カレンが言うアプローチを本当にしたらどうなるか   作:黒いトナカイ

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カレンが言うアプローチを本当にしたら大変なことになった

※Caution

 

今回のお話ではカレンチャンの温泉旅行のネタバレ要素が含まれてます。

まだ見てないお兄ちゃんお姉ちゃんはお気をつけください。

 

※Caution

 

 

 

 

 

 

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Case4【カレンをもっと知りたいなら、ストレートにアタックしてみて。そしたら教えてあげる…かも♪】

 

 緩やかな風を感じながら、膝の上で眠るカレンの頭を撫で続ける。俺自身もこうしてゆっくりするのは本当に久しぶりだった。

 

 トレセン学園に配属されウマ娘を選ぼうとしていた時にカレンと出会い、アレよアレよと契約を結んだのももう3年以上前。

 

 思えば、あの時からノンストップで走り続けてきたんだよな。

 

「ふにゅ……♪」

 

 指が軽く耳に触れてしまい、カレンが可愛らしい声を上げる。でも起きることはなく、その横顔は自惚れではなく安心し切ったものに見える。

 

 こんな風に無防備な姿を晒してくれるって事は、よっぽど俺のことを信頼してくれてるのだろう。

 

 そのせいだろうか? その顔を見てると少し罪悪感が込み上げてくるのは。

 

 カレンの貞操観念の不安から色んな事をやっては見た。

 でもそんな事をしている俺は一体カレンの何を知っているのだろうか?

 そもそも俺は、何故こんな事をしようと思い始めたのだろうか?

 

 カレンの将来の為と謳ってきたが、今は違う気がしてならない。

 

 3年間トゥインクルシリーズを一緒に走り続けてきたけれど、振り返れば振り返るほど俺は必要だったのかという疑問が湧いてくる。

 

 温泉旅行の時カレンは言ってきた。

 お兄ちゃんがいなくてもカレンは無敵だったと。

 

 なら果たして俺はこの娘の役に立てていたのだろうか?

 他の誰かでもよかったんじゃないのか?

 

「なぁカレン、お前にとって俺は本当に必要だったのかな」

 

 誰も聞いてない呟きは、綺麗な庭園の風に流されて消えていった。

 

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「ふわぁ……。おはよーお兄ちゃん♪」

 

「おはようカレン」

 

 1時間ほどして、カレンは目を覚ました。先ほどの小さな綻びはまだ解決をしていないが、悟られる訳にはいかない。

 

「お腹すいたろ? そろそろ昼だし弁当食べようか。今日は俺が作ってきたからさ」

 

 元々は『担当ウマ娘にこんな事までするんだぞ、どうだ怖いだろう?』作戦のために作ってきた弁当だったが、ここは注意を引きつけるために使う。

 この娘は異様に勘が鋭いから。

 

 しかしその方法も、やはりカレンチャンには通じなかった。

 

「……ねぇお兄ちゃん、カレンが寝てる間に何かあったの?」

 

 ドキリと、心臓が跳ね上がる。じっと俺の方を見つめて真面目な顔をしてくる。

 やめてほしい。今だけは気づいて欲しくなかった。

 

「別に、何もないぞ?」

 

「嘘。何か隠してる」

 

 これだ。見透かしてくるようなその言葉に視線を逸らす。

 無敵で可愛いカレンチャンというウマ娘。何度も何度も、俺はこの娘に負けてきたような気がする。

 

「さっきまでと、全然違うもん」

 

 どこか泣きそうな雰囲気を孕んだ声に、ズキリと胸が痛む。

 どうやら誤魔化し切るのは難しそうだ。

 

「そっか……参ったな。やっぱりカレンには敵わないな」

 

 折角休暇と称して用意した時間なのに、カレンを不安にさせてしまい情けなかった。

 でも、いつかは話さないといけなかった事なのかもしれない。

 

「カッコ良い話じゃないけどな」

 

 その言葉は、自分でも酷く情けないもののように感じた。

 

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 お兄ちゃんの様子がおかしかった。

 寝る前と起きた後でまるで別人のように変わっていた。

 

 カレンが何かしたのかと考えたけど、多分それは違う。寝ていただけで何かした訳でもない。

 

 さっきまでの浮かれ気分とは一転して、わたしはカレンとしてスイッチを入れた。

 きっと今からする話は、大切なものになる気がしたから。

 

「カレンの寝顔を見てたらふと思ったんだ。俺は本当に必要だったのかなって」

 

「それはどういう意味?」

 

「いつか言ってたろ? 俺がいなくてもカレンは無敵だったって。俺もそう思うんだ。だってカレンは余りにも完璧だったからさ」

 

「……」

 

「駆け出しのトレーナーでしかなかった俺は一体何の役に立てたのかなって。トリプルティアラからスプリント路線の変更だって、カレンはすぐに決断してくれた。でも、他の人ならそのままティアラだって取らせてやれたんじゃないかってさ」

 

 小さく息を吐き、お兄ちゃんは続ける。

 

「そう考えたら止まらなくなっちゃってさ。ごめんなカレン。折角の休みなのにこんな暗い話しちゃってさ。トレーナー失格だなホント……」

 

 自嘲するように笑うお兄ちゃんを見て、『わたし』は拳を強く握りしめて俯いた。

 

 今お兄ちゃんが話してくれた言葉を何度も反芻する。

 

 それは弱音。カレンチャンのトレーナーとしての力不足の吐露。

 

 それは自嘲。自分よりもっとうまくできる人がいたんじゃないかと。

 

 それは後悔。あの時の違う選択をしていれば、もっと良い未来があったんじゃないかと。

 

 

 その全てを飲み込んだ時、わたしの気持ちは一つしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 あぁなんて……。

 

 

 

 

 

 

 

 なんて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて愛おしい人なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今かけてくれた言葉の一つ一つが、嬉しくて仕方なかった。

 勿論不安にさせてしまった罪悪感もある。でもそれ以上に、喜びの方が大きかった。

 

 気づいているのかなお兄ちゃんは。

 

 その悩みは担当のウマ娘を自分の事のように考えてくれてる証明だって。

 

 それが心から大好きな人に言われたら、女の子はどれだけ嬉しいのかって。

 

 きっと分かってないんだよねお兄ちゃんは。

 

 だから『わたし』は顔を上げる。

 伝えなきゃいけないもん。

 

 お兄ちゃんに、この想いを全部。

 

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 顔を上げたカレンが、小さく息を吸って口を動かした。

 

「……うん、そうだね。きっとカレンはお兄ちゃんがいなくても、トゥインクルシリーズを走り切る事は出来たと思う」

 

 さらっと言われた言葉は俺の胸に小さく鈍い痛みを与える。

 

 それと同時に自覚する。

 

 俺はカレンに頼られたかったんだと。新人トレーナーとして駆け抜けてきて、URAも制覇した。

 

 でも心のどこかで、それは俺じゃなくても良かったんじゃないかという影があった。

 

 この娘はあまりにも完璧すぎたのだから。

 

 だからカレンの為と謳い貞操観念を直そうと考えたのだろう。カレンの何かの役に立ちたかったから。

 

「カレンは無敵だし、1人でも戦えなきゃいけないしね」

 

 ならやっぱりカレンの隣にいるのは俺じゃなくても良かったんだな、と諦観に包まれる。でも続いた言葉がそれを真っ向から否定した。

 

「でもねお兄ちゃん、『カレン』はそうでも『わたし』は違うんだよ?」

 

「え?」

 

 どこか憂いを秘めた笑顔にドキリとしてしまう。それは初めて見るカレンの表情。

 

「お兄ちゃんは気付いてないかもだけど、『わたし』の夢に初めて中身をくれたのはお兄ちゃんなんだよ? あの時、あの遊園地で、あの言葉をかけてくれなかったら『わたし』はきっと『カレン』になれてなかった」

 

 それは間違いなく素直な想いだと伝わってくる強さで。

 

「お兄ちゃんの代わりなんて他にはいないし、この走り続けた3年間に後悔なんて一つもないの。わたしはね。お兄ちゃんが隣にいてくれるだけで幸せなの。お兄ちゃんが可愛いって言ってくれるから、わたしは最強のカレンになれるの」

 

 そのぶつけられた想いは、さっきまでの不安を何処かに消し去るには十分なものだった。

 

「そう、か……。ハハ、馬鹿だな俺。3年も一緒にいたのに、カレンの事何も分かってないなんて」

 

「そんな事ないよ。話さなかったのはカレンだもん。でも嬉しいよ? お兄ちゃんがカレンのことを大切に想ってくれてるってよく分かったもん」

 

 嬉しそうに微笑んでくれるその姿に、俺も何処か救われた気持ちになる。

 何か憑き物が落ちたような気がした。

 

「なぁカレン。カレンは俺が隣にいればずっと最強でいられるのか?」

 

「うん。勿論だよお兄ちゃん」

 

 ならトレーナーとして、伝える事は一つしかない。

 ここまで信頼してくれてるのなら、俺も信頼で応えないといけない。

 

「じゃあ。一生カレンの隣にいられるように俺ももっと努力するよ。これからもよろしくなカレン」

 

「もちろ……え?」

 

「ん?」

 

 何気なく放った言葉でカレンは凍ったように動かなくなってしまった。

 

 何か変なこと言っただろうか?

 

「よし! 今度こそご飯にしよう。弁当、沢山作ってきたからさ」

 

 気分も晴れたらお腹も空いてきた。しっかりと食べるとしよう。

 

 むん!

 

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 全部話終わって、今はお兄ちゃん手作りのお弁当を食べている。

 

 けれどそこに会話はない。

 

 だって何を話せば良いかわからなかったから。

 

「モグモグ」

 

「モグモグ」

 

 2人の咀嚼音だけがその場に響いてる。でも心臓の音はもうどうにかなってしまいそうな程に大きくなっていた。

 

(どうしようどうしよう……! 凄いこと言われたはずなのに、何も返事できてないよ……!あぁもうなんでいつも大事な時に……!)

 

 脳内でグルグルと話そうとしていることが見つかっては何処かに行ってしまう。

 最強のカレンって言ったばかりなのに、既に全く最強じゃない。

 

(さ、さっきのプロポーズだよね……? 一生って言ってたし……。でもお兄ちゃん全然気にしてないし……)

 

「カレンさっきから無言だけどどうかしたのか? もしかして美味しくなかったか?」

 

「う、ううん!? 美味しいよ! すごく!」

 

 こっちの気も知らず、呑気に聞いてくるお兄ちゃんに何か仕返ししたいと言う気持ちがふつふつ湧いてくる。

 なんとなく分かった。多分アレは意識して言ってない。

 

「……ねぇお兄ちゃん? この後はどうするの?」

 

「ん? もう少しここでゆっくりしてから、カレンを寮に送り届けるつもりだけど……」

 

(うーん。これは完全に無自覚だったみたいだね……)

 

 少しショックを受けつつも、ここで畳み掛ける覚悟を決める。

 あんな紛らわしいこと言うお兄ちゃんが悪いのだ。

 

「お兄ちゃん忘れたの? 今日は泊まりたいってカレン言ったよ?」

 

「……なぁカレン。流石に未成年を泊める訳にはいかないって」

 

「えー? 折角プロポーズしてくれたのに、家に返すなんてダメだよお兄ちゃん」

 

「へ? プ、プロポーズ???」

 

 あ、凄く焦ってる。

 そんなお兄ちゃんも可愛いな、じゃなくて。

 

「一生隣にいてくれるって言ってくれてカレン凄い嬉しかったんだよ? だから今日は帰りたくないなーって」

 

「え、え?」

 

 『カレン』として、『わたし』として、最高の笑顔で伝える。

 

「今日は泊めてくれるよねお兄ちゃん?」

 

 拒否権を認めないその言葉に、お兄ちゃんは力なく頷いてくれた。

 

to be continued……?

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