渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する 作:三白めめ
「妾はこの時を、千年──待ったのだ」
黒い球体──宙に浮いた巨大な赤子の臍に繋がるように、羽衣狐は弐條城の上空にいた。ここにいる妖すべてに、よくぞ妾の下に集まったと語りかける。そこに京や奴良組のような区別は一切なく、"最強"が生まれるとなればその認識も正しいのだろうが、その力を知らない者からしたら傲慢としか言いようのない態度で話を続ける。
「かつて──人と共に闇があった。妾たち闇の化生は、常に人の営みの傍らに存在した」
まあ、人を食うのは迷惑だが。前世の記憶が無ければ、俺だって雑魚がどうなろうと知ったことじゃないと言いそうだけど、あいにくそうはいかないようで。俺にも良心というものはある程度残っているのだった。
「けれど、人は美しいままに生きていけない。やがて穢れ、醜悪な本性が心を占める」
ここは意見の相違だな。天海や心結心結はイカレてはいるが、醜悪ではない。……多分。
「妾はいつかこの世を、純粋なもので埋め尽くしとうなった。それは黒く、どこまでも黒く──、一点のけがれもない純粋な黒」
……もしかして、羽衣狐が死んだ後、晴明と彼女は一度も会えていない?方向性が若干ズレているというか、いや、お前ら弱いから捨て駒になってと思っていたとしても、流石に公の場では言わないか。でも、割と本心で言ってる気がする。
そう考えていると、彼女は先ほどまでの一糸まとわぬ姿から黒いセーラー服を身に着けて瓦礫に降り立った。
「この黒き髪──黒きまなこ、黒き衣のごとく完全なる闇を。さぁ……守っておくれ。純然たる……闇の下僕たちよ!」
やっぱり、晴明と方向性が違う。妖怪至上主義を掲げるのは、晴明と少し異なっている。あいつは一定の強さを求めるから。正直、狂骨と呼ばれる少女の妖はボーダー未満だろう。
さて、そうしているうちに敵はこちらを殺そうと動き始めた。にしても、ゆらちゃんは動揺が少ない。なんかこう、俺に似た反応というか、晴明はあんな姿じゃなかったとデジャブった感じだろうか。本人も自覚していないようだけど。
「契克、やれるか?」
「縛りだからね。羽衣狐を打倒することには協力するさ」
なんか、無抵抗にならざるを得ない晴明を殴るのは、とてつもなく気が乗らないが。羽衣狐の討伐というのであれば、まあやる気にはなる。
そうしていると、奴良くんが"守れ"と告げていたから晴明はまだ完全じゃないと推測して、十三代目秀元がそれが正しいだろうと肯定する。
まあ、俺からすればそれはそうだとしか思わないので、先に鬼や京妖怪の迎撃を始めたが。
そして、半分以上崩れた弐條城を駆け回り、目に付いた鬼や妖を片っ端から殺していく。そうして走り、直撃しかけた雷撃を辛うじて躱す。
「鬼太鼓……茨木童子か」
足を止め、そちらに注目を向けさせるための初撃は躱すことができた。ここからは、一対一。雷も回避不能のものとなるだろう。
「その前に、っと」
遷煙呪法を使用。煙草の蒸気を指定して、周囲に撒いた。鉄扇などの武器を使う羽衣狐にとって、熱で使えなくなる尾の武器がいくつかあるだろう。こちらにかかりきりにはなるが、最低限のサポートは済ませておく。近くにいた妖怪が蒸気に焼かれて死んだのはまあ特筆すべきことじゃないだろう。無差別殺戮にも便利な能力だと思うくらいだ。
そして、雷を無為転変でゴリ押ししつつ近接戦闘を行う。ジョジョ四部のレッド・ホット・チリ・ペッパーみたいに、茨木童子を海水に叩き込めば割と簡単に決着しそうなのだが。それができそうな竜二くんは鵺の封印に挑戦している。……無理だったみたいだ。鵺に打ち込もうとした杭が土蜘蛛に迎撃された。土蜘蛛のファインプレーだね。
さて、雷使い相手に無敵で殴りに行く現状、どうせならあちらをタてればでも流したかった。ゴミのような情報を流し込みたくなる衝動を覚えつつ殴り、せめて脳内でパチンコ特有のドキュドキュという音をイメージしながら戦っていると、鵺──なんかアレを晴明って呼ぶのは嫌だな。クソデカ赤さんでいいや。クソデカ赤さんの表面が剥がれる。どうやら剥がれた欠片に羽衣狐の記憶が映りこんでいるようで、そこに存在しない記憶があったのだろう。突如として虎杖が弟だった情報が脳内に溢れ出した腸相みたいなことになっていた。
その隙を突いて羽衣狐を退魔刀で貫く奴良くん。その拍子に羽衣狐の本体が依り代から分離された。なんか鏖地蔵とやらに何かされていたらしいが、そんなことよりもクソデカ赤さんの内側から一人の男が立ち上がろうとしていたことの方が重要だ。茨木童子も戦う手を一度止めている。……懐かしい呪力だ。全裸だけど。
「せ……せいめいお前……お前が後ろで糸を引いておったのか!?」
方向性や復活のための仕込みを相談できていなかったらしい。やっぱり五百年スパンで受肉先にいい感じの家などを見繕っておいた俺の方法は正しかったようだ。
「すまぬ、母上……」
金髪になっていた晴明の第一声がそれだった。顔の良さで誤魔化すつもりか?お前今裸だぞ?
……なんか羽衣狐本人がもういいのじゃとか言っている。誤魔化せちゃったよ。
そして、地獄が開く。蘇った本人の意思があれば、割と簡単に地獄は口を開ける。ただ、大抵は開いた地獄にそのまま連れていかれるが。小野篁という結界はそういうものだ。逆説、適切な縛りや呪力で抑え込むことができれば有効に利用することもできるが。
「思っていたのです。平安のあの時に母が死んだのもまた、母が弱かったからだと」
そう羽衣狐に告げた晴明は、呪力で強化した腕で心臓を抉り出した。何のためらいもない動きからは、かねてよりそれをしようと思っていたのだと分かる。思い付きでやったにしては逡巡が一切なかった。
「千年間ありがとう……偉大なる母よ。故に一度、私の太陽には沈んでいただく」
それを自らの術式によって宙に浮かせ、心臓を失ってよろめく羽衣狐を地獄へとそっと突き飛ばす。
「眩い闇の光として、再び相まみえましょう」
地獄に落ちてなお愛していると叫ぶ彼女に背を向けて、晴明は真の百鬼夜行の主となりて歩むと宣言した。
そして──
「晴明!千年振りだぁぁぁ!」
復活を歓喜して真っ先に襲い掛かった土蜘蛛の拳は、晴明によって防がれる。土蜘蛛は、基本的に領域展延を使いつつ攻撃を行う。術式を小細工や小手先の技とみなしているが故に課した、領域を展開しないという縛り。それによって跳ね上がった基礎スペックと呪力操作精度でも、晴明には傷を付けることができなかった。
「──まさかてめぇ、神に……!」
「ああ、神の座が空いたのは僥倖だった」
そう言って、晴明は自身が復活する際の細工を語る。"天曺地府祭"。人が
「術式反転・赫」
重力の収束を逆転。斥力とも違う、弾き飛ばす重力が土蜘蛛を襲う。玉折事変のように万全な状態ならともかく、腕が三本となっている現在の土蜘蛛にはそれを対処することは不可能であり、羽衣狐のように地獄へ落ちていった。
そして、千年前の殴り合い同窓会的な出来事をこなした直後。
晴明は術式を使い、俺の目の前に移動してきた。久しぶりに見たけれど、無下限式瞬間移動は本当に反則だと思う。反応できないって。
「久しぶりだね。晴明」
「ああ、本当に久方ぶりだ」
だが、反撃の準備は済んでいる。近づいたということは、超重力砲撃を連射してくるスタイルじゃないだろうし。それならまだ対策は可能だ。天逆鉾で無下限風バリアを解いて……
そう考えていると、晴明が動いた。どう動こうと、とりあえずこちらは常時防御の攻略から始めないといけない。逆鉾を持つ手を振り上げた途端、その手が掴まれて身体が持ち上げられる。まあ、たかが腕くらいなら許容範囲だ。遷煙呪法の強みは、煙を吹き付けても発動すること。つまり手が空いていなくても問題ない。
晴明の無下限モドキは、超重力によって次元を歪ませる一種のブラックホールだ。つまり、近づくほどに空間が歪み、時間が遅くなるために無下限の近似値に辿り着けている。
何が言いたいかと言うと、煙幕による目晦ましは昔から有効だった。ただ、最強の術師を前にそんなことをする相手はいなかったというだけで。あとは煙を吹くだけと口を開いたその次の瞬間──
「せんえ……んンっ!?」
口の中に、ぬめる何かが入り込んだ。異物感に対して舌でそれを押しのけようとするが、その舌自体が押さえつけられている。目の前には、やけに顔の近い晴明。目の中に浮かんでいる五芒星の紋様がはっきりと見えて、顔の良さにムカついてきた。
一応戦いの最中だというのにそんな場違いなことを考えているのは、今起きていることへの認識が追い付いていないからだろう。
──俺は、全裸の晴明に抱えられ、キスをされていた。
かつての親友、それも今は全裸の。そんな男にキスをされて、契克は戸惑っていた。それもそうで、契克自身の自意識は男だ。前世も含めれば三度の生を男として過ごしており、今生は女子中学生だが未だ生理が来ていない。生理については、そもそも人の子を孕む機能を備えていないというのが真相ではあるが。
「あえ……ぅ……」
そんな契克は、認識上は男同士でのキスをしているということへの理解が追い付いていない。親友である晴明をそんな目で見たことは一度もなかったし、仮にも戦いの最中にそのような行為をしてくるということは全くの予想外だった。
「あっ……! んぅぁ……ぐぎゅっ!」
生理的な反応として、小さな舌がチロチロと動く。晴明はそれが邪魔だと言わんばかりに、自らの舌でそれを押さえつけた。そして、少しした頃。契克の黒目が上を向き、口の端からは涎と血が垂れる。生き胆を喰らう手段としては羽衣狐も取っていたそれだが、契克は、江戸時代を含めて一度もその方法を目にしていない。よって完全な不意打ちは成功し、女子供の生き胆──それも平安における最上位のそれを、晴明は手に入れることができた。口づけもこれが目的だった。心臓を直接抜き取るのは、当然警戒される。故に、最も確実な手段がこれだ。もちろん、晴明に契克への恋愛感情などない。受肉の素体が女なのも、女子供の生き胆の方がより手に入る畏が強いからだ。必要だからと迷わず実行できるあたり、やはりイカレている部類に入るのだろうが。
反転術式を会得しており、無為転変も可能な契克にとってたかが心臓くらいなら生命の維持に問題ないが、身体の反応は別だ。体格差のために持ち上げられており、宙に浮いていた足先が不随意に動く。指先は閉じて開いてを繰り返し、背筋に電流が走るような快感が常に発生していた。もしかしたら程度の気持ちで契克の身体に施されていた悪戯だが、反撃するという考えに至らせないという想定外の効力を発揮しており、契克の状態を遠隔から見ていた
「ぁん、れ……?」
心臓は失われたが、血の巡りには問題が無い。纏まらない意識と共に、心結心結が仕掛けていた心理的迷彩が解除される。そして、この場にいる者で契克を──心理迷彩が解けたことで姿を明確認識できるようになった彼女を見た反応は二種類に分かれた。一つが、黒田坊のように四百年より後に奴良組に加わった、もしくは生まれた妖怪。それらは晴明のとった行動そのものに戸惑っている。
「珱……ひ、め……?」
そして、もう一つ。
「策を弄することの愉悦を知ったのは、千年でこれが初めてだ」
そして、その背後に立つ鬼童丸。刀は大きく振り上げられており、そのままでは間違いなくぬらりひょんを絶命させるだろう。
「よう……ひめ……珱姫ぇ!」
しかし、愛した妻の姿が別の人間に利用され、ましてや唇を奪われている現状に他のことを気にかけている心の余裕はなく。
ようやくわずかに意識が現実に戻ってきたぬらりひょんが叫び、それに反応するように契克の腕が動く。天逆鉾をちょうどよく手にあったからとそちらに投げ、振り下ろされた刀の軌道をわずかに逸らした。
「致命傷を避けたか……!死者の思いとでもいうつもりか」
「いや、首がもげた
致命傷を避けただけであって、戦場に出るのは当分不可能、ともすればこれからの生においては死を覚悟して一回できるか程度の傷だ。今起きたことを冷静に分析した晴明は、今の現象を捨ておいていいと判断する。
「……人の心とかないんか」
ゆらの式神である破軍として、唯一実体化している十三代目秀元はぼそりと呟く。気づけなかった自分への怒りと、死者であり
「ざけんなや……このドブカスがぁ!」
柄にもなく激昂する彼に、ゆらは何の反応も示せない。なぜならば、ゆらの脳は別のことで埋め尽くされていた。晴明が復活した瞬間、ゆらの脳裏に溢れ出した、存在しない記憶。
三人でこたつを囲んだり、しょうもないことで喧嘩している晴明と契克を眺めたり。そして、ともに酒吞童子の討伐のため足並みをそろえて戦ったことに、玉折事変で道を違えたところまで。それら蘆屋道満の記憶を追体験したゆらは、その情報の処理に気を取られている。
そして誰も邪魔されない今、晴明は契克の心臓を飲み込んだ。同時に、規格外に増大する畏。この世界に存在する最高の生き胆を喰らうことによって、"鵺"──安倍晴明が完全に蘇る。
そして、多少なりとも視界の焦点が合ってきた契克が心臓を修復する寸前──晴明は取り出していた羽衣狐の心臓を、彼に埋め込んだ。
「専用に誂えた
即ち、晴明にとっては一度母を殺すことすら計画の内だった。母が死んだのは、人より弱かったから。であれば、より強い母体から生まれた体を使えばいい。
持ち上げられていた手を離され、呆然としたまま地面にぺたりと座った契克に晴明は冷静な視線を向け続ける。
「お前なら、最も強い母の身体を孕めるだろう」
反転術式と他者の回復を独学で身に着けた
「千年前から抱いていたお前の目的──"呪術廻戦"は叶わなかったのだろう。ならば、今度は私がお前に生きる意味を与える。──共に来い。前に話していただろう。私とお前ならば、
差し伸べる晴明の手を、契克は──
精神的BL要素無しの友情オンリーなTS娘とのキスシーンを書きたかった。
20話目にしてようやく主人公の容姿を描写できたんですよ。
Q.なんで晴明陣営は主人公を幼い姿にTSさせたんですか?
A.女子供にして最強に並ぶ術師の生き胆で晴明を完全復活させるためであり、羽衣狐を歴代最強の身体にして産み直させるためでもある。ついでにぬらりひょんの脳を破壊して確実に葬れたらいいなと思っていた。
平安時代の女性は10代前半で成人するので、子供の生き胆というならそれ以下の年齢の体にする必要がありました。
これが"意味"です。