渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する   作:三白めめ

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全部乗せはロマン。


魔虚羅っぽいやつ

 やることもないというか、なんかやる気が出ないので、京都を一周してから花開院の本家に戻ってきた。

 暴走族みたいなことをしていた火車を蹴り飛ばし、なんかいっぱいいた鳥っぽい妖怪の羽を捥ぎつつ枯山水を眺めたりと、京都観光も一段落したというところ。

 監視も兼ねてここで泊まれと言われていた花開院本家が壊れていた。

 

「なんで?」

 

 あと、二十七代目当主として紹介されていた爺さんはだいぶボロボロになって膝をついている。なんか道満に似た雰囲気だったから、間に合ったら手伝ってあげてもよかったんだけど。

 その下手人は神父服を着ている妖怪で、それこそ呪霊っぽい虫どもを侍らしている。神父服の彼は翅が生えているし、複眼で下半身は色々な虫の特徴が集まっている。見るからにこいつも虫の妖だ。

 

「──殺そうか」

 

 流石に雇われている身で襲われている雇用主を無視するのはまずい。

 敵もこちらに気付いたようで、生き胆だなんだと言いながらこちらへと注目を向けてきた。

 

「ジューダス……!」

 

 は?いや、ユダって意味だっけ。HELLSINGの神父が言ってた覚えがある。全く今の状況と関連性が分からないが。

 

「貴様の罪は、闇の聖母(マリア)に生き胆を捧げることによって赦されるだろう。一時と言えど主に認められ、列聖された身だ。大人しくその身を(ぬえ)に捧げよ」

「えっと……?」

 

 順番に整理しようか。神を鵺って言っていたから、おそらく主=神=晴明なんだろう。で、主を産むからマリアが羽衣狐。ジューダスってのは、玉折事変で敵対陣営になっていた俺か?

 よし、なんとなくわかってきた。煩わしい太陽的なニュアンスで判断すればいいわけだ。

 とそんな風に考えていたら、二十七代目が辛うじて立てる程度には回復している。

 

「ワシはいい!囚われている子らを優先しろ!」

 

 ……了解。そういうところだぞ蘆屋の子孫。身体強化を使い、一息に殴り殺していく。緑色の血を撒き散らしながら首が飛んでいく姿は壮観かもしれない。やってる側は何も楽しくないが。

 

「エイメン」

 

 あっちはあっちで止める気はないようだ。まあ、雑魚がいくら死のうとそれより優先すべきことがあるのだろう。破軍使いの少女はどこかと聞いている。

 

「ゆらなら、"戦い"に出ておるよ……」

 

 しょうけらと名乗ったキリスト教かぶれの彼はそんなはずがないと否定するが、道満が源流の、人を守るために戦うような連中のトップが後方でゆったりしているはずがないだろう。平安エアプか?……実際、平安にあんな長髪男を見かけなかったし、四百年前だかに加入したメンバーかもしれない。

 それはそれとして、実際、戦いに出ているというのは事実だ。

 

「なるほど、嘘はなかったようだ。美徳だな。故に苦しまぬよう首を刎ねよう」

 

 あれが"ゆら"かと、しょうけらはゆらちゃんの方を指差した。

 

「お……おじいちゃん!?」

 

 ゆらちゃんが今帰ってきた。ただ、二十七代目の首には既に十字架を模した槍の刃が当てられている。俺も含めて間に合わないだろう。

 

「ゆらか……」

 

 名前を呼んで、爺さんは一度言葉を止めた。てっきり、「もっと強くなって、自分たちの代わりに人を守れ」とでも言うかと思ったんだが。

 

「後は頼んだ」

 

 だからこそ、首を斬られるその前に言い残した言葉が、同じ陰陽師として託すというものだったことに目を見開いた。

 

「契克。おじいちゃんは治せる?」

 

 ゆらちゃんはそう聞く。焦った様子がないのは、遺言の意図を理解したからだろう。

 

「無理だね。もう死んでる」

 

 俺としても嘘を言うつもりは無いし、自然治癒を早めるならともかく、傷口を固定するような真似はできない。新田新のように期待せんとってくださいよと言う以前の問題だ。

 

「そっか。分かった」

 

 ゆらの手には、5枚の形代。そして周囲には花開院の歴代当主こと破軍が控えていた。今しがた死んだ二十七代目らしき骸骨もそこにいる。

 

「式神融合──十八飛星策天紫微斗」

 

 それらをすべて使った、式神の六体融合。鹿の角を持ち、狼の顎を持つ象の如き巨体は、二足歩行の具足に身を包み、水を纏った退魔の剣を持っていた。

 

「ルチフェル……っ!それは神に仇なす者の……!」

 

 いやぁ、強いんだよな、これ。道満はこれに呪具と自分のフィジカルで前線張ってたし。実際、ゆらちゃんも同じ方法を取っている。

 というか、それがルシファーなら道満はサタンになるのか?ちょっと面白いな。

 紫微斗が剣で薙ぎ払うと、妖は次々に消滅する。これだから疑似魔虚羅ソードは……。道満に「式神全部合体させたら凄いの出来そうじゃない?」とか言うんじゃなかった。やっぱり、タイマン限定調伏チャレンジとかを縛りに加えた方が良かったんじゃないか?

 

 ふと屋敷の中を見てみると、奴良組にいた巨体の妖と呪具製作者くんが共闘していた。どうやら屋敷の中に入り込んだ妖を倒しているみたいだ。何かしらに憑かれていたときの禪院扇みたいな発言はなく、少しメンタルの弱そうな青年になっていた。これがあの陰陽師の素なんだろうか。

 

 メンタルのブレが無いゆらちゃんが妖怪全般に有利を取れる式神を出せた時点で勝ちの目が決まっていたから周辺を見ていたが、予想通りしょうけらは追い詰められていた。

 

「罪人よ。貴様がいるから、この者は死んだのだ」

 

 二十七代目の首をこれ見よがしに掲げるしょうけら。京都以前のゆらちゃんなら効果はあっただろうが、当主に相応しい術師として後を託された今のゆらちゃんには効果が無いだろう。

 ──なかった。虫らしい末路というか、持っていた首ごと剣で叩き潰されている。

 

「破軍は、歴代当主から力を借りるんや。今更死体に拘ってもしゃあないやろ。それに、託されたのに立ち止まっとる暇なんかない」

 

 何を託されたとか問うまでもなかった。これが中学生のメンタルか……?

 

 そうして戦闘が終わり、ゆらちゃんは一度空を眺める。呪具製作者くん──秋房くんも合流したようで、二十七代目がどうなったかとかを聞いてきた。

 

「妖が盾みたいなことしよったから、纏めて祓った」

「……そうか。二十七代目は最期になんと」

 

 息を吸い込み、軽く吐いてからゆらちゃんは言う。

 

「"後は頼んだ"、って言うとった」

 

 そうして言葉が続く。

 

「なあ、現状で破軍を唯一使えるのは私だけや。そして、前当主から直々に"後は頼んだ"と言われたんよ」

「ああ、そうだな」

 

 納得したように秋房は頷く。そこに以前のような負の感情は見られない。吹っ切れたのかは分からないが、今のゆらちゃんの姿を見て納得したのかもしれない。

 

「なら、今の花開院の当主は私ってことでええよな」

 

 そこにいたのは、祖父の死に悲しむ中学生ではなく、陰陽師の大家たる花開院家の当主の風格を携えた少女だった。

 

「烏崎契克。雇用条件の更新……いや、取引や。花開院家当主としてあんたの秘匿死刑執行を差し止める縛りを結んだる。代わりに、羽衣狐の討伐に協力しろ」

 

 ──ゆらちゃん、その権限が欲しいから当主になりたかったのか。ただ。

 

「へえ?たかが現代最強を張れるくらいで、私に命令すると?」

 

 命令されるのは癪に障る。仮にも呪術全盛期で晴明や道満と並ぶ術師だ。仕事としてならともかく、同じ術師としてというなら話は別だろう。式神を全部融合させる荒業を使った後といえど、ゆらちゃんの呪力自体はまだそれなりに残っている。じゃあ、此処で始めても問題ないな。

 

「証明しなよ。何を託されたか」

 

 相手は、道満と同じ相伝の術式。ちょくちょく魂の調整はしていたから、完成度も彼に比類するものと見ていいだろう。

 土蜘蛛は晴明の復活までは呪霊サークル……じゃなかった。羽衣狐一派の手助けをするだろうから、晴明は復活するとみていいはずだ。前哨戦にはちょうどいい。

 

「色々と教えてきた身だ。成果を確認するのも悪くないだろう」




本家強襲後に、ノリと勢いで始まる内輪揉め。

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