カレンが言うアプローチを本当にしたらどうなるか   作:黒いトナカイ

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カレンが言うアプローチを本当にしたらどうなるか

【カレンが言うアプローチを本当にしたらどうなるか】

 

 出会った時から今まで、俺は一つの悩みを抱えていた。

 それはカレンからのアプローチが強すぎること。

 

 やれ抱き枕にして良いとか、やれ寝てたら肩抱いても良いとか、男を惑わせる言葉を次から次へとぶつけてくるのだ。

 

 トレーナーとウマ娘の関係上、手を出すつもりは勿論ないが、これはあまりにもあからさま過ぎる。

 カレンにそれとなく注意したことはあるが、正直全く意味を成してないし困ったものだ。

 

 むん。

 流石に俺以外に言う事はないと思うが、変な間違いが起こる前に男が如何に怖いかと言うことを教えないといけないと最近思っている。

 

 むんむん。

 よし思い立ったが吉日、早速行動に移していくとしよう。

 カレンが言うアプローチを本当に行い、それがどれほど恐ろしい事なのかを分からせてあげるんだ。

 

 しかしタンホイザに教えて貰ったむんって掛け声、意外と気合が入るな。

 景気づけにもう一度やってみよう。

 

 えい! えい! むん!

 

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Case1【カレンがうとうとしだしたら、こそっと肩を抱いてもいいよ? 見て見ぬフリ、してあげるから♪】

 

 レース後、帰りの電車で座ってるとカレンがうとうとと舟を漕ぎ出した。

 今日は結構激しいレースだったし致し方ないが、俺の反対側には若めの男の人が座っている。

 ウマスタで顔が割れてる俺ならともかく、見ず知らずの誰かにもたれかかった日には炎上しかねない。

 てかそれはさせる訳にはいかない。

 

 むん。

 となればやる事は1つだ。丁度良いし例の作戦を実行に移すとしよう。

 なるべく優しく優しく、と。

 

「っ!?」

 

 そうしてそっとカレンの肩に手を回し、俺の方へともたれかからせる。

 一瞬カレンの耳がピクンと跳ね上がるが気にしない。日頃からやれって言ってるの貴女だからね。

 心なしか頬が赤くなってる気もするが、まぁ目を瞑ったまま寝たふりしてるっぽいし見て見ぬ振りをする。

 

 むん!

 どうだカレン! これで多少は男に肩を回される恐ろしさが分かるだろう!

 これを機にしっかり反省するんだな!

 

 俺は勝利を確信し心の中で雄叫びをあげる。

 

 しかし、こちらからやめるのもアレなので、文句を言われるまでそのままにするとする。

 どうせ数分で根をあげるはずだしな。

 

 

 ガタンゴトンガタンゴトン。

 

(……あれー?)

 

 しかし予想と違い、肩に手を回して抱き寄せたまま電車に揺られていく。

 あれからカレンは終始大人しくしており、黙って俺の肩に頭を預けている。

 

 むーん?

 てっきり何かリアクションがあるかと思ったがそんな事もなく。

 しかもさっきと違い絶妙に髪で顔が隠れていて起きているのか寝ているのかも分からない。

 かと言って覗き込む訳にはいかないしどうしたもんかと頭を抱えそうになる。

 いきなり予定通りにいかないとは幸先が悪い。

 

 そんな事を考えているといつの間にか目的の駅が近づいてきてしまっていた。

 

 むん。

 これ以上の進展も見込めないし起こすとしよう。肩から手を離し、カレンに声をかける。

 

「ふわー、寝ちゃってた。おはよーお兄ちゃん♪」

 

 可愛らしく伸びをして、えへへと笑っている。

 

 むーん。

 起きてからもリアクションはない。本当に寝ていたのかもしれない。何なら肩を抱き寄せられた程度では効果がない可能性もある。

 

「おはようカレン。もう着くから降りる準備をしてくれな」

 

「はーい♪」

 

 致し方なし。また次の作戦でも考えるとしよう。

 

 俺はそのまま寮の入り口まで送り届けると、手を振るカレンに振り返しつつ、次の作戦を考える為に帰路についた。

 

Case1 特に反応なし(?)

 

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 バクンバクンと心臓が煩く鳴り響いている。

 どうにかお兄ちゃんと別れるまで平静を装っていたけど、見えなくなると同時に手で頬を抑えてしまう。

 それに加えて呼吸も荒くなってくる。

 

「お兄ちゃん……お兄ちゃん……っ」

 

 お兄ちゃんが『わたし』の肩を抱いてくれた。眠りそうな『わたし』を、知らない男にもたれさせまいと守ってくれた。『わたし』を、まるで自分のもののように扱ってくれた。

 

「ハァハァッ……!?」

 

 呼吸が落ち着かない。レース後でもここまで乱れた事なんてないのに。

 

 いつも寝てたら抱き寄せて良いよって言ってたけど、きっとしないんだろうなって心の中で思ってた。

 でも、もししてくれたならって想いもあった。

 

 ただまさか、このタイミングでしてくれるなんて。

 

「わたし……本当に……っ」

 

 あぁ駄目だ。みんなが憧れるはずの可愛い可愛い『カレン』としての自分を保ててない。

 今の『わたし』はお兄ちゃんに恋するただのカレンチャンでしかない。こんな姿、とてもじゃないけど他の人には見せれない。

 

 あぁでも、今だけは……。

 

 震える手でウマホを出し、そこに写ってる写真を眺める。

 目を瞑る『わたし』と、優しい笑みで抱き寄せてくれるお兄ちゃん。

 

「夢じゃない……夢じゃないんだ……」

 

 その写真を見ていると、また心臓が煩く自己主張してくる。

 『カレン』として鍛え上げた自撮りの技術が思いもよらない形で活きてくれた。

 気づかれないように撮ったから盗撮みたいな形だけど、そこは恋する乙女としての特権で許して欲しいと思う。

 いや、お兄ちゃんなら絶対に許してくれる。

 

 写真を見ながらそっと肩に手を当てると、お兄ちゃんの手のぬくもりが蘇ってくる。

 このまま朝までその感触を思い出して浸っていたい。この心地よさに溺れてしまいたい。

 

 そこまで考えた時、ふっと我に帰る。

 

 ダメ。ちゃんとウマスタの更新をしないと。『カレン』はみんなの可愛い『カレン』なんだから。

 それをやめちゃったら、『わたし』はお兄ちゃんに相応しくなくなっちゃう。

 

 壊れそうな理性を奮い立たせて、レースの結果や写真を記事にしてあげ終わる。

 みんなの反応は明日確認すれば良い。いつもなら暫く様子を見るのだけど、今日ばかりはどうしようもない。

 『わたし』はウマスタのアプリを落とし寝る準備を始める。

 

 ただそうして布団に潜っても、結局ずっとあの写真を眺めてしまっていた。

 

「お兄ちゃん……好き……大好き……」

 

 とっくに目に焼きついたはずの写真を飽きる事なく見続けてしまう。

 これはとてもじゃないが直ぐには寝付けそうにない。

 今日はちょっと長い夜になるかもと、心のどこかで思った。

 

Case1 実はとても効果あり

 

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Case2 【あ、今カレンのこと見てたでしょ? あはっ、お兄ちゃんなら〜もっと近くで…良いのに♪】

 

 今日は次のレースに向けてカレンと座学トレーニングに励む予定だった。

 鍛えることだけがトレーニングではなく、相手に合わせて作戦を考えるのも大事なのだ。

 カレンもその事をちゃんと理解しており、基本的に文句なんて聞いた事がない。本当にストイックな子だ。あぁ話が逸れた。

 

 しかし今日の俺はいつもと違うことをしようと考えていた。

 いつも座学は向かい合ってやるのだが、今回は隣に座ってかなり距離をかなり近づけて行う、と言うものだ。

 

 むん。

 前回は失敗したが、今回はこれで間違いなくイケるはずだ。

 いつももっと近くで見ろと言ってくる以上、されても文句は言えまい。

 

 さぁカレン! 今日こそ男の恐ろしさを思い知らせてやろう!

 

「おはよーお兄ちゃん♪ 今日もよろしくお願いしまーす♪」

 

「おはようカレン。こちらこそよろしくな」

 

 いつも通り可愛らしくトレーナー室に入ってくるカレンを横目に、内心ほくそ笑む。

 どんな反応をするか少し楽しみでもあるからだ。

 

「今日は次のレースに出走する予定のウマ娘たちのデータを確認する。資料はここに入れてるから一緒に見ていこう」

 

「はーい♪」

 

 可愛らしく返事をしていつもの場所に座ったカレンの隣に、わざとらしく俺も椅子を置いて座ってやる。

 さぁカレン! これはどうだ!?

 

「?……! あはっ♪」

 

 一瞬キョトンとした表情を見せたが、すぐに嬉しそうな顔をしてこちらを見てくる。

 いやそれどころか、自身の椅子をズラして肩が当たるくらいまで身をくっつけて来始める。

 な、なんだと……?

 

「さっ、始めよお兄ちゃんっ♪」

 

「お、おう」

 

 てっきり「近いよお兄ちゃん」とか言うかと思ったのに、まさかの拒否なし。しかも逆に攻め込まれてる。

 何故こうも計画通りにいかないのか。

 

 く、カレンめ。恐ろしいウマ娘だ。

 

 しかし賽は投げられた。ここで引く訳にはいかない。こうなれば我慢比べと行こうじゃないか。

 流石に10分もすれば嫌がるだろう……と思いたい。

 

「このウマ娘は先行型で、前のOPではーーー」

 

「ならカレンはーーー」

 

 おかしい。

 普通に進んでる。肩がぶつかるくらいくっついてるのに、いつも以上に集中して出来てる。カレンの方を見ると、よそ見する事なく真剣に資料に目を通している。

 

「うーん。カレン的にはここからーーー」

 

 むん。

 流石レースにも可愛さにも妥協を知らないカレンだ。勝つためにできる事は全てやり切る覚悟なのだろう。

 

 対して、こんな事をトレーニング中にやる俺は何なんだろうと思ってしまう。

 

(やるのは兎も角、トレーニング中はないな。カレンに失礼極まりない)

 

 罪悪感に襲われ、少し目を落としてしまう。

 次に顔を上げた時はちゃんとトレーナーとして向かい合おう。

 

 そう思ったのだが……。

 

 【目を落とす】

 

 それがまずかった。

 

(……ん?)

 

 目を落とした先にあったのはカレンの胸元。

 まぁ何があるとは言えないが、年齢の割に制服の下から大きく自己主張してるそこに視線がいってしまう。

 カレンの呼吸に合わせるように、小さく扇状的に揺れていてーーー。

 

(って!? いやいや待て待て待て待て落ち着け落ち着け)

 

 しかし男のさがなのか、一度そこに目がいってしまうとまるでブラックホールのように視線が吸い寄せられてしまう。

 

 意識してしまうと止まらない。

 それどころか女の子特有の良い匂いも気になってきてしまい、益々集中出来なくなってくる。

 

(いかんいかんいかんここは間を置こうちょっと頭を冷やそうバレたら変態トレーナーになってしまうそれだけはいかん)

 

「カ、カレン。キリも良いし少し休憩するか」

 

「え? カレンはまだ大丈夫だよ? 心配してくれてありがとねお兄ちゃん♪」

 

 あっ……しまった……。

 

 カレンならこう返すって分かってたのに何故こんな言い方をしたのか。

 普通にトイレとか言えば終わった話なのに、完全にやらかした。

 

 いや、まだ間に合う。

 どうにか脱出を……!

 

 しかし相手はあのカレンチャン。

 何かを察したように、俺が一番恐れている追撃をかけてくる。

 

「ねぇねぇお兄ちゃん」

 

「な、なんだ?」

 

「さっきさ……カレンの何処を見てたのか……教えて?」

 

 右手の人差し指を口に当て、左手でわざとらしく胸を覆いながら小悪魔みたいな妖艶な微笑みを向けてくる。

 何処となく嬉しそうな顔を浮かべてるけど気のせいだろうか。

 

 いやしかしそれどころではない。

 背中に冷水をかけられたように血の気が引いていくのがわかる。

 バレてる。間違いなくバレてる。

 何か、何かこの場を打開する言い訳はないだろうか。

 誰でも良い……何か選択肢を……!

 

 だが現実は厳しいようで。

 

「お兄ちゃんの……エッチ♪」

 

 その一言でバキリと心が砕ける音がして、俺は超高速でカレンにジャンピング土下座をかますのであった。

 うん、真面目なトレーニングを汚した罰ですねこれ。

 本当にごめんなさい。

 

Case2 全力で謝罪

 

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「ふぅ」

 

 シャワーを浴びて一息つくと、今日の昼間のことを思い出す。

 ウマホを取り出して誰にも見せれない秘密のフォルダを開いていく。

 

 そこには見事なジャンピング土下座の写真をしているお兄ちゃんが写っていた。

 すごかったなぁ、あの動き。

 

「ふふ♪」

 

 思い出すと笑いが込み上げて来てしまう。

 

 男の人のそう言う視線は経験した事がない訳じゃない。

 寧ろウマ娘ばかりのここに転校してくる前は日常茶飯事だったし、人に見られる事を生業としてる以上そう言うのには敏感な方だったから。

 

 同年代に比べたらスタイルも良いし、何よりカレンは可愛いからそこに視線が集まるのは別に不思議な事ではない。

 

 まぁだからと言って気持ちの良いものではないけれど。

 

 ただ見ず知らずの人ではなく、それがお兄ちゃんなら話は別だ。

 

「これは……意識してくれてるのかなー?♪」

 

 自分でもきっと満面の笑みなんだろうなってくらいニコニコしてしまう。

 変に視線を集めちゃうから煩わしいと思った事もあったけど、今はただ誇らしく思える。

 

 最近は本当に嬉しい事が続いている。

 前は肩を抱いてくれたし、今日はぶつかるくらい近くに来てトレーニングをしてくれた。

 

 段々と、欲しいものが近づいて来てるって実感できる。

 それが10年以上も心の中に残ってた初恋なのだから、その喜びは計りしれない。

 

 ただ、肩を抱いてくれた時は失敗だったなって『わたし』は反省していた。

 不意打ちだったからと言って、折角アプローチしてくれたのにあそこで何も言えずに終わるのはどう考えても宜しくない。

 

 幸運にもまたチャンスは巡ってきてくれたけれど、次がなかったなんてことは生きてる上ではザラにある訳で。

 これからは絶対に失敗なんて出来ないという事を、もう一度しっかり心に刻まないといけない。

 

 あぁでも……。

 

 写真をスクロールすると、そこには『わたし』の胸を見まいと必死に目を逸らそうとしてるお兄ちゃんが映っていた。

 

 真面目なトレーニング中に何をしてるんだって怒られちゃいそうだけど、そこも恋する乙女の特権として許して欲しい。

 そもそもお兄ちゃんだってジロジロ見てたんだからお互い様だよね。

 

「お兄ちゃんが見てくれてる……見てくれてるんだ……♪♪」

 

 ゾクゾクっと背中に電流が走ってくる。

 『カレン』はファンサービスはしっかりするけど、決して自分を安売りはしない。

 それだけは決めていたし、これからも変えるつもりはない。あからさまに露出の高い服とかを着ないのはその為だ。

 

 でも、それもお兄ちゃんが相手なら話は別な訳で。

 

「もっと……もっと見て欲しいなぁ♪ お兄ちゃんに……♪」

 

 デートとかではダメだ。人目に着いたら可愛い『カレン』の名前に傷がついてしまう。

 その時点で『わたし』の存在の意味がなくなってしまうのだから。

 

 なら、もしも……誰にも見られない場所なら?

 例えばお兄ちゃんのお部屋とかなら?

 

「ダメダメ。まだ早いよカレン」

 

 そこまで考えて一旦思考を振り払う。

 

 そう、まだ早い。

 繰り返すことになるけど初めて出会った時から10年以上経って、漸くここまでこれたんだ。

 ここで焦って台無しになんてしたくない。

 

 だとしても。

 

「逃がさないからね? お兄ちゃん♪」

 

 誰もいない空間に向かって、自分に言い聞かせるように宣言する。

 再度、胸に刻むように。

 

「絶対に手に入れるもん。望んだのなら、全部!」

 

Case2 全力で進軍

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