Mercenary Imperial Japan  〜幕府〜   作:丸亀導師

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異邦の目〜ユリウス・フランソワ・デュプレクス フランス大使

1721年 10月

 

『許し難いことこの上なく!』

 

いつにもなく、スペイン外交団のマルケスがそう告げた。

奴は根っからのカトリック教徒、この日本という国の政策に非常に鶏冠にキているようだ。

 

無理もないだろう、我等が神を否定するのではなく多神教の神として一括りすることによって、絶対的な者ではないとある種の否定をされてしまわれている。

教会の人間がいたら卒倒するのではないだろうか?宗教だ神だというものは、存在するのかすら怪しいものを信奉するある種の浪費だろうて。いっときの安定には寄与するだろうが。

 

それはさておき、枯れ葉は皆紅く、山々がまるで炎に包まれたようになっている。この国独自の山間部の景色は実に見ごたえのあるものだ。

《侘び寂び》なるものがこれなのだろう。

このような景色と、今回この国に赴任できたのは幸いだ。勤勉に仕事に励んだかいがあった。この国にいる間だけは私は貴族…、なんとしてでもこの地位を確固たるものにしなくてはならない、家族の為にも。

 

手始めにマルケス、コイツの不正だとかそういうのをありったけ探し、本国へ送還願おう。一緒に仕事をしていても、宗教で足を引っ張ってくるのだから本国も納得するはずだ。その後その証拠を持っていけば万事うまく行くか?

 

私には後10年しか時間がない。なんとしてでも、この国に我が国が絶対に必要なものだと認識させ成果をあげなければならない。

 

 

〜一月後〜

寒さも増していき、次第に草木が枯れ世界が眠る時がやってくる。最近私は、短歌というものに興味が湧いてきている。

歌のような、楽器と音楽によるものではなく、短い意味のある文の集合。所謂、短詩のようなものだ。ただ、この国での五・七・五・七・七の一定のリズムがあるものは、あまり記憶にない。教養不足かな?

 

さて、私は今日横須賀という港町に来ている。横須賀と言っても、軍港があるほうだが。

何を見に来ているのかといえば、観艦式だ。勿論賓客としての招待だから、非常に眺めの良い場所かつ望遠鏡を使用しての観覧だ。

 

とはいえ、この国の軍艦はそれほどの威容は無い。たかだか44門フリゲート、それが主力で60門以上の戦列艦の姿は影も形もない。いるとすれば、一際巨大なジャンク船くらいなものだろう。

2年程前にこの国に訪れたときには心底驚いた。何せ80門戦列艦の倍はある巨大な船体だ、こんな軍艦がいるのかと思ったものだ。

 

だが、蓋を開ければ何てことはないあれは旗艦だという。直接的な戦闘には使われず、前線停泊池での司令船だと。

戦闘に直接関係しない軍艦とは、正直驚いた。旗艦とは艦隊の正面を張り、矢面に立って艦隊の指揮を取るはずだとも。だが、この国の戦争の歴史を見るに陸軍が主体であって、海軍は海上輸送の要であるという認識のようだ。

 

傭兵として雇われていた者達の船も、皆好んで44門艦を使っていたのも、同じ島国である英国の弱みを実によく理解していたからの判断なのだろう。直接艦隊での戦闘を行わず、武装商船や商船のみを襲っていたのも頷けた。

 

暫くすると、広場に大勢が集まり皆一様に敷かれた御座に正座をして座り、まずは天皇による感状。天皇に対して将軍からの返状、更に将軍から他大名達への感状がある。実に格式張ったものではあるが、ここ最近の天皇>将軍≧大名という図式に完全に当てはめる為に行っているという、噂がある。

 

さて、来賓の挨拶の番が来た。関係が深い国(もしくは序列という)からの挨拶となるが、まずは私、フランス、次いで明→南鮮→土→露→羅→沙→蘭→比→西の順番であったが、ここで重要なことがあった。比の代表と西の代表を別個にしたということだ。

これは暗に、比と西は別の国であって西には比との関係に口を挟ませないという、ことである。

 

これ程までに日本とスペインの間に軋轢が生まれていたとは解るまい。だが、無理な布教活動が原因だというのは一目瞭然で、だからこそ日本はそれに対して怒りを持っているようだ。

 

さて、そんな長い儀式的なものも終わり会食となった。この国の持て成し方は、まさに無礼講。酒を飲んでどんちゃん騒ぎ、こんな事一度経験したらもう祖国の会食が堅苦しくて仕方が無い。食べ物も一流の肉や魚、中華料理やトルコ料理、フレンチもある。味は少々違うが悪くない。

 

そして、その時一人のブロンドの髪の女性が目に入った。あれがルイ・オーギュスト・ド・ブルボンの娘

カロリーヌ・オーギュスト・ド・ブルボン

いや、今は徳川 華露理嬬 だったか。娘達を連れて歩く彼女、美しいその姿が目を引く。

その後ろを、家信の側室達が次いで歩いているところを見るに不遇な目にはあっていないようだ。

 

そして、将軍と談笑を交わしその後何やら音楽隊(雅楽隊)の醸し出す奇妙な音楽と共に、ハープを弾き始めた。奇妙な音に可憐な音が合わさり、絶妙な空間を作り上げる。音楽とはこのような、国の垣根を超えるものなのだろうか?

 

最後に艦隊の内の一席が号砲を鳴らす。それも1門ずつの後、統制射撃と彼等が名付けた一斉射。その雷鳴のような音で式は終わりを告げた。

 

後に聞いたのだが、来月には犠牲祭(イスラム教)復活祭(キリスト教)と大晦日(神道)の除夜の鐘(仏教)、1月には初詣(神道)があるという。

 

この国は祭事を開きたいだけなのか?

 




ユリウス・フランソワ・デュプレクス 
元海運業者の男、フランス法服貴族の対日本外交官兼フランス大使。
物心ついた頃から日本を相手に貿易についていた事もあり、アジア各所に対して広い知識を持っていた。日本に着任したのは1720年このとき35歳妻子持ち。
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