの野郎」

 

 そもそもあんたが勝手に私を引っ張ってきたんだろうが! と。ついいつもの癖で傘を振り上げようとして止まる。そういえば入り口に置いてきちゃったんだった。くそっ、なんつー不完全燃焼……!

 

「綱綱が金烏玉兎に凝ってたのは約30年の治世の中でたったの2年ちょっとだ。その2年の間にあれだけ同じモチーフの像やら掛け軸やらを造らせて、それ以前も以後も同じようなことは二度とやらなかった。能狂なんて呼ばれるくらいハマってた能には死ぬまで力入れてたってのにだ」

「……そりゃあだって、一生ものの趣味と一時的なブームは違うんじゃない?」

 

 そもそも能ってのは一大文化だけど、金烏玉兎とやらはそれこそただのモチーフというか縁起物のそれだ。何となくハマって、何となく飽きた。将軍サマだから規模が一般人と違うってだけで、その程度じゃないんだろうか。

 

「それをこれから確かめンだよ」

 

 首をかしげる私にジンはそれしか言わなかった。そして私は訳も分からないまま、ジンの『調べもの』に半日以上付き合わされることになる。

 

 …………やっぱ今度はその無駄に頑丈そうな髪毟ってやろうかな。それか眉毛。

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