ハグレモノ共の狂騒曲   作:終日のたり

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主人公の名前がここまで出ないのどうなんだろうと思いつつ一人称だと出す機会そんなないですね。


第3訓:家賃交渉は最初が肝心

 しどろもどろになったり喚いたり叫んだりとにかく喧しく自分の無罪を主張するこのジンという野郎は、どうやら違う惑星ないし違う次元から事故でここにやってきた。らしい。

 

 ……もっとうまい言い訳をしろよ、と拳を握った私を責める者は多くない。何せこっちは不慮の事故だとしても素っ裸を見られてるわけだ。この年になって恋人の一人もいないからこそそれなりに身持ちを堅くしてんだよこっちは。

 

 が、ジン曰く、彼は世界中を旅しているにも関わらず天人を見たことがないと言い張って、自分が持っていたボロボロの財布から通貨を取り出して広げ、数少ない荷物から地図を引っ張り出し、直前まで発掘してたっていう遺跡を背景に仲間と撮影した写真を私の鼻先に突き付け、今じゃほぼ誰も使用してないガラケーまで私に渡してきた。これ私が壊しでもしたらどうする気だったんだろうね。壊さんけど。

 

「……何この文字」

「やっぱ読めねーだろそれ。ハンター文字っつってな、オレのいた星だか次元だかじゃ世界共通語になってんだよ、これが。どこ出身のガキでも大抵は読めるし書けるもんだ」

「……ふーん」

 

 頭のおかしい異常者の戯言で片づけるには、まあ確かに色々揃いすぎてる。それに何より、脱衣所に現れる本当にその瞬間まで、いくら気を抜いてたとはいえ私がこいつの存在に気付かなかったってのが……まああり得そうだけど大体おかしいのは事実。

 

 いくら基本的に戦線から遠ざかってても私だって夜兎の端くれ。えいりあんやら何やら相手に妹と駆けずり回ることだって少なくないってのに。

 

 ……まあこいつ相手なら多少はありそうなんだよね。完全不意打ちだった私の殴打をガード出来てんの、普通にやばい。銀ちゃんだって気を抜いてりゃぶっ飛ぶのに。まああの人は基本気が抜けてるけど。

 

「一応聞くけど、ここは惑星地球、日の本の国、江戸のかぶき町。心当たりは?」

「ねえな。この家の造りや外の風景がジャポンって国に似てるとは思う」

「天人、宇宙人は身近にいなかったって?」

「ああ。つーか、もしンな奴らがいるってわかったらソッコー出向いてたっての。宇宙人だぞ? オレ、まだ宇宙には行ったことねーんだよな」

 

 暗黒大陸もまだだしな、とぼそっと付け加えられたけど何だそりゃ。

 

「ちなみに私も宇宙人なんだけど」

「お前が? 嘘だろ。いや嘘じゃねーか。この見た目であのゴリラ力だもんな」

「誰がゴリラだ殺すぞ」

「だからいちいち傘振り回すな!!」

 

 うるせーハゲ。うら若き乙女をゴリラ呼ばわりする命知らずの命を狩って何が悪い。

 

「ハゲでもねえのにハゲとか言うな! マジで薄くなったらどーすんだよ!」

「心配すんな。海藻食おうがストレスフリーだろうがハゲるときゃハゲんのが生き物だよ」

 

 うちの父親とかな。……いや父さんはそれなりにストレスあった人だったな。母さんは早死にしたし兄も私も妹もああでこうだし。

 

「オレ達が発掘してた遺跡ってのが、七千年前に突然都市ごと消失したって言われてフィクション扱いされてたモンでな。五年前にその残骸っぽいのが見つかって、交渉だの人集めだので駆け回ってやっと先月発掘開始できたんだ。そんで水路や貯蔵庫の痕や人為的な落書きも見つかってな。続けて本丸っぽい地下神殿の入り口を見つけたのが二週間前。準備整えてやっと入り口をこじ開けたのが一昨日。一番奥にたどり着いたのがつい三時間前だな」

 

 ふーん。

 

「言っとくがそっからの三時間は調査じゃなくてお前から逃げ回ってた時間だからな」

「変質者の尋問に三時間も使っちゃったの私。時間の無駄遣いやばいね」

「だから変質者言うな」

 

 うるせえ浮浪者みたいなカッコしやがって。銀ちゃんだってプータローだけど普段からそれなりのカッコしてんぞ。

 

「誰だよ銀ちゃん」

「うちの妹の雇用主。万事屋銀ちゃんのオーナー。天パ。糖尿予備軍」

「最後の二ついらねーだろ」

 

 いやある意味そこが銀ちゃんのアイデンティティーなんだけど。

 

「で、自称異次元だか異世界だか出身のジンさん。あんた元の場所に戻る算段はあんの?」

「んなもんあったらとっととこっから逃げてるっつの」

「だろうね」

 

 見たところこいつ腕っぷしは申し分ないし口も立つし、無一文で常識皆無な今の状態でもどっかの誰かを誑し込んで普通に生きてけるタイプだ。それでも私相手に左手骨折してまでここに残ったのは(こいつの言葉を全部信じるならだけど)、遺跡から転移した先であるこの家付近に留まり続けることが現状最善だからだろう。

 フィクションでもよくあるよね。特定の井戸からタイムスリップしたり同じ本からその世界に行ったり。今回は井戸も本もクソもなかったけど。

 

 …………んー。

 

「さっきの」

「あ?」

「さっき私の傘を防いだやつ、私も練習したら出来るようになる?」

「あ? ……あー、まあなるんじゃねーの、多分」

 

 よし、なら話は早い。

 

「左手の治療代と、完治するまでの三食と寝る場所を提供する。あんたの外出は制限しないし、犯罪以外の行動ならとやかく言わない。他に拠点を見つけたらいつ出て行ってもいい」

「その代わりに【念】を教えろってか」

「ネンっていうのがさっきのやつならそうだね」

 

 理屈も理論もさっぱりわからんけど、アレがあれば次に親子喧嘩(または兄妹喧嘩)が勃発しても割って入ることくらいは出来そうだ。

 なんせあの時は全部妹に任せっぱなしになっちゃったからね。あの子はなんも気にしてないけど、一応姉としてこれ以上あんまり不甲斐ない様は晒したくないんだ。

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