渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する   作:三白めめ

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今回はだいぶ短め。


ハブられた……/『私怨もあるがね』

「で、なんかもう察せるんやけど確認しとこか。羽衣狐が産もうとしとるのって……」

「晴明だね」

 

 決着の後に気を失ったゆらちゃんを介抱していたら、半日後の起き抜けに放たれた質問がそれだった。奴良くんにも、同じようなことを土蜘蛛が話しているだろう。土蜘蛛が勝とうと負けようと、鵺のことは教えた方が面白いと判断するはずだ。

 さて、その奴良くんは土蜘蛛との決着後に、数日間倒れていたらしい。倒れたと言っても土蜘蛛に膝をつかせたことが大きいのか、百鬼夜行がバラバラになることはなく。あちらは手分けして京の妖怪を倒したり、結界の再封印を手伝ったりしていたらしい。

 そんな奴良くんが目覚めて、羽衣狐を倒すために弐條城へ向かうと知らせが入ってきた。当然、こちらとしてもそれに乗じないわけがなく。

 門番の鬼がいたので、他の立場ならともかく門番なんて名乗っている以上、きっちりと殺して道を開けさせた。

 その後に待ち構えていたサトリを、盃盟操術の範囲攻撃で一掃する奴良くん。鎌鼬と氷凝の組み合わせが雑に強い。まだ昼の姿でいるのに自分の組を率いているあたり、土蜘蛛が膝をついたことが大きいのだろう。そしてサトリというブレインを失った、口の大きい妖──鬼一口が奴良くんに勝てるわけがなく。俺たちは特に損耗なく弐條城の回廊を進むこととなった。

 

「……まあ、来るだろうと思っていたよ」

 

 そして、現在立ちふさがっているのが鬼童丸だ。先ほど、城全体に大きな揺れが起きた。おそらく、もうすぐ晴明が生まれるのだろう。

 

「鬼童丸……確か、領域を使うんやったか」

 

 足止めにも最適な人選だろう。領域を閉じられてしまえば、少なくともそいつは相手を倒すか領域の維持ができなくなるまでそこから進めない。

 

「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」

 

 奴良くんが帳を降ろし、妖怪へと姿を変える。相手が妖となったからか、鬼童丸は京妖怪側に付かないかと問うた。まあ、人間に対する方向性の違いで決裂したが。ゆらちゃんのお兄さん曰く、奴良くんは呪詛師とつるんでいた非術師(さる)の建設会社(地上げ屋?)に重傷だか死傷だかを負わせていたらしいから、鵺の復活ではなく晴明としての大義で人間の奴良くんにアプローチをかければ……いや、それも無理そうだ。彼、不平等に人を救うと明言しているし。

 

「……しょせんは相容れぬか」

 

 鬼童丸はそう呟くと共に、領域を展開した。──俺を除いて。

 

「……なんで?」

 

 理解はできる。奴良くんやその側近は強い。それに加えて俺も相手にするとなると、鬼童丸とその部下では手に余る。

 

「しょうがない。先に進むか……」

 

 虎杖みたいに結界を外から破壊するのもアリではあるが、どうにもそんな気分になれない。仮にも宿敵と見られていいだろう人物からハブられたのが傷ついたのだろうか。

 晴明が復活するまでもう少しということで、感傷的な気分になっているのかもしれない。

 

「ハブられるのはキツイね……」

 

 平安や戦国では実力的にもエリートだったから、仕事をサボることはあっても除け者にされることはなかった。前世はうろ覚えだが、いじめみたいな感じのことに巻き込まれてはいないはずだ。孤高ではなくスルーされる孤立がこんなに微妙な気持ちになるとは思わなかった……

 そうして一人で階段を上っていたら、城自体が崩れ始める。晴明が復活したのかと思ったら、空には巨大な黒い赤子が浮かんでいた。

 

「あれが晴明かぁ……」

 

 受胎戴天かな?

 


 

(さて)、これは(やっこ)しか知らないことだけれども」

 

 そう前置きをして、天海──御門院天海は語る。

 

「当然だが、(やっこ)の結界は、葵城の螺旋の封印のためにある。しかし、それだけのために、京をその大きく回った延長線上に置いたと?」

 

 当然、そんなわけがない。もちろん、これは結界の製作者でないと思い至れない発想ではあるという前提が発生するが。

 

「螺旋の封印の延長線。それはいずれも死滅回游の結界予定地だ」

 

 平安時代に烏崎契克が日本地図──それも実際に測量したものと相違ない精度のそれを残していたおかげで、螺旋の封印と死滅回游の予定地を合わせる算段は簡単についた。これは陰陽寮でも総監部の者しか知らない秘密ではあるけれども。

 

「それに、江戸の世では陰陽寮が再び実権を取り戻した」

 

 それを為したのは(やっこ)だけでなく、心結心結(ゆいゆい)()()の二人もいてこそだけどね。そう言って天海は最終確認を始める。

 

「ぬらりひょん、お主は羽衣狐を一度屠れるほどには強かったが、しかし悲しいかな。やくざ者の因果ともいえるが、死体の処理を専門家に任せなかっただろう。一応、僕は陰陽頭(おんようのかみ)として総監部を設立した一人だからね。葬儀後の死体一つくらいならどうとでもできる」

 

 その後の仕込みは心結心結の仕事だったから、詳しくは把握していないが、あちらはあちらで色々と仕組んでいるだろう。仕込みは江戸時代に陰陽寮の実権を握った天海と、形代を使った呪術のプロである心結心結──御門院の歴代当主二人によるものだ。そうそう破れはしない。例えば、使った死体の関係者に"彼をただの一般人"くらいの印象しか残させない、とか。

 

「お主が偽名を名乗っていたのも、戦国を歩んだ身故と考えれば納得がいく。ただ、納得と許しは別問題だろう?」

 

 なに、他愛ない悪戯だ。……烏崎契克としての因縁は、烏崎契克としてつければいい。ただ、五百年前の最初の受肉での縁は、残りの二人が御門院であるが故に今日まで続くものとなっていた。

 

「お主がいなければ、僕はもっと老いた後に当主となっていただろう。──お礼参りというやつだ。仮にも陰陽頭に修羅場を幾度も潜らせた私怨もあるからね」




そのうち、天海、心結心結世代の話もやります。

晴明「ここで鬼童丸が契克を領域に巻き込むと、間違いなくテンションが上がった勢いで羽衣狐が倒されます。だから、ここでやる気を下げておく必要があったんですね」

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