Mercenary Imperial Japan 〜幕府〜 作:丸亀導師
海であるのに乾燥している。ここ数日、雨が降っていない水が欲しい…誰もがそう思う。にも関わらず、この日照りは私達の体を痛めつけもはや目も開けていられないほど眩しい。
こんな辺境の海に我々は何のために来たのだろうか。
全ては祖国の利益のため、我等が天より授かりしフィリペの土地を我らの手に取り戻すためと、意気揚々に国を出たのが去年の事到着してみれば血みどろの歓迎会が待っていた。奪われた武器で武装する者たちによって、我々は港に停泊することも叶わずパラワンへと逃げ込んだ。
それでもこの人数とこの船を整備し続けるのには限度がある。年に一度は陸に上げ、乾燥させなければ船底に水が溜まり木が腐り始める。
既に崩壊が始まりつつある艦隊を率いて、我々の息の根を止めようと現れる小船を武力で征しつつなんとか生き延びている。これならまだ、海賊をやっていたほうがマシかもしれない。
ところがここ一月、その小船が現れない。疑心暗鬼に陥りつつも我々は帆を進めた。丁度パラワンが見えるか見えないかくらいに、来たところ其れ等は現れた。
帆船だ、それも背が低いシップ型帆船。我々はそれに目を見開いた。10隻の帆船が等間隔でまるで線を引かれたかのように一列に並んで我々と並行に移動している。いや、それは違った。10隻ではない、2列複縦陣だ。船の形は皆一様に足並み揃えて、進んでいる。
望遠鏡で国籍旗を確認するに白地に太陽とその光を表した日本の旗だ。要するに我々をぶちのめす為に、わざわざここに来たというところだろう。しかし、たかだかフリゲート艦で良くも戦列艦に挑もうとする。
こちらの旗艦から手信号が来たらしい。このまま真っ直ぐ進み、敵が仕掛けてくるのを待つという。堂々とした戦いになれば我々が負けることはまずない、数の上で互角ならばフリゲートは我々に不利であるからだ。
暫くすると、向こうに動きがあった。痺れを切らして出て来たか、帆の数が増え更に増速し徐々に近づきつつ前へ出つつある。
奴等が何を思ったのか解らないが、それは悪手だ。海戦というものは、敵の後ろから攻撃する事こそ最も有効であるにも関わらず奴等は。
『我らの前を塞ぐか。』
自然と口から漏れた。本当にどういう意図があるのだろうか、そのように行動したところで、船を破壊することなど出来ないだろうに。そんなもの、載せられるわけがないのだから。
奴等はニ列だった艦隊を一列にし、十隻1隊として尚も前進を続けた。見事な操船を見るにかなりの練度であろう。
数刻の内に奴等は距離を詰め、だいたい1海里程にまで詰められた。砲戦は更に詰めなければ当たりようもないが、奴等はこの距離から仕掛けなければ我々に対して勝ち目はない。砲門数はこちらが上なのだ。
そうこうする内に敵艦が舵を左に大きく切り、我々の先頭の旗艦の目の前で横っ腹をさらけ出しモクモクと煙を吐いたかと思えば、
ズシューという音とともに何かが多数旗艦目掛けて突っ込み、旗艦は炎に綴れた。
帆は破れ火にまかれ船の上は油を撒かれたように燃え広がり、まるで地獄のようである。
操船もままならず旗艦は大きく左に舵を切ると、そのまま回転するかのように周り始める。
急いでそれから避けるために各艦各々の方向へと舵を切るが、それがいけなかった。
数隻が奴等の方へと致し方なく避けると、其れ等に鳥のように奴等は群がり、四方からの先程の攻撃と砲撃が始まる。
船上は恐らくパニックに襲われ、反撃するものもなく無惨に戦列艦が高々フリゲートに潰されていく。
一隻づつでの戦いをこちらが強要しようとすれば奴等は足を生かして逃げに転じ、やはりあの煙の物を使って甲板を火の海とする。貫徹能力が無いのが幸いだが、マストが燃やされるのは非常に不味い。動けぬ船は的になるだけだ。
ここはいったん反転し離脱を視野に入れる。
いつの間にか我々は10隻となり、奴等は数の優位を活かして各個撃破する構えだ。
だが、奴等が使っていた物をあまりこちらに使用しなくなってきた。数に限りがあるのだろう、しかしそれでも戦況は覆らない。
動けぬ味方を背にして我等の港へ帰らなければ、完全に沈黙させられればパラワンですら奴等の手に渡るだろう。それだけは、阻止しなければ。撤退の旗を掲げ、各船にそれを知らせるが果たしてどれだけが見ているだろうか。
我々に遅れてやってくるはずのコルベット達、それこの旗を見て反転してくれるだろうか?
だが、奴等も我々を逃がすつもりは無いらしい。こちらを無傷のうちに半数を火の海にしたことは褒められるが、真正面からぶつけに行ったらどう反応するのかな?覚悟を決めよ、奴等の動きから察せればおそらくは奴等は10隻で一つの戦闘単位、ならば殿は少なくて済む。
風は真後ろから吹いている、足で勝てないのはわかり切っている。だからこそ最後尾は戦わねばならない。
思い切り面舵を切り、側面を敵艦に向ける船体が右舷を上に持ち上がる。頂点に達したところで、砲を撃った。
当たったかどうかは解らない、だがどうやらアレは船首には取り付けられないらしい。噴煙が出ることから、ジブに引火しやすいのだろう。
もはや敵とは目と鼻の先、横っ腹から船首を敵に向け風を真逆に受ける。
向こうが取舵をとった、だがもう遅い。左舷最前列のボートホイッスルにアンカーボルトを装弾し撃ち込めば、向こうとこちらが一つとなる。
左舷の砲を撃ち放ち、命のやり取りが始まる。
向こうは特徴的なカットラス、いや俗に言う“刀”という代物だろう。昔、陸の日本軍の装備を見たときの物とは少々短く感じるそれを手に、我々と鍔迫り合いを行い流血する。
数の上ではこちらが上にも関わらず、連中はどうやら左腕に何かを付けているのだろう、巧みにそれで剣撃を防いでは反撃に繋げている。
カットラスの刃がなにかに止められる、よくよく見れば奴等服の下にチェインメイルのようなものを着込んでいる。
落ちたら溺れるだろうに、頭がおかしいのだろうか?
周囲を見渡せば、大混戦の最中右舷から衝撃が走る。衝角攻撃だ、船体に大穴が空けられただろうか。
そんなことを気にできない、したらば最後殺される。あれよあれよと傾斜していく船体に、皆一様に覚悟を決めるも敵は一目散に海へと飛び込む。なんてことだろうか、奴等は重りを着てなお海を泳いでいる。
傾斜する船とともに私は海へと投げ出され、シュラウドに足を取られ海の中でもがくそして、意識を手放した。
声が聞こえた、私の名を呼ぶ女の声だ。少し訛のある、そんな声が私を眠りから呼び覚ました。
気がついた時、私は牢にいた。船内牢だろうことは明らかで、グラグラと地面が揺れている。私は捕まったのだろう、周囲を見渡せばクルーのうち何名かが私を見ている。
『
この声だ。声の聞こえた方を向くと、そこにはブロンドの髪の女がいた歳は妙齢だろう。階級を表すものをつけているであろう『中佐』胸にと書いてあるどういった階級なのだろうか。
『¿
『
貴方は?』
私のことを聞いているのだろう。
『
『
|Ustedes serán transportados a su país de origen y serán tratados allí.《貴方達は、本国へと輸送されそこで沙汰をくだされます。》それ以上は私の裁量外。』
本国、あの日本という国か。悪魔の国か、屈辱以上に何をされるのかわかったものではないな。皆、顔に恐怖が浮かんでいる。私が折れる訳にはいかないな。
『|Hasta entonces, disfruta de tu viaje, ¿de acuerdo? cliente (risas)《それまで航海を楽しんでね?お客様(笑い)》』
まったく運のない事だな。艦隊は逃げ切っただろうか?
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ミンドロ海峡の戦いは
日本軍20隻のフリゲート
スペイン軍20隻の60門戦列艦
の戦いが行われた。日本海軍のフリゲートは、加木式噴進砲という当時としては長射程のロケット砲を使用し戦列艦の有効射程外から一方的に攻撃を行い、スペイン艦隊を火の海とした。
スペイン艦隊は主力を失い東南アジアでの貿易能力と影響力が消失した。また、艦隊の船員達はパラワン島に定住し白人でありながら、独自の国家としてパラワン島を維持していった。
加木式噴進砲 薄い鉄製の砲身と内部のレールに乗っている金属筒の飛翔体によって構成される。
木製4枚の矢羽根によるジャイロ効果と火薬を徐々に燃焼する噴進装置。弾頭部にはエタノールが封入された陶器が入っており蝋によって糊付けされていた。着弾すると陶器が割れ、内部のエタノールが周囲に拡散撒き散らされ噴煙の残りによって引火する。