渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する   作:三白めめ

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平安の日常回+α


『過ぎ去りし過去を思う』

 ぬらりひょんは、ここ最近の激動を思い返していた。妖の無差別な殺戮を発端とした浮世絵町のシマ荒らしに、四国から来た妖との抗争。後者は解決したが、前者は平安の陰陽師である烏崎契克によるものだと牛鬼は言っていた。どう落とし前を着けさせるかといったところで、牛鬼曰く、自分のシマを含めた牛鬼組の総てを懸ければようやく勝負に持ち込めるらしい。

 一度クラスメイトと一緒に家に来たことはあったが、その時は花開院の娘の方が目立っていて、()()()()()()()()()()()()()()()……

 リクオに組を譲ろうというところでそんな厄介事が飛び込んできていた。

 四国との抗争が一段落したと思ったら、行政から連絡されたリクオの転校とその取り消し。花開院の陰陽師によるもののようで、表社会への影響力が衰えた現代ではどうしたものかと頭を悩ませる必要がなくなったことに安堵を覚えた直後、リクオが陰陽師の修行もすると言い出す。

 どうやら、人間であることを後悔したくないと言っており、一日の四分の一しか戦う力を持たないことに危機感を覚えたようだ。

 花開院の娘が家を訪ねてきたことを思い出し、まあ奴良組を売るような真似はしないと確認も取れたので向かわせたら、一週間ほどで帰ってきた。

 基礎はすぐに身に着けて応用に移ろうかといったところで、術式の使用条件を満たしておらずどうしようもなくなったらしい。

 

「血筋かのぅ……」

 

 ぬらりひょんの妻であった珱姫も、誰に習いもせずに他者に対して反転術式を使えた。そう考えると、それだけの早さで習得するのも納得がいく。

 そして、術式について聞くと、鬼纏を習得しなければならないという。

 ならばとリクオを遠野へと送り、畏についての理解を深めさせる。見事にそれも掴んだようで、戻ってきた頃には、三代目の総大将を継ぐに相応しい実力になっていた。

 

 これで、リクオに安心して組を任せられる。そう判断し、ぬらりひょんはカラス天狗を連れて弐條城へと向かった。

 そして、羽衣狐との対峙を終え、背後から茨木童子に斬られたことを契機に闘争を開始した時──

 

「貴様を見ていると、戦いだけが愉悦ではないと実感する」

「……どういうことじゃ」

 

 鬼童丸が剣戟と共に放ったその言葉に、ぬらりひょんは反応する。

 

「いやなに。四百年前から老いたものだと思ったまでだ。ぬらりひょん」

 

 そう言うと、鬼童丸は刀を仕舞う。

 

「何のつもりだ?」

「貴様を葬るのはここでないというだけだ」

 

 訝しく思いながら、ぬらりひょんは城の外へと駆けた。鬼童丸は見逃したといえど、他の妖は追ってくる。手柄を求める鏖地蔵がその筆頭だろう。

 

「──幾度かの邂逅を経て気付かないか。一体哀れなのはどちらだろうな」

 

 戦いの最中とは別種の笑みを浮かべ、鬼童丸はそう呟いた。

 

 


 

 

──胎児は夢を見る。

 

 

 平安時代において多くの呪術文化遺産を残した烏崎契克だが、死ぬ前に破棄した物もいくつか存在する。壊すならば初めから作るなと言われるかもしれないが──

 

「これはしょうがないと思うんだ」

 

 陰陽寮、功績を鑑みて契克個人へ与えられた区画にて。彼は"こたつ"とやらに入って寝転がっていた。季節は冬、貴族は相変わらず保身のために待機命令が多くなっているのに、暖房設備無しで暇を潰せというのは酷なものだろう。

 来年の具注暦は数週間前に書き終わって、こたつの天板に放置。どうせ早く出しても、書いておいた禍福の出来事にケチをつけられ、なんとか変えられないものかと媚や賄賂が行き交うだけだ。ギリギリに提出しようと心を決めていたのだろう。

 

「暇なのはわかるが、見た目はどうにかならないのか」

 

 熱を逃がさないよう作った結界の中へ入ってきた私は苦言を呈するが、彼曰く、これを手放すのは考えられないらしい。威厳も何もあったものではないが、他の利用者は私と道満くらいだ。結界の外からはこちら側を見ることができない仕様上、どう見られるかに気を使う必要はないのだろう。

 

「君や道満は私がこういう姿を晒そうと今更だろう?そして、他は私の結界に入って来られない。何も問題ないね」

 

 そうではあるのだが、もしかしたら私と契克が敵対する可能性もあるのだ。隙を晒しすぎるのも考え物だろう。

 

「確かに、堂々と布団を敷くよりはマシだろうが……」

 

 熱の保持や空気の循環など、遷煙呪法──煙を扱う術式への理解が完璧だからこそできる精密な技術によって、"こたつ"のある快適な空間が作られていた。

 

「技術の無駄遣いにも程があるだろう」

「京への貢献を鑑みれば、これくらいはやっても咎められないはずだよ」

 

 天板の裏に火行符を仕込み、発火しないよう余分な熱を金行符で外へと逃す。火を熾したり炭を持って動き回る必要すらなく、こたつ布団に入りながら少しの呪力で暖まるこの仕組みは、一歩も動く必要が無いという点で画期的な物だった。

 こたつの四隅には、分かれるようにそれぞれ道満や私の仕事の書簡などが置かれている。いつの間にかこたつで暖を取りながら書類仕事を片付けるようになり、稀に三人揃ってこたつを囲んでいることもあった。

 

「そういえば、頼光から伝言だ。冬が明けたら、大江山の大規模な討伐を行うって」

 

 こたつに膝を入れた私に、彼は頼まれていた連絡を済ませた。陰陽寮にいる間は、研究か仕事の話が大半を占める。そして、こたつに入って研究をすることはないので、この話の切り出し方は無粋でもなかった。

 

「道満のジジイも言っていたな。貴族の一部が、大江山の酒のために女子供を不当に捕え、贄としていると」

 

 酒吞童子の名の由来である、汲めども尽きせぬ酒の泉。それによる朝廷の腐敗を見過ごせない道満が清和源氏に働きかけたのだろう。頼光はどちらかといえば傭兵に近い気質であり、妖を憎んでいるわけでもない。仕事である以上、妖を討つことも逆賊を討つことも変わりないというだけだ。半妖と知ってなお私の助力を借りに来ることがあるのも、そこに区別する必要はないと考えていることが大きい。

 

「私としても、頼光の体質は興味深い。一切の呪力が存在しない身体だったか」

「そうだね。呪力と引き換えに、圧倒的な身体能力を手に入れた、天与の暴君。それが彼だよ」

 

 そう言って契克が付け加えた「甚爾君みたいだね」という言葉に対して、甚爾という人物もその天与呪縛を持っているのだろうと見当をつける。

 

「ということは、特級呪具二つを贅沢にも使った戦い方は、その甚爾とやらの戦法が元になっているということか?」

 

 ただでさえ天逆鉾を高千穂峰から持ち帰るという暴挙をした上に、もう一つ特級クラスの呪具を組み合わせて使うという戦い方を、呪具とセットで契克は頼光に教えていた。

 

「弓で狙って撃つより、鎖を使って纏めて葬る方が効率がいいからね」

 

 確かに強いのだろうが、私からすればバカと言う以外に形容することが無かった。実行すると思わなかったというか、発想が斜めに吹き飛んでいるというか。確かにやるなとは言われていないが、普通はやらないだろう。それに、思いついたからとはいえすぐさまその戦闘法を確立するのも十分におかしい。

 

「まったく、それができるのはお前と頼光くらいだ」

 

 足を伸ばして座り、机のお茶へと手を伸ばす。少し眉を顰めたのは、この場に来ることのできるもう一人が訪れたのを知覚したからだ。

 

「なんじゃ、おぬしらも来ておったのか」

「老体には、内裏とこちらの往復は堪えるでしょう。あちらで大人しくしてはいかがです?」

 

 一言目から辛辣な物言いをするのは、ある意味遠慮がないというべきか。蘆屋道満は慣れたものだとこたつに入る。

 

「……足を蹴るな!ワシは老人じゃぞ」

「都合の良いときだけジジイだと主張するな」

「最近、新たに子を孕ませたと聞いたけど」

 

 無遠慮にこたつへ入ってきたので、足を蹴ってやる。術式は使っていないのだから、このくらいは許せ。そう思っていると、文句をつけてきたので契克と一緒に反論する。とはいえ、全員が冗談だと理解した上でのことだ。夏はともかく*1冬はこうしてこたつへ集まることが多いので、半ば決まったやり取りのようになっている。

 

「大江山討伐については、契克から既に聞いたか?」

 

 道満もまた私生活の話をする気が無く、やはりこれからのことを語ることが多い。この結界を作った契克のように研究成果を明かす性格をしていないので、必然的に仕事の話が主になる。

 

「ああ。主目的は酒吞童子だろう」

「そうじゃ。忌むべきことに、彼奴の酒に魅了されて子女や無辜の民を鬼へ渡す者もおる。一刻も早く止めるべきことだ」

 

 どうするべきという義務感についてはこの場の三者が三様の考えを持つが、それはそれとして。

 

「だが、どうやって殺すんだ?」

 

「それはワシに策がある」

 

 紫微斗法術の術式反転。破軍が死者の力を借りる技だとすれば、その逆は──

 

「地獄を開く気か……!」

 

 私は明確に顔を歪める。永遠の秩序を目指す私にとって、地獄はできることならば関わりたくもないものだ。

 

(たかむら)からも、みだりに使うなと厳命されておる。故、大江山にて開くのは一度のみじゃ」

 

 封印術において至上の才を持ち、死者を封じる領域たる『地獄』そのものとなった小野篁。そこへと一時的に繋げるその技は、反魂の術を使う身にとって最大の障害だった。

 そうして大まかな戦略を決めた後、口火を切ったのは私か契克のはずだ。

 

「そろそろ決めようか。具注暦を誰が持っていくか」

 

 こたつから出て、内裏へと具注暦を持っていかなければならない。期日は今日。必然、重要な仕事として陰陽寮で任されていたここにいる三人のうち誰かが持っていく必要がある。

 

「契克。最後の確認を終わらせたのはお前だったな。ちょうどお前のこたつの上に置いてあることだ、お前が行くべきではないか?」

「道満はこの後に弟子の面倒を見に行くだろう?ここを発つついでに持って行ってくれるとありがたいんだけど。上層部(うえ)からの覚えをよくする機会だろうし」

「暦というのであれば、星辰操術を操るおぬしが向いておるじゃろう。なあ、晴明。おぬしが適任と思うが?」

 

 こたつから出たくないが故の押し付け合い。後に起こる決定的な訣別と比べれば極めて些細なそれは、この場においては遠慮なく話せる仲であることも意味していた。

 

「「領域──」」

「止めんかそこの問題児二人!」

 

 まあ、仲がいいかどうかというのであれば、間違いなくロクなものではないが。ただ、少なくともこの場や母の住む堂では、結界の外──非術師(さる)のいる俗世よりは自然に笑えた気がしたのだ。

 

 

 ──そんな他愛のない日々を、間も無く生まれる胎児(晴明)は思い返していた。

*1
(遺憾だが、道満の廉貞と遷煙呪法の水煙で涼んでいる)




こんなTS娘の親友ムーブしてるのに、晴明ルートじゃないんですか!?
今後一番可哀そうな目にあうのはぬらりひょんです
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