ハグレモノ共の狂騒曲   作:終日のたり

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毎日自炊できる人を尊敬します。


第4訓:腹が減ったら生きていけない

 ひとまずぼっきり折ってしまった手の甲を家にある道具で固定して包帯を巻く。今日あたり熱が出そうだから解熱剤も出しておく。地球人相手なら病院なんだけど時間的に緊急外来以外はもう閉まってるし、救急車とか呼んで身元を確認されるのはちょっと拙そうなのでやめといた。あとなんか本人も病院はいらないっつってるし。

 

「手慣れてんなァ」

「身内がよく怪我してたからね」

 

 主に兄弟喧嘩でだけど。

 

「来客用の布団はないからしばらく寝袋使って。寝室も余分なのはないから寝るなら押し入れね」

「押し入れって人間が寝るとこじゃねーよな確か。つか布団あんじゃねーか」

「それは来客用じゃなくて遊びに来た妹用。髭のオッサンに無許可で使わせるモンじゃないの」

「誰がオッサンだ!」

 

 オレはまだ十九だ!! と吠えるおっさ……もといジン。

 

「ティーンにとっての年上なんてみんなオッサンだよ」

「俺もそのティーンだっつの。つーかお前幾つだよ」

「十八」

「一個違いじゃねーか」

 

 その一個が大きいんだよ、と言う代わりに肩をすくめると「マジかわいくねえこいつ」みたいな顔をされた。失敬な。私の顔面は母さんに生き写しだ。

 

「ていうかオッサンじゃないってんならその無精髭どうにかしたら? そのツラ許されるの三十路からでしょ」

「うるせえ。発掘現場に髭剃りなんか持ってこれるか」

「へーそーなの。生憎考古学にも学術調査にも縁がない人生なもんで」

 

 とりあえず安全カミソリくらいは買ってくるかな。電動髭剃り? ンなもん自分で金稼いで買え。

 

「どこ行くんだよ」

「買い物」

 

 食料品が足りないんだよ。あと日用品もね。歯ブラシとタオルとパジャマくらいは最低でもいるでしょ。

 

「オレも行く」

「えー」

「えーじゃねえ。オレの外出は制限しないんだろが」

 

 誰だそんなこと言ったの。私か。

 

「早まったかな」

「そーかもな。オラ早く行こうぜ。ついでに道案内しろよ。図書館とか公民館とか駅とかな」

「何そのチョイス」

「情報収集」

 

 何の、って聞くのは流石に野暮か。一応別世界に来ちゃったーみたいな危機感はあるらしい。全然動じた様子はないけど。

 

「んじゃ荷物持ちくらいはしろよ」

 

 思いっきり嫌な顔してくるんだけど。マジ何様だこいつ。

 

 

 

 

 町並みは昔訪ねたジャポンそのもの、なのに道行く奴らの半分は魑魅魍魎。顔つきも大きさも手指や肌の色さえ大きく違う連中が当たり前にその辺を歩き、口を開けば同じ言葉を喋っている。

 

 町の中央にそびえているアレは何だと尋ねれば、「ターミナル」と短い回答。宇宙人……天人がこの星にやってくるとき、そしてこの星から飛びたつときは必ずあそこから出るらしい。当然金はかかるらしいが遊覧船みたいなもんもあるようだ。

 

「なんだそれ乗りてえ」

「自分の金でどうぞ」

 

 振り返りもしない女は相変わらず味もそっけもない。まあ必需品じゃない娯楽のための金まで出したくないってのはそうだろう。

 

「そういやお前、仕事何してんだ?」

 

 この世界に【ハンター】はいない。フリーのエイリアンハンターやらトレジャーハンターやらはいるらしいが、ジンたちにとってなじみ深い【ハンター】という職種はないようだ。

 

「定職って定職にはついてないよ。天人で未成年だとあんまり何処もいい顔しないから。でも顔なじみはそこそこできてるからそこの店で働いてる」

「へえ、何の店?」

「キャバクラ」

「は!?」

「何。言っとくけど客引きもしてないし酒もたばこもやってないよ。たまーに知り合いが客で来た時にヘルプ入るけど基本は裏方だしね。あとは妹の居候先の大家がやってるスナックとか、その隣の花屋とか、あとは有志のえいりあん討伐でしょ、銀ちゃんとこでもたまに一緒に仕事するし、それから……」

「ふり幅がデカすぎんだろ」

 

 とりあえず節操なしに働いてるってことはよくわかった。ジンが言えた義理ではないが、酒もたばこも変な薬もやってないなら別に咎める事ではないだろう。なおジンは酒でもたばこでも危ないお薬でも、その国で合法であれば基本的に試す性分なので本当に人のことは言えない。

 

「今のオレの立場でも雇うようなトコがありゃいいんだが」

「あるでしょ幾らでも。かぶき町を何だと思ってんの」

「知らねーよ。お前から聞いた情報しか今は持ってねーんだよこっちは」

「心配しなくても二年前に不法入国した妹が我が物顔で暮らせてる街だよ、ここは」

「それはそれでどうなんだよ」

 

 戸籍も身分証明書も常識もないジンにとっては都合の良い環境なのは間違いないが、正直だいぶカオスだ。聞いてるだけで面白くもあるが。

 

「ここ行きつけのスーパーね。基本ここと斜向かいにあるドラッグストアが激安競争してるから広告見て安い方で買う。荷物持ちよろしく」

「へいへい」

 

 屋根瓦や漆喰の壁は物珍しいが、スーパーだと指さされた店の構え方や雰囲気は見知ったものとさほど変わらない気がする。ジンはそもそもスーパーで買い物した経験自体ほぼないが(何せ自炊経験自体がほぼゼロだ。野宿した先での食料の現地調達と調理は自炊とは一線を画す)、流石にそのくらいはわかる。

 慣れた様子で買い物籠を二つカートにセットする少女の後ろから除いた青果売り場には、面白みのないことに見知った野菜や果物が多かった。ニンジン、キャベツ、白菜、ジャガイモ、玉ねぎ、トマトに茄子……。

 

「って待て待て待て待てどんだけ買う気だよ!」

「一週間分」

 

 キャベツの大玉五つも何に使うというのか。当たり前のように自分の頭くらいある野菜を籠に放り込む少女は煩わしそうにジンを見やる。

 

「うるさいなあ。っていうか何でお前手ぶらなんだよ荷物持ちしろっつったろ」

「うおっ」

 

 投げつけるように籠を渡されたと思えば、間髪入れずにカボチャを三つも投入される。足が速い野菜だけでも既に籠二つ分も買い占める少女に戦慄したジンは、その数時間後に披露された夜兎の底なし胃袋にますます慄くこととなる。

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