渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する   作:三白めめ

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TSさせた意味その2です。


呪胎戴天
どんな顔してあいつに会えばいいんだよ


 夏休みに、京都観光に来た。といっても、肝心の京都は大惨事未遂だけど。

 

「協力者という立場として、相手の手の内でも晒しておこうか」

 

 表向きは、京の争乱において雇われた外部の術師。まあ、やらかせば当主が出張らなければならないようなヤツを野放しにできるかと、"花開院ゆらを殺さない"という縛りで雇われた。

 曰く、鍛えることもあるだろうからある程度の傷は許すとのこと。互いに知っているから明言はしなかったが、"花開院家に従う"だとかのアバウトな縛りだと、対価を払えるかという懸念もあったのだろう。縛りの適用範囲を限定することで、効果を強くするということも狙ったのかもしれないし。ちなみに、俺が対価として得たのは京都全域におけるスピーカーの使用権だ。現代に来てからやりたかったことだが、廻廻奇譚を流しながら戦うのもありじゃないかと思えてきた。……耳コピだけど。こう、秤先輩みたいに音楽を流せる術式だったら話は別なのだろうか。

 さて、京都に着いてからのこと。ゆらちゃんが修行する合間の休憩時間に無為転変の応用で何度目かの欠損を治しつつ、幹部クラスになっているだろう京妖怪の情報を話す。といっても、知っていて特筆すべきは二体だけだが。

 

「まず、茨木童子だ。アレは、純粋に面倒だよ。畏が帯電しているせいで防御ができない。防御しようにも、雷の速度に反応するのは難しいし」

「マジか……」

 

 こいつのせいで、鹿紫雲と一緒の特性だと大はしゃぎしたのだ。あの喜びを返してほしい。幸いにも今は現代だから、スピーカーで廻廻奇譚を大音量で流しながら戦えばいい感じになるかもしれない。

 ……あちらをタてればの歌詞を知ることが出来なかったのが、今生における後悔のひとつだろう。

 

「同時に、雷そのものの性質として、通過ルートを描かないと攻撃できないって弱点がある。この辺りは理科の授業だね。秒速200kmの遅い雷が先に発生して、その後に秒速10万kmの帰還雷撃が奔る」

「秒速200kmを弱点って言えるんなら、弱点なんやろな」

 

 まあ、反転術式でのゴリ押しとか、やりようはある程度存在する。

 

「参考程度に話すと、千年前時点ではフィジカルで躱したり、無敵バリアでどうにかしたりしていたよ」

 

 無下限バリアの晴明は言わずもがな、頼光とかいうフィジカルモンスターもなかなかのバケモノだった。雷を避けるってどういうことだよ。

 

「で、もう一人は鬼童丸。雑に強い」

「雑に強いってなんや」

 

 本当に、雑に強いとしか言いようがない。バランスよく強いというか、ちゃんと必殺を持っているというか。

 

「術式は、剣の軌道をその場に残すってだけ。要は当たり判定を置いておくだけなんだけどね。剣戟自体が速いから、同時にいくつもの斬撃が発生するようなものだと思っておけばいい」

 

 厄介なのはここからで、簡易領域や領域展開を身に付けていないとダメな理由でもある。

 

「そのうえで領域を使うと、当たり判定が全部必中になる」

 

 事前に情報を知っておかないと、膾にされて死ぬ。人力での伏魔御厨子みたいなものだ。

 

「対策としては、領域内じゃないと武器が壊れる可能性を残しているという点かな」

 

 全力の一撃を刀に叩き込めば、武器破壊を狙える。手刀も術式対象内だが、刀でさえやっとなのだ。素手だと一度撃つのが限界だろう。

 それに、刀身を延長させる術式じゃないから、リーチの外にいれば攻撃は届かない。当然、領域内で必中効果を使われたら別だが。

 

「羽衣狐についてはなんかないん?」

「あれは、しょっちゅう転生しているからね。どうにも情報が足りない」

 

 知らない手数を駆使されるのは厄介だ。とはいえ、なんか晴明の復活に忙しいようだし前線に出ることは少ないだろう。詳しい内容は聞いていないけど。私に協力要請したわけじゃないから、呪物を使っての受肉ではなさそうだ。

 後は……特になかった気がする。

 

「せや、京の妖怪やないんやけど、宿儺についてはなんか知っとらんの?」

「──へ?」

 

 宿儺いるの!?そう思いつつゆらちゃんが持っている情報を聞くと、やっぱり宿儺だった。どういうことだ……?平安にはいなかったはずだけど。やっぱり時代がズレた?まあ、とりあえず知っている情報を教えよう。自分の知っている知識を話すのは、いつの時代も気分がいい。

 

「その山が切れたのは、呪力や畏のない相手に使われる『解』だね」

「なら、そういうんがあるやつには違うんか?」

 

 晴明と一緒に戦いたかったから、現状で戦うのは想定していないんだけど。なんなら、彼にとっての地雷(伏黒恵)が存在しないから皆殺しという選択肢が常に付きまとう。

 

「呪力を帯びた相手には、『捌』っていう斬撃が使われるよ。呪力差に応じた威力になるはずだ」

 

 それにしても、宿儺がいるのか……。どうすれば会えるだろうか。むやみに探し回るのは疲れるというか、そもそも現地入りしているか分からない。

 ……大方、土蜘蛛がケンカを売りに行くだろう。そこに便乗するか。あいつだって黒沐死の如く玉折事変で乱入してきたし、お互い様だろう。

 

「ゆらちゃん、そういえば土蜘蛛ってどうなっていたかな」

「……封印されてるけど。なんや気になったん?」

 

 ──よし、封印解けるまで待つか。ゆらちゃんに頑張ってほしい気持ちはあるし、呪霊──妖怪が跋扈する世の中になるのは良心が痛む。

 ただ、千年前からの目的の一つと比べると、どうしても優先順位が落ちる。

 

「いや、納得したってだけ」

 

 この現代でインターネット掲示板の民度やスナック菓子のおいしさを懐かしんでいたが、どうにも何か足りないと思っていたんだ。

 平安や戦国で、結婚もしたし友もできた。ただ、それで人生に満足することはなかったのだ。なにせ元から俺の目的はそうじゃない。

 

「そろそろ、卓に着きたくなった」

 

 殺意のブレーキを外す。ゆらちゃんをここまでレベルアップさせたグレートティーチャーではなく、特級術師として呪いを始めよう。

 ──少し気分が高揚した。

 


 

 時刻は進み、ゆらちゃんが花開院の本家に顔を出さなくてはならない頃。だいぶ警戒されているようで、俺はひとり京都で観光しつつ妖を祓っていた。そんな最中、顔見知りと出くわす。会うのは千年来だろうか。少し老けた印象の彼は、この場で戦うつもりはないと話を切り出した。

 

 京都府某所、何人ものメイドが働くような洋風の豪邸、その応接間にて。親子にも見えるだろう二人が向かい合って座っている。とはいえ、その関係は親の仇であったり、職場で目にした相手だったりと複雑な事情を内包しているのだが。一方は酒吞童子の実子こと鬼童丸。もう一方は、俺だ。

 

「この時に限り、貴様と我らの目的は一致しているはずだ」

「根拠は?」

 

 高そうな紅茶──当然毒なども入っていないと確認したそれを飲んでいると、鬼童丸は早速本題へと入った。まあ、その前の社交辞令も千年ぶりだなとかの程度だったが。五百年前は、俺が応仁の乱から秀吉が天下統一する前あたりまでを活動期間にしていたから、羽衣狐が淀殿として暗躍していた時期とはギリギリですれ違っているのだ。

 そして、本題は晴明復活までの一時的な停戦。既に花開院と組んでいるのは調査済みなのか、京妖怪(こちら)側に着けという内容ではなかった。

 

「死滅回游。それが未だに起きていないということそのものが答えだ。宿儺は既に飛騨より動いた。呪術全盛の世を再び齎そうというのであれば、残るは我らの主──鵺の復活のみだろう」

 

 確かに、晴明が復活した方が面白そうというのはある。ただ、復活の方法がいまいちわからない。受肉のための器を用意するなら、自慢じゃないが俺の方が専門だし。方向性の違いから袂を分かったが、友達としての経験から相談したら答えるだろうくらいは推測できたはずだ。なら、別のアプローチ。

 

「羽衣狐を使って、彼岸との道でも開くつもりかい?」

「いや、我らが主は羽衣狐様より再び産まれる」

 

 数秒、思考が止まる。これが虎杖と高田ちゃんのペンダントを見た真人の気持ちか……。えっと、あいつもう一回母親から生まれようとしてるってこと?そりゃ、呪物を使った受肉より安定感はあるだろうけど。再び私を産んでくださいって頼んだのか?

 

「──キッショ。なんだよあいつ」

 

 割と偽らざる本音というか、"最強"っていう存在は思いもよらないことをするんだなと納得した。女子高校生のスカート穿くとかいうレベルじゃないぞ。性癖の主張が強過ぎない?千年越しに他人の口から性癖の開示をされるとは思わなかった。

 

「素体の強度とか自我とかを考えると、確かに手段としては最良のひとつだけど……。えぇ……」

 

 正直、迷う。晴明と対宿儺レイド戦をやってみたい気持ちはある。あっちは俺をどう思っているか知らないが、こちらは"親友(マイフレンド)"と言っても差し支えないくらいの友人関係を築いていたつもりだ。

 でも、あいつが蘇ったとしてまともに顔を見ることができる自信が無い。分かってはいるんだ。万全な状態での復活を果たすという点ではその手法が最良だと。ただ、今の俺は女の身体だ。こう……わかるだろ?心理的になんか……キツイ……。

 こんなところで男女間の友情について考えたくなかった!今は闇の主こと鵺の復活について一時的な停戦を結ぶかどうかという割と呪術界的に重要な話をしていたはずだ。それが何で、心が男性の転生少女と性癖開示した最強男の友達付き合いにおける今後を検討する必要が発生するんだろう。

 

「とりあえず、停戦については無しかな。大方、土蜘蛛にも同じような条件で誘いをかけたんだろう?」

 

 間違いなく土蜘蛛はノってくる。そして、仮に宿儺と俺が戦うことになれば、乱入は間違いないだろう。となれば、京妖怪陣営として扱われる土蜘蛛に手を出すのは縛りに反することとなる。

 

「──仔細把握した。ならば、もうここに用はないはずだ。外まで送っていこう」

 

 交渉は決裂。ただ、晴明と積極的な敵対をする気はないということはあちらも理解したのか、険悪な空気にはならなかった。

 

「ここで殺すとは言わないんだね」

「我らの悲願は"鵺"の復活だ。貴様を殺しきるには損失が大きい」

 

 送っていくというのも、屋敷内で片っ端から鏖殺を開始されることを懸念してだろう。流石にそれは無粋だから、やらかすつもりはないのだが。

 

「万が一に他の陰陽師がここを見つけて攻めてくれば、貴様も術式を使うだろう」

 

 それはそうだ。千年前に晴明と親交があった関係上、俺ならやらかすだろうとか晴明から聞いていたのだろうか。

 

「まあ、ここのことを話すつもりはないさ。自殺を教唆する趣味はないからね」

 

 そうして黄昏時の京都へと再び足を運んだ。懐から術式のための煙草を取り出して一服する。効能は精神安定。

 

「──どんな顔して晴明(あいつ)に会えばいいんだよ」

 

 そういえば、平安時代では性癖とか好きな女の話とかしなかったな。晴明とは親しかったし、お互いに研鑽を重ねるのは楽しかったけれど、そういったバカみたいな話もしてみたかったのかもしれない。澄んだ頭で、そんなことを思った。




男同士だったらなんてことはなかったのに、親友認定していた相手の性癖を開示されて戸惑っているTS娘。
精神的BL要素はありません。

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