渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する 作:三白めめ
『十二天将+2』
「そうだね。ならこれからは、それが私の理由だ」
──その手を取った。
葵螺旋城、
「家系図が複雑骨折しとるやんけ」
蜘蛛の巣も斯くやという状況に、新たな十二天将の一人が呟く。自分が死んだら式神になることは分かっていたが、まさかそっちの式神になるとは思わなかった。そう思いながら、彼女は麦茶に手を伸ばす。人が減ったことで温暖化が解消されて夏場でもクーラーが不要になった日本では、もし暑くなれば水行符を使う程度で済んでいた。
麦茶の並んだテーブルには、同じく十二天将の一人にさせられた被害者……本当に被害者か?ともかく、新しい式神と、その娘の二人がソファーに座っていた。まあ、娘の方は晴明の母親なのだが。
「千年前の親友の母を産んだってなんなんや……それに、いつの間にか私含めて三幹部みたいになっとるし……」
そんな事情に関係者として巻き込まれているのだと実感して、彼女は何度目かの溜息を吐く。まさか
日本は平和になった。火力発電だとか、工場だとかの煙──工業文明に頼らざるを得ない非術師はその煙が自らへ牙を剥いたことで死んでいき、後は死滅回游だったり晴明が鏖殺を行ったりで非術師は滅んだ。
今や標高の高い山に行かなくとも澄んだ空気を味わうことができ、夜には満天の星を眺めることができる。それでいて、陰陽術によって生活のレベルは以前と変わらないままになっているあたり、契克は天才だったということだろう。まあ、立ち並ぶビルは醜いからと消し飛んだが些事だ。
そんなことを考える、今は半ば燃え尽きたように日常を送っている彼女だが。生前最後の戦いでは、神となって平安の全盛期以上となっている晴明に数ヶ月は治らない傷を与えていた。時期は晴明の復活から数か月後、"羽衣狐の出産直前を狙った"一対一。羽衣狐が晴明を産むか、契克が羽衣狐を産むかという違いはあったが、身重で戦力の一人が動けない機を狙ったのに変わりはない。その作戦には、道満由来の記憶で元は男だったと知っている同級生の少女が、幼いままで妊婦になっているという様子に精神的なダメージを負いそうになるという欠点もあったが。
道を阻もうとする晴明の百鬼夜行をひたすらに殺し、花開院の陰陽師が何人も犠牲になりつつ前へ前へと進んでようやく訪れた、晴明との決戦。
黒い閃光と共に生涯最高の一撃を与えたその代償が命であり、彼女は全力を出し切って死んだはずだったのだが……
「はぁ……よりにもよって殺し合った敵の式神って……」
「破軍の娘、うるさいぞ」
晴明の母にして友人の娘──羽衣狐に文句を言われる。人間だった時なら敵意しか抱かなかっただろうが、式神──神の眷属に近い状態になって価値観も影響されたのだろうか、個人として特に思うところもない。……その家族というか、血縁関係については頭が痛いが。
「私は複雑骨折家系図に入ってへんのや。五芒星もびっくりの人間関係やぞ」
「……羨ましいのか?」
「同情はするさ。ゆらちゃんは道満の記憶も持っているだろうし」
羨ましくはないし、記憶もほぼ勝手に脳内に溢れ出したのだ。知らない方が良かったというか、眼前の少女が平安時代の彼にダブる。恋愛感情がなかったとはいえ、よく晴明は契克にキスできたものだ。
そんなことを生前であれば激しく主張していたのだろうが、今はただ落ち着いて答える。
「死ねないし辞められない職場の人間関係が終わっとったらこうもなるやろ」
「それは運が悪かったとしか言いようがないね。私とゆらちゃんは、晴明にとって最大の敵であり、同時に
行きつけのパン屋が潰れる。職場の人間関係が色んな意味でキツイのに辞められない。そんな絶望の積み重ねが、生前は中学生だった彼女を大人にしていた。
「職場とは言うがな。妾たちが動かねばならん事態などそうそう来ぬだろう」
「奴良くんがおるやん。あと、お兄ちゃんとか」
強くて、その上で新しい世界に馴染めない者たち。特に奴良くんの方は随分と血気盛んなようで、もはやヤクザというよりテロ組織に近い。戦力を必要としている人間に妖怪の戦力を提供したり、散発的な破壊活動を繰り返したり。
清継や家長カナといった知り合いの非術師が死んだからだろう。カタギと呼べる人間がいなくなったこともあって、奴良組は事実上の過激派テロ組織に転向していた。
花開院家は内部分裂。研究に重点を置く者と、自身の地位向上を目的として御門院に合流する者、始祖である道満の意志を継いで弱者の保護を行おうとする者の三種類に分かれた。とはいえ、弱者の保護といえど相手は術師だ。背中を刺されて命を失う者が最も多いのが最後の派閥であり、壊滅は間近になりかけていた。
そんなことができているのも、社会構造を維持できるほどには平和だからである。
とはいえ、民主主義ではなく管理社会と例えた方が近いが。御門院とその派閥で社会を再編し、式神を創る術の持ち主に作らせた、術師の呪力登録と管理を行う式神。その運用を開始して平和を維持することができているのだ。
「毎回思うのだけど、シビュラシステム的なあれかな?」
「シビュラって、海外の巫女やっけ。あのカミサマの支配する世界にはちょうどええ名前やね」
最悪のネーミングだと思う。自身を神と称する、というか実際に神になったのが自分の仇であり、今の主なのだから。苛立ちはないが、少し憂鬱な気分になったゆらは足音に気付く。それは残り二人も同様だった。
「噂をすれば」
入ってきたのは、神になったことで金色の髪に変色した晴明だ。ゆらが傷つけた全治数ヶ月の傷も、一年が過ぎればすっかり治っている。そのことに不満を覚えつつ、仕事の話だろうと当たりをつける。ただ話をしにこの離宮へ訪れることもあるが、その時は何か食べるものを持ち込んでいるのだ。金髪で高身長の居丈高が蕎麦を持ってくる姿は、不覚にもクスリと笑ってしまった。
「私たちが出るべき事案だ。行くぞ」
「御門院に任せたらええんとちゃいます?それか、"最も偉大なる式神使い"さんに」
十二天将の一体として晴明の側に所属することとなった後、彼へ深手を負わせたとして安倍姓三代目こと安倍雄呂血に術比べを挑まれたのだ。ただ、相手は典型的な式神使いというか、近接戦闘が苦手だった。
結果、極ノ番で式神を全て自分に融合させ、
天海僧正として知られる御門院天海と、天海の一つ前の当主だった心結心結の二人が何かを納得するかのように頷いていたのが気になったくらいか。およそ五百年前が在位期間だったことから、たぶん式神使いに近接戦をさせようとする
ここまでできて、契克に勝てない。ただそれだけは本当に悔しかった。もし勝てたら、何か違っただろうか。ゆらがそう思っていると、晴明の言葉で現実に引き戻された。
「相手は滝夜叉だ。同じ朝敵たる蜘蛛の一族を力で従え、軍勢としてこちらへ侵攻してきている。よって、私たちが出ることとした」
「滝夜叉っていうと……ああ」
ゆらと契克は
「器の方が、情に惹かれて奴良くんに付く可能性か」
「せやった。……なんで私のクラスメイトはこう……才能あるやつばっかりなんや」
死滅回游で、とある絵師が呪物を内に秘めた彼女を"特級仮想怨霊・滝夜叉"に変化させたことで、全盛期と全く同じ力で受肉した滝夜叉。あれが敵に回るのはできれば避けたいところだった。
「方法は?」
「常々同じであろう。価値が無ければ死ぬだけのこと」
及川さん──雪女に続いてまたクラスメイトを殺すことになるのは気が進まないと、ゆらは滝夜叉が強いことを願う。まあ、彼女が殺されるような可能性は限りなく薄いが。そもそも、晴明が戦うことを決める相手だ。相応の力は持っていると判別されているのと同義だろう。
それにしても、そのくらいの実力を持っているならともかく、
「行きましょう、母よ。そして我が式神。由良、契克」
「はいはい。で、ご主人様とでも呼んだ方がいいのかい?」
「私は嫌やぞ。それ」
「破軍使い、お前は晴明の式であろう。少しは敬う姿勢を見せよ」
かつての──平安の頃以来だろうか。晴明が誰かとともに歩くのは。並んで四人、地上への階段を降りていく。
澄んだ星空を眺め、晴明は考える。あの時の悲劇を超え、もう誰にも殺されない程に強くなった母を始めとして、道満に並ぶ実力に加えて彼の記憶を引き継いだ少女や、契克と共に過ごすこの世界は──
「ふふっ。騒がしいな、まったく」
──最強の二人となった彼や契克にとって、心からの笑顔を浮かべられるものだった。
IFルートが書きたくなってきたので書きました。晴明ルートのハッピーエンドです。
永遠の秩序というか、PSYCHO-PASS的な管理社会になりましたし、奴良くん回りが大変なことになりましたが、晴明陣営はハッピーエンドです。生前のゆらちゃんはともかく、式神の由良ちゃんもハッピーなエンドでした。
騒がしくも心から笑える日々は、これからも永遠に続くでしょう。
メス堕ちの制限解除をしたR-18版を書くかもしれないし、書かないかもしれない。需要。
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本編を優先
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メス堕ち優先