渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する   作:三白めめ

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一発ネタです。


始まり
さあ来世に期待ね


 呪術全盛期、平安。要人暗殺やその対抗、妖の祓滅にと陰陽呪術の飛び交うこの時代に、令和の世から転生したのである。なお、現代日本人にこの時代の衛生環境が耐えられるのかという問題は、だいたいは()()()のおかげという言葉で片が付く。

 そう、陰陽術である。この世界には陰陽師や法師がいて、呪術的バトルが繰り広げられているのだ。生前大流行していた漫画が呪術戦をしていたので、そういう世界だと認識すれば納得がいった。

 生まれは京ではなかったが、幸いにも陰陽呪術を扱う家系。自らのできることを自覚して、生前の知識も合わせて研究をすれば、生活圏にいる妖くらいなら難なく祓えるようになった。さて、今の世は平安だ。ミーハーというわけではないが、安倍晴明だとか蘆屋道満とか、そのあたりの有名人物に会っておきたい。それにはとある事情と実益もあるのだが……

 

 思い立ったら、あとは準備をするだけだ。京にて立身出世を目指すと言えば、親は当然賛成する。なにせ、俺の地元である播磨国──兵庫県ではかの蘆屋道満に並びうるとまで噂されているのだ。その評判に違うことなく京都までの道中にいた妖怪を祓い続け、その実力を見込まれてトントン拍子に陰陽寮へ就職が叶った。

 

 そこからは思った以上に人生は進んでいく。幸いにも才能や()()に恵まれ、あの安倍晴明と並んで宮中で謳われる陰陽師として名を連ねるまでに至ったのだ。

 そして、これは陰陽術と違って星を読むといった根拠はないが、世界は違っても現代日本を知っているからか、俺は千年後に起こることを漠然と把握できるのだ。

 そう。この世界では、千年後に渋谷で百鬼夜行が起こる。この一文で理解できるものも多いだろう。渋谷事変である。どうやらこの世界は、"呪術廻戦"のようだな。

 

 さて、では俺は転生しているし最強としてブイブイ言わせているかと問われると、無論そうではない。現代ならともかく、ここは人外魔境平安。晴明は特にチート野郎というか、永劫輪廻と名付けた局地的重力変動砲撃を連射してくるやべー奴なのである。勝てない。出会った当初の術比べは五分の勝率で若干こちらが上だったが、領域や縛りについて話しただけで最強になった。かつての夏油も同じ気持ちを味わったのかもしれない。これが、最強に置いていかれる感覚かぁ……。"自分の周囲に重力場を作ることで時間を滞留させる"みたいなことをしてくるあたり、平安時代の術師の恐ろしさを理解する。無下限みたいなことしてくるし、晴明って実は五条家の人間だったりしない?まあ、血筋からして違うだろうけど。

 

 さて、平安の現在にて俺がすべきことは、死滅回游へ参戦するための準備だろう。いや、それだけじゃない。原作の流れも見たい。特級過呪怨霊の存在そのものに興味を惹かれるのもあるが、一番の目的は映画以上の迫力で呪術廻戦及び呪術廻戦零(乙骨の活躍)を見たいからだ。さらに欲を出すなら現代日本の娯楽も恋しいのである。いくら陰陽術といえど、食材そのものの美味しさはどうにもできないのだ。

 人を殺すことに抵抗はないのかと言えば、ない。平安故致し方なしというのもあるが……

 それこそ本編のセリフからの受け売りだが、『一度人を殺したら、殺すって選択肢が生活に入り込む』のだ。それは、事故であれ事件であれ、最も分かりやすいのは自殺だろうか。ともかく、"転生前の自分"を前世と認識した時点で、自分を殺したと認識した──無意識に、死ぬ前の世界には戻らないという縛りが成立したのだろう。ある意味、自分の人生を代償とした縛り。それがどれほど強力かは言うまでもない。

 要は、多大な呪力とその出力を得て、この時代には致命的になるであろう躊躇を失くせたのだ。よかったことだらけだと思いたい。

 

 さて、受肉についてはこの時代に生まれているであろう黒幕に頼るのもいいが、そうすると受肉先がランダムになる。もしそのせいで仙台に行かざるを得なかった場合「友達とか恋人とかいないんですか」という120だか130億だか稼いだ純愛マンのナチュラル煽りで精神的に死んでしまう。それに、死滅回游からしか原作の流れを見ることができないのも欠点だ。裏梅のように事前に受肉できていれば別だが、それも難しいだろう。

 よって、目指すべきは計画的な受肉。五百年をめどに次の受肉先を選定することで、目的の千年後に二度目の受肉を果たす。気分はラクダワラ。完璧な計画だ。ついでに、原作の出来事を実際に見たい。映画やテレビのスクリーン越しでも素晴らしい光景だったんだ。間近で見たらどれほど盛り上がるだろう。

 そのためにも、特級相当の実力を付けなければならない。力が無ければ死ぬし、「仮にも平安の術師がこの程度か」なんて言われたらメンタルに結構クる。とりあえず羅生門とかにいるような有名どころの呪霊を殺して回ったり、後の世なら呪詛師に認定される類の術者を討伐したりと、ひたすらに経験を積んでいった。藤原氏の暗殺部隊に特級相当の術師がいなかったりと、些か疑問に思うところはあったが……

 

 ──そういえば、宿儺を見かけないな。現れるのはもう少し先なんだろうか。

 そういった疑問を、「平安は原作前だから生まれる時期にスレ違いがあるよね」とか「記憶があいまいになってるからしょうがない」といった惰性で流してはいけなかったのだ。そのツケは、はるか先の未来で払うこととなった。そんなことを気にできないくらいには平成に向けての準備を推し進めて、研究資料を隠したりしつつ自らを呪物に加工する。そうして五百年後に向けた受肉のテストや受肉先になる予定の家系を調整し始めるなどといった呪術廻戦の原作開始までの備えを万全とし、千年物の呪具や呪物が手元に来るよう細工や保管も完了した。

 

 

 斯くして千年後、平成の世に二度目の受肉を果たした俺が知ったのは──

 

「東京都立呪術高等専門学校、どこ……?」

 

 クソみたいな御三家ではなく花開院なる家が陰陽師の大家となっていて、別に人の負の感情から呪霊が生まれるわけでもないという事実だった。さらに挙げるなら、別に生得術式なんて概念も存在しない。あと、俺の受肉先が幼女。

 なお、渋谷どころか東京で百鬼夜行が行われる事実は変わらないものとする。

 どうしよう……これ。

 

 


 安倍晴明が"最強"の陰陽師であり、我らが祖たる蘆屋道満が後世まで陰陽術を残した"最優"だとすれば、陰陽術そのものの発展に最も寄与した"最新"の陰陽師こそ、烏崎契克(けいかつ)だった。

 自らの奥義たる"極ノ番"に、式神や術式を必中とする"領域展開"、自他を問わない呪的契約である"縛り"や"術式開示"といった概念の創出。

 晴明すら烏崎の提唱したそれらを用いていたと言えば、どれほどの評価を得ているか分かるだろう。

 彼の晩年には、多くの謎が残されている。"宿儺"や"裏梅"といった存在しないもしくは過去の伝承にのみ存在する術師の捜索に加え、沖縄から北海道まで正確に描かれた、"死滅回游"の文字と共にいくつかの地域が円で囲まれている日本地図などの、何らかを計画している証拠がいくつも存在しているのだ。

 そして、最も秘匿されるべき研究──呪物の受肉と、適合する器の耐久性について。悪用を防ぐためにこの書に詳細は記さないが、この研究の発覚と同時に、蘆屋家当主が契克の討伐のため向かうことが決定されていた。

 これらの功罪を以って、烏崎契克を特級の警戒対象──"灰色"として認定。遺された資料から推測できる、千年後の受肉に注意を払うこと。受肉体に対しては、当主の一存による捕縛及び秘匿死刑を許可する。

 ──花開院秘録より抜粋。




TS要素が薄すぎるので、もう少し続くかもしれない。

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