ハグレモノ共の狂騒曲   作:終日のたり

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だんだん文字数が多くなっててあるぇー?ってなってます。


第6訓:食い物とギャグは鮮度が命

「んー、まあ今日はこんなもんでいいだろ」

 

 見た目通りというか見た目以上というか、とにかく口で説明するより「見て盗め」っつー昔気質の職人みたいなタイプだったジンの適当極まりない指導のもと、とりあえず【纏】については及第点が出た。らしい。

 

 欠伸して目に涙まで浮かべてるジンはもう今日はお開きにする気満々ぽいんだけど、私的には全く納得できない。

 

「あんたと全然違うじゃん、これ」

 

 精孔とやらが開いて見えるようになったからわかる。同じ【纏】でも私とこいつじゃ全然精度も密度も違う。私なんか体の周り20センチにとどめるのがやっとで気を抜くとどっかから穴が開くのに、ジンの【纏】はそんなそぶりもない。私がせいぜい切り取るのに失敗して破れたりひしゃげたりしたラップなら、こいつはぴっちり隙間なく張ったスマホの画面保護カバーだ。マジでこれだけでレベルが違う。

 

「ったりめーだろ。こちとら才能と年季のダブルコンボなんだよ。そう簡単にマネされてたまるか」

「しれっと自分を天才呼ばわりしてんじゃねーよ自意識過剰か」

「ただの事実だ」

 

 嘘こけ。と言いたいとこだけど多分本当だと思う。こと喧嘩やら戦闘やらじゃ一番の落ちこぼれとはいえ、星海坊主とあの戦闘狂を身内に持つだけあって私の観察眼もなかなかのものだ。こいつならバカ兄とも素面で殴りあえるだろうし、多分なんなら兄貴よりも強い。こいつがここにいる間、鉢合わせにならないことを祈ろう。

 

「ちなみに念能力者なら寝てようが飯食ってようが【纏】は無意識レベルでできてんのがフツーだ。まあ頑張れよ」

「いちいち本当にむかつくなお前」

 

 今からでもたたき出してやろうか……いややめとこう。今日教わったのマジで基礎の基礎レベルみたいだし、追い出して契約を反故にしたら長期的に損すんのは多分私だ。

 

 何よりこいつ、ちょっと一緒に出掛けただけで地球人と天人あわせて七人も知り合い作ってたようなコミュ強野郎だ。こいつなら私に追い出されてもそのまま今日縁を結んだ誰かの家に転がり込めば事足りてしまう。見たところサバイバルにも慣れてる臭いし、チンピラ警察24時に連行されても雨露しのげる場所に行けたって喜びそうだ。

 

 ……腹立つわー。なんかめっちゃ腹立つ。

 

「おい」

「なに」

「鳴ってんぞ、外」

「んあ?」

 

 ジンが指さす先を見れば、ちかちかと点滅してるドアモニターのランプ。……ああもう。いつもなら入り口に立たれる前に気づけるのに。

 

「こんばんは」

「珍しいね、いつもならこっちが来る前に開けてくるってのに」

 

 黒い着物を着こなして、髪もしっかり結ってる様はおきゃんを通り越して粋って言葉が相変わらず似合う。年を取るならこうなりたいなって前にボソッと言ったら「あんな男か女かわかんねーババアが良いわけ? 絆創膏貼る? 頭丸ごと包めるうくらいでっかいやつ」と真顔で銀ちゃんに言われた記憶が蘇った。わかってるけど失礼だよなあの天パ。

 

「ちょっと話し込んでて。すいません」

「いいよ別に。それよりほらコレ。知り合いが送ってきてね」

「わ、ありがとうございます」

 

 渡されたのは新聞紙に包まれたタケノコ。新鮮なやつだ。明日はこれでお刺身作ろう。残ったら煮つけだ。それが一番シンプルで美味い。

 

「いつもすみません。対して何もお返しできてないのに」

 

 スーパーで買おうと思っても水煮しか大体ないし、刺身にできるような新鮮さは期待できない。晩御飯済ませたのにお腹空いてきちゃうな。

 

 スマホを確認したらまだ夜の二十二時。よし、明日まで待つのはやめた。夜食にしようそうしよう。

 

「……アンタはちゃんと気遣いが出来るいい子だねえ、妹にちっとばかし分けてやれなかったのかい」

「神楽はあの大らかさが持ち味ですから」

「だからって人ン家の炊飯器を一日七回も空にするのはどうなんだィ」

「それはもう個性っていうか生態系っていうか」

 

 夜兎だからね。

 

「ま、その妹とあのちゃらんぽらん共の分は別にあるから、あんたはそれしっかり食っときな。連れもいるみたいだしね」

「連れって。誤解ですよ」

 

 玄関口においておいたジンのブーツはどう見てもメンズだ。お登勢さんは目ざとくそれに目を落とすと、次に私を見てウィンクを飛ばしてくる。とんでもねえ勘違いだ、マジやめてほしい。

 

「こっちじゃないのかい?」

 

 小指を立てるな。

 

「ただの居候です。ちょっとまあ、色々あって」

「ふうん?」

 

 流石に異世界云々は私の口から言いづらいし、かといってジンが突然脱衣所に現れたことだけでも云ったら警察に電話されかねない。

 

「まあいいさ、あのチャイナ娘には自分から言うんだよ」

「だから違いますって」

 

 あこがれはしてるけど、この人っていうか、かぶき町の年配女性のこういう酸いも甘いも噛分けたが故の変な気の回し方は苦手だ。根掘り葉掘り聞いてこない分お登勢さんは気が楽だけど、だからって痛くもない腹を探られるのは好きじゃない。

 

 にやりと笑って去っていくお登勢さんが戻ってこないのを確認してドアを閉める。なんか疲れた。でもタケノコは嬉しい。

 

「…………」

「何、人の顔まじまじと見て」

「別に」

「あっそ。んじゃジン、あんた暇ならこれ下処理してよ。皮剥いて手ごろな大きさにぶつ切りするだけでいいから」

「あ? なんだそりゃ……タケノコ?

「今貰ったの。流石に包丁くらい使えんでしょ」

「なんでオレが」

 

 ははーん、こいつ鮮度抜群で旬のタケノコ様のうまさを知らないな? そうかそうか、そりゃ勿体ない。

 

「いいからやってよ。その間に私ご飯炊くから」

「今から食うのかよ!?」

「そうだよ。これ真面目に鮮度が命なんだから。明日になったら生食はもうダメかもしれない。あ、やっぱ半分は薄切りにして。刺身だから」

「わかってたけど人使い荒ェなおい」

 

 やかましい。タケノコ様を食った後もう一度その口で同じこと言ってみろ。

 

「なんっだこれ美味ぇな!?!?」

「ほれ見たことか」

 

 タケノコ様は刺身にしてお醤油とワサビで頂くのが至高。天人が割と引っ掛かるワサビの辛さも口に合ったらしいジンに思わず笑う。なんか懐かない犬を餌付けしてる気分だ。同じ犬なら定春のがウン万倍かわいいけど、変に無邪気な印象を受けるのは私が絆されかけてるってことなんだろうか。


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