ハグレモノ共の狂騒曲   作:終日のたり

8 / 10
原作再開は当然のごとく滅茶苦茶うれしいんですが、かつて冨樫先生が回答した『全員死にます』が近づいてるのが超怖いです。
旅団はキャラとしては好きなんですが悪役は悪役なので静かに悼むだけで済みそうなんですがクラピカはどうなるのか…。


第8訓:大事なものには金と手間を惜しむな

 基本的に私の日常はルーティンだ。

 

 決まった時間に起きてご飯食べてぶらついて仕事行って帰って寝る。そんな感じ。バイトの関係でそれなりの変動はあるけど、未成年ってこともあって朝帰りはない。別に夜通しでも私は構わないんだけど、店側に迷惑がかかる可能性もあるからその辺は大人しくしてる。別にそこまで金が欲しいわけでもないし、勤労意欲が高いわけでもないから。

 

 それに何より私自身がコミュ障……ってわけでもないけど特に友達付き合いの出来るタイプでもないので、妹関連でそれなりに仲良くなった人を除いて私自身の友達ってのはそういない。ていうかいない。神楽と比較すると口数も少なくて無愛想に見えるのは認める。愛嬌は妹に、愛想はバカ兄貴に全部割り振られたのが我が家です。

 

 というわけで、私の日常にイレギュラーはあまりない。たまにはあるけど大体妹というか万事屋絡みだったりお得意様のキャバクラ絡みだったりはたまたそこから派生してストーカーゴリラ……つまるところチンピラ警察が絡みだったりで、大体誰かの巻き添えという形になる。大抵悪い結果にはならないし結構面白いこともあるからそれは良いんだけど、だからといって自分から首を突っ込む気にはいつだってなれない。

 

『おかあさん』

『お前のせいで』

『ねーちゃん、パピー次はいつ帰ってくるアルか?』

『……すまねえな』

 

 私たちが何もしなくたって、悲しいことや辛いことは突然鎌首擡げてこっちに食らいついてくる。だったら敢えて自分から足を踏みいれたりしたくない。そう思うのは別に間違いじゃないと思ってる。この他力本願で流されっぱなしな体質のせいで家族喧嘩で蚊帳の外になりがちなのは……否定しないけど。

 

「これは?」

「こっちにお願いします」

 

 不織布のマスクで鼻まで覆っているせいで少しばかり息苦しい。反面こっちに指示を出す職員? 係員? は透明なフェイスシールドをしている。通期性的には羨ましいけどフェイスシールドで実は感染予防的には全然効果ないらしいね。

 

「置くときは細心の注意をお願いします。状態が悪くて非常に崩れやすいので」

「はーい」

 

 よいしょ、と一抱えもある段ボールをテーブルに置く。あくまで壁やら何やらにぶつけないためにかぶせていたボール箱を下から上に引きぬくと、ミイラみたいに全体を白い布? ビニール? で巻かれた何かが出てくる。私が少し離れると、一緒についてきたスタッフがそれを丁寧にほどき始める。こういう貴重品ってどうやって運ぶんだろうと思ってたけどこうやってたんだね。

 

 ややあって完全に包装を取っ払うと、どっかで見たことあるようなないような木製の彫像が出てきた。……うんまあ状態は確かに良くない。下の方がちょっと腐りかけてるし。

 

「おっ、それがそこならならこれも一旦こっちだな」

「ジン」

 

 これ、とジンが持ってきたのは私が運んだのと同じくらいの箱だった。同じ手順で包帯めいたラッピングを取ると、中身はやっぱり同じくらいの大きさの木像だった。台座も同じデザインで、違うのはモチーフくらい。私が運んだのは大きな鳥で、今出てきたのは兎だ。

 

「金烏玉兎像っつーんだと」

「キンウギョクト?」

「おー。金の烏と玉の兎、そっちの烏は本来足が三本あったらしいな」

「……ほんとだ、もう一本あった跡がある」

 

 なんかちょっとバランス悪いなと思ってたけどそういうことか。三本あるはずの足の一本は腐って折れちゃったんだな。

 

「元々これが収められてた倉庫が権力闘争の都合ウン十年放置された時代があってよ、そんときに雨漏りが修繕されなかったらしい。ったく、これだから美術品だの貴重品はきっちり独立機関作って管理させとかなきゃなんねーってのに」

「妙に実感こもってんね」

「そりゃな。オレが普段どんだけやりがいだけを追い求められる口の堅い変わり者を集めて回ってるかって話だ。最初の土台だけは最低限そういう奴らで固めねえと後でどうにもならなくなるんだよ」

「ふーん」

 

 こいつ本当にそういうこともしてたんだなァ……あとこの口ぶりは普段から利権関連で回りとバトってるクチだな。どっちに同情すればいいのかわからんけど。

 

「金烏は三本足の八咫烏で太陽、玉兎は月。太陽と月、転じて歳月。そこから更に派生して家系やら国家やらの存続を願うって意味らしいな」

「なるほど」

 

 にやっと笑ったジンが、手袋をした手で周囲をぐるりと指さした。

 

「特にこの時代の王、じゃねーや、将軍ってのはこのモチーフを好んだらしくてな、今回運び込んだ貴重品の実に四割がこの金烏玉兎だ。一つのデザインに権力者が固執すんのは別に珍しくもねえが、当時の将軍がこれに凝りだしたのは特段内戦も事件もなかった時代だ。まだ天人も来てなかった太平の世にわざわざ大量発注かけてんのはちっと異常だな」

「発注て」

 

 そんな業者みたいな。いやまあ確かに命令して作らせたんなら発注ではあるけども。

 

「大体どこの国でもな、こういう長寿だの永遠の命だのって願いを形にするのはそれなりに時代が乱れてるときだ。例外は当然あるけどな。けど『こいつ』はある時から急にこの金烏玉兎に凝りだして、やっぱりある時から急にそれをやめてる」

「何かハッキリとした意図があるってこと?」

「さぁな。完全にただの気まぐれって線もなくはねーよ」

 

 にんまりと笑みを深めたジンが更に何か言うより先に、外の方から「おいそこサボるな!」という当然のお叱りが飛んでくる。逆光で姿は見えにくいがジンと仲良くなった誰かさんだ。焼き鳥ゴチでしたって言ったら変な顔してたっけ。

 

「ま、深く知りたかったらまだ付き合えよ。俺も調べたいことあるしな」

 

 鼻歌交じりに歩き出したジンの背中を蹴り飛ばしてやろうか一瞬考えて、やめる。うっかり展示品に当たったら拙いって気を遣うくらいの理性は、一応私にもあったわけだ。

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